ニーズが急増する精神科訪問看護:在宅ケアの役割と支援内容

我が国では精神疾患の患者数が年々増加しており、厚生労働省の調査によれば、2017年時点での精神疾患患者数は2002年の約1.7倍に相当する約419万人に達しています。

これは、現在、日本人の約30人に1人が何らかの精神疾患を抱えて生活を送っているという現実を示しています。

一方で、精神疾患患者の入院患者数は過去15年間で減少傾向にあります。しかし、外来患者数は2002年の約223万人から急速に増加し、現在は約389万人に達しています。

このような背景から自宅で精神疾患のケアが受けられる精神科訪問看護の需要も年々増加しています。

本コラムでは、精神科訪問看護についてその役割や内容についてお伝えします。

目次

精神科訪問看護とは

精神科訪問看護は、精神疾患のある方や心のケアが必要な方に、看護師や作業療法士などの専門職が直接自宅を訪問し、日常生活ケアや精神的なケアを提供するサービスです。

精神疾患によって低下した社会生活への適応能力を回復させることであり、病状の安定・改善から服薬管理、急性増悪時の対応など、幅広いサポートを提供します。

もちろん、看護師が一方的にケアを決めるのではなく、利用者様、ご家族、看護師、医師、保健師などの医療チームで連携し、現在の悩みや不安を共に解決していきます。

精神科訪問看護の対象は、精神疾患を抱える方とその家族を含みます。通院の手間を省けるだけでなく、利用者が住み慣れた環境で援助を受けられるため、入院期間を短縮できるなど、様々な利点があります。

精神科訪問看護に多い病名とは

(1)統合失調症

統合失調症は、現実感覚の歪み、幻覚、妄想、感情の適切な調整の難しさなどを特徴とする重度の精神疾患です。精神科訪問看護は、統合失調症患者が日常生活での自立をサポートし、服薬の管理や病状の経過観察を行うために利用されます。訪問看護師は患者の安定化や社会復帰をサポートし、家庭内でのストレスや問題の早期発見にも役立ちます。

(2)うつ病・双極性障害

うつ病と双極性障害(躁うつ病)は、気分障害の一種で、気分の波が極端に変動することがあります。訪問看護は、これらの疾患に対して、定期的なモニタリング、治療の遵守、症状の変化の早期対応などに役立ちます。特に双極性障害では、気分の変動が激しいため、訪問看護師の支援が重要です。

(3)アルコール依存症・薬物依存症

アルコール依存症や薬物依存症は、中毒症状やリラプスのリスクが高い疾患です。訪問看護は、断酒や禁煙のプログラムの実施、薬物の管理、依存行動の監視などに役立ちます。家庭環境でのトリガーやストレス要因を特定し、対策を立てるのにも訪問看護は有効です。

(4)発達障害(自閉症、アスペルガー症候群、ADHD)

発達障害は、認知、社会的な対応、行動に関する様々な困難を伴う疾患です。訪問看護師は、発達障害を持つ個人やその家族に、日常生活のスキルの向上や行動の管理の支援を提供します。また、特別な教育やリハビリテーションのプランの実施もサポートします。

これらの疾患に対する精神科訪問看護は、患者と家族の生活の質を向上させ、安定化や社会参加を促進するのに役立ちます。看護師が患者と連携し、個別のケアプランを作成し、継続的なサポートを提供することが重要です。

精神科訪問看護を利用される方とは

精神科訪問看護の対象となる方について、以下の3つのケースを解説します

(1) 精神疾患と診断された方

精神科訪問看護は、うつ病や統合失調症、アルコール依存症など、精神疾患を持つ方々を支援するサービスです。さまざまな種類の精神疾患を抱える方々が対象となります。訪問看護師は、これらの患者の日常生活や症状の管理、治療計画のサポートを提供します。

(2) 精神科や心療内科に通院中の方

通院中の方々も精神科訪問看護を受けることができます。通院している病院やクリニックに受診し、医師からの指示書を得る必要があります。この指示書には、訪問看護の必要性や具体的なケアプランが記載されます。通院中でも、自宅でのサポートが必要な場合に利用されます。

(3) 精神疾患の診断はないものの睡眠障害や自宅療養が必要と医師が判断した方

精神疾患の診断がない場合でも、医師が睡眠障害や自宅での療養が必要であると判断した場合、精神科訪問看護の対象となることがあります。このような方々も、日常生活の質を向上させるためのサポートやケアを受けることができます。訪問看護師は、医師の指導のもとで、患者の健康状態をモニタリングし、必要な介入を行います。

精神科訪問看護の対象者は多岐に渡ります。個々のケースに合わせて適切なケアが提供されることで、患者の生活の質と安定を向上させる役割を果たしています。

精神科訪問看護が提供する支援内容

精神科訪問看護では、患者の精神的な健康をサポートし、日常生活の質を向上させるために多くの支援内容が提供されます。

(1)日常生活の維持/生活技能の獲得・拡大

訪問看護師は、患者の日常生活をモニタリングし、食生活、活動、整容、安全確保などの生活技能の維持および向上のためのケアを提供します。例えば、食事の準備や運動のサポートを行い、自立した生活を支援します。

