独居高齢者を支える!訪問看護の支援策と役割のポイントとは

少子高齢化が進む中、高齢者の独居生活が社会問題になっています。

日本では、65歳以上の男性の8人に1人、女性の5人に1人が独居生活を送っています。

独居高齢者にとって、訪問看護サービスは自宅で安心して生活を続けるための重要な支えとなっています。

しかし、独居で要介護状態にある高齢者が在宅で安心して療養生活を続けるための訪問看護の具体的な支援策や役割については、まだ十分に理解されていない現状があります。

独居高齢者への訪問看護の支援策を明確にし、その効果的な役割を果たすことは、訪問看護ステーションの質の向上に繋がると考えられます。

本日は、独居の要介護高齢者が在宅で療養生活を続けるために、訪問看護師がどのような情報を得て、どのように支援に活かすのか、その役割についてポイントを解説します。

目次

日本における独居高齢者の推移

まず、日本における独居高齢者の推移をみていきます。

下のグラフにあるように、65歳以上の独居高齢者は男女ともに増加傾向にあり、昭和55年(1980年)には男性約19万人、女性約69万人、65歳以上人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でしたが、平成27年(2015年)には男性約192万人、女性約400万人、65歳以上人口に占める割合は男性13.3%、女性21.1%となっています。

65歳以上の一人暮らしの方の動向

参照元:内閣府 高齢化の状況 第一章(第1節 3)

そして、令和22年(2040年)には男性約356万人、女性約540万人、65歳以上人口に占める割合は男性20.8%、女性24.5%になると推定されています。

都道府県別の高齢者単独世帯(独居高齢者)比率

次に都道府県別の高齢者単独世帯(独居高齢者)比率についてみていきます。

下のグラフが示すように、47 都道府県の高齢者単独世帯(独居高齢者)比率を比較すると、最もが高いのは高知県で、17.8%と、全国平均12.1%の 1.5 倍に近い水準です。

都道府県別の高齢者単独世帯比率

参照元:令和2年(2020)年国勢調査 p2グラフ

2位以下は、鹿児島県、和歌山県、山口県、長崎県、愛媛県と続き、西日本の県が目立ちます。

東京都は 33 位(11.2%)で全国平均より低いですが、人口の分母が大きいため、高齢者単独世帯数は 81.1 万世帯と多く、全国の 12%を占めます。

大阪府は 13 位(13.7%)で、高齢者単独世帯数は56.7 万世帯で、大都市圏域で独居高齢者の数が多くなっています。

47都道府県の高齢者単独世帯比率は、最大と最小で 1.9 倍の差があり、独居高齢者を支援する施策や地域の仕組みづくりも、それぞれの環境特性を踏まえた工夫が求められます。

この数値が低いからと言って独居高齢者が安心というわけではなく、独居高齢者を支える、訪問看護の支援策と役割は、ますます重要になってきます。

独居高齢者を支える、訪問看護の支援策と役割のポイントとは

訪問看護には独居高齢者の生活を支え、安心して自宅で過ごせるよう多岐にわたるサポートを提供することが求められます。

以下に独居の要介護高齢者が在宅で療養生活を続けるために、訪問看護師がどのような情報を得て、どのように支援に活かすのか、その役割について以下の5つのポイントを解説します。

