脳梗塞の在宅療養を支える!訪問看護に求められる役割とは

脳卒中の7割を占める「脳梗塞」は、何らかの原因で脳の動脈が閉塞し、脳細胞へ十分な酸素やエネルギーが供給されず、脳組織が壊死してしまう病気です。

脳梗塞は突然発症する場合が多く、発症すると重篤な後遺症を残し、生活が一変してしまうことも少なくありません。

また、脳梗塞は再発率が非常に高く、回数を重ねるごとに重症化する傾向が高いため、再発防止に努めることが重要です。

訪問看護や訪問リハビリにおいても、脳梗塞は関わることの多い疾患であり、訪問看護師、療法士は、再発や合併症の予防、生活機能の維持・回復など様々な観点から支援をおこないます。

そのため在宅療養における脳梗塞について理解を深めておくことは非常に重要です。

今回は、脳梗塞をテーマにその概要から症状と訪問看護による在宅での支援のポイントなどについてお伝えします。

目次

脳梗塞とは

脳梗塞とは、血栓などにより脳血管の血流が阻害され、脳組織の一部が虚血から壊死に至り、機能不全を起こすことで、その部位がつかさどる身体機能の不全を引き起こす疾患です。

一度壊死した脳細胞の再生は困難なため、一旦脳梗塞を起こすと重大な後遺症が残ったり、生命に関わることもあります。

発症4.5時間以内に適切な治療を受ければ、後遺症が残らない可能性が高まります。

脳梗塞には、主に以下の3タイプに分類することができます。

(1)ラクナ梗塞

太い血管から分かれた細い血管(穿通枝)が詰まることによって引き起こされます。このタイプの脳梗塞は、主に小さな血管が影響を受けるため、症状が比較的軽いことがあります。

(2)アテローム血栓性脳梗塞

首や脳の血管が動脈硬化して進行し、血管が詰まることによって生じます。動脈硬化が進行すると、血管内にアテローム性プラークと呼ばれる脂質や石灰の沈着が生じ、それが血栓を形成して血管を閉塞します。

(3)心原性脳梗塞

心臓で形成された血栓が血液に運ばれて脳の血管に詰まることで引き起こされます。例えば、心房細動のような心臓の異常があると、血液が心房内で停滞し、血栓が形成されやすくなります。この血栓が解れて血流に乗って脳に到達し、血管を詰まらせることで脳梗塞が発生します。

脳梗塞の原因とは

脳梗塞の原因として、脳梗塞の家族歴や、男性、加齢などの危険因子に加え、高血圧、糖尿病、不整脈、脂質異常症などの生活習慣が原因であることが多いとされています。

そのため、下記の疾患や生活習慣の改善が予防につながります。

・高血圧
・糖尿病
・脂質異常症(高脂血症)
・心房細動
・慢性腎臓病
・高尿酸血症
・喫煙習慣
・飲酒習慣
・肥満
・運動不足
・過剰な塩分接種
・ストレス
・メタボリックシンドローム

脳梗塞の再発リスクとは

先述のように、脳梗塞の患者は、高血圧や糖尿病、喫煙、肥満及び運動不足、多量飲酒などの危険因子をすでに持っている状態であることが多いため、再発率が非常に高く、1年再発率は約10%、5年再発率は約35%、10年で50%の人が再発するといわれています。

また、再発の回数を重ねるごとに重症化する傾向にあるため、再発防止に努めることが重要です。

日本における脳梗塞の現状

厚生労働省の「平成29年患者調査の概況」によると、脳梗塞の患者数は全国で約150万6千人に達しています。

「令和2年人口動態統計(確定数)の概況」によると、同年の死因別死亡者数の中で脳血管疾患は約10万3千人で、全体の4位に位置しており、そのうち脳梗塞が約5万7千人と最も多いことが分かります。

