訪問看護ステーションを経営すると、法人税や法人事業税などさまざまな税金がかかります。
「税金」と聞くと、経営者の中には苦手意識を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、ステーションを運営する上で税金の基礎的な知識を身につけることは非常に重要です。
今回は、経営者が知っておきたい訪問看護ステーションの運営に関連する税金の基礎知識についてお伝えします。
そもそも税金とは?
そもそも税金とはどういうものなのでしょうか。
税金とは、国や地方公共団体(都道府県、市町村)が必要な経費をまかなうために国民から無償で徴収する金銭のことを指します。
税金は、私たちの生活と切り離せない存在であり、生活する上で、給料からは「所得税」、自宅や土地からは「固定資産税」、商品やサービスの購入時には「消費税」、親からの生前贈与に対する「贈与税」、遺産であれば「相続税」など、様々な税金がかかります。
また、訪問看護ステーションの開設に必要となる「法人格」には、事業活動によって生じた利益(売上から経費を差し引いた純利益)に対して国税として法人税が課税され、さらに地方税として事業税が付随して課税されます。
このように、税金は種類が多く、課税法人か非課税法人か、またその活動が収益事業か否かによっても税金の課税対象範囲が異なります。
そのため、訪問看護ステーション事業を行うにあたり、税金に関する知識をしっかりと理解することが重要です。
税金の種類
税金は、国税と地方税という課税権の主体による分類をはじめ、捉え方、目的等によりいくつかの種類に分類されます。
国税と地方税、 直接税と間接税の関係
直接税 | 間接稅 | |
---|---|---|
国税 | 法人税 所得税 相続税、贈与税 登録免許税 印紙税など |
消費税 (6.3%) 酒稅 たばこ税など |
地方税 | 都道府県民税、事業税 固定資産税、不動産取得税など |
地方消費税 (2.2%、軽減分は 1.76%) 道府県および市町村たばこ税 ゴルフ場利用税など |
(1)国税と地方税
国税は、国に納める税金であり、地方税は都道府県や市町村などの地方公共団体に納める税金です。
(2)直接税と間接税
直接税は、納税者が税金を支払うと同時に負担者でもある税金であり、間接税は消費税や酒税など、商品やサービスの価格に上乗せされて他人に負担を移す税金です。
直接税は収入から直接支払われるため、負担感がありますが、間接税は商品やサービスの価格に含まれているため、負担感が軽減されます。消費税導入以降、直接税と間接税の割合は7対3から6対4に変化し、間接税の割合が増加しています。
(3)普通税と目的税
普通税は一般的な財源に充てられる税金であり、目的税は特定の行政活動のために充てられる税金です。
例えば、住民税や固定資産税は普通税であり、自動車取得税や都市計画税は目的税です。目的税は特定の事業の財源を確保する面では有効ですが、財政運営の柔軟性には欠ける場合があります。
法人税とは
法人とは、法律によって「人格」が認められた組織のことであり、普通法人としての株式会社や学校法人、公益法人、公共法人、協同組合などがこれに該当します。
一方、PTAや町内会などは、法律によって人格が認められていない組織です。これらは「人格のない社団等」と呼ばれます。
法人税法上の法人の種類一覧表 (ただし、 内国法人) | |
---|---|
普通法人 | 営利法人、 医療法人、一般財団・一般社団法人など |
協同組合等 | 信用金庫、農協、生協など |
公益法人等 | 公益財団・公益社団法人、宗教法人、 学校法人、社会福祉法人、NPO法人、非営利型の一般財団・一般社団法人など |
人格のない社団等 | PTA、町内会、同窓会など |
公共法人 | 地方公共団体、日本道路公団、 日本放送協会(NHK) など |
法人の種類 | 課税対象 | 法人税率 |
---|---|---|
営利法人 | 全所得 | 資本金1億円超 23.2% 資本金 1億円以下所得 800万円以下 15% 資本金 1億円以下所得 800万円超 23.2% |
医療法人 | 全所得 | 同上 |
社会医療法人 | 収益事業から生じた所得 | 19%(所得 800万円以下 15%) |
特定医療法人 | 全所得 | 同上 |
公益社団・財団法人 | 収益事業から生じた所得 (公益目的事業に該当するものを除く) |
