病院の課題を解決する訪問看護の可能性と5年後の展望

医療現場は今、大きな転換点を迎えています。入院患者の高齢化や慢性疾患の増加、医療費抑制政策、さらには物価・人件費の高騰による収益の圧迫——こうした複合的な課題に、多くの病院が頭を抱えています。

これらの課題を根本から解決するためには、病院の中だけで完結する医療から一歩進み、退院後の生活を含めた「地域全体で支える医療体制」へのシフトが不可欠です。そこで、今あらためて注目されているのが訪問看護ステーションの存在です。

訪問看護ステーションは、これまで病院との連携を通じて、退院後の患者の療養生活を支援してきました。しかし、5年後を見据えると、訪問看護ステーションは病院との連携を超えて、病院の課題解決に貢献し、地域包括ケアの中核を担う存在へと成長することが求められます。

本コラムでは、病院が抱える構造的な課題を整理しながら、訪問看護がなぜ、そしてどのようにその解決に寄与できるのかを掘り下げていきます。

目次

病院経営を取り巻く課題とは

訪問看護ステーションが、どのように病院の課題解決に貢献できるのかを考えるうえで、まず押さえておきたいのが「今、病院が直面している本質的な課題」です。

ここでは、病院経営を取り巻く代表的な課題を8つの視点から整理していきます。

1. 医療費抑制と経営効率のプレッシャー

高齢化の進展に伴い、医療費は年々膨らみ続けています。国はこの状況に歯止めをかけようと、診療報酬の引き下げや制度改定を重ねており、病院の収益は圧迫される一方です。

特に団塊世代が80代を迎える5年後(2030年前後)には、医療ニーズはさらに増加する見込みで、経営の効率化とコスト削減は喫緊の課題となっています。

2. 深刻化する人材不足と過酷な労働環境

厚生労働省は2025年までに最大202万人の看護師が必要と試算していますが、実際には約180万人しか確保できないとされ、約20万人の不足が見込まれています。

加えて、長時間労働や過重な業務が離職を招き、現場は慢性的な人手不足に陥っています。

人材確保のカギは、「働きやすさ」の実現。職場環境の改善なしには、持続可能な医療体制は構築できません。

3. 地域連携と患者獲得競争の激化

地域包括ケアの推進により、病院も“地域とのつながり”を重視する時代へと変化しています。

地域医療機関との連携強化や、患者満足度を高める取り組みに加え、選ばれる病院になるための広報戦略も求められるようになってきました。

5年後、患者獲得競争はさらに激化することが予想されます。

4. 医療技術の進歩と高額な設備投資

医療の進化は止まりません。AI技術の導入やロボット手術、高性能な画像診断機器など、技術が進歩する一方で、病院には継続的な投資が求められます。

しかし、収益が厳しい中での高額投資は、病院経営に大きな負担をもたらします。

5. 組織の硬直化と理念の形骸化

明確な理念が浸透していない病院では、職員のモチベーションが下がり、組織が硬直化する傾向があります。
風通しの良い職場づくりや、共通のビジョンを掲げた人材育成が求められています。

