【2024年最新】訪問看護ステーションの開業地域はどう選ぶ?経営者が知っておくべきポイントとは

我が国の高齢者人口の増加の一途をたどり、1970年代の第二次ベビーブームに生まれた「団塊ジュニア世代」が高齢者となる、2040年から2045年が高齢者人口のピークに至ると予測されています。

高齢者人口の増加に伴い、介護を必要とする人口も増えることから、訪問看護サービスの需要は今後も拡大するでしょう。

また、在宅で介護・医療サービスを利用することにより、入院を減らし医療費を削減する政策が推進され、同時に、介護や医療が必要な多くの人が在宅療養を希望していることから、訪問看護ステーションの役割はますます重要性を増します。

こうした状況から、訪問看護ステーションは成長分野として期待され、近年では開業が増加傾向にあります。

一方で、訪問看護ステーション経営には、看護師の確保の難しさ、報酬改定への対応、競合との差別化の難しさなどさまざまな課題が存在します。

本日は、これから訪問看護ステーションを開業する際に、経営課題も考慮した上で、将来を見据えた地域選びのポイントを紹介します。

訪問看護ステーションの将来性

訪問看護ステーションを開業する際、経営課題を考慮し、将来を見据えた地域選びのポイントを紹介するにあたり、まず以下5つの視点から訪問看護ステーションの将来性について考察します。

(1)訪問看護利用者数の推移~最高記録更新が続く

下記グラフにあるように、訪問看護ステーションの利用者数は、介護保険と医療保険の両方で年々増加しており、これまでの最高記録を更新し続けています。

医療保険における利用者数については、令和1年は、平成13年と比較して5.9倍にまで増加しました。

今後も需要の拡大が見込まれ、新規開業においても安定的な事業成長が期待できます。

参照元:厚生労働省「第8回在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ 令和4年10月31日参考資料

(2)訪問看護ステーションに係る医療費と介護給付費の推移~10年で3倍に

利用者の増加に伴い、訪問看護ステーションに係る医療費と介護給付費の推移はグラフが示すように、ともに増加しており、2020年では医療費が3,254億円、介護給付費が3,429億円に達し、年間総額6,683億円となりました。

この年間総額は、2010年の2,214億円から10年間で約3倍の増加となりました。

こうしたことは、将来の事業展開においても売り上げ拡大が見込める要素となります。

参照元:公益財団法人日本訪問看護財団「訪問看護の現状とこれから2023年版

(3)訪問看護のサービス量見込み~2040年、37%増に

2040年では、訪問看護の介護保険利用者は2020年の61 万人から37%増の84万人になると推計されています。このことから、新規参入においても事業の長期的な成長が期待できます。

参照元:厚生労働省「第8期介護保険事業計画におけるサービス量等の見込み

(4)報酬改定~プラス評価

以下のように、令和3年度の介護報酬改定では、訪問看護ステーションは概ねプラス評価されています。
これにより、事業収入が向上し、経営の安定性が期待されます。

参照元:厚生労働省 老健局「社会保障審議会介護給付費分科会(第220回令和5年7月24日)資料

(5)訪問看護の収支差率~居宅サービスのうち最も高い

訪問看護の収支差率は7.6%となっており、訪問介護6.1%、通所介護1.0%、通所リハビリテーション0.5%、短期入所生活介護3.3%などと比較し、最も収益性の高いサービスとなっています。

このことから、訪問看護ステーションは参入するにあたり、事業の安定性が確保される事業といえます。

参照元:厚生労働省 老健局 「社会保障審議会介護給付費分科会(第220回令和5年7月24日)資料 令和4年度 概況調査 令和3年度 決算

上記5つの視点から、訪問看護ステーションは将来的な成長と高い収益性が期待される有望な事業分野であることがわかります。

訪問看護ステーションの経営課題

上述のように、訪問看護ステーションは将来的な成長と高い収益性が期待される有望な事業であることから、近年では新規開業数は増加傾向にあります。

一方で、訪問看護ステーションは、下の表にあるように廃業や休業が多く見受けられ、令和4年度の新規開業数1968件に対し、廃止数568、休止数225件 となっています。

廃業休止合計数793件は新規開業数の約4割にも達することから、事業継続に向けては、経営課題も多い事業であることがわかります。

参照元:一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和5年度 訪問看護ステーション数 調査結果

以下では、訪問看護ステーションの主な3つの経営課題を説明します。

(1)看護師の確保の難しさ

看護師の勤務先別の求人倍率を比較すると、訪問看護ステーションの求人倍率が3.22倍と最高になっており、2番目に高い倍率の病院(20~199床)1.80倍をはるかに上回っておいます。
このことからみても、訪問看護における看護師の確保が困難である状況にあることがわかります。

