訪問看護は、利用者との契約に基づいて提供されるサービスです。訪問看護師が主治医の指示に基づき、専門の視点で利用者の病状や療養生活を見守り、適切な判断に基づいたケアとアドバイスを提供します。
また、訪問看護は単体だけでなく、保健、医療、福祉などの多職種と協働しながら療養生活を支援していくため、新規で依頼を頂き、実際に訪問看護サービスを提供するには一定の手順が必要となります。
今回は、訪問看護の新規依頼の進め方とサービス提供までの流れについてお伝えします。
新規依頼から訪問看護提供までの流れ
新規の依頼(利用者の申込)を受け、訪問看護を提供するには、一定の手順が必要となります。まずは、全体の流れをみていきます。
訪問看護提供の流れ(全体図)
(1)サービスの申し込み
↓
(2)訪問看護指示書の受理
↓
(3)サービスの説明と同意、契約
↓
(4)初回訪問と情報収集
↓
(5)アセスメント、訪問看護計画の立案
↓
(6)訪問看護の実施
↓
(7)訪問看護実施の記録
↓
(8)モニタリング・評価・訪問看護報告書の提出
(1)サービスの申し込み
訪問看護の新規依頼は、主治医や介護支援専門員(ケアマネジャー), 退院調整看護師やソーシャルワーカーを通しておこなわれます。(利用者が訪問看護へ直接依頼するという形は基本的にほとんどありません。)
地域のケアマネジャーからの依頼の場合、訪問看護ステーションが提供する訪問看護申込書に必要事項を記入し、それをステーションに送付します。
病院の退院調整看護師やソーシャルワーカーからの場合、電話での打診が行われ、その後に必要な最低限の情報が電話で共有されます。この際、サマリーや検査データ、診療情報提供書などが送付されることがあります。
(2)訪問看護指示書の受理
訪問看護を開始するためには主治医が交付する 「訪問看護指示書」が必要となります。
訪問看護ステーションあるいはケアマネジャーが主治医に依頼し、「訪問看護指示書」が訪問看護ステーションに交付されます。
「訪問看護指示書」には、対象者や状況に応じて以下の5つの種類があります。
・訪問看護指示書
・特別訪問看護指示書
・在宅患者訪問点滴注射指示書
・精神科訪問看護指示書
・精神科特別訪問看護指示書
主治医から交付された訪問看護指示書について、まずは指示の内容を確認します。具体的には、疾患名に注目し、それが介護保険適用か医療保険適用かを確認します。
さらに、指示書に記載された日付や指示内容も確認します。特に、理学療法士によるリハビリテーションが含まれている場合には、その具体的な指示内容にも留意します。
(3)サービスの説明と同意、契約
訪問看護の依頼があり、主治医から「訪問看護指示書」が交付されたら、「重要事項説明書」に沿って、 事業所の概要、サービス内容、営業時間、サービス時間、利用料金、職員体制などについて説明します。
説明の際には、利用者、家族が「説明を聞いていない」とならないように、 わかりやすい言葉で丁寧に伝えることが重要です。
同時に、個人情報の使用に関する同意や訪問看護契約書についても説明し、本人または家族の同意を得て契約を取り交わします。
介護保険を利用している場合は、ケアマネジャー主催のサービス担当者会議に参加し、契約を締結します。サービス担当者会議では、全体の介護サービス内容を確認し、これまでのかかわりや経緯、今後の方向性、利用者や家族の意向を確認します。
その後、利用者の状況や希望に応じて、訪問看護の利用回数、曜日、および時間を具体的に決定します。
(4)初回訪問と情報収集
契約後は、利用者本人や家族との面接および初回訪問をおこない、利用者の具体的な情報収集をします。同時に主治医や関係機関からも以下のような情報を収集していきます。
訪問看護の開始にあたり、収集する情報
・主疾患
利用者が抱える主な疾患や健康上の問題を明らかにします。
・既往歴
過去に経験した病歴や手術歴、治療歴などを確認します。
・感染症の有無
現在または過去に感染症があるかどうかを把握し、予防策を検討します。
・これまでの経過