(2)対人関係の維持・構築

コミュニケーション能力の維持や向上を支援し、他者との関係性の構築を助けます。患者が社会的に孤立しないよう、コミュニケーションスキルの訓練や社交的な活動への参加を奨励します。

(3)家族関係の調整

精神科訪問看護は、家族にも関心を寄せ、家族との関係性に関する援助を提供します。家族が患者をサポートし、理解しやすい環境を整えるのに役立ちます。

(4)精神症状の悪化や増悪を防ぐ

訪問看護師は、精神症状のモニタリングを行い、症状の安定や改善のためのケアを提供します。服薬の管理や通院継続の支援も行い、症状の悪化を防ぎます。

(5)身体症状の発症や進行を防ぐ

身体症状のモニタリングを通じて、健康な生活習慣を促進し、身体的な健康をサポートします。適切な食事や運動のアドバイス、自己管理能力の向上を支援します。

(6)ケアの連携

訪問看護師は、患者のケアを連携し、施設内外の関連職種と協力します。医療チームや他のケアプロバイダーと連携し、総合的なケアを提供します。

(7)社会資源の活用

社会資源に関する情報提供を行い、患者が利用できるサービスや支援を紹介します。社会的な結びつきを強化し、患者の社会参加を促進します。

(8)対象者のエンパワメント

患者の自己効力感を高め、コントロール感を向上させるための支援を提供します。肯定的なフィードバックや自己肯定感を強化し、患者の自信を育てます。

精神科訪問看護は、患者の個別のニーズに合わせた包括的なサポートを提供し、精神的な健康の回復や生活の質の向上を目指します。

訪問看護において心得るべき支援のポイント

(1)リカバリーとストレングスに注目する

精神科疾患を抱える方への支援の基本は「リカバリー(回復)」です。リカバリーとは、疾患や障害があっても、その人らしく、自分の夢や希望に向かって歩むプロセスのことです。このプロセスでは、本人が持つ強み(ストレングス)や長所に注目し、それを発揮して日常生活を送ることを目指します。

しかし、精神疾患を経験し、または長期間の精神科病院入院を経て、自分の希望を語ることや夢を持つことを諦めた人も多いかもしれません。

訪問看護師は、こうした方々に対して、再び自分自身の人生の道を見つける助けになり、精神疾患を抱えたままでも、自分らしい生活を歩む伴走者として、一緒に前進する姿勢が求められます。

(2)関係構築

精神疾患を抱える方々は、新しい人との関係を築くことに緊張を感じやすい傾向があります。そのため、精神科の支援では、最初の関係構築を慎重に進めることが重要です。相手のペースや好みを尊重し、少しずつ関係を深めていきます。

訪問看護の場面では、例えば「今日は家に入らないでほしい」と言われた場合、玄関での訪問にするなど、相手の意向を大切にします。粘り強く接し、脅かさないようにし、療養者にとって「自分を心配して何度も来てくれる人」となることで、少しずつ心を開いてくれることがあります。

精神疾患を抱える人々の中には、自室にこもって変わらない生活を選ぶことで安心する人もいます。また、長期間の入院経験がある人々は、医療者の指示に従うことに慣れていることがあります。こうした個別の状況を理解し、これまでの経験を尊重し、彼らの強みを支え、共感しながら関わっていくことが大切です。

(3)心身の観察と生活へのかかわり

精神科訪問看護は多岐にわたり、心身の観察やケアだけでなく、疾患が影響を及ぼす日常生活や社会生活にも関与します。そのため、看護師単独ではなく、精神保健福祉士、作業療法士、相談支援専門員などと連携し、状況を共有することが重要です。

(4)家族ケア

精神疾患は対人関係のストレスで再発しやすいため、家族の関与が患者の状態に影響を与えることがあります。家族は疾患についての知識を身につけ、同じ疾患を持つ他の家族との交流や感情の共有が大切です。

また、患者との関わりを制限し、患者が安心して過ごせる時間や、お互いがリラックスできる時間を確保することも重要です。訪問看護は、家族の調整や感情の共有などのサポートを提供できます。

(5)服薬継続のための支援

精神科治療は、薬物療法と社会的スキルトレーニング(SST)、認知行動療法などのアプローチの二つで進行しますが、現在、日本では主に薬物療法が中心です。在宅療養では、患者自身が薬を安全に飲み続けられるように支援します。

定型抗精神病薬の場合、アカシジアやパーキンソン症状などの副作用に注意が必要です。非定型抗精神病薬は、体重増加や糖代謝異常などの副作用が起こりやすく、肥満や高血糖、糖尿病につながる可能性があります。