23.2%(所得 800万円以下 15%) |
一般社団・財団法人 (非営利型法人) |
収益事業から生じた所得 | 同上 |
一般社団・財団法人 (非営利型法人以外) |
全所得 | 同上 |
宗教法人 | 収益事業から生じた所得 | 19% (所得 800万円以下 15%) |
学校法人 | 収益事業から生じた所得 | 同上 |
社会福祉法人 | 収益事業から生じた所得 | 同上 |
人格のない社団等 | 収益事業から生じた所得 | 23.2%(所得 800万円以下 15%) |
公共法人 | 納税義務なし | – |
NPO法人 | 収益事業から生じた所得 | 23.2%(所得 800万円以下 15%) |
認定NPO法人 | 収益事業から生じた所得 | 同上 |
協同組合等 | 全所得 | 所得(800万円以下 15%) 所得(800万円超 19%) 特定の協同組合等の年10億円超の部分22% |
法人税の税額計算
法人税は、法人が定めた「事業年度」の収益に対して課税されます。通常、事業年度は1年間であり、1年を超えることはできません。
法人の利益は、総収入(収益)から総費用を差し引いて得られるものであり、これを「会計上の利益」と呼びます。
会計上の呼び方 | 法人税法上の呼び方 | 所得税法上での呼び方 |
---|---|---|
利益 | 所得金額 | 所得金額 |
収益 | 益金 | 収入金額 |
費用 | 損金 | 必要経費 |
法人税は法人の所得をもとに計算されますが、その所得は「益金 – 損金」で計算されます。
会計上の収益と益金、会計上の費用と損金は、一部が異なることがあります。
例えば、資産の評価益は会計上の収益ですが、税法では益金には該当しません。また、交際費は会計上の費用ですが、税法では全額または一部が損金には該当しません。
したがって、法人の利益がそのまま所得になるわけではなく、法人税の所得を計算するには、会計上の利益に益金や損金の算入・不算入を加減算して求めます。
所得金額 = 会計上の利益+益金算入額-益金不算入額-(損金算入額-損金不算入額)
法人税の申告と納税
法人税申告書の提出期限は、通常は事業年度終了の翌日から2ヵ月以内です(条件によっては1ヵ月延長可能)。
例えば、決算日が3月31日であれば、その2ヵ月後の5月31日までに納税地(本店または主たる事務所の所在地)の所轄税務署に申告書を提出して納税手続きを行います。
また、事業年度が6ヵ月を超える一般法人は、事業年度開始日から6ヵ月経過後の日から2ヵ月以内に中間申告書を所轄税務署に提出しなければなりません。
中間申告書には、前年度の確定法人税額に基づく予定申告と仮決算に基づく中間申告があり、どちらかを選択できます。
申告書が期限までに提出されない場合は、予定申告が自動的に行われたとみなされます。
予定申告の場合、前年度の確定法人税額が20万円以下の場合は申告が不要ですが、20万円を超える場合はその税額の2分の1を申告する必要があります。
一方、仮決算の場合は必ず申告が必要です。
前年度の確定法人税額が20万円を超える場合、税務署から予定申告書が送付されます(法人都民税・事業税・県民税も法人税に連動して送付されます)。
法人地方税とは
「法人住民税」とは、事業所が所在する自治体に対して支払う地方税の一種です。
法人地方税は、都道府県民税と市町村民税があり、以下の2つで構成されています。
(1)法人税割
「法人税割」とは、収益事業を行うことによって法人税が課税された場合、その法人税額を基準とした税率で計算し、課税される税金を指します。
法人税割の税率は、国が目安として以下の「標準税率」を定めているものの、自治体ごとに自由に設定できます。
都道府県税=法人税額×1.0%(制限税率2.0%)
市町村税=法人税額×6.0%(制限税率8.4%)
(2)均等割
「均等割」とは、資本金額や従業者数など、会社規模によって税額が変わる税金です。黒字および赤字法人に限らず、定額が課税されます。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割(従業者数50人超) | 市町村民税均等割(従業者数50人以下) |
---|---|---|---|
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
法人事業税とは