現在までの治療やケアの経過を把握し、今後の方針を確認します。
・家族構成 (介護者、キーパーソン)
家族構成や主な介護者、キーパーソンを確認し、連携を図ります。
・社会的背景
利用者の社会的な関わりや状況を理解し、適切なサポートを提供します。
・経済状況
現在の経済的な状況を確認し、適切なサービスや支援を提案します。
・ADL、IADL
日常生活動作(ADL)および独立した生活動作(IADL)の評価を行います。
・住環境
利用者の住んでいる環境や住宅の安全性を確認し、必要な修正や調整を提案します。
・保険の書類
利用者の保険に関する書類や条件を確認し、必要な手続きをサポートします。
・介護保険サービス
介護保険を利用している場合、どのサービスを受けているかを確認し、連携を強化します。
・福祉制度の利用状況
利用者が利用できる福祉制度やサポートを確認し、最適な支援を提案します。
また、主治医から説明されている病状を利用者本人や家族がどう受け止めているか、今後どのような生活を希望するかなどの情報も、利用者を生活の中で支援していくためには重要です。
これらの情報を集め、フェイスシート (訪問看護記録書 I) に記載します。 また、「24時間対応体制加算 (医療保険)」または「緊急時訪問看護加算 (介護保険)」 利用の意向確認、 「市町村等への情報提供」の同意を取ります。
※訪問看護の初回訪問についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
(5)アセスメント、訪問看護計画の立案
(4)で収集した情報をもとに十分なアセスメントを行って訪問看護計画を立案していきます。
在宅療養におけるニーズを明確にし、それに応じて目標を利用者や家族と共に定め、目標達成のために提供する看護内容や他の介護サービスとの役割分担を検討し、調整・計画を立てます。
計画立案には、本人のフィジカル面だけでなく生活面や精神面への支援への配慮、本人や家族のセルフケア能力を高める視点を盛り込むことが重要です。
また訪問看護計画では、改善や回復だけでなく、現状維持や悪化を最小限にすること、安らかに最期を迎えることなども目標となることもあることを踏まえる必要があります。
立案した訪問看護計画書は利用者や家族の同意を得て主治医に提出します。
介護保険の訪問看護対象者の場合、ケアマネジャーが作成したケアプラン(居宅介護サービス計画書)に基づいて訪問看護計画(個別援助計画)を策定します。
サービス担当者会議においては、サービスを提供する関係機関の担当者全員が利用者のニーズや目標を共有し、それぞれの役割について責任をもって担当します。
(6)訪問看護の実施
訪問看護計画に基づいて看護師や療法士が訪問看護サービスを提供します。
訪問看護のサービス内容
訪問看護サービスの具体例 | |
---|---|
1 | 病状等観察 |
2 | 療養指導 |
3 | 体位交換 |
4 | 栄養・食事の援助 |
5 | 排泄援助 |
6 | 整容・更衣 |
7 | 移動・移乗の介助 |
8 | 保清(入浴・清拭・陰部・足浴・洗髪・口腔ケア) |
9 | 療養環境整備支援 (居室・換気・日常生活用具等) |
10 | リハビリテーション看護 |
11 | 認知症のケア |
12 | 精神障害者のケア (医療保険) |
13 | 家族等支援 (介護方法の助言・相談対応等) |
14 | 社会資源調整 入退院支援 |
訪問看護サービスの具体例(医療処置等) | |
---|---|
1 | 酸素療法管理 |
2 | 吸引 気管カニューレ内・口腔・鼻腔)吸入 |
3 | 膀胱留置カテーテル交換・管理・膀胱洗浄 |
4 | 褥瘡予防処置 |
5 | 創傷処置 ⑥在宅中心静脈栄養実施管理 |
6 | 在宅中心静脈栄養実施管理 |
7 | 経鼻経管栄養実施・管理 |
8 | 人工肛門処置・管理 |
9 | 人工膀胱処置・管理 |
10 | 胃ろう管理 |
11 | 気管カニューレ交換・管理 |
12 | 人工呼吸器使用上の管理 (医療保険) |