6. 感染症対策は「新たな日常」に

新型コロナウイルスを経験したことで、院内感染防止対策や感染症コストは、経営における新たな重要課題となりました。

職員・患者の安全を守る体制づくりは、もはや「一時的な対応」ではなく「日常業務の一部」です。

7. 在院日数の短縮と、退院後の支援不足

医療費抑制の影響で、在院日数は年々短縮され、下記グラフにあるように、患者は早期に退院を求められるようになっています。

しかし、十分な支援体制が整わないまま退院するケースも多く、退院後のケアの重要性が増しています。

この“入院から在宅へ”という流れの中で、訪問看護の役割はますます大きくなっていきます。

※出所:財務省「こども・高齢化(参考資料)2024年4月16日

8. 病院の7割が赤字という現実

病院の経営状況も深刻です。2024年6月時点で、医業収支が赤字の病院は、全体の71.7%にのぼり、前年度からさらに増加しています。

経常収支でも、赤字の病院は63.8%**と、過半数を超える結果に。

こうした現実は、経営改善の抜本的な見直しが必要であることを物語っています。

※出所:2024年度 病院経営定期調査 概要版 -最終報告(集計結果)
一般社団法人日本病院会/公益社団法人全日本病院協会/一般社団法人日本医療法人協会

相互に絡み合う病院経営の課題、求められるのは「総合的な戦略」

ここで紹介した課題は、ひとつひとつが独立しているわけではありません。

人件費を抑えると人材不足が加速し、設備投資を進めれば経営を圧迫する──病院経営は複雑なバランスの上に成り立っているのです。

だからこそ必要なのは、個別対応ではなく、長期的視点に立った総合戦略。そして、その戦略を支えるのが、地域の医療資源との連携です。

特に訪問看護ステーションは、病院の“外”から患者の生活を支える存在として、地域包括ケアの中核を担う存在に育っていくことが期待されています。

次章では、そんな訪問看護がどのように病院の課題解決に貢献していくのか、その可能性を詳しく見ていきます。

病院経営の力強いパートナーに~訪問看護ステーションが選ばれる理由と成長戦略

病院経営は、医療費の抑制、人材不足、地域医療連携など、複雑な課題を抱えています。こうした課題を病院単体で解決するのは難しく、地域包括ケアシステムとの連携がますます重要になっています。

その中で、訪問看護ステーションは、病院と地域をつなぐ“橋渡し役”として注目を集めています。病院との連携を強化することで、病院経営を支えながら、自身の成長にもつなげていく——。ここでは、その理由と戦略をご紹介します。

1. 退院支援で病床を有効活用~在院日数の短縮に貢献~

訪問看護は、患者の退院後の生活を支え、病院の在院日数短縮を後押しします。患者の生活背景を踏まえた看護計画をチームで作成し、退院後も安心して療養できる体制を整えることで、病院の病床回転率向上や医療費の抑制に貢献します。

成長のポイント

・病院の退院支援看護師との連携強化

・患者ごとの個別ケアプランの共同作成

・多職種連携による包括的な退院支援の実施

2. 地域との“つながり力”を強化~地域包括ケアの要として~

地域医療機関との情報共有や合同カンファレンスなどを通じて、訪問看護は患者の生活を切れ目なく支えます。

これにより、病院の地域における存在感や信頼も向上し、患者獲得にもつながります。

成長のポイント

・地域医療協議会への積極的な参加

・多職種連携のための情報共有システムの構築

・地域住民への啓発活動

3. 医療費削減と経営効率の両立~在宅医療の推進で病院経営を支える~

訪問看護が在宅医療の担い手となることで、入院にかかる医療費を削減し、患者のQOL向上にも寄与します。また、自身の業務を効率化し、無駄を省くことで病院の経営にも良い影響をもたらします。

成長のポイント

・在宅医療に強い人材の育成

・訪問業務の効率化とICT活用

・経営分析に基づいた業務改善の継続

4. 人材不足をチーム力でカバー~人材交流と育成で相互に支え合う~

慢性的な看護師不足が続く病院現場。その解決策として、訪問看護ステーションが果たす役割は大きくなっています。病院と訪問看護が連携し、相互に人材を育て合う仕組みが求められています。

成長のポイント

・定期的な情報交換で病院のニーズを把握

・病院との合同研修でスキルアップ支援

・看護師の人事交流による相互理解の促進

5. 理念を共有し、組織文化をつくる~病院の価値を地域に広げる~

病院の理念や方針を共有しながら地域に貢献することで、訪問看護は病院のブランド力向上にもつながります。

病院職員との連携を深めることで、チーム医療の質が高まり、組織文化の活性化にも寄与します。

成長のポイント

・病院理念の理解と現場での実践

・病院職員との交流イベントや研修の企画

・地域貢献活動への積極的な参加

訪問看護ステーションは、単なる外部の支援機関ではなく、病院と地域をつなぐ重要なパートナーです。医療の質を高め、患者の安心を支え、病院の経営にも寄与する——そんな存在として、今後ますます成長が期待されます。

病院とのチーム医療を深め、地域包括ケアの要としての役割を果たしていくことで、訪問看護ステーション自身も信頼と存在感を高めていくことができるのです。

病院経営の危機が深まる今、訪問看護ステーションが取るべき戦略とは~5年間で信頼と成長を築くステップ~

少子高齢化の進行、医療費の高騰、医師不足、地域医療の疲弊など──。
こうした病院経営をめぐる課題は、今後5年でさらに深刻さを増すと予想されています。

この厳しい環境下で、訪問看護ステーションが病院とともに地域医療を支える存在となるためには、「短期的な協力」にとどまらない、長期的・戦略的なパートナーシップが求められます。