地域によっては、多くのステーションが近隣で開業し、看護師の獲得競争が激化し、さらに高い求人倍率となっているところもあります。

こうした地域では、給与額を上げたり、人材紹介会社に高額な手数料を支払って採用するなど、収益を圧迫する状況となります。

このように、看護師確保は、訪問看護ステーションの持続的な事業成長に向け、もっとも重大な経営課題となります。

参照元:日本看護協会「2021年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析

(2)報酬改定への対応

訪問看護ステーションは、介護報酬や診療報酬の改定によって、収入が増減し、事業所の財政に大きな影響を及ぼすことがあります。

参考まで、これまでの介護報酬改定では、主に以下の内容が改定されています。

・平成27年度改定:在宅における中重度の要介護者の療養生活に伴う医療ニーズへの対応の評価向上


・平成30年度改定:医療ニーズへの対応の強化、ターミナルケアの充実への評価向上


・令和3年度改定:訪問看護サービスの機能と連携の強化 、会議や多職種連携におけるICT活用、より専門性の高いケアを要する療養生活を支えるサービスの評価向上

ステーション経営の安定には報酬改定を見越した事業方針の策定、人員調整や対策を講じることなど改定に合わせた対応が必要となります。

このように、報酬改定のたびに迅速かつ柔軟に対応することが訪問看護ステーションの安定成長において重要な経営課題となります。

(3)競合との差別化の難しさ

訪問看護ステーション数が増加し、一部の地域では需要を上回るほどの激しい競争が続いているケースがあります。こうしたケースでは、競合との差別化策を考えることが一般的です。

しかしながら、訪問看護は医療や介護制度に基づいた事業であり、特定の規定や基準に従ってサービスが提供されるため、以下のような制約や枠組みにより、ステーション個別の差別化には限界があります。

①同一基準下でのサービス提供

訪問看護ステーションは同じ医療・介護基準に基づいてサービスを提供しているため、提供される基本的なサービスにおいては大きな差異が生まれにくい状況があります。

②報酬体系

訪問看護の報酬体系は、診療や介護の内容に応じて算定されるものが多く、独自の設定はできず、サービス提供価格での差別化は困難となります。

これらの制度の制約を克服し、競争激化において差別化策をどのように講じるかが訪問看護ステーションの課題となります。

訪問看護ステーションの将来を見据えた開業の地域選びのポイント

前述の通り、訪問看護ステーションでは、看護師の採用、報酬改定の対応、競合との差別化といった経営課題が生じている状況ですが、これらの状況は地域によって大きく異なります。

従って、新たに訪問看護ステーションを開業する際は、経営課題を克服しやすい地域を選んで開業することが重要です。

ここでは、これらの経営課題を考慮した上で、将来を見越した訪問看護ステーションで開業に適した地域選びの3つのポイントを紹介します。

(1)看護師が比較的採用しやすい地域~将来の看護師増員を見据えて

訪問看護ステーションの開業時の人員要件である2,5人をクリアして開業した場合でも、離職や利用者増に伴い継続的に看護師を採用する必要があります。

魅力的な働きやすい環境や、柔軟な労働条件など、様々な工夫を尽くしても、一部の地域では、採用が追い付かず人材紹介会社に依存したり、給与水準を大幅に上げざるを得ない現実があります。

以下は、人口10万人当たりの都道府県別の看護職員就業者数を表したグラフです。

これによると、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県は、全国平均を大きく下回る地域であり、採用難となる可能性があります。

都道府県単位でみた場合、全国平均を上回る就業者数の地域は看護師が比較的採用しやすいと言えます。

参照元:日本看護協会「2021年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析

さらに、都道府県内の特定エリアを絞り、以下の項目を確認し、看護師が採用が進むことが予測される場所を選んで開業エリアを決定します。

1. 求人数と看護師就業者数のバランス

特定のエリアの求人数と看護師就業数を比較し、就業者数が多い場所では採用がしやすい傾向があります

2. 求人募集の頻度

医療機関や訪問看護ステーションが頻繁に求人広告を出しているかを確認します。

3. 経験者募集の状況

求人している仕事の経験者に絞った募集状況を確認します。
経験者の求人が多い場所は、条件を狭めても応募があることの証となるため、看護師が採用しやすい基準となります。