(1)体調のモニタリング

(2)精神的な健康管理

(3)医療機関の受診状況の確認

(4)急変時の対応策の準備

(5)生活環境の整備

(1)体調のモニタリング

以下のモニタリング項目を通じて、独居高齢者の健康状態を細かくチェックし、早期に異常を発見して適切な対応を行うことが重要です。

訪問看護師は、これらの項目を定期的に確認し、必要に応じて医療機関と連携することで、独居高齢者の安心・安全な生活を支える役割を担います。

健康状態の変化を定期的にチェック

日常の活動量

独居高齢者の日々の活動量を観察し、急に動きが少なくなったり、疲れやすくなっていないか確認します。

食欲

食事の量や頻度が変わっていないか、好きな食べ物を楽しめているかを確認します。食欲不振は体調不良のサインです。

睡眠の質

夜間の睡眠が十分であるか、夜中に何度も目が覚めていないか確認します。睡眠不足は健康に大きな影響を与えます。

血圧が安定しているか確認

定期的な測定

定期的に血圧を測定し、記録します。異常値が続く場合は早めに医師に相談します。

体調との関連性

血圧の変動と体調(頭痛、めまい、動悸など)の関連を観察し、異常を感じたら対応します。

腹痛などの症状の変動を観察

痛みの場所と程度

腹痛がある場合、その場所や痛みの程度、頻度を詳しく記録します。痛みの原因がわからない場合は、医師の診察を受けます。

関連する症状

腹痛に伴う他の症状(吐き気、嘔吐、便秘、下痢など)も確認し、全体的な健康状態を把握します。

食中毒の兆候がないか確認

食事の内容と衛生状態

食事の内容や調理方法、食品の保存状態を確認し、食中毒のリスクを減らします。

症状の観察

吐き気、嘔吐、下痢、発熱などの食中毒の症状が出ていないか観察し、異常があればすぐに医師に連絡します。

適切な水分補給の状況を確認

水分摂取量の確認

1日にどれくらいの水分を摂取しているかを確認し、脱水を防ぐために十分な量を摂取しているか見守ります。

尿の観察

尿の色や頻度を確認し、濃い黄色の尿や排尿回数が少ない場合は、水分不足の可能性があるため注意が必要です。

(2)精神的な健康管理

訪問看護師は、次のような具体策を通じて独居高齢者の精神状態を総合的に把握し必要なサポートを提供します。

精神的な健康状態は、身体の健康と同様に重要であり、早期に異常を発見し、適切な対策を講じることが大切です。

気分や感情の変化

気分の変動

日々の気分の変化を確認し、普段と比べて落ち込んでいないか、逆に過度に高揚していないかを観察します。

喜びや楽しみの感情

独居高齢者が日常の中で楽しみや喜びを感じているか、興味を持つ活動に参加しているかを確認します。

突然の感情変動

急に感情が変わることがないかを観察し、ストレスや他の精神的な問題の兆候を見逃さないようにします。

不安やストレスの程度

心配ごと

独居高齢者が過度に心配していることがないか、特定の状況や出来事に対する不安が増えていないか確認します。

ストレスレベル

ストレスを感じる頻度や強度を観察し、特に生活の中でストレスの原因となる要因を特定します。

認知機能の状態

会話のスムーズさ

日常会話がスムーズに行われているか、会話中に混乱したり言葉を探すことが増えていないかを確認します。

物忘れの頻度

物忘れの頻度や重大さを観察し、特に日常生活に支障が出ている場合は注意が必要です。

時空間の認識

自分がいる場所や時間が正確に認識できているかを確認します。

食欲の変化

食事の量や頻度

食事の量や回数が変わっていないか、食欲が減退していないかを確認します。

食への興味

好きな食べ物や飲み物を楽しんでいるか、食事を楽しむ気持ちがあるかを観察します。

自傷行為の有無

自傷行為の兆候

高齢者が自分を傷つける行動をしていないか、その兆候やリスクを確認します。

リスク要因の特定

自傷行為のリスクがある場合、その要因を特定し、予防策を講じます。

社会的な関わり

交流の意欲

他人と交流する意欲があるか、社会的な孤立を感じていないかを確認します。

コミュニケーションの頻度

家族や友人とのコミュニケーションが定期的に行われているかを観察します。

易怒性の程度

怒りやすさの確認

小さなことに対して怒りやすくなっていないか、普段と比べて易怒性が増していないかを確認します。

イライラの頻度

イライラすることが増えていないか、特に何が原因でイライラするのかを特定します。

表情や態度の変化

表情の観察

顔の表情が普段と比べて暗くなっていないか、笑顔が減っていないかを確認します。

身体の動きや姿勢

身体の動きや姿勢に変化がないか、元気がなくなっていないかを観察します。

自分の健康状態に対する認識

健康に対する理解

高齢者が自分の健康状態を正しく理解しているかを確認します。

症状の自覚

体調や症状の変化に気づいているか、問題を適切に報告できるかを観察します。

(3)医療機関の受診状況の確認

独居高齢者が定期的に医療機関を受診しているか、必要な治療を受けているか確認します。受診が途切れている場合は、その原因を探り対応します。

適切な医療を受けているか確認

受診している医療機関で適切な治療が行われているか確認します。必要に応じて専門医への紹介も検討します。

医療受診の頻度を把握

定期的な検診や治療の頻度を確認し、適切な受診スケジュールを維持できるようサポートします。

受診していない場合の対応

適切な受診ができていない場合、その理由が経済的な問題であれば、公的な支援制度の活用などを提案します。
不受診理由が、病状の認識不足であれば疾病について説明を行います。