本稿では、訪問看護ステーションが病院経営の一翼を担うための戦略と、5年間の成長ステップをご提案します。

ステップ1:病院の課題を正確に捉える

訪問看護の役割を最大限に発揮するには、まず病院が直面している課題を理解することが重要です。以下の視点から、現状と将来の変化を読み解きます。

医療ニーズの変化

高齢化の加速により、慢性疾患や認知症など、継続的なケアが求められる患者が増加します。

医療費抑制政策の加速

国の方針により、入院医療から在宅医療へのシフトが一層進行する見通しです。

地域内での競合状況

他の医療機関や介護事業所の動向も把握し、役割の重複や差別化ポイントを明確にします。

財務状況の簡易分析

病院の主要収入(入院・外来)、支出(人件費・材料費等)、利益率などを確認し、経営の安定性を把握します。

ステップ2:訪問看護の強みを戦略的に活かす

病院の課題を支える存在となるために、訪問看護ステーションは自らの強みを再確認・強化します。

将来の医療ニーズに応える人材育成

慢性疾患、認知症、終末期、精神疾患など、ニーズの高い分野に対応できる看護師を育てます。

スムーズな退院・在宅移行支援

退院直後の切れ目ないケアを実現する体制を、病院と連携して構築します。

地域包括ケアの一翼を担う

医療・介護の多職種と連携し、地域内での役割を明確にして存在感を高めます。

ステップ3:病院との連携をより深める

信頼関係の構築は一朝一夕には叶いません。定期的な情報共有と、具体的な連携の仕組みを整備していきます。

経営層との継続的な対話

訪問看護の価値を経営陣に伝え、共通のビジョンを持つ関係を築きます。

共同プロジェクトの実施

健康セミナーや地域イベントなど、病院と連携した地域貢献活動を実施します。

病院経営への貢献提案

在宅移行の支援によるベッド稼働率向上やコスト削減など、経営改善に資する提案を行います。

ステップ4:訪問看護ステーションの成長基盤を築く

連携強化と並行して、組織の内側からも成長に向けた改革を進めます。

専門スキルの習得支援

訪問看護師に対し、ニーズが高まる分野の専門研修を実施します。

ICTの活用

記録や情報共有の効率化に加え、利用者の健康管理をリアルタイムで支援します。

地域連携ネットワークの整備

医療・介護関係者との合同カンファレンスなど、情報共有の場を定期的に設けます。

自費・予防サービスの展開

健康寿命延伸や予防支援をテーマに、地域ニーズに応じた新サービスの導入を図ります。

5年間で築く信頼と持続的成長の道筋(例)

病院との連携を深め、地域の一員として役割を拡大するには、段階的かつ着実な取り組みが必要です。以下はその一例です。

<1年目>準備と分析の年

・病院経営・患者ニーズ・地域状況の徹底調査

・病院関係者・地域住民へのヒアリング実施

・訪問看護の強みを活かした提案書を作成・提出

・病院との協議スタート

<2年目>基盤構築の年

・病院との定期的な情報共有・合同会議を開始

・退院支援や在宅移行の実践

・看護師専門研修の導入

・自費サービス展開の検討スタート

<3年目>展開と連携強化の年

・ICTの導入による業務効率化

・医療・介護との地域連携活動を本格化

・多角的サービスの実装と検証

<4年目>地域内認知の拡大

・地域連携の深化と信頼関係の構築

・広報活動によるステーションのブランド強化

・サービスの価値を地域へ広く発信

<5年目>信頼と共に持続的成長へ

・地域包括ケアの中核的役割を担う存在へ

・病院との協業体制を深化させ、質の高い在宅医療を提供

・予防・健康支援サービスを拡充し、地域に根差した成長モデルを確立

まとめ~病院の未来を共に支える存在へ ― 訪問看護ステーションの可能性~

病院経営の課題が深刻化する中、訪問看護ステーションが真に価値あるパートナーとなるためには、病院の課題を的確に把握し、その上で自らの強みを活かした戦略的なアプローチが不可欠です。

病院との信頼関係の構築、人材育成、ICTの活用、サービスの多角化、そして地域との連携強化――これらを5年間のステップに沿って着実に実行することで、訪問看護ステーションは、地域医療の中核を担う存在へと成長していくことができます。

ここで紹介した戦略は一例に過ぎません。地域の特性や利用者ニーズに応じて柔軟にカスタマイズし、常に“患者中心”の姿勢を貫くことが何より重要です。

質の高い在宅医療を提供し続けることで、訪問看護ステーションは病院からの厚い信頼を獲得し、これからの地域医療を支える「不可欠な存在」へと進化していくことでしょう。