訪問看護においては、看護師は訪問時に看護師訪問バッグを携帯します。病院と異なり、必要なものが手元に用意されておらず、手の届く範囲にもありません。
一部の物品はご利用者にお借りしたり、用意していただくこともありますが、ご利用者のケアに不可欠なアイテムはほぼ全て持参します。そのため、荷物はどうしても多くなってしまいます。
「備えあれば憂いなし」という言葉通り、訪問前に必要なものを事前に確認し、準備することで、余裕のある気持ちで業務に臨むことができます。
このコラムでは、訪問前の心得、訪問バッグの基本装備、あると安心・役立つ物品などを詳しくご紹介します。
これから訪問看護を始めたいという方々にとっても、ぜひ参考にしてみてください。
忘れ物がないかチェック!訪問看護師の出発前の心得
訪問前には、スケジュールや看護計画を確認し、予測される状況に備え、忘れ物がないかを確認して準備を怠らないよう心がけましょう。
特に、訪問看護では、途中で何かを忘れてしまうと簡単に戻ることができません。
一度出発してしまったら、戻ることが難しいため、出発前のチェックが重要です。
訪問先であるべきものが、かばんに無いとケアがスムーズにできなかったり、スケジュールが予定とおりに進まなくなったりなど、利用者が不自由したり、迷惑をかけてしまうことにつながります。
事務所を出発する前に「忘れ物はないかな?」と、チェックすることも訪問看護師の大切な業務のひとつです。
利用者ごとに必要な物品が異なることもありますので、チェックリストを用意するなど工夫することをお勧めします。
また、訪問看護では基本的に利用者の物品を使用することが多いため、事前に必要なものを利用者やその家族に伝えておくことも大切です。
では、事前にチェックする訪問バッグの基本装備をカテゴリー別にみていきたいと思います。
バイタルサイン測定やフィジカルアセスメント物品
訪問看護において、極めて重要で欠かすことのできないアイテムは、血圧計、ステート、パルスオキシメーターの3つです。これらがあれば、どの場所でも全身のアセスメントを行うことができます。
パルスオキシメーターの電池が少なくなってきたら電池を交換しておくか、新しい電池も持ち歩いておくと安心です。
バイタル測定・フィジカルアセスメント物品
・体温計
・血圧計
・パルスオキシメーター
・秒針つきの時計
・ペンライト
・瞳孔スケール
・ステート(聴診器)
・メジャー、定規(折りたたみ式)
・アルコール綿
ケアや指導に必要な物品
訪問看護では、突然の処置やケアが必要となる場合もあります。例えば、急に直腸診が必要になったときなどに、ワセリンやゼリーがあると便利です。
入浴介助を行う際には、入浴介助用のエプロンやタオルを準備することを忘れずに心がけましょう。
自身の身体への負担を軽減するため、腰痛予防の観点からスライディングシートなどを用意して、ケアを効果的に進めることが重要です。
疾患ごとのセルフケア指導の際に、患者指導のパンフレットなどが用意されていると、利用者が理解しやすくなることでしょう。
ケア・指導物品
・ワセリン
・テープ
・フィルム
・はさみ
・駆血帯
・爪切り
・ライト付き耳かき
【必要時】
・ネラトンカテーテル
・アロマオイル(緩和ケアで使用)
・スライティングシート
・清潔なペットボトル(シャワーとなるよう蓋に穴をあけておく)
・入浴ケア用エプロン
・ケリーパット
・口腔ケア用スポンジブラシ
・患者指導のパンフレット
訪問・コミュニケーションを円滑にするための物品
訪問看護を行う際には、信頼関係の構築が肝要です。信頼関係は日々の積み重ねによって形成されます。相手から自分がどのように見られているか、ご自宅へ訪問させていただく際に何が求められているか、どのように行動すべきか、常に考える必要があります。
自己紹介をする際には、名刺が不可欠です。名刺は利用者だけでなく、家族や他の職種の人々にも渡します。足りなくならないよう、十分な数を用意しておくことが大切です。