13 | CAPDの灌流液交換・管理 |
14 | 緩和ケア |
15 | 終末期ケア |
16 | 血糖値管理 |
17 | 服薬管理 |
18 | 注射・点滴実施管理 |
19 | 浣腸・摘便 |
20 | 検査補助 その他緊急対応等 |
計画に決められた看護を行うだけでなく、本人のセルフケア能力を高められる働きかけや家族への配慮を踏まえて看護ケアを提供することが大切です。
在宅療養では、病院のように常に看護師が近くにいるわけではないため、訪問時には次回の訪問までに必要な情報や発生する可能性のあるリスクに対する予防方法などを伝えることも重要です。
また看護をおこなう中で、追加のケアが必要な場合や必要なくなったケアがあれば、随時ケアマネジャーと情報を共有していきます。
(7)訪問看護実施の記録
訪問看護実施後には、訪問日、訪問時間、訪問者、バイタルサインや一般状態、訪問看護の内容、次回訪問日などについて「訪問看護記録書」に詳細に記載します。
看護師などが単独で訪問する訪問看護は、実践が他者に見えにくいという特徴があります。そのため訪問看護を実施したことを確認するためにも、記録を残すことが重要です。
記録にはアセスメント内容や新しい情報、介護者の様子なども充分に記載とよいでしょう。
訪問看護記録書に記載する内容
・訪問日
実施された訪問看護の日付を記載します。
・訪問時間
訪問看護が行われた具体的な時間帯を記録します。
・訪問者
実際に訪問看護を行った看護師や関連職種の名前や役職を明記します。
・バイタルサイン
血圧、脈拍、呼吸数、体温などの生命徴候を計測した数値を記録します。
・一般状態
利用者の一般的な健康状態や様子に関する観察や評価をまとめます。
・訪問看護の内容
実際に行われた訪問看護の具体的な内容や提供されたケアについて詳細に記述します。
・次回訪問日
次回の訪問看護が予定されている日付を明示します。
・アセスメント内容
利用者の状態やニーズに関するアセスメント結果や詳細な情報をまとめます。
・新しい情報
訪問中に得られた新しい医学的、生活状況、または症状に関する情報を示します。
・介護者の様子
利用者の介護者や家族の状態や様子について観察した内容を明記します。
訪問看護記録書に実施された活動に関する日時、実施者、根拠、結果などの記録を継続的に残すことにより、ケアの内容を振り返ることが可能です。
訪問時の記録だけでなく、電話相談や主治医、関係職種との連絡内容なども記録することは、情報共有のために不可欠です。
ただし、これらの記録は個人の感想や思いを書き残す場ではないため、感情表現ではなく、事実を正確に記載することが求められます。
また訪問看護記録は、利用者や家族の要望に応じて開示しなければならないものであり、法的問題が生じた際には証拠資料として機能するため留意が必要です。
近年、多くの事業所がタブレット端末を導入し、看護記録を訪問先で直接入力することにより、記録業務の負担を軽減し、記録書の電子化によって報告書や看護サマリーの効率的な作成を実現しています。
(8)モニタリング・評価・訪問看護報告書の提出
訪問看護計画に基づいて、1カ月ごとに評価を行い、その結果を訪問看護計画書に記載します。
同時に、1カ月の間に訪問した日、提供した看護内容、利用者の状況などをまとめ、訪問看護報告書として作成します。
この報告書は次月の訪問看護計画書とともに主治医に提出します。
事業所内では、利用者ごとに看護方法や方針についてのカンファレンスを開催し、担当看護師の評価・修正だけでなく、他の看護師や管理者の意見も参考にしています。これにより、偏りのない評価・修正が行われ、質の高い看護の提供につながります。
※訪問看護の計画書・報告書についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
まとめ
今回は、訪問看護の新規依頼の進め方とサービス提供までの流れについてお伝えしました。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。