訪問看護では、看護師が利用者の「生活の場」に入って看護を提供しますので、利用者とその家族のしきたりや習慣にもとづく各家庭のルールに添って看護をおこなうことになります。
そのため、病院での看護での規則や看護手順、マニュアルなどとは異なる訪問看護ならではのルールやマナーをしっかりと理解しておくことが非常に重要です。
本コラムでは、訪問時の利用者宅において訪問看護師が心得るべき立ち振る舞いやマナーについて解説します。
言葉遣いや話す姿勢に注意する
敬語を使う
利用者やその家族と話す際は、必ず敬語を使いましょう。利用者・家族の多くは人生の先輩であり、さらにお客様でもあります。わかりやすく丁寧な言葉遣いで、敬意を持って接することが大切です。
利用者様やご家族とのお付き合いが長くなり、関係が深まってくると、時折言葉遣いがくだけてしまうことがあります。しかし、いかに信頼関係が築かれていても、敬語を敬語を心がけるようにしましょう。
利用者様・ご家族とのお付き合いが長くなり関係性が築けてくると、うっかり言葉遣いが砕けてしまうときがあります。しかし、どんなに信頼関係を築けていたとしても敬語を心がけるようにしましょう。
相手に合わせて適切な声量・スピードで話す
低すぎない落ち着いた声で、相手の目を見て、笑顔でゆっくり話しましょう。
利用者の状況や理解力、聴力に合わせることも重要です。声の大きさや話す速さ、相手に向かって話すこと、また自分の口元の動きが見えるように意識することなど、適切な声量と話し方でコミュニケーションをとるようにしましょう。
特に利用者が難聴の場合、耳元で大きな声を出しすぎて不快に感じさせてしまう可能性があるため、注意が必要です。
お茶は頂かない 丁寧にお断わりする
訪問看護師は利用者にとって「お客様」ではなく、利用者こそが訪問看護にとっての「お客様」となりますので、利用者・家族からお茶やお菓子などのもてなしを受けるのは適切ではありません。
また、訪問時間内にお茶をいただくことによって、本来のケアに充てるべき時間が削られたり、次の訪問先のスケジュールに遅延が生じる可能性もあります。
こうした理由から、利用者本人やご家族の気持ちを尊重しながらも、丁寧にお断りすることが重要です。
当然のことながら、利用者や家族にもそれぞれ異なる価値観をもっています。
ですから、杓子定規にお断りをするのではなく、利用者、家族が以下のような理由からお茶を用意されていることも考慮していく必要があります。
・日本の文化・風習として来客を迎えるマナーとしてお茶をお出しすることが礼儀と考えられている
・自分の身体を診てくれる訪問看護師への感謝の気持ちが込められた行為
・独居や外出が限られているため、訪問看護師との関わりを楽しみにしている
・こちらの断りを遠慮しているだけと受け止めている
契約時や初回訪問時にきちんと伝えましょう
そもそも「家に看護師が来る」という事態に慣れている方は少ないと思いますので訪問看護の契約時や初回訪問時には、
「当事業所では、お茶やお菓子をいただかない方針を採っております。お気遣いいただかないようお願いいたします。」
「私どもは客ではありませんから、そのようなお気遣いはどうそご無用にお願いいたします。」
などを事前にお伝えしておくことが大切です。
居室内をきょろきょろ見回さない
訪問時には、家の中が負担の少ない動線になっているか、安全面に配慮されているかや、介護用品が適切に活用されているかなど居室内の環境を確認することも必要ですが、きょろきょろ見回さないようにします。
居室内を観察しすぎる素振りは利用者様やご家族の不信感につながることを意識して、環境アセスメントはさりげなく行うようにしましょう。
もちろん、大切に飾られた物や写真立てなどに興味を示すことは、良好なコミュニケーションの一環となることもあります。その際には、一言声をかけてから見せていただくようにしましょう。
トイレは基本的にお借りしない
