訪問看護ステーション開業の第一歩:レセプト業務の基礎知識

初めての方にとって、訪問看護のレセプト業務は複雑に感じるかもしれません。しかし、正確で適切なレセプト業務を遂行することは、適切な報酬を受け取るために不可欠です。そのため、訪問看護のレセプト業務についての理解を深めていくことが重要です。

今日は、訪問看護におけるレセプト業務の内容と注意点についてまとめてみました。

目次

訪問看護ステーションのレセプトとは

訪問看護におけるレセプト業務とは、訪問看護ステーションが提供したサービスに対する報酬を「社会保険診療報酬基金」や「国民健康保険団体連合会(国保連)」などの審査支払機関に請求する仕事です。

訪問看護ステーションの主な収入源は、医療保険や介護保険の支払いです。

医療保険や介護保険で支払われる代金は、ご利用者に提供した看護ケアサービスに対する「報酬」です。
医療保険は「診療報酬」、介護保険は「介護報酬」となります。

各訪問看護サービスごとに、提供されたサービスの時間や内容に基づいて報酬金額が設定されています。

7〜9割を審査支払機関の「国民健康保険団体連合会」や「社会保険診療報酬支払基金」に請求し、報酬金額の1〜3割がご利用者に請求される仕組みになっています。

訪問看護ステーションの2種類のレセプトについて

訪問看護ステーションのレセプトでは、以下の「医療保険の診療報酬」と「介護保険の介護報酬」の2種類あります。
各報酬について、詳しく説明します。

(1)「医療保険の診療報酬」について

訪問看護の「医療保険の診療報酬」は社会保険診療報酬基金が請求先となります。

訪問看護の「医療保険の診療報酬」費用項目

訪問看護における「医療保険の診療報酬」は、次の費用項目となります。

• 訪問看護基本療養費

• 精神科訪問看護基本療養費

• 訪問看護管理療養費

• 各種加算

• 訪問看護情報提供療養費

• 訪問看護ターミナルケア療養費

診療報酬の単位

訪問看護ステーションの単位は円で表されます。

診療報酬の改定の時期

診療報酬の改定は2年ごとに実施されます。

(2)「介護保険の介護報酬」について

訪問看護の「介護保険の介護報酬」の介護給付費は「国民健康保険団体連合会(国保連)」が請求先となります。

訪問看護の「「介護保険の介護報酬」費用項目

訪問看護における「介護保険の介護報酬」は、介護給付と予防給付に分かれ、次の費用項目となります。

• 訪問看護費

• 各種加算・減算

介護報酬の単位と地域区分について

介護報酬は「単位」で表され、サービスを提供する時間と提供者の職種ごとに決まっています。また、1単位の単価は訪問看護ステーションの所在地によって上乗せ割合が決まっており、区分された級地で以下のように8級地に分かれています。

参照元:厚生労働書:社保審-介護給付費分科会「地域区分について」

サービス提供時間の区分と職種

看護職員(看護師、保健師、准看護師)が行う訪問看護は、サービスを提供する標準的な時間によって以下の4区分で単位数が定められています。

1. 20分未満

2. 30分未満

3. 30分以上1時間未満

4. 1時間以上1時間30分未満

※准看護師が訪問した場合は、所定単位数から90/100に減算されます。

※訪問看護ステーションに所属する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が実施する訪問看護は、訪問リハビリテーションではなく、看護業務の一環としてのリハビリテーションという位置づけになり、定期的に看護職員が訪問しご利用者の状態を評価することが必要とされています。

(3)医療保険、介護保険のどちらの保険となるのか

訪問看護の利用者は、状態によって医療保険の適用対象か介護保険の適用対象かに分けられます。

原則として医療保険と介護保険の併用はできません。

介護保険の要支援・要介護認定を受けている方は、一部の方を除いて介護保険が優先されます。

要支援・要介護者で介護保険対象にもかかわらず医療保険になる場合は、以下のような場合です。

厚生労働大臣が定める疾病等の場合

介護保険の利用者でも以下に該当する場合は医療保険適用になります。

1. 末期の悪性腫瘍

2. 多発性硬化症

3. 重症筋無力症

4. スモン

5. 筋委縮性側索硬化症

6. 脊髄小脳変性症

7. ハンチントン病

8. 進行性筋ジストロフィー症

9. パーキンソン病関連疾患
(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病)
※ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限る