患者の急激な体重増加、食行動の変化、血液データの確認が必要です。精神科で使用される他の薬には、抗うつ薬、双極性障害や気分の波が大きい患者に処方される気分安定薬、睡眠薬、抗不安薬などがあります。これらの薬の効果、副作用、使用量を継続的にモニタリングし、状況に応じて看護師が医師に報告するか、患者が医師に報告できるようにサポートします。

多くの薬を処方されている患者では、心臓への負担がかかり、また薬の副作用により腸の機能が低下しやすいことがあります。薬物によって身体の不快感が軽減される場合もあるため、身体の評価が非常に重要です。

精神科訪問看護に向いている看護師の特性とは

では、どのような看護師が精神科訪問看護に向いているのでしょうか。精神科訪問看護に必要な特性をご紹介します。

(1)利用者と長期的な信頼関係を構築できる人

精神科訪問看護では、利用者との信頼関係が非常に重要です。精神疾患を抱える人々はしばしば感情的な波が大きく、信頼を築くのに時間がかかることがあります。このような状況で長期的な信頼関係を構築できる看護師は、利用者のニーズをより適切に理解し、適切なサポートを提供できます。

(2)精神的な安定感を持つ人

精神科訪問看護は、時に予測できない状況やストレスフルな状況に直面することがあります。看護師自身が精神的に安定していることは、利用者に安心感を与え、冷静に対応できる重要な要素です。感情の安定とストレス管理能力は、訪問看護の質を向上させます。

(3)利用者の優れた特性を発見できる人

精神科訪問看護では、利用者が持つ強みやリソースを見つけ出すことが重要です。看護師が利用者の特性や能力を発見し、それをサポートに活用できる場合、治療やケアの成功に寄与します。利用者をただ問題点の集合体としてではなく、個々の強みを尊重する姿勢が大切です。

(4)感情的にならず効果的にコミュニケーションを取れる人

精神疾患を抱える利用者とのコミュニケーションは非常に敏感であり、感情的になることなく冷静で効果的なコミュニケーションが求められます。看護師は利用者の感情を尊重しながらも、的確に情報を伝えたり、サポートを提供したりするスキルが必要です。

これらの特性を持つ看護師は、精神科訪問看護において利用者のケアをより効果的に行うことができ、利用者のリカバリーや生活の質を向上させる役割を果たします。

精神科訪問看護で得られる看護師のやりがい

精神科訪問看護は、通常の訪問看護とは異なる面もありますが
様々な面からのやりがいを感じられる仕事です。

(1)利用者のリカバリーを支える

精神科訪問看護は、精神疾患を抱える人々のリカバリーに貢献します。利用者が日常生活に復帰し、自己の目標や夢を実現するお手伝いをすることで、非常に大きなやりがいを感じることができます。

(2)長期的な信頼関係の構築

訪問看護師は利用者との長期的な信頼関係を築く機会があります。この信頼関係を通じて、利用者が自分自身やケアの提供者に対してオープンにコミュニケーションをとるようになることが、やりがいを感じる要因です。

(3)個別化されたケアの

精神科訪問看護は、利用者の個別のニーズに合わせたケアを提供する機会を提供します。その結果、利用者がより質の高いケアを受けることができ、その改善や成長を見守ることがやりがいとなります。

(4)感情的な支えと共感

精神疾患を抱える人々は、時には感情的なサポートが必要です。訪問看護師は、利用者の感情に寄り添い、共感し、支える役割を果たします。その結果、利用者が孤立感を減少させ、心理的な安定感を得ることができます。

(5)成果を実感

精神科訪問看護において、利用者の改善やリカバリーが見られたとき、それが大きなやりがいとなります。利用者の状態が向上し、日常生活での機能が向上することで、看護師は自身の役割の重要性を実感します。

(6)専門知識とスキルの発展

精神科訪問看護は専門性が高く、看護師は専門知識とスキルを発展させる機会が豊富です。これにより、自身のスキルを向上させ、キャリアを発展させることができます。

まとめ

今回は、精神科訪問看護の要点や役割、支援内容についてお伝えしました。

精神科訪問看護は、統合失調症、うつ病・双極性障害、アルコール依存症・薬物依存症、発達障害(自閉症、アスペルガー症候群、ADHD)など、さまざまな精神疾患を抱える患者に対して提供されています。

訪問看護師は患者の日常生活の支援から、対人関係の維持、家族関係の調整、症状の管理、身体症状の予防、ケアの連携、社会資源の活用、そして患者の自己力を引き出す支援まで、多岐にわたるサポートを提供します。

そのためリカバリーとストレングスに焦点を当て、信頼関係の構築、心身の観察、家族へのサポート、服薬継続の支援など、さまざまなポイントに注意を払う必要があります。

精神科訪問看護は、患者とその家族にとって非常に重要な支援を提供し、看護師にはやりがいと専門知識の発展の機会をもたらします。

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」

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