(4)急変時の対応策の準備

急変時の対応策の準備は、訪問看護師が独居高齢者の安全を守るために不可欠です。

以下に、準備の具体的な内容と手順を解説します。

1. 緊急対応マニュアルの作成

緊急時の対応手順を詳細に記載したマニュアルを作成します。心肺蘇生法(CPR)、止血、呼吸困難の対応など、具体的な処置手順も含めます。

マニュアルは見やすく、すぐに参照できる訪問バッグや自宅などに保管します。

2. 緊急連絡先の整備

独居高齢者の家族、主治医、最寄りの医療機関、救急車の連絡先を収集し、リストを作成します。

また医療情報(アレルギー、持病、使用している薬など)を記載した連絡票を作成し、目立つ場所に掲示します。

3. 応急処置のシミュレーション

実際の状況に近いシミュレーションを行い、緊急時の対応スキルを向上させます。

4. 地域資源との連携

近隣の医療機関や緊急サポートサービスの情報を収集し、連携体制を確立したり、地域のボランティア団体や福祉サービスと連絡を取り、緊急時のサポート体制を確認します。

5. 家族との協力体制の構築

家族と定期的にコミュニケーションを取り、緊急時の対応について話し合います。

6. 独居高齢者の状態と環境の確認

高齢者の健康状態や既往歴、現在の治療内容を把握し、緊急時に役立てます。また、生活環境を確認し、急変時に対応しやすいように整備します。

(5)生活環境の整備

独居高齢者の訪問看護において、生活環境の整備は安全で快適な生活を支援するために非常に重要です。

以下に、訪問看護師が行う生活環境の整備について具体的に解説します。

バリアフリー化の推進

転倒防止

床に物を置かず、滑りやすい場所には滑り止めマットを敷くなど、転倒のリスクを減らします。カーペットやラグの端がめくれている場合は、修理または取り除きます。

手すりの設置

トイレや浴室など、転倒しやすい場所に手すりを取り付けることで、移動時の支えとなります。

段差の解消

家の中の段差を解消し、スロープを取り付けるなどして、移動を容易にします。

照明の改善

十分な照明

暗い場所や階段、廊下には明るい照明を設置し、視認性を高めます。特に夜間の移動が安全に行えるようにします。

スイッチの位置

照明のスイッチを入り口近くやベッドの近くに配置し、暗闇での操作を簡単にします。

緊急対応の準備

緊急連絡先の掲示

高齢者の目に付く場所に緊急連絡先や医療情報を掲示しておきます。

緊急呼び出しボタン

万が一の時にすぐに助けを呼べるよう、緊急呼び出しボタンを設置します。

医療機器の配置と点検

医療機器の管理

必要な医療機器(酸素濃縮器、血圧計など)が適切に配置されているか確認し、定期的に点検します。

使用説明書の管理

医療機器の使用説明書を分かりやすい場所に保管し、使用方法を確認できるようにします。

衛生管理と清掃

清掃のサポート

高齢者が手が届かない場所や清掃が難しい場所をヘルパーと連携するなど定期的に掃除します。

衛生的な環境の維持

キッチンやトイレの衛生状態を確認し、感染症予防のために清潔を保ちます。

安全対策の確認

火災警報器や消火器が設置されているか確認し、適切に機能するかをチェックします。ガス漏れや電気の配線の安全性を確認し、問題があれば修理します。

要介護度ごとの状態と独居療養の考察

要介護度は介護の必要性を示す指標であり、介護度が異なると一人暮らしの難易度も異なります。

ここでは、独居高齢者の要介護度に応じた一人暮らしの可能性と考慮すべき要点について考察していきます。

1. 要支援1・2(軽度の介護が必要)

要支援1・2では、日常生活において軽度の支援が必要ですが、自立度が比較的高い場合が多いため基本的には一人暮らしが可能です。

考慮点としては、転倒防止のためのバリアフリー化や、日常生活のサポートが必要です。例えば、掃除や食事の準備が困難な場合には、ホームヘルパーの利用を検討します。

地域包括支援センターやボランティアサービスを利用し、生活支援を受けると良いでしょう。

定期的な健康チェックや体調の管理を行い、急な体調変化に備えます。

2. 要介護1・2(軽度から中程度の介護が必要)

要介護1・2では、日常生活のなかでサポートを要する場面は多いものの、必要な介護サービスを受けられれば、一人暮らしも十分に可能といえます。

日常生活において介護が必要な部分が増えるため、適切なサポート体制を整えることが重要です。

考慮点すべき点は、 配食サービス、訪問介護、日常生活の支援を提供するサービスなどを利用し生活環境を整えることです。

また、バリアフリー化や、緊急時の対応策を整備する必要があります。緊急呼び出しボタンなどの設置も検討します。

家族との連絡を密にし、地域のサポートネットワークも活用します。

3. 要介護3・4(中程度から重度の介護が必要)

