糖尿病の在宅療養を支える訪問看護の役割とアセスメント項目

糖尿病は訪問看護においても頻繁に関わる疾患であり、加齢に伴い発症率が上昇するため、人口の高齢化が進む現代社会において、糖尿病患者数は今後さらに増加すると予想されています。

今回は、糖尿病の在宅療養をテーマに訪問看護に求められる支援のポイントと必要なアセスメント項目等についてお伝えします。

目次

糖尿病とは

糖尿病は、血液中の血糖値が異常に高くなる状態であり、これは体内でのインスリンの働きが不十分なために起こります。糖尿病は主に1型と2型に分類されます。

1型糖尿病は、通常若い年齢で発症し、膵臓のβ細胞が破壊されることによってインスリンの分泌が不足する状態です。このタイプの糖尿病はインスリン依存性であり、患者は外部からのインスリン補給が必要です。

一方、2型糖尿病は、肥満などの要因によってインスリンの分泌が低下したり、インスリンの効き目が弱まったりする状態です。このタイプでは、インスリン依存性と非依存性の両方のケースがあります。また、妊娠やステロイドの使用によっても2型糖尿病が引き起こされることがあります。

高血糖が続くと、微小血管が損傷を受け、それによって合併症が生じます。一般的な症状には口渇、頻尿、昏睡などがあります。コントロール不良の糖尿病が進行すると、主に合併症の症状が現れます。

糖尿病の主な合併症には、神経障害、腎障害、網膜障害があります。これらの合併症は、日常生活の活動が低下した患者の診療において特に重要です。在宅医療現場では、合併症の進行した患者のケアが頻繁に行われます。

※糖尿病についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

糖尿病における訪問看護に求められる役割と取り組み

※訪問看護ステーションのインスリン療法の管理についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護師が知っておきたい!高齢者糖尿病のインスリン療法の管理のポイント

糖尿病の疫学と今後

令和元年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上で糖尿病の強い疑いがある人は約1,196万人、また糖尿病の可能性を否定できない人も約1,055万人と推定されています。

年齢層ごとに見ると、「糖尿病が強く疑われる者」は65歳から74歳の間で22.6%、75歳以上では21.5%に上り、「糖尿病の可能性を否定できない者」も同様に、65歳から74歳では16.6%、75歳以上でも16.6%となっています。いずれのケースも、65歳以上が割合の4割近くを占めています。

今後も高齢化の進展に伴い、高齢糖尿病患者の増加の更なる予想されます。

参照元:厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告

糖尿病に関連する社会資源・制度

糖尿病に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)受療・医療的ケア

・医師による診察、治療


・医療保険制度

(2)日常生活行動 (入浴、 更衣、整容、食事、排泄)の介助

・介護保険法による訪問介護 通所介護


・合併症により身体障害が発生した場合、 障害者総合支援法による訪問介護


・糖尿病食の宅配サービス

(3)生活保護

・医療扶助、介護扶助

(4)日常生活の移動、移乗を支援する福祉用具

・介護保険法による福祉用具 (車椅子、杖) 貸与


・合併症により身体障害が発生した場合、障害者総合支援法による補装具 (車椅子、杖) 購入

(5)経済的支援

・合併症の有無や程度など総合的に考慮された障害基礎年金の支給


・合併症により身体障害が発生した場合、心身障害者等福祉手当の支給


・人工透析を必要とするなど指定された疾病に対する地方自治体による医療費助成


・1か月医療費が基準額以上となった場合に対する医療費の払い戻し (高額療養費制度)

糖尿病の在宅療養において訪問看護師に求められる視点と支援のポイント

糖尿病の在宅療養において訪問看護師には、以下の視点を持つことが求められます。

(1)血糖コントロールの維持

血糖コントロールを維持することは、糖尿病患者の健康管理において重要です。訪問看護師は、利用者が適切な血糖レベルを維持するための行動や方法を支援し、その過程で生活環境や日常の活動を考慮します。

