訪問看護「5年後の業界予測」(NO.1)~採用戦略の有無が命運を分ける時代~

超高齢社会において、訪問看護は地域医療の中心的役割としてますます需要が高まります。しかし、需要の高まりに人材採用が追い付かず、人材不足は深刻化の一途を辿っています。

今後5年、訪問看護業界は採用戦略の有無によって、採用に成功して事業を拡大できるステーションと、人材不足にとなり事業縮小を余儀なくされるステーションへの二極化が進むでしょう。

訪問看護ステーションが5年後も、その後も存続・成長していくためには、従来の採用方法から脱却して、明確な採用戦略を策定することが不可欠となります。

本コラムでは、訪問看護業界の採用動向と採用戦略立案について解説します。

目次

訪問看護業界の採用動向

令和5年の厚生労働省医政局看護課の集計・推計によると、看護職員の就業場所において訪問看護ステーションは、2002年の2.4万人 から2020年には6.8万人と増加割合が高くなっています。

出典元:第2回看護師等確保基本指針検討部会 令和5年7月7日 参考資料 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況
※厚生労働省「医療施設(静態)調査」「衛生行政報告例(隔年報)」「病院報告(従事者票)」に基づき厚生労働省医政局看護課において集計・推計 P3

しかしながら、訪問看護事業所数の増加に伴い求人数が増えていることから、下記の表が示すように採用の難易度は一層増すこととなります。

出典元:第2回看護師等確保基本指針検討部会 令和5年7月7日 参考資料 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況
※「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ(概要)」(令和元年11月15日)
※厚生労働省「医療施設(静態)調査」「衛生行政報告例(隔年報)」「病院報告(従事者票)」に基づく厚生労働省医政局看護課による集計・推計結果
※日本看護協会「2020年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関 する分析」 P68

採用戦略の有無が事業所の命運を分ける~訪問看護業界の二極化

上述のように、訪問看護業界は、超高齢社会における需要増大の一方で、深刻な人材不足に直面しています。この状況下において、採用戦略を持つか否かが、事業所の存続と成長を大きく左右する要因となっています。

明確な採用戦略を持つ事業所は人材を確保し、事業を拡大していく一方で、戦略を持たない事業所は人材不足に苦しみ、事業が縮小し、ひいては市場からの撤退を余儀なくされる可能性もあります。

以下は採用戦略の有無によって生じる事業所間の二極化の具体的な特徴を解説します。

採用戦略を持つ事業所の特徴とは

採用戦略を持つ訪問看護ステーションには以下のような特徴があり、採用を円滑に進めることができます。

1.戦略的な人材確保

・明確な採用計画に基づき、ターゲット層を絞り込んだ求人活動を展開します。

・従来の求人広告に加え、ソーシャルメディア、仕事説明会、体験会、地域イベントへの参加など、多様なチャネルを活用します。

・リファラル採用(社員紹介制度)を積極的に活用し、質の高い人材の確保につなげます。

・潜在的な求職者層へのアプローチとして、情報発信やイベント開催などを通じた関係構築を行います。

2.魅力的な職場環境や支援制度

・柔軟な勤務形態(時短勤務、フレックスタイム制、オンコール体制の見直しなど)を整備し、ワークライフバランスを重視する働き方を支援します。

・キャリアパスと評価制度を構築し、個々の成長を支援します。

・充実した教育研修制度(OJT、外部研修参加支援、資格取得支援など)を提供し、スキルアップを支援します。

・魅力的な福利厚生(各種手当、休暇制度、リフレッシュ制度など)を整備し、働きがいのある環境を提供します。

・良好な人間関係が構築できるような職場環境づくりに注力します。

3.効果的なブランディング

・事業所の理念やビジョン、地域貢献活動などを積極的に発信し、ブランドイメージを高めます。

・独自の強みや価値作り、webサイト、SNS、地域メディアで発信します。

・スタッフや関係者の声などを掲載し、事業所の魅力を多角的に伝えます。

・地域イベントへの参加や地域貢献活動を通じて、地域社会との良好な関係を築きます。

4.データに基づいた採用活動の改善

・応募数、採用率、離職率、採用コストなどのデータを分析し、採用活動におけるPDCAサイクルを回します。

・データに基づき、採用手法やターゲット層の見直し、職場環境の改善などを行います。

5.競合分析

・競合他社の採用動向、給与水準、福利厚生、提供サービスなどを分析し、自社の強みと弱みを明確化します。

・分析結果に基づき、差別化を図り、求職者にとって魅力的な要素を強化します。

・地域ニーズを把握し、地域に根差したサービス展開と採用活動を行います。

採用戦略を持たない事業所の特徴とは

一方で、採用戦略を持たず目の前の欠員補充や急な需要増に対応し、その場しのぎで行われる採用活動は、以下のような特徴により様々な問題を引き起こし、悪循環を生み出します。

