黒字で儲かる訪問看護ステーションを作る方法

在宅医療への転換、高齢化社会の進展に伴い、訪問看護ステーションは需要が高まっており、医療介護分野で将来性、地域貢献性も期待できるとして注目されています。

こうしたことから、訪問看護ステーションの開業を検討されている方は多いと思います。

開業を検討されているほとんどの方にとって気になるのが、事業を早めに黒字化するにはどうしたらいいのか、高い収益を上げる戦略はあるのかなど、黒字で儲かる訪問看護ステーションにするための方法だと思います。

訪問看護ステーションの事業を黒字にして、収益性を高めるためには、いくつかの戦略や計画が関与します。

本日は、訪問看護ステーションの収支構造や黒字化を阻む要因を知り、黒字で儲かる訪問看護ステーションを作る適切な戦略や計画を立てる方法について説明します。

目次

訪問看護ステーションの収支構造とは

訪問看護ステーションの事業が黒字になって儲かっている状態とは、収入が支出を上回っている状態です。その差額が収益となり、収益が大きいほど、事業がより儲かっていて黒字額が多いことを示します。

一方で収入が支出を下回ると赤字になるという状態です。

そこで、まずは黒字で儲かる訪問看護ステーションを作るにあたり、訪問看護ステーションの収入と支出いわゆる収支構造について知っておきましょう。

訪問看護ステーションのひと月の報酬額の算出

訪問看護事業の主な収入源は、訪問看護サービスを提供した結果として得られる介護保険の介護報酬と医療保険の診療報酬です。

これらのひと月の報酬額の算出は以下のようになります。

① 「看護師の1回訪問あたりの収入」×「②看護師1人のひと月の訪問回数」×「③看護師数」

以下の表の厚生労働省の令和4年度介護事業経営概況調査結果によると、① 看護師の1回訪問あたりの収入平均は、8,009円で約8,000円となっています。② 看護師の1人の月の訪問回数の平均は、78.5回となっています。

参照元:厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査結果」

訪問看護ステーションでは「②の看護師1人のひと月の訪問回数」を多ければ多いほどまた、「③の看護師数」が多ければ多いほど、収入が高くなる構造です。

訪問看護ステーションの支出の内訳

訪問看護ステーションの支出には、売上高にかかわらず毎月一定の金額で発生する固定費と、売上高や利用量、労働時間などに応じて変動する変動費があります。

固定費には、事業所の家賃や駐車場代、車両のリース料、求人広告費、光熱費・通信費の月額基本料金、請求ソフトの利用料、社会保険労務士などの委託費、事業所の損害賠償保険料、借入金の利息などがあります。

看護師、療法士、事務職員の基本給も固定費としてみます。

変動費には、看護師、療法士インセンティブ・残業・賞与、人材紹介手数料、研修費用、備品、ガソリン代、携帯電話の使用料などがあります。

これら費用の合計が訪問看護ステーションの支出となります。

訪問看護ステーションの支出を最小限に抑えるためには、固定費を削減し、効率的な運営によって変動費を最小化することが必要です。

訪問看護ステーションの黒字化を阻む要因とは

訪問看護ステーションは、その構造や社会的背景に起因し、黒字化を阻む要因がいくつかあります。黒字で儲かる訪問看護ステーションを作るにあたり、黒字化を阻む要因を知ることは重要です。