(2)療法の促進と阻害要因の判断

運動療法、食事療法、薬物療法などの治療が利用者に適切かどうかを判断することが必要です。適切でない場合は、その要因を特定して阻害し、適切な場合はそれらの療法を維持・促進します。

(3)適切な食事の準備の支援

利用者が適切な食事を摂取できるように、献立や調理、買い物などの準備をサポートします。利用者の生活環境や介護力を把握し、適切なサポートを提供します。

(4)合併症のリスク要因の評価

合併症の有無やリスク要因を評価することは、糖尿病管理の重要な側面です。訪問看護師は、利用者の健康状態を継続的にモニタリングし、合併症の早期発見や予防に努めます。

(5)セルフケア行動のサポート

血糖コントロールや異常の早期発見・早期対処のためのセルフケア行動に着目します。利用者のセルフケアの状況を評価し、必要に応じてサポートや教育を提供します。

糖尿病の血糖コントロールの状態に応じた支援のポイント

血糖コントロールが良好な状態の支援ポイント

療養者と家族が安定した血糖コントロールを維持できるよう、彼らの健康管理行動やセルフケアの状況に注目します。また、彼らの意欲を維持するために、適切な支援や励ましを提供します。

血糖コントロールが良好な場合でも、健康管理行動を続けることに困難を感じる可能性があることに留意します。そのため、潜在的な問題や障害を見逃さず、適切なサポートを提供します。

また、環境の変化が血糖コントロールに影響を与える場合があります。訪問看護師は、療養者の生活環境の変化に敏感に反応し、必要に応じて支援や調整を行います。

支援のポイント

・適切な健康管理行動の意欲を維持し、促進することを目指します。


・適切な健康管理行動が阻害される可能性がある要因を予測し、それに対処します。

血糖コントロールが不良の状態の支援ポイント

血糖コントロールが不良な場合、運動療法、食事療法、薬物療法が適切に行われているかを評価します。不適切な場合は、その要因を特定して実施を阻害する要因に焦点を当てます。

実施が阻害される要因を特定するために、療養者の個々の要因だけでなく、家族や環境要因にも注意を払います。特に、低血糖症状とその対処法についての理解とセルフケア行動を評価します。

血糖コントロールの不良状態が継続すると、合併症が発生する可能性があります。そのため、早期発見と早期対処のために、療養者と家族のセルフケア行動に着目し、必要に応じて適切な支援や教育を提供します。

支援のポイント

・個別性を重視し、療養者が各療法を適切に行うのを妨げる要因を特定し、解決策を見つけます。


・合併症の発生の有無やリスクを把握し、それに対処します。


・問題解決のためのセルフケア行動を維持し、促進し、療養者と家族が糖尿病管理において自立できるよう支援します。


・低血糖症状が発生した際に適切な対応ができるように、教育を行います。

糖尿病の在宅療養に必要な訪問看護のアセスメント項目とは

糖尿病では、運動療法、食事療法、薬物療法の適切な実施が必要です。

そのため、訪問看護では、利用者の生活環境に合わせた健康管理方法を見つけることや、利用者が医師の治療方針を適切に理解し、適切な治療を受けられるよう調整する役割が求められます。

また、糖尿病の在宅療養では、セルフケア能力が重要になるため、療養者と家族の知識、意欲、およびセルフケアの状況を把握し、適切な知識を得て各療法に積極的に取り組み、適切な方法で実践できるよう支援することが大切です。

それでは、糖尿病の在宅療養に必要な訪問看護のアセスメント項目について(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向からみていきます。

(1)疾患・医療ケア

1. 疾患・病態 症状

情報収集項目 情報収集のポイント
疾患 ・細小血管合併症 網膜症、腎症、神経障害)、大血管障害、その他の合併症(足病変、歯周病、昏睡) はないか

・糖尿病の他に脂質異常症、高血圧症はないか

病態 ・ヘモグロビンA1c (HbA1c)、血糖値はどの程度か 低GFR値 蛋白尿はないか
疾患の症状 ・感覚運動神経障害症状 (下肢末端からの知覚鈍麻、しびれ感など)、視力低下はないか、低血糖症状はないか
疾患の経過 予後 ・インスリン非依存状態か、インスリン依存状態か