また2021年の厚生労働省の人口動態統計によると、脳卒中は、寝たきりになる原因の第1位となっています。

さらに「要介護」になる原因は、認知症に次いで全体での第2位ですが、もっとも介護が必要な状態「要介護4」「要介護5」になる要因としては、認知症を抑えて第1位になっています。

脳梗塞の症状

脳梗塞は、脳の特定の部位が虚血を起こすことで機能が低下し、その結果、さまざまな症状が現れるため、梗塞部位によって症状が異なります。

一般的に、呂律が回らない、言葉が出てこないなどの口の動きが不自然になる構音障害や、片側の半身に麻痺や感覚の低下が見られることなど初期症状として多く挙げられます。

また、運動の調整を司る小脳に梗塞が発生すると、麻痺がなくてもめまいや不安定感、物をつかむことが難しくなるなどの症状が現れることがあります。

脳梗塞の後遺症・合併症

後遺症として、手足の麻痺など目に見える障害だけでなく、失語や失行、判断力の低下、行動異常など周囲が気づきにくい「高次脳機能障害」が残る可能性があります。

合併症として、脳血管性認知症、脳卒中後てんかん、うつ病、サルコペニアなどを発症することがあります。

また、嚥下機能の低下による誤嚥から誤嚥性肺炎を併発することがあり、これは全身状態の悪化や生命予後の低下をもたらすことがあります。

脳梗塞の治療法

発症から4.5時間以内に治療が開始でき、適応を満たす場合は、rt-PA※(遺伝子組換え組織プラスミノゲンアクチベーター、recombinant tissue plasminogen activator)による血栓溶解療法が行われます。

t-PAとは:血栓溶解療法(t-PA)は、日本では2005年10月に認可された治療法です。tPAによる血栓溶解療法や血管内治療による血栓回収療法の登場によって、重篤な症状であったにもかかわらず、劇的な回復を見せる例も増えました。

発症から時間が経過している場合や積極的な治療が困難な場合、または小脳梗塞など影響が比較的少ない場合などは、在宅での輸液や嚥下評価、誤嚥防止などの対症治療を選択することがあります。

在宅での薬物治療

脳梗塞の急性期の治療後、在宅では病型に合わせて以下のような薬物治療が行われることがあります。

(1)アテローム血栓性脳梗塞

次のいずれかを使用します。

・バイアスピリン錠 100mgを1回2錠、1日1回(朝食後)を7日間。その後は、1回1錠を1日1回

・プラビックス錠75mgを1回1錠、1日1回(朝食後)

(2)ラクナ梗塞

バイアスピリン錠100mgを1回2錠、1日1回(朝食後)を7日間。その後は、1回1錠を1日1回

(3)心原性脳塞栓症

心原性脳塞栓症の治療後、ヘパリンなどを用いた後に、以下のいずれかを使用することがあります。

・ワーファリン錠1mgを1回3錠、1日1回(朝食後)から開始し、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)を測定しながら適宜増減

・プラザキサカプセル75mgを1回2カプセル、1日2回

・イグザレルト錠15mgを1回1錠、1日1回(朝食後)

・エリキュース錠5mgを1回1錠、1日2回(朝夕食後)

・リクシアナ錠60mgを1回1錠、1日1回(朝食後)

