在宅がん治療における訪問看護の疼痛コントロールとは

かつては、がん治療は、入院が一般的でしたが、現在では在宅での治療が普及しています。

がん治療を受けている患者の30%,進行がん患者の 60~90%は中等度~高度の痛み(がん性疼痛)を持つといわれており、在宅がん治療において疼痛コントロールは、利用者の生活の質(QOL)を高めるためにも非常に重要な要素となっています。

特に痛みは主観的な症状であるため、訪問看護師は、利用者の痛みを正確に評価し、利用者や家族の管理能力に合わせて対応していくことが求めれます。

今回は、がん性疼痛など在宅療養における疼痛コントロールをテーマに疼痛の種類や評価方法など訪問看護師が押さえておきたいポイントを紹介します。

疼痛とは

疼痛(とうつう)とは、身体に何らかの問題があるときに感じる不快で痛みを伴う感覚のことを指します。

痛みには、鋭いものから鈍いもの、間欠的なものから持続的なもの、また拍動性のものから一定した痛みなど、様々なものが存在します。

在宅療養においては、がん性疼痛以外にも体動が難しくなったことによる腰痛の悪化、拘縮痛、褥瘡など、さまざまな原因で疼痛が生じます。

疼痛の種類

疼痛は、主に、神経障害性疼痛(内臓痛・体性痛)と神経障害性疼痛の2種類に分類されます。治療のアプローチも疼痛の種類によって異なります。

(1)侵害受容性疼痛

・内臓痛

内臓痛は、内臓器官が損傷されたり、炎症が起こったりすることによって引き起こされる疼痛です。消化器官や泌尿器官の疾患、がん、または炎症性疾患が原因となります。

内臓痛はしばしば深い、圧迫的な感覚として表れ、場所を特定しにくく、しばしば他の部位にも放散することがあります。

在宅でみられる例

・腸が腫瘍で狭くなり、消化物が通過しようとする際に引き起こる腹痛


・胃がんによる「腹部が重苦しい感じ」


・ 肝臓がんに伴う「右腹部の重だるい感覚」


・生理痛

・体性痛

体性痛は、身体の組織(皮膚、筋肉、骨など)に損傷や炎症が生じたときに発生する疼痛です。外傷、手術、または炎症性疾患によるものがあります。

体性痛は局所的で、しばしば刺すような痛みや圧迫感として感じられます。例えば、骨折や筋肉の損傷が原因となります。

在宅でみられる例

・骨折箇所の痛み


・浮腫により皮膚が伸張した部分の痛み


・褥瘡の箇所の痛み


・拘縮した部位を動かす際の痛み

(2)神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、神経が損傷されたり、圧迫されたりした結果として発生します。例えば、糖尿病性神経障害、帯状疱疹後神経痛、または脊髄損傷によるものがあります。この疼痛はしばしば常に継続的であり、しびれやピリピリ感、刺すような痛みとして感じられることがあります。

神経障害性疼痛の治療には、神経の修復を促進する薬物療法や、神経の信号伝達を変化させる薬物が使われることがあります。物理療法や神経ブロックも一部の症例で効果的です。

在宅でみられる例

・部脊柱管狭窄症により手先がしびれる


・腰椎や頸椎に骨転移があり、手先や足先にしびれが生じ、熱や冷たさを感じない中でビリビリするような痛みがある


・仙骨神経叢に浸潤した直腸がんにより、肛門のあたりから奥まで何とも言えない痛みがある


・肺の上部にあるがんが腕神経叢に浸潤し、肩から腕に触れただけで電気が走るような痛みを感じる


・化学療法後に生じた末梢神経障害により、足先がしびれ、常に冷たい感覚がある

疼痛コントロールとは

疼痛コントロールは、患者が経験する痛みを最小限に抑え、できるだけ快適な状態を維持するための医学的・看護的アプローチ全般を指します。このアプローチは、患者の苦痛を軽減し、生活の質を向上させることを目的としています。

疼痛コントロールのアプローチ方法としては、以下のものがあげられます。

1.疼痛評価

患者の痛みを適切に理解するために、疼痛の種類、程度、発生頻度などを評価します。主観的な経験であるため、患者の報告や観察が重要です。

2.原因の特定

痛みの原因を特定し、基礎疾患や治療に起因するものかを明らかにします。原因に基づいて適切な治療計画を策定します。

3.薬物療法

鎮痛薬の使用が一般的で、痛みの程度に応じて非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、オピオイド、アナログ薬などが使用されます。薬物の種類と適切な投与方法は、患者の症状に合わせて選択されます。

4.非薬物療法

疼痛を和らげるために、リラクセーション法、認知行動療法、物理療法、鍼灸、マッサージなどの非薬物療法が利用されます。
これらのアプローチは薬物療法と併用され、総合的な効果を追求します。