法人事業税は、法人が事業を行うにあたり利用している道路や港湾、消防、警察などの公共サービスや施設を利用することに対して、その費用の一部を負担するために課税される税金です。
法人事業税は、通常、事業を行うすべての法人に課税されます。ただし、公共法人や公益法人が公共事業に関連する収入については課税されないなど、一部の例外があります。
法人事業税は、法人の事業所得に対して都道府県が課すため、納付先は各地方自治体になります。
普通法人の資本金が1億円を超える場合は、所得割の他に付加価値割や資本割が課税されます(外形標準課税と呼ばれます)。資本金が1億円以下の普通法人や公益法人には所得割のみが適用されます。
法人事業税は法人税と同様に確定申告書で申告し、納税する必要があります。
申告納税の期限は、通常法人税と同様に、会計期末から2ヵ月以内とされています。また、事業年度が6ヵ月を超え、前年度の法人税が20万円を超える場合は、中間申告および納付も必要です。
法人事業税は、厳密には所得ではなく事業そのものに課される税金であり、物品税として扱われるため、「翌年の損金に算入できる」という特徴があります。
法人税、法人住民税、法人事業税の違い
法人税、法人事業税、法人住民税それぞれの違いをまとめると、以下のようになります。
法人税、法人住民税、法人事業税の違い
納税先 | 課税基準 | 赤字の場合の扱い | 損金算入の可否 | |
---|---|---|---|---|
法人税 | 国 | 会社が得た各事業年度の所得 | 支払い義務なし | できない |
法人事業税 | 地方自治体 | 会社が得た各事業年度の所得 | 支払い義務なし | できる |
法人住民税 | 地方自治体 | 法人所得税を基準に算出される「法人税割」と資本金等の額や従業者数に応じて算出される「均等割」の合計 | 支払い義務あり (均等割の部分) |
できない |
訪問看護事業における消費税
消費税とは、消費に対して幅広く課税される間接税です。法人も法律上、人格を与えられた存在として扱われ、国民と同様に納税義務が生じます。
消費税は通常、すべての取引に適用されますが、社会福祉や公共政策の観点から、取引を課税取引、非課税取引、免税取引、不課税取引に区分して課税の仕方を定めています。
消費税は、すべての取引に課税されるのが原則ですが、社会福祉や社会政策上の配慮などから、取引を課税取引、非課税取引、免税取引、不課税取引に区分して課税の仕方を定めています。
国内の事業者(個人や法人)が対価を得て行うモノの譲渡やサービスの提供は課税取引となります。ただし、寄附金、補助金、保険金などは通常、消費税の対象外です。
非課税取引は、消費に直接関連しない取引(土地や株式の譲渡、保険、住民票の発行手数料など)や社会政策上の観点から(社会保険医療、介護保険サービス、特定の社会福祉活動、学校の授業料など)を指します。
したがって、居宅要介護者等の居宅において看護師等が行う訪問看護や、居宅要介護者等の居宅において行う訪問リハビリテーション、またはサービス費用支給限度額を超える訪問看護・訪問リハビリテーションの費用などの収入は非課税取引となります。
訪問看護における介護保険と医療保険の消費税について
介護保険 | 医療保険 | |
---|---|---|
参考条文 | ・消費税法施行令
・平成 128 事務連絡 (平17.9改正) 「介護保険法の施行に伴う消費税の取扱いについて」 |
・消費税法別表第1(消費税法第6条関係)の6のイ、ロ |
非課税の対象範囲 | ○ (介護予防)訪問看護費
○ (介護予防) 訪問看護利用料(1割負担) ○ 居宅(介護予防)サービス等区分支給限度基準額を超える費用 (全額利用者負担) |
○訪問看護療養費
○基本利用料 (1割~3割) 〇その他利用料 |
課税の対象 | ○ 営業地域以外への訪問に係る交通費
○ 委託契約料 |
○ 訪問に係る交通費
○ おむつ等日常生活物品費 ○ 死後の処置費用 |
まとめ
今回は、経営者が知っておきたい訪問看護ステーションに関連する税金の基礎知識についてお伝えしました。
事業所の開設時は、税金に対する知識をあまり持ちえていない人も多いと思います。
訪問看護サービスに集中するため、税務の専門家である税理士に相談することも一般的ですが、すべてを税理士に任せるだけでなく、自分たちでもできることや理解することが重要です。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。