在宅療養における訪問看護の役割は、医師の指示に基づいて計画的に患者さんの自宅を訪問し、療養のお世話や医療処置を行うことです。また、在宅ケアチームとも連携して在宅医療を支えます。
訪問看護の利用では、主治医が重要な役割を持ちます。主治医が必要だと判断すれば、訪問看護を提供する仕組みになっています。
このコラムでは、在宅医療における医師の役割と訪問看護ステーションとの関係、そして訪問看護師が医師との連携において心掛けるべきポイントについてお伝えします。
在宅医療における医師の存在と役割
在宅医療は、在宅医療チームや在宅ケアチーム、地域、病院、介護施設などのチームの連携によって支えられています。この中で、医師の役割は極めて重要です。
一般病院では、まず救命が優先され、疾病の治療やリハビリテーションによる生活機能の回復が効率的に行われていますが、在宅医療は慢性疾患や老年症候群による生活機能障害を抱えた長期ケアが必要な患者や、がんの末期などでターミナルケアが必要な患者を対象としており、医師は広範な医学的問題にも対応する必要があります。
医療の専門家として、医師は生活機能低下の原因となっている疾病の治療や管理、再発予防の最終責任者として大きな役割を果たします。
また、在宅でのチーム医療においては、指示役や調整役としても求められています。単なる治療者だけでなく、患者の生活機能維持や向上のために医療をマネジメントする責任も担っています。
さらに、制度面では医療保険や介護保険において、訪問看護、通所や訪問リハビリテーション、薬剤指導、栄養指導、歯科衛生指導などのサービスは、医師または歯科医師の指示がなければ動かないシステムとなっています。
そのため、在宅医療の中で主治医としての役割を果たす医師は、幅広い知識と経験を持ち、患者の状態を的確に把握し、総合的なケアを提供することが求められる重要な存在なのです。
訪問看護ステーションと医師との関係性
訪問看護は、「介護保険」「医療保険」のどちらでも利用できますが、それぞれの保険制度を定めている「介護保険法」および「健康保険法」に関連する省令においては、「主治の医師による指示を文書で受けなければならない。」と定められています。
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(介護保険法関連)
第六十九条・第二項
指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない。
指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(健康保険法関連)
第十六条・第二項
指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない。
「訪問看護指示書」とは
訪問看護が必要な利用者に関しては、主治医(かかりつけ医師)が「訪問看護指示書」を訪問看護師に交付します
この訪問看護指示書は、訪問看護ステーションなど指定の訪問看護事業者が利用者に訪問看護を提供する際に、主治の医師(主治医)から指示を受けるための書類です。
指示に基づいて、訪問看護計画書および訪問看護報告書により月に1回、利用者さんの状況報告を行うことが望ましいとされています。
「訪問看護指示書」の内容と注意すべきポイント
「訪問看護指示書」には、利用者に関する重要な情報が記載されています。具体的には、利用者の診断名、病状の進行度、治療内容(処方薬剤や医療機器の設定など)、緊急時の連絡先、介護度、日常生活の自立度などが含まれています。
ただし、書面上の情報だけでなく、訪問看護を実施する際には主治医と直接確認する必要がある内容もあります。
例えば、利用者の病歴や治療歴、今後の治療方針や予後の見込み、利用者や家族に対する病状の説明と理解の程度、在宅療養を支援する上での課題や注意点などが該当します。
特に、医療機器(酸素吸入、人工呼吸器、点滴など)を使用している場合や、終末期や退院後の状況が変化しやすい場合は、医療機器の設定変更や治療方針の変更、入院の判断など、予測される状況について主治医と情報共有することが不可欠です。