10. 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)

11. プリオン病

12. 亜急性硬化性全脳炎

13. ライソゾーム病

14. 副腎白質ジストロフィー

15. 脊髄性筋萎縮症

16. 球脊髄性筋萎縮症

17. 慢性炎症性脱髄性多発神経炎

18. 後天性免疫不全症候群

19. 頸椎損傷

20. 人工呼吸を使用している状態

特別訪問看護指示書が交付される場合

急性増悪等により一時的に頻回の訪問看護が必要であると主治医が認めたご利用者に対し、「特別訪問看護指示書」を交付した日から14日以内は医療保険適用になります。

精神科訪問看護指示書が交付された、精神科訪問看護指示書が訪問看護ステーションに対して交付され、医療保険適用になります。

訪問看護ステーションのレセプト業務の流れ

訪問看護ステーションのレセプト業務の流れは次のようになります。

(1)「医療保険の診療報酬」の請求の流れ

「医療保険の診療報酬」の請求の流れは以下の通りです

1.訪問看護請求書と訪問看護明細書の作成

1か月単位で訪問看護療養費請求書と訪問看護療養費明細書(レセプト)を作成します。これには以下の4つの様式があります。

①「国民健康保険・後期高齢者医療訪問看護療養費総括票」

②「訪問看護療養費請求書」(国民健康保険用)

③「訪問看護療養費請求書」(後期高齢者医療用)

④「訪問看護療養費明細書」

※「訪問看護療養費明細書」とは、実際にご利用者に提供した訪問看護の実績記載から、請求額を算出し、その内訳や保険者、ご利用者などへの請求額を算定する書類で、以下様式への記載が必要です。

訪問看護療養費明細書 様式4のダウンロードはこちら

2.請求書の提出

訪問看護サービス提供月の翌月の1日から10日までに、訪問看護ステーションの所在地の都道府県にある国民健康保険団体連合会(国保連)または社会保険診療報酬支払基金(支払基金)に請求書を紙で提出します。

3.審査と返戻

請求書は国保連または支払基金で審査されます。誤った情報が含まれていたり、確認が必要な箇所がある場合には、レセプトが返還されます。

返還項目は誤請求として扱われ、正しい情報を含むレセプトを再作成し、再請求することになります。

4. 支給

審査を通過した場合、請求した月の翌月に診療報酬が支給されます。

医療保険のオンライン請求について

医療保険のオンライン請求が令和6年から導入される予定です。
2024年5月より、訪問看護の医療保険の請求がオンラインで行えるようになります。

現在は紙による請求ですが、電子化への移行が進行中であり、厚生労働省保険局よりその詳細が以下に案内されています。

参照元:厚生労働書:【訪問看護事業所の皆さまへ】令和6年5月から医療保険請求分の訪問看護レセプトのオンライン請求が始まります

(2)「介護保険の介護報酬」の請求の流れ

「介護保険の介護報酬」の請求の流れは以下の通りです。

1. 提供票の作成

訪問看護記録をもとに、訪問日時と提供したサービス内容を記した提供票を作成します。特に予定の変更やキャンセル、緊急訪問などがある場合は、正確に記入されているかを確認します。

2. ケアマネジャーへの報告

介護保険の場合、ケアマネジャーが提供票を元に訪問看護サービスを提供します。変更がある場合には、ケアマネジャーに報告します。ケアマネジャーは給付管理用に記載した単位数をもとに請求を行うため、提供票と実際の実績が一致しているかを確認します。

3.請求書と明細書の作成

介護給付費請求書と介護給付費明細書(レセプト)を1か月単位で作成します。以下の3つの様式があります。

①「介護給付費請求書」

②「居宅サービス・地域密着型サービス介護給付費明細書」

③ 「介護予防サービス・地域密着型介護予防サービス介護給付費明細書」

※「介護給付費明細書」とは、実際にご利用者に提供した介護サービスの実績を記載している、サービス提供票・サービス提供票別表を基に介護給付費を算出し、その内訳や保険者、ご利用者などへの請求額を算定する書類で以下の様式への記載が必要です。