5.継続的なモニタリングと調整

患者の状態が変化するにつれて、治療計画は継続的にモニタリングされ、必要に応じて調整されます。患者のフィードバックや痛みの変化に敏感に対応することが重要です。

6.患者・家族教育

患者や家族に対して、痛みの理解とコントロールに関する教育が提供されます。患者の主体的な参加と自己管理が促進されます。


疼痛コントロールは、個々の患者のニーズに合わせた総合的なアプローチが求められるため、医療チームと患者との密な連携が不可欠です。

疼痛ケアにおける3段階の除痛ラダーとは

がん治療における疼痛ケアは、WHOが提唱する3段階の除痛ラダーに基づいています。早い段階で薬物治療を開始し、痛みが残存したり強くなったりする場合は、次の段階の薬物を選択します。

第1段階:非オピオイド鎮痛薬(非麻薬性鎮痛薬)使用

軽度な疼痛に対して適用されます。
アセトアミノフェン(パラセタモール)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの非オピオイド鎮痛薬が主に使用されます。
疼痛の原因や程度に応じて個別に処方されます。

第2段階:弱オピオイド鎮痛薬の追加

第1段階の薬物だけでは不十分な場合には、依然として中程度から激しい疼痛に対処するため、弱オピオイド鎮痛薬(コデインなど)が追加されます。鎮痛の十分な効果が得られない場合、より強力なオピオイド鎮痛薬に移行することが考慮されます。

第3段階:強オピオイド鎮痛薬の使用

重度の疼痛に対処するためにモルヒネやフェンタニルなどの強力なオピオイド鎮痛薬が投与されます。適切な評価と管理が重要であり、患者の痛みの特性に基づいて適切な量が調整されます。


この除痛ラダーは、痛みの程度に応じて段階的に薬物療法を進めるものであり、患者の痛みを最小限に抑えながら、副作用や依存症のリスクを最小限に抑えることを目指しています。

参考文献:who方式3段階除痛ラダー 厚生労働書医薬・生活衛生局:医療用麻薬適正使用ガイダンス

疼痛コントロールにおける痛みの評価方法

疼痛コントロールにおいて、主観的な感覚である痛みを評価するためのスケールとしては、

VRS(Verbal Rating Scale:簡易表現スケール)


NRS(Numerical Rating Scale:数値的評価スケール)


FRS(Wong-Baker faces pain rating scale:フェイススケール))


VAS(visual analogue scale:視覚アナログスケール)

などがあります。

(1)VRS(簡易表現スケール)

VRS(Verbal Rating Scale)は、簡易表現スケールの一種であり、疼痛の強さを表現するために言葉を用いる評価スケールです。患者はいくつかの言葉から自分の痛みを選択し、医療者に伝えることができます。

(2)NRS(数値的評価スケール)

NRS(数値的評価スケール)は、痛みの程度を数値で評価するための評価スケールです。痛みの主観的な経験を数値で表現する方法の一つで自分の感覚に基づいて、0から10の範囲内で数値を選択します。単純な数値で評価しやすく、主観的な痛みの評価を容易にします。

(3)FRS(フェイススケール)

FRS(フェイススケール)は、紙に描かれた顔の表情から疼痛(痛み)の程度を表現する方法で、現在の痛みが1~5のどの痛みに近いか視覚的に応えることができるため、小児、高齢者、認知症の患者など、VRSやNRSの理解が困難な場合に使用することができます。

(1)VAS(視覚アナログスケール)

VAS(視覚アナログスケール)は、痛みの評価に幅広く使用される測定ツールで、自分の痛みの程度を直感的に評価できるようにするための視覚的な尺度です。このスケールは0から10の数値が直線上に配置され、0が「全く痛くない」で10が「最も強烈な痛み」を示します。

生活への痛みの影響の評価

「痛みで何ができないかやどんな問題があるか」を尋ね、例えば痛みで寝つけない、途中で目が覚める、座っていられない、腕が上がらないなど、痛みが生活に与える影響について確認します。

夜の睡眠の確保や、日常生活において痛みが妨げにならないように、鎮痛薬の調整を行います。骨転移による動作時の痛みなど、薬物だけでは難しい場合には、リハビリテーションやケアなど、薬以外のアプローチも検討します。

眠気の評価

眠気が日常生活にどの程度影響しているかを問い、眠気が妨げになっていないか確認します。

眠気は単独でオピオイドの副作用となるとは限らないため、以下の観点から総合的に評価します。可能な限り、日常生活での眠気が問題にならないように心がけます。

・ 会話や食事中の眠気
・ 不快な眠気
・ 集中力や注意力の低下
・ 不安定な病状
・ 中枢神経系に作用する薬剤の変更が数日以内
・ レスキュー薬使用による強い眠気