要介護3・4では、中程度から重度の介護が必要なため、十分な支援体制が整わないと安全に生活するのは難しいため、一人暮らしが難しくなる場合があります。

考慮点としては、24時間体制の訪問介護や、デイサービス、ショートステイなどを利用することです。

また、高度なバリアフリー化や、安全設備の設置が必要です。例えば、介護ベッドや歩行補助具を導入します。
さらに、緊急時に迅速に対応できるよう、緊急連絡体制や支援ネットワークを強化します。

状況次第では、老人ホームやグループホームなどの施設入所も検討します。

4. 要介護5(重度の介護が必要)

要介護5になると、ほとんどの生活活動において支援が必要で、一人暮らしは非常に難しいです。高度な介護が常時必要なため、専門的な介護施設や介護付きの住居が適しています。

考慮点としては、介護施設、グループホームなど、専門の施設に入所することを検討します。

どうしても自宅での生活を希望する場合、長時間の介護や医療の専門のスタッフを手配して、24時間体制での在宅介護体制を整備します。

独居高齢者を支える、もう一つの訪問看護の支援策と役割~「ナーシングホーム」作り~

訪問看護師は、上述したように必要な情報を得て、適切に支援することで独居の要介護高齢者が在宅で安全な療養生活を続けるサポートをすることができます。

しかし、訪問看護には介入できる時間や範囲に限りがあり、前述のように特に、介護度が3から5に重度化すると、24時間体制の医療と介護の支援が必要な場合も多く、一人暮らしでの在宅療養が困難になってきます。

試算によると、現在、約46万人の介護度が3から5の独居高齢者が存在し、その数は今後も増加する見込みです。

このような状況に対処するために、訪問看護ステーションが独居高齢者を支えるためのもう一つの支援策の選択肢として、ナーシングホーム作り、重度な独居高齢者に入居してもらい、24時間体制で専門的な医療と介護を提供することが考えられます。

訪問看護ステーションがナーシングホームを作る8つのメリットとは

訪問看護ステーションがナーシングホームを作ることにより、以下のようなメリットが得られます。

1.継続的なケアの提供

まず、訪問看護からの継続的なケアが可能になり、高齢者の健康状態を正確に把握できるため、適切な対応がしやすくなります。

2.孤独死のリスク回避

また、独居で懸念される孤独死のリスクが回避され、安全な生活環境が確保されます。

3.経済的負担の軽減

さらに、効率的な運営を行うことで、比較的安価で生活の提供が可能となり、独居高齢者の経済的な負担を軽減できます。

4.訪問看護ステーションの経営安定と信頼性の向上

ナーシングホームの運営はステーションの経営安定にも寄与し、地域における信頼性が高まります。

5.看護師の採用と定着率向上

加えて、施設内での看護業務は移動が少ないため、看護師の採用が有利になり、スタッフの定着率も向上します。

6.バリアフリー設計と医療・介護サポート

ナーシングホームの施設内では全面的にバリアフリー設計の生活環境を整えることで、高齢者の安全で快適な生活が守られて、24時間体制での医療・介護のサポートが提供され、急変時にも迅速に対応できます。

7.質の高い運営と地域連携

訪問看護ステーションの豊富な経験を活かし、スタッフの教育と施設の運営を適切に行うことで、質の高いナーシングホーム運営が可能となり、地域の医療機関や福祉サービスなどからの信頼と連携を深めることができます。

8.総合的な支援の実現

このように、訪問看護ステーションがナーシングホームを作ることで、独居高齢者に対する総合的な支援が実現できると考えます。

まとめ

日本では独居高齢者が増加しており、今後も増えていくと予想されています。

在宅での独居療養において、訪問看護サービスは高齢者が自宅で安心して生活を続けるために重要な役割を果たしています。訪問看護師は必要な情報を集め、適切に支援することで独居高齢者の生活をサポートすることができます。

しかし、訪問看護には介入できる時間や範囲に限りがあります。特に、介護度が3から5に重度化すると、24時間体制の医療と介護の支援が必要になる場合が多く、一人暮らしでの在宅療養が難しくなってきます。

このような状況に対応し、訪問看護ステーションが独居高齢者を支えるための新しい選択肢として、ナーシングホームを作ることが考えられます。

重度の独居高齢者に入居してもらい、24時間体制で専門的な医療と介護を提供することで、関係者に多くのメリットがあります。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

訪問看護ステーションのナーシングホーム参入事例について詳しく知りたい方は、以下のフォームよりお気軽にお問合せください。