介護給付費明細書 様式2のダウンロードはこちら

4. 請求の提出

訪問看護サービス提供月の翌月の1日から10日までに、訪問看護ステーションの所在地の国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求書と明細書を提出します。通常は磁気媒体またはインターネット請求を利用します。

5. 審査

国保連では介護報酬明細書と給付管理票が照合され、審査されます。ご利用者情報の確認も行われます。もし実績が記載と異なる場合や、情報に誤りがある場合は審査に通らず、「返戻」として返却されます。返戻時はケアマネジャーと協力して修正し、再請求が必要です。

6. 支給

審査を通過した場合、請求した月の翌月に介護報酬が支給されます。

ご利用者への自己負担分の請求の要点

ご利用者への自己負担分の請求の要点について解説します。

(1)医療保険のご利用者の自己負担分の請求

医療保険のご利用者の請求は次の要点となります。

1.医療保険と所得に応じて、医療費の1〜3割が負担

ご利用者の医療保険と所得に応じて、医療費の1〜3割が負担されます。負担割合は、医療保険被保険者証を見て確認します。

2.一部のご利用者には負担金の限度額がある

一部のご利用者には負担金の限度額があります。この場合、関連する医療機関や薬局で累計額を確認する必要があります。

例えば、訪問看護に関連する交通費やおむつ代などの物品の購入費用がこれに該当します。また、死後の処置や訪問看護ステーションが提供する特別サービスにも料金が設定されている場合、これらの費用についてもご利用者に請求できます。

(2)介護保険のご利用者の自己負担分の請求

介護保険のご利用者の請求については以下の点が重要です。

1.介護状態区分ごとに、区分限度支給額が決まっている

•ご利用者の介護状態区分ごとに、区分限度支給額が決まっています。区分限度支給額内のサービス利用料は、所得に応じて1〜3割が負担されます。

2.区分限度支給額を超える場合、超過分はご利用者の自己負担となる

• 区分限度支給額を超える場合、超過分はご利用者の自己負担となります。同様に、おむつ代や特別サービスなどの追加費用が存在する場合、これらの費用についてもご利用者に請求できます。

(3)領収書の発行

訪問看護ステーションは、医療保険と介護保険の両方に基づくサービスについて、ご利用者に対して領収書を発行する責任があります。

領収書には以下の項目を明確に記載します。

• 請求期間

• 領収日

• 提供日

• 医療保険適用の負担額

• 医療保険適用外の負担額

• 所得税の医療費控除の対象となる金額

これにより、ご利用者は支払い履歴を把握し、必要な場合には医療費控除の申請に活用することができます。

訪問看護ステーションのレセプト作成における注意点

訪問看護ステーションのレセプト作成における注意点は以下の通りです.

1. 返戻のリスクと最小化

レセプトは記載内容が多く、不備が生じる可能性があります。不備による報酬支払い遅れを避けるため、返戻リスクを最小限に抑えるシステム導入やミス監視体制を構築する必要があります。

2. 保険請求の有効期限

医療保険・介護保険の請求権は2年以内です。誤請求が見つかった場合は5年前まで遡って返戻対象になります。

3. 請求ルールの変更

3年ごと(介護報酬)または2年ごと(診療報酬)に改定されるため、最新のルールを確認し続ける必要があります。

4. 情報管理の課題

多くのご利用者情報を管理するのは煩雑になるためシステム導入や業務効率化で情報管理を改善することを検討します。

これらの注意点を把握し、適切な対策を講じることで、訪問看護のレセプト業務をスムーズに遂行できます。

まとめ

訪問看護のレセプト業務は非常に重要であり、正確な手続きと情報管理が求められます。

医療保険と介護保険のそれぞれの仕組みと流れを理解し、請求ミスや返戻を最小限に抑えることは、提供したサービスの報酬を適切なタイミングで受け取るために欠かせない要素です。適切な対応が行われないと、関係者やご利用者との信頼に影響を及ぼす可能性もあります。

レセプト業務の適切な運用は、訪問看護ステーションの健全な運営を支える大切な仕事です。開業してから慌てないように、開業前にできる限り理解を進めておきましょう。

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