利用者の病状を考慮し、発熱時や疼痛時、看取りの対応など、将来的に起こり得る症状や状況を予測し、主治医と密に連絡を取り合うことが非常に重要です。これにより、適切なケアの提供と利用者の健康状態の管理が行われ、在宅療養が円滑に進むことが期待されます。
主治医との連携において訪問看護師がこころがけるポイント
訪問看護は、常に主治医との連携を図り適切に、安全に対応できるよう努めることが重要です。
主治医との連携において訪問看護師がこころがけるポイントについて説明します。
1.常に連携を図る姿勢
在宅でのケアでは病院とは異なり、すぐ近くに医師はおらず、訪問看護師は利用者の状態の変化に気づき、病態を予測する役割を担っています。そのため、主治医との連携が不可欠であり、適切かつ安全な対応をするために努める必要があります。
2.緊急時の対応と医師への連絡
訪問看護師は緊急時にも対応できるように準備し、必要な場合には迅速に主治医に連絡し、指示を受けることが重要です。利用者の健康状態に変化があった場合、適切な判断と迅速な連絡が命を守るために欠かせません。
3.医療機関ごとの連絡方法を理解する
医師が所属する医療機関(病院・診療所)によって連絡・連携方法は異なることがあります。訪問看護師は各医療機関に合わせた連絡方法を把握し、適切に情報を伝える能力が必要です。
4.情報共有とICTの活用
医師との連絡方法には、診察に同席したり、電話やFAX、ICT(情報伝達技術)を活用した情報共有があります。特に最近ではICTを活用した情報共有や連携方法が進化しており、迅速で正確な情報の伝達が可能となっています。訪問看護師はこれらの技術を適切に活用し、効率的な連携を図ることが重要です。
訪問看護師が主治医とのコミュニケーションにおいて心がけるポイント
訪問看護師が主治医とのコミュニケーションにおいて心がけるポイントをお伝えします。
(1)尊重と理解
医師も人間であり、それぞれの専門分野や経験、考え方が異なります。訪問看護師は利用者の医療面を共に支える専門職として、お互いの立場や考え方、専門性を尊重し合いながら、利用者やその家族にとって最善の方法を話し合えるよう心がけましょう。
(2)日頃から積極的にコミュニケーションをとる
退院時のカンファレンスや利用者宅での面談だけでなく、地域の医療機関やクリニックでの研修・講演会に積極的に参加することが重要です。
これにより、日頃から地域の医師と顔の見える関係を築くことができます。信頼し合い、コミュニケーションがスムーズに行える関係を築くことは連携にとって不可欠です。
訪問看護師と主治医のコミュニケーションが円滑に行われることで、利用者のケアがより質の高いものになり、医療面での支援がより効果的に行われることが期待されます。
お互いの専門知識や経験を活かし合い、利用者の健康と福祉に寄り添うコミュニケーションを心がけることが重要です。
まとめ
在宅医療における医師の役割と訪問看護ステーションとの関係、そして訪問看護師が医師との連携において心掛けるべきポイントについて、さまざまな側面から解説してきました。
在宅医療において医師は、患者の診断や治療、健康管理の最終責任者として重要な役割を担っています。訪問看護ステーションと医師は、連携を図りながら患者の在宅療養を支えるために協力し合っています。訪問看護指示書は、医師から訪問看護師に患者のケアに関する指示を伝える重要な文書であり、その内容を適切に理解し注意して実施することが必要です。
訪問看護師が主治医との連携において心掛けるべきポイントは、常に連携を図る姿勢を持ち、緊急時には迅速に医師へ連絡することです。さらに、各医療機関ごとの連絡方法を理解し、情報共有とICTの活用にも注意を払う必要があります。また、主治医とのコミュニケーションを円滑にするために、尊重と理解を大切にし、日頃から積極的にコミュニケーションをとる姿勢も重要です。
在宅医療では、患者の健康と福祉を支えるために、訪問看護師と医師の連携が不可欠です。お互いの専門性や経験を活かし合い、共通の目標に向けて協力し、信頼関係を築くことが、より質の高い在宅療養の実現につながるでしょう。訪問看護師が医師とともに、患者の健康と幸せを支える貴重な存在であることを再確認しましょう。
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