1.不明確な採用基準

求める人物像(スキル、経験、価値観、人物像など)が明確に定義されていないため、選考基準が曖昧になり、ミスマッチが起こりやすくなります。

2.計画性の欠如

人材ニーズを予測せず、欠員が発生してから慌てて採用活動を始めるため、十分な時間や準備を確保できず、質の高い人材を確保する機会を逃します。

3.限定的な採用手法

従来の求人広告や紹介会社への依存度が高く、ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、SNS活用、体験会、地域イベントへの参加など、多様な採用手法を試さないため、潜在的な求職者を掘り起こせません。

4.不十分な選考プロセス

面接のみで人物を判断するなど、評価方法が偏り、応募者の能力や適性、人物像を十分に把握できません。

5.不十分な入職後フォローアップ

新入職員に対する研修やOJT、メンター制度などが不十分なため、早期離職につながりやすくなります。

6.職員の負担増加と離職率の高まり

人手不足の状態が慢性化すると、既存の職員に過度な負担がかかります。その結果、職員の疲弊、不満、離職につながり、さらに人手不足が悪化するという悪循環に陥ります。

7.経営の不安定化

人材不足によるサービス提供能力の低下は、収益の減少につながります。また、頻繁な採用活動は広告費や紹介料などのコスト増につながり、経営を圧迫します。

8.地域社会からの信頼喪失

質の低下や、職員の頻繁な入れ替わりは、地域社会からの信頼を失う原因となります。地域からの信頼を失うことは、利用者の減少につながり、ステーションの存続自体が危うくなる可能性があります。

訪問看護ステーションが採用戦略を持ちづらい背景と現状

採用戦略の重要性は認識されているものの、多くの訪問看護ステーションに採用戦略を持ちづらい現状があり、戦略的な採用活動が展開できていないのが実情です。

その背景には、訪問看護業界特有の課題と、各ステーションが抱える経営リソースの制約が複雑に絡み合っています。

以下では、訪問看護ステーションの採用戦略立案を阻む主な要因と、それによって引き起こされている現状の課題を解説します。

採用戦略立案を阻む要因

1.経営資源の制約

訪問看護ステーションの多くは、小規模事業所が運営しており、大手企業のような潤沢な資金や人員をマーケティングや採用活動に投入することが難しい状況です。

大規模な求人広告の掲載や頻繁な採用イベントの開催などは、小規模事業所にとっては大きな負担となります。

さらに、日々の訪問看護業務に加え、煩雑な事務処理、スタッフの勤怠管理、請求業務などに多くの時間を取られ、採用戦略の立案や実行に十分なリソースを割けない状況です。

2.採用ノウハウの不足

看護師全体の需給バランス、訪問看護分野への関心度、求職者が重視する条件(給与、勤務時間、キャリアパス、教育体制など)といった市場動向の分析が不足しています。

特に、訪問看護未経験者や若手看護師が何を求めているのか、どのようにアプローチすれば効果的なのかといった情報が不足しています。

また訪問看護の仕事の魅力(やりがい、地域貢献、ワークライフバランスなど)や、自ステーションの強み(働きやすさ、教育体制、チームワークなど)を求職者に効果的に伝えるためのブランディングやPR活動が不足しています。WebサイトやSNSの活用、情報発信の内容、表現方法など、具体的な採用ノウハウも不足している場合もあります。

3. 訪問看護特有の課題

訪問看護は病院勤務とは異なり、看護師が単独で利用者の自宅を訪問し、状況に応じて適切な判断を下す必要があり、高い専門性と自律性が求められます。

「病院勤務よりも専門知識が必要」「一人で利用者さんに対応するのは不安」といった心理的なハードルを感じる看護師も少なくありません。

このような不安を解消するための具体的なフォロー体制や教育体制を明確に示せていないことが、応募を躊躇させる要因となっています。

訪問看護ステーションの採用戦略とは何か~策定のステップを解説

訪問看護ステーションでは特有の事情から採用戦略を立てづらい現状があります。しかし、戦略なしに採用活動を行うと、ミスマッチ、質の低下、離職率の増加など、様々な問題が発生する可能性があります。