・合併症は出現していないか、昏睡が生じていないか

2. 医療ケア 治療

情報収集項目 情報収集のポイント
服藥 ・服薬内容 服薬時間、頻度はどうか
治療 ・運動療法、食事療法の内容はどのようなものか、運動療法は可能か、薬物療法ではインスリンや GLP-1受容体作動薬を用いるか
医療処置 ・血糖自己測定は可能か。インスリンや GLP-1受容体作動薬等の自己注射を行うか、行う力はあるか

3. 全身状態

情報収集項目 情報収集のポイント
呼吸循環状態 ・呼吸回数、呼吸音、副雑音、チアノーゼ、脈拍はどうか
栄養・代謝・内分泌状態 ・BMIの値、体重の増減の状態はどうか、倦怠感はないか
排泄状態 ・排尿量または回数は多くないか
感覚器の状態 ・視覚障害、視力低下はないか. 知覚鈍麻、しびれ感はないか
皮膚の状態 ・痛痒感はないか
認知機能 ・理解力はあるか
意識 ・清明か、昏迷はないか
精神状態 ・意欲の低下,抑うつ状態はないか
免疫機能 ・易感染性か、感染の徴候はないか

(2)活動

1. 移動

情報収集項目 情報収集のポイント
屋內移動 ・屋内での生活動線はどうか、屋内ではどのように移動しているか
屋外移動 ・普段の行動範囲はどの程度か、屋外での移動手段は何か、車椅子、杖などを歩行時に使用しているか

2. 生活動作

情報収集項目 情報収集のポイント
基本的日常生活動作 ・食事動作,排泄、清潔 更衣、整容動作、移乗,歩行,階段昇降を自立して行えるか、普段はどのように行っているか
手段的日常生活動作 ・調理,買い物,洗濯、掃除、金銭管理、交通機関利用を自立して行えるか、普段はどのように行っているか

3. 生活活動

情報収集項目 情報収集のポイント
 食事摂取 ・食事の内容量,回数,時間帯はどうか、食事の準備はどのようにしているか、外食や惣菜、弁当 配食などを活用しているか、間食の状況はどうか
水分摂取 ・水分摂取の方法,回数、1日の摂取量、摂取時間帯はどうか
活動休息 ・睡眠時間 睡眠パターン、生活リズム、日中の離床時間 1日の過ごし方はどうか
生活歴 ・出身地 過去の居住地、職歴 生活習慣はどうか
嗜好品 ・飲酒、喫煙、コーヒー、菓子等の嗜好の内容量,期間はどうか

4. コミュニケーション

情報収集項目 情報収集のポイント
意思疎通 ・理解力はどうか、実際と間違った内容で認識していないか
意思伝達力 ・意思を伝達するための視力、聴力、発語・言語能力はあるか、不十分な場合,それらを補う眼鏡、補聴器、文字盤、意思伝達装置を使用しているか

5. 活動への参加 役割

情報収集項目 情報収集のポイント
家族との交流 ・同居家族との会話やかかわりはどうか、別居家族との電話訪問の頻度、かかわりはどうか、家庭内での役割はあるか
近隣者・知人・友人との交流 ・近隣者・知人・友人との交流はあるか 交流の目的、内容,頻度などはどのようなものか
外出 ・外出の目的 頻度、場所はどうか、外出は他者との交流を伴うか
社会での役割 ・就労状況 地域活動、宗教関連活動,患者会、介護者会の参加状況や役割はどうか
余暇活動 ・趣味や楽しみを感じる活動を行っているか

(3)環境

1. 療養環境

情報収集項目 情報収集のポイント
住環境 ・家族形態,照明、間取りはどうか,ごみや物が散乱していないか、衛生状態はどうか
地域環境 ・歩行や運動がしやすい地域環境か
地域性 ・地域の特性(住宅地、商業地域、郊外 都市部 農山漁村地域等) はどうか. 住民同士の交流、関心の程度、地域への愛着、一体感はどうか。