以下に、訪問看護ステーションの黒字化を阻むな要因をいくつか挙げます。

(1) 保険制度の改定

訪問看護ステーションの収益は、国の保険制度に影響されます。訪問看護事業の主な収入源である介護保険の介護報酬と医療保険の診療報酬は、定期的に見直しが行われます。

これはその時々の経済事情や医療政策、人口構造の分布など、さまざまな要素を総合的に判断して、給付を効率的かつ効果的にするために行われるものです。

介護報酬は3年に1度、診療報酬は2年ごとに改定されることになっています。

この改定は、訪問看護ステーションの事業の売上に直結するため、改定内容は事業所の経営そのものに大きく影響します。

基本報酬や加算が改定により変動することが要因となり、収入が減ってしまい安定的な黒字経営を維持するのが難しくなることがあります。

(2)高い人件費率と看護師の採用難

訪問看護ステーションをスタートするための人員基準として看護師は常勤換算で2.5人、実数3人を確保する必要があり、開始時から人件費が大きな支出となります。

下記の表を参考に概算で、看護師1人の月の給与を約45万円とした場合、3人で135万円となります。

訪問単価8,000円ですので、月間で約170回の訪問看護で看護師の人件費を賄うこととなります。

その他、上述の固定費や変動費の支出を考慮すると、約40名の利用者を獲得できたときに、スタート時の赤字が黒字に転換することとなります。
 
スタート時のこの数字をクリアしても、看護師を増員すると、医療介護業界の中でも高い水準である平均で80.6%となっている訪問看護ステーション高い人件費率が経営に影響します(下記、表参考)

そのため収入に対する人件費率の高さが要因となり収支差率がマイナスとなり、赤字経営に転落することがあります。

参照元:厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査結果

また訪問看護ステーションでは看護師の離職や新規利用者の受け入れに伴い、新たに看護師を採用し続けることになります。採用戦略がうまく機能せず、不足を補うために、人材紹介会社からの紹介で、看護師を雇うケースも増えています。

人材紹介会社へ支払う紹介手数料は高く、雇用する看護師の年収の20%~30%と設定されていて、1人の看護師採用で約100万円の手数料の支出が発生します。

このように、看護師の離職や新規利用者の受け入れに伴い新たに看護師を採用するときに支出が急増し、黒字化を阻む要因となります。

(3) 多様なニーズへの対応

近年では訪問看護のニーズが多様化しており、重症度が高く、頻回な訪問が必要な医療保険の利用者も増えてきております。

20分、30分など時間区切りで報酬単価が異なる介護保険の利用者に比べて、30分以上で同一報酬となる医療保険の利用者に回数を多く訪問する方が収入が多くなることがあります。

そのため、こうした重症度の高く、頻回な訪問が必要な利用者を積極的に受け入れるなど、多様なニーズに対応していきたいとの方針を打ち出すステーションがあります。しかしながら、スタート時の人員でこうした利用者を多く受け入れると、一時的に売上が上がり収入が増えますが、短期間で契約が終了する頻度が高くなり、収入が安定しません。

また頻回やターミナル対応で看護師が疲弊して離職することにもつながりやすくなります。多様なニーズの受け入れが要因となり、安定的な黒字経営が難しくなる訪問看護ステーションになってしまうケースがみられます。

(4) 地域での競争

近年では、地域によっては訪問看護市場は競争が激化しており、他のステーションとの競争力を維持するために、競合ステーションが少ない遠いところへの訪問が余儀なくされ、訪問範囲が広がっているステーションも多くあります。

訪問範囲を広げることで、移動時間が掛かり、訪問件数が少なくなってしまいます。黒字化を実現するためには、1人の看護師が1日最低4件訪問する必要があるといわれています。