脳梗塞のリハビリ・食支援

脳梗塞の急性期でも、嚥下機能の評価と食事支援を含むリハビリテーションは重要です。脳梗塞においても、可能な限り発症当日から評価と介入を開始します。

在宅移行時には、これまでの評価と介入を確認し、再評価と適切な目標設定のもと、食事形態や食事時の姿勢など、在宅で可能な食事支援方法を決定し継続します。

その際には、医師、歯科医師、歯科衛生士、栄養士、介護士など、多職種による評価と協力が不可欠です。

在宅における脳梗塞の治療の目標は、脳機能の維持や回復だけでなく、生活機能の維持や回復にもあります。

そのため、身体疾患としての治療が順調でも、臥床や絶食により栄養状態や筋力が低下し、歩行や食事などの日常生活の機能が低下することは避けなければなりません。

発症時からこのような視点で評価と介入を行い、在宅移行に際しても、能力的に回復可能な範囲を改善することを目指した療養環境を整える必要があります。

訪問看護導入時の視点

脳梗塞を発症して在宅療養となった場合、長期的な療養が必要であり、それまでの本人や家族の生活が一変することから、家族や介護者の負担軽減とケアが重要となります。

退院を契機に訪問看護を導入する場合は、療養者や家族が望む生活が送れるよう、適切な社会資源の情報や介護方法の情報を提供し、住環境と介護体制を整えます。利用者・家族の不安の内容を聴き、軽減を図り、連携体制を確立します。

また、慢性期の合併症による再入院や機能低下を契機に訪問看護を導入する場合は、既に療養者や家族なりの日常生活動作や介護方法が確立していることが多いため、心身の状態に合った予防行動や介護方法を再獲得できるよう、療養者や家族の方法を尊重しつつ、改善点の提案をおこないます。

脳梗塞の利用者に対して訪問看護師が心得るべきポイント

訪問看護師は、脳梗塞の利用者・家族に対して以下のポイントを心得る必要があります。

(1)再発予防と合併症対策

脳梗塞は突然発症し、脳組織の不可逆的な変化により様々な機能障害を引きおこします。そのため、再発を予防する視点と、合併症を予防し、生活機能の維持・回復を目指す視点を持つ必要があります。

(2)心理的サポートと生活の再構築

罹患前の日常生活や役割の遂行が困難となることが多く、自尊心の低下をもたらしやすいです。精神的ケアの視点とともに、生活の再構築や家族機能の再調整を支援する視点を持つことが重要です。

(3)家族介護者への支援

脳梗塞は、長期的に介護が必要になることが多く、家族介護者の身体・精神・社会面の支援が重要です。

脳梗塞の利用者への支援のポイント

訪問時には、脳梗塞の再発予防を重視し、生活をアセスメントすることが重要です。

脳梗塞を経験した人は、長年の生活習慣が血管に影響を与えていることがあります。そのため、同じ生活を続けると再発のリスクが高まります。生活習慣を見直したり、適切な服薬で再発を予防することを目指します。

まず大切なのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをしっかり管理することです。また心臓の音を聞いて、喉に痰が溜まっていないか、誤嚥性肺炎になっていないかを確認します。

過去に嚥下機能の問題がある人だけでなく、新たな梗塞で動きが制限されている人の話し方や歩き方、麻痺の程度なども見ていきます。

脱水にも注意が必要です。特に夏場は脱水しやすいので、部屋の温度や湿度を調整し、水分をしっかり摂取します。また、しびれが続いて気分が沈んでいる人もいます。そうした場合は、利用者の気持ちを傾聴することも大切です。

脳梗塞の状態に応じた支援のポイント

利用者の脳梗塞の状態に応じた支援のポイントは、以下になります。

(1)運動障害がみられる状況

生活機能を維持・回復し、かつ、転倒・転落のリスクを減らして日常生活が送れるようにするために、理学療法士や作業療法士と連携して、住宅環境を整え、適切な装具や歩行補助具、福祉用具の利用を勧めます。また、生活リハビリテーションを支援し、心身機能の維持と介護負担の軽減を目指します。

支援のポイント

・少しでもできることは療養者に行ってもらいます。負担が少ない介護方法を工夫します。


・転倒・転落が起こりにくい動作や介助方法、環境整備などを一緒に検討します。


・臥床状態の場合、肺炎、褥瘡、拘縮、便秘の予防に努めます。

(2)言語障害がみられる状況

思うように意思疎通が図れず、いら立ちや焦りを感じ、自尊心や意欲の低下につながりやすくなります。また、リハビリテーションの妨げや介護負担感につながりやすいため、障害の病態に合わせたコミュニケーション方法を導入します。