痛みの評価シートを使ったアセスメント

上記の痛みの評価方法を踏まえた「痛みの評価シート」を使って日常生活への痛みの影響、痛みの強さ、痛みの部位、痛みの性状などをアセスメントをおこない、これに基づいて疼痛コントロールを進めていきます。

※痛みの評価シートのダウンロードはこちら

痛みが強くなっている場合や眠気や便秘、悪心などの副作用がある場合は医師に報告し対処します。

医師への報告のポイント

医師への報告次第で薬剤コントロールが変わると言っても過言でないため、以下のポイントに注意して報告をおこないます。

(1)どこの痛みか

(2)「痛み」がいつから強くなったか

(3)薬剤の効果、効果の有無、以前との比較

(4)痛くなったことによる困りごと

疼痛管理をPCAポンプでおこう場合の注意点

PCAポンプを使用している場合、レスキューボタンの使用頻度を確認します。薬剤の変更や増量については、あらかじめ医師からの事前指示書があれば、緊急時にもスムーズに対応できます。

またPCAポンプは、はバルーンタイプとカセットタイプあるため、それぞれの仕組みや特徴を理解しておくことも重要です。

1.バルーンタイプ

バルーンタイプのPCAポンプは、バルーン(膨らみ袋)を用いて鎮痛薬を投与します。ポンプ本体には鎮痛薬が入った注射器があり、これを制御するための電子装置が組み込まれています。患者がボタンを押すと、ポンプがバルーンを膨らませ、それによって鎮痛薬が静脈内に送り込まれます。

バルーンタイプのポンプは構造が比較的シンプルで信頼性が高く、使いやすいとされています。

2.カセットタイプ

カセットタイプのPCAポンプは、鎮痛薬が入った専用のカセット(小型の薬液入れ)を使用します。ポンプ本体にはこのカセットを差し込むスロットがあり、患者がボタンを押すと、ポンプが正確な量の鎮痛薬を送り込みます。

カセットタイプのポンプは、複数の鎮痛薬を同時に投与できる場合があり、簡単にカセットを取り替えることができるため、異なる鎮痛薬や投与量が必要な場合に柔軟に対応できます。


どちらのPCAポンプも、患者が自己管理できるようになっており、疼痛管理の個別化と効果的な薬物投与を可能にします。ただし、使用前には患者と医療スタッフによるトレーニングが重要であり、正確な使用法を理解していることが求められます。

主な鎮痛役と特徴

さいごに疼痛こんとるーるにおける主な鎮痛役と特徴、副作用についてお伝えします。

主な鎮痛薬と特徴

種類 商品名 (一般名) の例 説明のポイント・作用
非ステロイド性抗炎症薬
(NSAIDs)
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物)、
ボルタレン (ジクロフェナクナトリウム)
ステロイドではない、炎症を抑える薬。歯を抜いた後に処方される薬と同じと言うとわかりやすい。


体性痛に効く。

オピオイド鎮痛薬 オプソ(モルヒネ塩酸塩水和物)、
オキシコンチン (オキシコドン塩酸塩水和物)、
フェントス (フェンタニルクエン酸塩)
体内のオピオイド受容体に結合して作用する薬剤の総称。痛みがあるときに使用すれば依存や耐性は生じないと説明することで、「覚せい剤とは違う」と感じてくれることもある。


内臓痛、神経障害性疼痛に効き、がん疼痛、非がんの慢性疼痛の一部にも使用する。

鎮痛補助薬 リリカ(プレガバリン)、
リボトリール(クロナゼパム)
「本来は痛み止めではないが、ある条件で痛み止めとして作用する」薬の総称。抗けいれん薬・抗うつ薬・抗不整脈薬などがある。


神経障害性疼痛や難治性の内臓痛・体性痛に効く。

薬剤の種類と主な副作用

オピオイド 吐き気、眠気、便秘
NSAIDs 胃腸障害 、 腎障害
鎮痛補助薬(抗うつ薬、抗けいれん薬) ふらつき、眠気

まとめ

今回は、がん性疼痛など在宅療養における疼痛コントロールをテーマに疼痛の種類や評価方法など訪問看護師が押さえておきたいポイントを紹介しました。

在宅におけるがん性疼痛の治療は、患者とその家族のニーズに応じた総合的なアプローチが不可欠です。

疼痛の適切な管理を通じて、患者が最期まで尊厳をもって生活し、望ましいQOLを維持できるようサポートすることが重要です。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

参考文献:医療法人財団健和会 訪問看護ステーション「訪問看護アイデアノート」