4. 福利厚生や働きやすさの協調状況

福利厚生や働きやすさが求人で突出している地域は、魅力を強調しなければ応募者が来ない可能性があり、採用難の場所といえます。

5. 専門の雇用統計データの参照

看護師の雇用統計データを参照し、特定のエリアの看護師採用の傾向を推測します。

これらの項目を組み合わせて調査、確認した上で、看護師採用のしやすさを判断することが、訪問看護ステーションの将来を見据えた開業に適した地域選びの重要なポイントとなります。

(2)訪問看護ステーションが充足していない地域~将来の競争激化の回避を見据えて

前述のように、競合が激化した場合でも差別化が難しい訪問看護では、ステーションが充足していない地域を選び開業する必要があります。

以下は、都道府県ごとの高齢者人口に対する訪問看護ステーションの充足率を示したグラフです。

全国平均34%を大きく上回る67%の充足率となっている大阪府では、競争が激化しており、新規参入において利用者を獲得するためには、試行錯誤が必要となります。

また、高齢者人口が多い一方で訪問看護ステーションが多い東京都や愛知県での開業を検討する場合は、県内の市町村を詳細に調査して、開業エリアを選定する必要があります。

詳細な調査では、特定エリアの高齢者の人口推移、訪問看護ステーションの数や利用者数、近隣の医療機関の状況、月々の入退院者数などを確認します。

高齢者人口に対する訪問看護ステーションの比率

訪問看護ステーションの充足状況の把握は、訪問看護ステーションの将来を見据えた開業地域選びの大切なポイントとなります。

(3)高齢者施設の整備の状況~将来のナーシングホーム開設を見据えて

訪問看護ステーションが直面する看護師採用難や競争激化、差別化の難しさといった課題に対処するためには、ナーシングホームの併設が推奨されています。

ナーシングホームでは、移動や未経験による不安がないため看護師が集まりやすい傾向があります。また、報酬改定ごとに評価が上がる重度者のケアやターミナルケアや看取りにも対応しています。

さらにナーシングホームを併設していることは他の訪問看護ステーションとは差別化を図る手段となり、訪問看護における差別化の難しさにも対応します。

このような事情から、訪問看護ステーションが持続的に成長を遂げるためには、開業地域の選定において、以下のグラフや確認項目を参考に、将来のナーシングホームの開設を視野に入れる必要があります。

下のグラフは、都道府県別の65歳以上の高齢者向け住まい・施設の整備状況です。

滋賀県、東京都、栃木県、愛知県、埼玉県、山梨県、千葉県などが、ナーシングホームを含めた高齢者向けの施設が不足している地域であり、ナーシングホームの需要が高いと言えます。

65歳以上の高齢者向け住まい・施設の整備状況(都道府県別)

参照元:社保審-介護給付費分科会資料「令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果

さらに、都道府県内のエリアを絞って、以下の項目を確認し、ナーシングホームの開業に適する場所が把握できます。

1. 要介護認定者数推移と介護度比率

2. 医療機関からの月々の入退院者数

3. 地域の医療機関や病院との連携のしやすさ

4. 地域ごとの法的・規制上の要件

上記項目以外にも、ナーシングホームでは、土地価格の検証が重要となります。 

土地価格が高額となると、広い土地が必要となるナーシングホームの建築は厳しくなります。

以下の表は、都道府県別の用途別平均価格を表しています。

用途が住宅地の平均価格が、㎡当たり概ね10万円以下のエリアで、且つ人口規模は見込める千葉県、静岡県、宮城県、茨城県などがナーシングホームの建築に適しています。

同一の都道府県でも地域によって地価はばらつきがありますので、エリアを絞って、地価を確認します。

参照元:国土交通省「令和3年都道府県地価調査 都道府県別・用途別平均価格

まとめ

高齢者人口の増加に伴い介護を必要とする人口も増えることが予想される中、入院を減らし医療費を削減する政策の推進や在宅での介護や医療を希望している人が多いことから、訪問看護サービスの需要は今後も増えていきます。

こうしたことから、近年では訪問看護ステーション開業が増加傾向にあります。

一方で、訪問看護ステーション経営には、看護師の確保の難しさ、報酬改定への対応、競合との差別化の難しさなどさまざまな課題が存在します。

これから訪問看護ステーションを開業するにあたり、こうした経営課題も考慮した上で、将来を見据えた開業に適した地域を選ぶことが重要です。

さらに、看護師採用難、競争激化、差別化が難しいといった課題を有する訪問看護ステーションで、こうした課題をクリアする対策としては、将来的にナーシングホームの併設を視野に入れて、ステーションの開業地域を決めることも一つの選択肢となります。