そのため、早い段階で計画的な採用戦略を立てることが重要です。

ここでは訪問看護ステーションの採用戦略とは何かについて定義した上で、戦略立案のステップを解説します。

訪問看護ステーションの採用戦略とは

訪問看護ステーションの採用戦略は、単なる欠員補充ではなく、ステーションの理念・ビジョン実現のために、必要な人材を適切な時期に適切な方法で確保する長期計画です。

計画的な採用活動により、慢性的な人材不足の解消、質の高い看護サービスの安定提供、そしてステーションの持続的な成長に繋げることを目的とした施策です。

訪問看護ステーションの採用戦略立案の8つのステップ

ここでは、訪問看護ステーションの採用戦略立案の8つの策定ステップを解説します。

<ステップ1>予算案の策定(策定期間:初期段階)

採用活動全体を円滑に進めるための基盤として、最初に予算案を策定します。各ステップで必要となる費用を事前に見積もり、優先順位を考慮しながら予算配分を決定します。

過去の採用実績や市場動向等を参考に、適切な予算規模を設定します。予算項目としては、以下のようなものが考えられます。

予算案は、採用活動の進捗状況や効果測定の結果に応じて、必要に応じて見直しを行います。

・広告宣伝費/求人サイト掲載料、求人情報誌掲載料、SNS広告費、webサイト制作・運用改修費、パンフレット・チラシ作成費など

・人材紹介料/人材紹介会社への紹介手数料
・採用イベント費用/合同説明会参加費、自社説明会開催費など

・選考費用/面接会場費、適性検査費用など

・人件費/採用担当者の人件費(外部委託の場合は委託費用)

・研修費/新入職員研修費用、OJT費用など

<ステップ2>現状分析と課題の明確化(分析期間:1~2ヶ月)

ステップ2では、以下の項目について現状を分析して課題を明確化します。

1. 自ステーションの現状分析

・人員構成/職員の年齢構成、資格保有状況、スキルレベル、業務量など

・離職率/勤続年数別・職種別の離職率の確認

・採用コスト/過去の採用にかかった費用の分析

・従業員満足度/職員へのヒアリングを通じて満足度や不満点を調査

2. 地域の看護師市場動向

・求職同行/地域の求職者の数と動向の把握

・競合ステーション状況/募集職種、給与水準、福利厚生、勤務時間、研修制度などの調査

・給与水準/地域内の給与相場との比較

3. 採用活動の課題

・応募者数の減少、離職率の増加、採用コストの増加、競合との差別化不足など

4. 過去の採用実績分析(3~5年)

・応募者数、採用数、離職率、勤続年数別・職種別の傾向

・採用チャネルごとの効果分析(例:求人広告、紹介会社、SNSなど)

5. 職員へのヒアリング

・入職のきっかけ、職場環境の満足点・不満点、改善してほしい点など

6. 競合ステーション調査

・募集職種や給与水準、福利厚生や研修制度、勤務条件の比較

7. 法規制・制度の変更

・診療報酬改定や介護保険制度改正が人材需要に与える影響の分析

<ステップ3>採用ターゲットの明確化(検討期間:1~2週間)

ステップ3では、求める人物像(年齢、経験年数、資格、スキル、知識、価値観、キャリア志向、ライフスタイル等)を具体的に定義し、ターゲット層(例:病院勤務経験者、子育て中の看護師、地方在住で都市部就職希望者、キャリアアップ志向の男性看護師など)を絞り込み、詳細な人物像(ペルソナ)を設定します。

<ステップ4>採用コンセプトとメッセージの開発(検討期間:2週間~1ヶ月)

ステップ4では、自ステーションならではの強み(例:充実した研修制度、キャリアアップ支援、働きやすい環境、柔軟な勤務体系、地域貢献への取り組み、独自のサービス内容、良好な人間関係など)を明確にし、ターゲット層に響く魅力的な採用コンセプト(例:「ワークライフバランスを重視した働き方を実現」「キャリアアップを応援する環境」など)を設定します。採用コンセプトに基づき、求職者に伝えたい具体的なメッセージ(給与、福利厚生、勤務時間、研修制度、キャリアパスなど)を開発し、具体的な事例やエピソード(職員の体験談、利用者からの感謝の声など)を交えることで、より効果的に魅力を伝えることができます。

<ステップ5>採用チャネルの選定と活用(実施期間:通年)