訪問範囲が広くなると、訪問枠が空いているのに、空いている枠の前後が遠くなり調整ができず、4件訪問が困難になることがあります。

また、距離が遠くなることで、新規利用者の受け入れができなくなることもあります。さらに、遠方への緊急訪問の負担で看護師の離職につながることもあります。

地域に競合が増えることによる、訪問範囲の広がりが、訪問件数や新規利用者数の減少、看護師の離職を誘発し、黒字化を阻む要因となります。

(5) 運営の非効率

訪問看護ステーションの運営には、訪問看護ケアの仕事以外に、以下のような多くの業務が関与します。

・利用者獲得のための営業活動

・訪問スケジュールの計画と調整

・訪問看護の文書記録と報告書の作成

・利用者情報の機密性とセキュリティの確保

・利用者の主治医や他の医療介護事業所との連携、計画の調整

・医療情報の共有と協力

・看護師・療法士の新規採用にかかわる一連の業務

・訪問看護報酬の請求

・看護師・療法士の給与計算と支給

これら多くの業務運営の効率性が低い場合、無駄な支出が発生してしまい、収益を圧迫し黒字化を阻んでいきます。

これらの黒字化を阻む要因を考慮しながら、訪問看護ステーションは適切な戦略と計画を立て、収益安定化を図ることで黒字で儲かる事業を実現することができます。

黒字で儲かる訪問看護ステーションを作る方法とは

訪問看護ステーションの収支構造や黒字化を阻む要因を知り、適切な戦略や計画を立てることにより、黒字で儲かる訪問看護ステーション目指すことができるようになります。

それでは、果たして黒字で儲かる訪問看護ステーションを作るにはどのような方法をとることが適切なのでしょうか。

以下に、訪問看護ステーションの事業を黒字にして、収益性を高めるためにとるべき4つのポイントを説明します。

(1)在宅医療介護における国の方向性に合致した経営方針

介護保険と医療保険の制度は、国の方針に基づいて設計されているため、在宅医療介護における国の方向性を把握し、それを考慮した経営方針を立てることは、訪問看護ステーションが収益を最大化し、高い報酬を得るための重要なことです。

訪問看護ステーションの経営方針は、営業戦略、採用計画、使命、価値観の基盤となり、ご利用者の獲得、継続的な採用、地域連携などに影響します。

黒字で儲かる訪問看護ステーションを作るためには、需要が高く、報酬が高い分野に焦点を当てる経営方針を策定する必要があります。

(2)自社のステーションに合致した看護師の採用戦略

訪問看護ステーションは、看護師を求人している医療機関や介護施設などの中で、最も採用難の分野で、求人倍率が3倍を超えています。

直近の5年間の訪問看護ステーションの求人状況をみると、求人数は増加していますが求職者数は減少しています。

このような売り手市場での採用において、ステーション側が適切な採用基準を維持しづらくなり、応募者がいれば何とか採用しようという姿勢が出てしまいがちです。

しかし、自社に合致しない看護師を採用すると、ケアの方針の不一致などから離職につながる可能性が高く、その結果、給与や求人広告費用、代替スタッフの紹介手数料など、多くの支出がかさんでしまい収益を圧迫する可能性があります。

したがって、適切な採用戦略を策定し、ステーションに合致する看護師を採用するための、採用戦略の一環として、明確な選考基準や評価プロセスを確立し、長期的な雇用の安定性を目指す必要があります。

ステーションに合致する看護師を採用するための採用戦略を策定する際に重要なのは、自らのステーションがどのような特徴や価値を提供するのかを明確にし、訪問看護ステーションへの転職を希望している看護師に伝達する方法が有効となります。

以下は、看護師採用における具体的な伝達のポイントです。

1. 自社のステーションに合致する求職者の理解

ステーションに合致する看護師候補者層の行動や関心を調査し、どのような情報を求めているのかを理解します。また対象となる看護師がどのツールを使用し、どのようなコンテンツやメディアにアクセスする傾向があるかを把握します。

2. 自社ブランディングの構築

自社のステーションが提供するケアの質、職場環境、成長機会などの強みを明確にし、ブランディングを構築します。その上で自社のブランディングを訴求するためのプロセスを考案します。

3. 双方向の関係構築

SNSやWebサイトを活用して、求職者との双方向の関係を築きます。

4. 市場分析

看護師市場は、時代によって変化します。看護師の需要と供給を分析し、競合ステーションとの差別化ポイントを確立します。また必要に応じて、勤務形態や福利厚生を検討します。

5. 正しい情報提供

自社のステーションに合致する求職者に向けて、正しい情報提供を心掛けます。良いことばかりを伝えると採用した後に、問題が起きます。現職員の体験ストーリーや、事実談など親しみやすい正しい情報も有効です。

6.継続して積み重ねる

自社のステーションに合致する訪問看護ステーションへの転職を希望している看護師に伝達するためには、小さな日常的な努力や継続的な発信の積み重ねが不可欠です。こうした継続的に積み重ねた活動が、時間の経過とともに大きな成果につながります。

このように、自社ブランディングとターゲット求職者への正しい情報提供を積み重ねることで、ステーションの独自の価値と魅力が伝わり、自社のステーションに合致する看護師の継続的な採用が実現します。