2. 家族環境

情報収集項目 情報収集のポイント
家族構成 ・同居家族はいるか
家族機能 ・家族関係、家族内の意思決定方法、家族の健康状態、問題解決能力はどうか
家族の介護・協力体制 ・介護者・キーパーソン・協力者はいるか. 家族の医療処置実施内容、介護内容、協力内容はどうか

・食事に関する理解と協力状況はどうか

・家族の介護力や介護負担感はどの程度か 調理や買い物は誰がしているか

3. 社会資源

情報収集項目 情報収集のポイント
保険制度の利用 ・医療保険(被用者保険、国民健康保険 後期高齢者医療制度) 介護保険の利用状況はどうか
保健医療福祉サービスの利用 ・介護保険法、自治体等のサービス事業の利用状況 (種類 内容 頻度,時間)はどうか、訪問系、通所系、一時入所系サービス、福祉用具,住宅改修等の利用状況はどうか
インフォーマルなサポート ・インフォーマルなサポートの提供者はいるか. 療養者との関係はどうか

・サポート内容 頻度はどうか.そのサポートによる影響はどのようなものか. 患者会などのセルフヘルプグループを利用しているか

4. 経済

情報収集項目 情報収集のポイント
世帯の収入 ・就労、年金による収入はあるか
生活困窮度 ・生活保護を受給しているか、経済的余裕、生活困窮の感覚はどうか

(4)理解・意向

1. 志向性 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
生活の志向性 ・価値観,生きがい 生活の目標、楽しみはどのようなものか
性格・人柄 ・社交性、内向性,情動性、論理性,几帳面さ、おおらかさ等はどうか
人づきあいの姿勢 ・訪問看護師、サービス担当者とかかわる姿勢はどうか、元来の人づきあいの姿勢はどうか

2. 自己管理力 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
自己管理力 ・服薬管理、医療処置、保健行動、身の回りの整えを自分で管理しているか
情報收集力 ・生活療養医療、サービスに関する情報を収集しているか
自己決定力 ・生活療養医療サービス利用に関して決定しているか

3. 理解・意向 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・生活療養医療サービス利用に関する意向や希望はどうか
感情 ・何に対して、どのような感情(不安、諦め、怒り、罪悪感、絶望寂しさ疎外感、安心感、感謝,期待、愛着,喜び等)をもっているか
疾患への理解 ・血糖コントロールの重要性、そのための運動療法、食事療法,薬物療法の必要性、高血糖のまま経過することによる合併症発生リスク低血糖症状と発生時の緊急対処の理解と見通しはどのようなものか
療養生活への理解 ・運動療法、食事療法による生活習慣の改善、服薬や注射等を用いながらの療養生活への理解はどのようなものか
受けとめ ・疾患、療養生活をどのように受けとめているか

4. 理解・意向 (家族)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・介護者や家族の生活療養、医療、サービス利用に関する意向や希望はどうか
感情 ・介護者や家族は何に対してどのような感情(不安、諦め、怒り、罪悪感,絶望 寂しさ 疎外感、安心感、感謝,期待、愛着、喜び等) をもっているか
疾患への理解 ・血糖コントロールの重要性、そのための運動療法、食事療法、薬物療法の必要性 高血糖のまま経過することの問題、低血糖症状と発生時の緊急対処について理解と見通しはどのようなものか
療養生活への理解 ・介護者や家族は、運動療法、食事療法による生活習慣の改善、服薬や注射等を用いながらの療養生活をどのように理解しているか
生活の志向性 ・介護者や家族の価値観、生活背景、就労、育児・家事実施状況、家庭・社会での役割はどのようなものか

まとめ

今回は、糖尿病の在宅療養をテーマに訪問看護に求められる支援のポイントと必要なアセスメント項目等についてお伝えしました。

糖尿病の在宅療養では、運動療法や食事療法、薬物療法の適切な実践が不可欠であり、利用者、家族の生活全般から関わる訪問看護の支援は重要な役割を果たします。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。