ステップ5では採用チャネルの選定と活用を実施します。

具体的には、ターゲット層に効果的にリーチできる採用チャネル(求人サイト(看護師専門、医療介護専門、地域密着型など)、自社webサイト(採用専用サイト含む)、SNS(Facebook、Instagram、X、YouTube等)、人材紹介会社、ハローワーク、地域の看護学校との連携、合同説明会、求人情報誌、地域イベントへの参加、リファラル採用(従業員からの紹介)を選定し、それぞれのチャネルの特徴に合わせて適切に活用します。

複数のチャネルを組み合わせることで、より多くの求職者に情報を届けられるように工夫します。

<ステップ6>選考プロセスの設計と実施(実施期間:随時)

ここでは、選考プロセスの設計を行います。

応募者の能力(知識、スキル、経験)、適性(性格、価値観)、人物像(コミュニケーション能力、協調性、責任感など)を適切に評価するための応募書類の選考プロセス(履歴書、職務経歴書、自己PR文など)、面接(一次(集合やオンライン面接も検討)、二次(対面)、必要に応じて三次面接(適性検査、訪問看護見学・体験入職など)を設計・実施します。

さらに面接では、偏りのない評価の標準化を行うように心がけます。

<ステップ7>内定と入職後のフォローアップ(実施期間:随時)

ステップ7では、内定者に対して、労働条件、待遇、入職までの流れなどを明確に伝え、書面で通知し、入職前オリエンテーションを実施してステーションの概要、就業規則、業務内容、研修制度などを説明します。

入職後も、OJT、研修、メンター制度等を充実させ、新入職員がスムーズに業務に慣れるようサポートし、定期的な面談を実施して困っていることや不安なこと等をヒアリングし、適切なサポートを行います。フォローアップを通じて、従業員の定着率向上を図ります。

<ステップ8>効果測定と改善(実施期間:定期的に、最低でも年1回)

最後のステップ8では、採用活動がどれだけうまくいっているかをチェックし、さらに良くしていくために以下を実施します。

採用活動の効果(応募者数、採用数、採用コスト、離職率、採用チャネルごとの効果、採用までの期間など)に関するKPI(重要業績評価指標)を設定し、採用活動のデータを分析し、効果的なチャネルや手法、改善点等を検証します。

データ分析に基づき、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のPDCAサイクルを回し、採用活動を継続的に改善していきます。

具体的な採用戦略の策定事例(1) キャリアアップ志向の男性看護師の戦略的起用

ここでは、訪問看護ステーションの採用戦略策定の事例を紹介します。

ひとつ目の採用戦略の策定事例として、男性看護師をターゲットとするケースを紹介します。

データにあるように近年、男性看護師の割合は増加傾向にあり1996年の3.4% から2020年には7.6%へと上昇しています。

この動向を踏まえ訪問看護ステーションで男性看護師を戦略的に起用するメリットとそのアプローチ手順を説明します。

出典元:第2回看護師等確保基本指針検討部会 令和5年7月7日 参考資料 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況
※厚生労働省「衛生行政報告例(隔年報)」P5

1.男性看護師を起用する訪問看護ステーションのメリット

訪問看護ステーションにおいて、男性看護師の起用は以下のようなメリットをもたらします。

・体力面での優位性と緊急時対応力

移乗介助や体位変換など、体力が必要となるケアにおいて、男性看護師は優位性を持つ場合があります。これにより、より安全かつスムーズなケアを提供することが可能になります。また、緊急時における対応力も期待できます。

・多様な視点とチームへの貢献

男性看護師は、女性看護師とは異なる視点や発想を持っていることが多く、チーム全体の議論を活性化することに貢献します。業務効率の改善や新しいケア方法の提案なども期待できます。

・キャリアアップ志向への対応と離職率の抑制

管理職や専門看護師等を目指すキャリアアップ志向の強い男性看護師は、訪問看護ステーションにおいてリーダーシップを発揮する機会を求めている場合があります。

このような人材を受け入れることで、組織全体の活性化に繋がります。また、ライフイベントによる離職が比較的少ない傾向にあるため、人材の定着率向上に貢献する可能性があります。

2.男性看護師への戦略的アプローチ手順

上記のメリットを踏まえ、男性看護師のニーズに合わせた採用コンセプトとメッセージを開発し、効果的なアプローチを行う手順は以下の通りです

①ターゲット層の明確化

求める男性看護師像(ペルソナ)を具体的に設定(例:病院経験3年以上で在宅医療志向、体力に自信があり管理職を目指す、Uターン希望など)。

②採用コンセプトとメッセージの開発

男性看護師のニーズに合わせたコンセプトとメッセージを作成(例:コンセプト「男性の力を地域へ」、メッセージ「管理職候補募集」「男性看護師多数活躍中」「Uターン歓迎」など)。これらを求人広告、ウェブサイト、SNS等で発信。