急な退職や、利用者増に伴い、慌てて合わない看護師を採用してしまったり、人材紹介会社に多額の紹介手数料を払うことは大きな損失となります。

したがってステーションに合致する看護師を採用するための適切な採用戦略を策定していくことは、採用コストを適正化する上でも非常に重要です。

(3)開業地域の把握と地域に合った活動

開業地域の把握は、訪問看護ステーションの早期黒字化や収益拡大に大きく影響します。

開業地域を正しく選択するために、地域課題抽出と把握は極めて重要です。

以下に、その具体的な活動について詳しく説明します。

1. 人口動態の把握

開業地域の人口動態を詳細に調査しましょう。世代別の人口、高齢者の比率、要介護・要支援者の現状のデータを収集し、今後の需要を予測します。

2. 医療機関・福祉サービスの調査

開業地域に存在する医療機関や介護福祉のサービス事業者をリサーチします。競合他社や、既存で活躍する事業所がどのようなサービスを提供しているかを把握し、差別化のポイントを見つけましょう。

3. 需要と供給のマッチング

開業予定の地域でどのような医療・福祉サービスが不足しているかを特定します。

高齢者ケア、慢性疾患管理、リハビリテーションなど、特定のニーズに焦点を当てることが有効的です。

4. 市場調査と競合分析

競合ステーションの存在や競争力を分析します。競合ステーションの提供するサービス内容、価格設定、評判などを調査し、自社の強みを見つけ競合に対抗するための戦略を策定します。

5. 需要の将来予測

今後数年間の開業地域の需要を予測します。高齢化社会の進展、地域の発展計画、地域特有の条例や政策の変更などを考慮し事業戦略を調整します。

6. マーケティング戦略の構築

以上の情報を元に、適切なマーケティング戦略を構築します。
ターゲット市場を明確にし、プロモーション、広告、パートナーシップなどの方法を選定します。

7. 関係者へのフィードバックと改善

開業後も、利用者・家族・医療機関・介護福祉サービス事業所との関係者とのコミュニケーションを重視し、サービスの品質向上に努めます。関係者へのフィードバックを収集し、適宜改善策を実施します。

これらの活動を通じて、地域のニーズに合致したサービスを提供し、競合に対抗できる要素を強化し、結果として黒字で儲かる訪問看護ステーションを作ることができます。

(4)効率的な運営

効率的な運営は、黒字で儲かる訪問看護ステーションにするために欠かせない要素です。訪問看護ステーションを効率的に運営し、支出を最小限に抑えるために有効な方法について、以下にいくつかの要点を説明します。

1.最小限の人員体制からスタートする

人員基準である、正看護師の管理者1名含め、看護師を常勤換算で3人でスタートし、事業の成長とニーズに合わせて増員する計画を立てます。

2.設備投資を最小限に抑える

設備や備品は、最低限の基準をクリアすれば開業ができます。
スタート時に必要な設備やソフトウェアのみを整備し、過剰な投資を避けましょう。
必要なもののみを選定し、コストを削減することが収益を最大化します。

3.事務所スペースの最適化

訪問看護は主に利用者の自宅などへの訪問となりますので、事務所スペースを最小限に抑えることができます。指定申請の要件を満たすスペースで最適化を図ります。

4.IT・ICTの活用

情報の共有とスケジュール管理、保険請求業務を効率化するために、可能な限りIT・ICTツールを活用します。

5.地域連携の構築

地域の医療機関や病院、地域社会と連携し、リソースを共有し合うことで効率性を高めます。

これらの要点を組み合わせて、効率的な運営を実現させ黒字で儲かる訪問看護ステーションを作ります。同時に、質の高いケアを提供し、利用者や地域社会に価値を提供することを忘れずに、サービスの品質向上にも注力することが重要です。

まとめ

我が国は、世界でも有数の超高齢社会であり、長寿化に伴う医療費の増大が問題となっています。

厚生労働省は、将来人口推計をベースに2025年に必要とされるベッド数を推計した上で、効率的で質の高い医療体制と地域包括ケアシステムの構築を進めています。

このような背景から在宅療養ができる体制は重要とされており、中でも訪問看護は地域の医療と介護の両軸を支える事業であることから、訪問看護利用者数も増加傾向にあります。

こうしたことから、訪問看護ステーションは今後も成長する事業と考えられていますがしかしながら、黒字化を阻む要因も多くあります。

これから訪問看護ステーションを始める際には、訪問看護ステーションの収支構造や黒字化を阻む要因を知り、黒字で儲かる訪問看護ステーションを作る適切な戦略や計画を立てることが不可欠です。

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