支援のポイント

・構音障害の場合は、普通に話しかけ、療養者には口を大きく動かし発声してもらう必要があります。必要な場合は、筆談や五十音表を使います。


・失語症の場合は、質問の方法やジェスチャー、描画などを工夫します。

(3)高次脳機能障害がみられる状況

注意、記憶、判断といった認知機能に障害がありますが、周囲に理解されにくい場合があります。介護者や家族に障害への理解を促し、本人や家族が対処方法を身につけられるよう支援します。症状に応じたリハビリテーションと援助を行います。

支援のポイント

・障害により生じていることやできることを家族に説明し、対応方法を提案します。


・否定せず、受容的な態度で接します。


・当事者会や家族会を紹介します。


・日常生活で困る場面の対処法を一緒に検討します。

(4)嚥下障害がみられる状況

低栄養や誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。食の楽しみが制限されることによる精神的ストレスも大きいです。適切な姿勢や摂取方法、食形態を指導するとともに、嚥下リハビリテーションによる機能回復に努め、安全を優先するあまり、安易に食べる喜びを奪ってしまわないように注意します。

支援のポイント

・呼吸状態に注意し、異常の早期発見・早期対応に努めます。


・口腔ケアと嚥下リハビリテーションを行います。


・適切な姿勢、摂取方法、食形態を指導します。


・歯科や言語聴覚士と連携し、安全に食べられる方法を模索します。

脳梗塞に関連する社会資源・制度

脳梗塞は、状態に応じて様々な制度を利用することができます。

介護保険の利用だけでなく、障害の程度に応じて身体障害者手帳の取得が可能となることがあります。

また、就労を希望する場合は地域障害者職業センターやハローワークなどでの就労支援の対象となるかどうかも確認する必要があります。

社会福祉士と連携することで、経済的な不安を軽減する意味でも適切な制度利用に結びつけることが大きな助けとなります。

脳梗塞に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)介護保険制度と障害者総合支援制度

40歳以上で、脳梗塞により介護や支援を必要とする場合、介護保険制度のサービスを利用できます。

脳梗塞の後遺症により障害者手帳を申請し、交付された場合、年齢に関係なく障害者総合支援法が定めるサービスを利用できます。

(2)継続医療を支援する資源

・医療保険法による訪問診療や、薬剤師による居宅療養管理指導があります。

(3)機能回復(機能訓練、日常生活動作訓練、アクティビティケア)を支援する資源

・介護保険法によるデイケア、デイサービス、訪問リハビリテーション、障害者総合支援制度による訓練等給付(自立訓練、就労移行支援)

(4)日常生活動作(入浴、更衣、整容、食事)を支援する資源

・介護保険法による支援として、居宅訪問介護、訪問入浴介護、ショートステイがあります。

・障害者総合支援制度による介護給付として、居宅介護、重度訪問介護、行動援護、ショートステイ

・市区町村による要介護者への家族介護用品支給サービス(紙おむつ等)があります。

(5)日常生活動作に適した環境整備を支援する資源

・介護保険法による福祉用具貸与(車椅子等)、特定福祉用具販売(ポータブルトイレ等)、住宅改修があります。

・障害者総合支援制度による日常生活用具給付等事業(車椅子、吸引器、紙おむつ、住宅改修費等の給付)があります。

まとめ

今回は、脳梗塞をテーマにその概要から症状と訪問看護による在宅での支援のポイントなどについてお伝えしました。

脳梗塞の症状は、ほとんどの場合突然現れ、発症するとたとえ命が助かっても後遺症によって生活が一変してしまうことが少なくありません。

発症後は、要介護状態となるケースも多く、長期的な療養が必要になります。また再発率が非常に高いため、周囲のサポートが重要となります。

脳梗塞の在宅療養において訪問看護は、利用者の身体だけでなく、精神・社会面・家族へのサポートなど様々な角度から支援をおこなっていきます。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。