訪問中の利用者宅では、基本トイレをお借りしないようにしましょう。
トイレは、訪問前にトイレを済ませておくこと、また利用者宅近くにあるコンビニなどのトイレの場所を確認しておくことが大切です。
ただし、生理的なことですので、どうしても我慢できない時もあるかもしれません。そのような場合は、利用者や家族に正直に伝えてトイレをお借りすることを考えましょう。
その際には、「お化粧室をお借りできますか」といった言い回しを使うようにし、トイレという言葉は避けましょう。
トイレを使う際には、蓋などを開けたままにしないように気を付けましょう。使用後は利用者や家族に快適に使えたことを伝え、必ずお礼を言いましょう。
生理現象という予測できない状況では、こうしたマナーを忘れがちです。もしもの時に備えて、シミュレーションをしておくことも重要です。
訪問中についた衣服の匂いに注意する
訪問看護では、喫煙をされる利用者の家に行くと、服に臭いがつくことがあります。(たばこのにおいが充満しているお宅を訪れ、30分以上滞在すると、衣服や髪にたばこの匂いが染み付いてしまいます。)
このような場合、タバコのにおいをまとったまま、次のお宅を訪問しないように注意する必要があります。
利用者宅でたばこの匂いがついた場合、退室後に次の訪問までに服を着替えるチャンスがあれば、迷わず着替え、髪には匂い消しのスプレーを使うのが良いでしょう。
ただし、たばこの匂いは完全に消すことは難しいので、次の訪問先がたばこの匂いに敏感な方であれば、気づかれる可能性が高いです。
利用者様やそのご家族の中にはたばこの臭いが苦手な方もおられます。たとえ苦情が出なくても、不快に思われる可能性があることを考慮しておくことが重要です。
「タバコを吸う方の家を訪問していましたので、タパコくさいようでしたらすみません」
と率直に利用者に伝えることも選択肢の一つとして覚えておきましょう。
ただし、個人情報を漏らさないように十分に気を付けましょう。
訪問中の衣服の汚れに注意する
利用者宅の状況はさまざまです。非常に清潔に保たれた家もあれば、そうでないお宅もあります。認知機能の低下や病気により、ゴミを片付けられないケースもあり、家が散らかっていることがあります。
また、急にケアが必要な場合や利用者が嘔気や嘔吐の症状がある場合など、予期せず衣服や靴下が汚れることがあります。
訪問看護師は1日に複数の利用者宅を回るため、汚れた衣服や靴下で次の利用者の家を訪れることは避けたいものです。
利用者宅から事務所まで距離がある場合、衣服が汚れてもすぐに帰るわけにはいきません。そのため、どのようなケアが必要かを理解し、事前にしっかりと準備することが非常に重要です。
排泄ケアや食事介助など、衣服が汚れる可能性がある場合は、専用のエプロンを用意します。また、訪問バッグには予備の靴下を必ず入れておくこともおすすめです。
さらに、汚れた服や靴下、エプロンを入れるためのビニール袋を常に持ち歩くように心がけましょう。ビニール袋やビニールエプロンはコンパクトに収納できるため、いざという時に便利です。
まとめ
今回は、訪問看護の看護師が利用者宅を訪問する際に気を付けるべきマナーについてご紹介しました。
服装や身だしなみ、挨拶、言葉遣いなど訪問看護師のふるまいの一つひとつが、利用者や家族との信頼関係につながっていくことをご理解いただけたのではないでしょうか。
相手を気遣い、思いやる気持ちや、相手に対する敬意を表現するための方法を「形」にしたものがマナーです。
マナーを実行するには、自分視点ではなく他者視点で、相手や周りを尊重する気持ちを持つことが重要です。しっかりと準備をして「また来てもらいたい」と思われるような訪問看護師を目指していきましょう。
この記事が訪問看護に興味を持つ看護師の方々にとって有益な情報となれば幸いです。
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