③情報発信チャネルの選定

男性看護師が利用する可能性の高いチャネル(専門求人サイト、SNS、看護系大学・専門学校、オンラインコミュニティ、イベント等)に集中的に情報発信。

④選考プロセスにおける工夫

面接でキャリア志向や強みを引き出す質問(例:「将来のキャリアプランは?」「体力やリーダーシップを活かせたエピソードは?」)で応募者を深く理解。

⑤入職後のフォローアップ

キャリアアップ支援、リーダーシップ発揮の機会提供、メンター制度導入等でモチベーションを維持。

これらの手順で、男性看護師の戦略的な採用と組織活性化、サービス品質向上を目指します。

具体的な採用戦略の策定事例(2)供給が多い地域から不足地域への移動を促進

グラフにあるように、看護師の需給状況は地域によって大きく異なり、不足が予測される地域では慢性的な人材不足が深刻化する一方で、供給数が多い地域では人材が過剰となっていく可能性があります。

そこで、ここでは、供給数が多い地域で比較的供給が多い看護師に着目し、大都市圏をはじめとする看護師不足が予測される地域への移動を促進する策定事例の具体的な採用戦略について解説します。

この戦略は、不足が予測される地域における医療サービスの維持・向上に貢献するだけでなく、看護師自身にとっても新たなキャリア機会の提供や生活環境の向上といったメリットをもたらす可能性があります。

以下、具体的な取り組みとアプローチ手順について詳細に見ていきましょう。

出典元:第2回看護師等確保基本指針検討部会 令和5年7月7日 参考資料 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況
※「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ(概要)」(令和元年(2019年11月15日)P10

まず始めに、都市部移住のメリットを具体的に示し、地方在住の看護師をターゲットにした採用コンセプトと戦略的アプローチを解説します。

1.都市部移住における看護師のメリット

・給与水準/ 都市部の訪問看護ステーションは地方より給与水準が高い傾向にある

・多様なキャリア機会/専門性を高められる多様な分野(小児、精神科、ターミナルケアなど)。

・生活利便性/発達した交通網や商業施設の充実で、仕事と生活が充実

・最新情報の入手/都市部の研修や学会でスキルアップの機会が多くなる

2.都市部への移住を検討している看護師への戦略的アプローチ手順

ここでは都市部への移住を検討している看護師への戦略的アプローチ手順を紹介します。

①ターゲット層の明確化

移住を検討する看護師像(ペルソナ)を具体的に設定(例:キャリアアップ志向、高給希望、チャレンジ精神、人脈の拡大希望など)

②採用コンセプトとメッセージの開発

ターゲット層のニーズに合わせたコンセプトとメッセージを作成(例:コンセプト「新しいキャリアを移住して叶える」、メッセージ「最先端医療に携われる」「充実の研修制度とキャリアパス」「移住サポート充実」「都市部ならではの生活環境」など)。これらを求人広告、ウェブサイト、SNS等で発信

③情報発信チャネルの選定

ターゲット層が利用する可能性の高いチャネル(転職サイト、SNS、看護系大学・専門学校、自治体・移住支援団体、イベント等)に集中的に情報発信。特に移住テーマの情報提供を行う媒体が効果的

④選考プロセスにおける工夫

面接で移住に関する不安や疑問を解消(例:生活環境、家賃、交通、福利厚生、オンライン面接など)

⑤入職前後のフォローアップ

新しい環境への適応を支援(例:住宅探し・引越しサポート、地域情報提供、歓迎会、メンター制度など)

まとめ

超高齢社会において、訪問看護は地域医療の中核として、その重要性は増していきます。

しかし、需要の急増に人材確保が追い付かず、人材不足は深刻な課題となっています。この状況が続けば、今後5年、訪問看護業界は採用戦略の有無によって、事業の命運が大きく左右されるでしょう。

採用に成功し、事業を着実に拡大していくステーションがある一方で、人材不足に苦しみ、事業縮小を余儀なくされるステーションも出てくるという二極化が進むことは避けられません。

このような状況下で、訪問看護ステーションが5年後、そしてその先も存続・成長を続けていくためには、過去の慣習にとらわれた採用方法からいち早く脱却し、明確な採用戦略を策定することが急務と言えるでしょう。