訪問看護計画書に毎月のサインや印鑑が必要な場合がありますので朱肉を持っていると便利です。
円滑に訪問を実現するには、スマートフォンを活用し、利用者の住所を地図で確認するとと便利です。
訪問・コミュニケーションを円滑にする物品
・身分証明書
・名刺(きれいな名刺入れに入れる)
・地図
・朱肉
・スマートフォン
・筆記用具
・メモ用紙
・靴下の替え
・ビニール袋大(雨の日にかばんを入れる)
・雨具
【必要時】
・福祉カタログ
・介護事業所リスト(初回訪問時に役立つ。福祉用具の導入などを相談)
感染予防のための物品
訪問先で、感染の疑いがあることがわかることがあります。コロナウィルス、イソフルエンザや疥癬、帯状疱疹などさまざまな事例に遭遇します。
全ての利用者の血液、汗以外の体液、分泌物、排泄物、粘膜、創傷のある皮膚には、感染の可能性があると考え、スタンダードプリコーションを遵守することが必要です。
血液や体液、分泌物、排泄物が飛散するリスクがある場合、マスクやゴーグルの着用などにより、多くの感染症を予防することができます。感染予防のための物品を用意しておくことも大切です。
訪問宅では、手洗いを継続的に実施し、タオルやペーパータオルを使用します。アルコール消毒や手洗いは、一度の行動ごとに行い、共有物はアルコールスプレーで清潔に保ちます。訪問中や他の場面でも、適切に換気を行い、携帯ファイルや訪問バッグもアルコールで清潔に保つことを忘れずに行います。
日常的にこれらの対策を徹底することで、訪問の安全性を確保しましょう。
感染予防物品
・携帯用手指消毒薬
・マスク
・手袋
・スリッパ
・防水性ガウン
・防水性エプロン
・ぺーパータオル
・ビニール袋(ゴミ袋用、1利用者1枚使用)
【必要時】
・フェイスシールドまたはゴーグル
・シューカパー
緊急時や災害時に備えるための物品
災害は、訪問中や移動中、どこでいつ起こるか予測できません。最初に自己の安全を確保することが重要です。自分自身を守らなければ、利用者への支援も行えません。
災害の際に備えて、マニュアルや防災地図などを携帯しておくことが大切です。
また、交通事故や訪問時の問題、情報漏洩、その他のインシデント(事故に至らなかった出来事)や事故が発生した場合、一人で解決しようとすることは避けるべきです。
そのために、組織の緊急対応連絡マニュアルを携帯し、緊急時に適切に対処できるよう準備しておくことが重要です。
緊急・災害時物品
・地図(難所が記してあるもの)
・防災マニュアル
・緊急時対応マニュアル
・連絡体制マニュアル
【必要時】
・防災用ヘルメット
訪問時にあると安心・役立つ物品
訪問看護師は様々な住居を訪れます。
訪問前後やケアの前後には、手洗いや手指の消毒が必要です。タオルでは湿ったまま持ち運び、雑菌が増えることから不衛生です。紙タオルの方が好ましいですが、ない場合は訪問回数に合わせてハンドタオルなどを携帯することが感染予防に繋がります。
体温計やサチュレーションモニター、ペンライト、時計などに使用する電池の残量は分かりません。そのため各機器に対応する電池を予備として持ち歩くことが便利です。
急な雨や汚れ、次の訪問先が困難な場合があるため、靴下の予備を1つ用意しておくと便利です。
透明なビニール袋は、湿ったタオルや靴下、紙タオルなどを自分で持ち運ぶのに役立ちます。
あると安心・役立つ物品
・機器に合った電池のストック
・靴下の替え
・透明ビニール袋
・紙タオルまたは、訪問件数に合わせたハンドタオル
・日焼け止めや汗拭きシート(夏季の訪問時)
まとめ
訪問看護の現場では、準備が肝心です。訪問前に必要な物品を確認し、バッグの中身を整えることで、安心して業務に臨むことができます。
バイタルサイン測定やケア、コミュニケーション、感染予防、緊急時に必要な物品を整備し、常に万全の状態をキープしましょう。
これから訪問看護を始める方々にとっても、このコラムが役立つ情報源となれば幸いです。
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