2024年(令和6年)の診療報酬改定において専門の研修を受けた看護師による、専門的な管理を含む訪問看護の実施を評価する「専門管理加算」が新設されました。
今回は「専門管理加算」について、新設された背景や算定要件、専門性の高い看護師の内容等について詳しくお伝えします。
専門管理加算が新設された背景とは
今回の改訂で新設された「専門管理加算」は、専門の研修を受けた看護師が、専門的な管理を含む訪問看護を実施することを評価するものです。
それでは、「専門管理加算」背景についてみていきます。
厚生労働省の資料によると、高齢化の進展に伴い増加している専門的なケアを必要とする利用者への対応として、以下のような話し合いが行われてきたことがわかります。
(1)増加する傷病の種類
介護保険における訪問看護の利用者が有する傷病は、「新生物」「神経系の疾患」「循環器系の疾患」「筋骨格系及び結合組織の疾患」が増えている。
訪問看護利用者の傷病分類の年次推移
訪問看護利用者の傷病分類割合
令和元年の傷病分類割合では、循環器系の疾患が34.1%を占めており、そのうち脳血管疾患が全体の約2割を占めています。
(2)専門的ケアの実施内容
介護保険の訪問看護においては、褥瘡の処置、人工肛門の管理、終末期の緩和ケアなどが実施されている。
医療処置に係る看護内容別件数(1ヶ月)
訪問看護における医療処置の実施件数は年々増加しており、特に「褥瘡の予防」「浣腸・摘便」「緊急時の対応」「褥瘡以外の創傷部の処置」の増加が顕著です。そのため、創傷管理や排泄ケア、緊急時の対応などの必要性が高まっています。
(3)専門管理加算の導入
令和4年度診療報酬改定により、「専門管理加算」が創設され、専門性の高い看護師による訪問看護が評価されるようになった。
(4)質の高い訪問看護の提供方法
医療ニーズを持つ利用者が増加する中、適切かつ質の高い訪問看護を提供するためにはどのような方策が考えられるか。
外部の専門性の高い看護師との連携状況:今後強化したい領域
利用者への対応やケア提供、事業所としての体制整備に関して、専門性の高い看護師との連携を強化したい領域として、「積極的に強化したい」との回答が多かったのは、「看取りのケア」が57.7%、「がん緩和ケア」が53.5%、「皮膚疾患や褥瘡のケア」が51.1%でした。
「ある程度強化したい」との回答を合わせると、「精神疾患(認知症以外)のケア」を除く全ての領域で8割を超えています。
このような背景から専門性の高い看護師※が、指定訪問看護の実施に関する計画的な管理を行うことを評価する「専門管理加算」が新たに設定されました。
※緩和ケア、褥瘡ケア若しくは人工肛門ケア及び人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師又は特定行為研修を修了した看護師による専門性の高い看護師
参照元:厚生労働省「訪問看護(改定の方向性)」
「専門管理加算」の内容とは
それでは「専門管理加算」の内容について詳しくみていきましょう。
専門管理加算の単位数
専門管理加算の算定単位数は「250単位/月」です。
算定回数は月に1回となります。
加算の種類 | 単位数 |
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専門管理加算 | 250単位 /月 |
専門管理加算の算定要件
地方厚生局長等に届け出た訪問看護ステーションで、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門ケア、または人工膀胱ケアに関する専門研修を受けた看護師、もしくは特定行為研修を修了した看護師が、指定訪問看護の計画的な管理を行った場合には、単位数が加算されます。
専門管理加算の算定対象
(1)緩和ケア、褥瘡ケア又は人工肛門ケア及び人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が計画的な管理を行った場合
・ 悪性腫瘍の鎮痛療法を行っている利用者
・ 悪性腫瘍の化学療法を行っている利用者
・ 真皮を越える褥瘡の状態にある利用者
・ 人工肛門若しくは人工膀胱を造設している者で管理が困難な利用者
(2)特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理を行った場合
・手順書加算を算定する利用者
対象の特定行為とは以下を指します。
・気管カニューレの交換
・胃ろうカテーテルの交換
・腸ろうカテーテルの交換
・胃ろうボタンの交換
・膀胱ろうカテーテルの交換
・褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
・創傷に対する陰圧閉鎖療法
・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
・脱水症状に対する輸液による補正
専門性の高い看護師とは
「専門管理加算」の対象となる専門性の高い看護師は以下になります。
特定行為研修修了者
特定行為研修修了者 | ||
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目的 | さらなる在宅医療等の推進を図っていくためには、個別に熟練した看護師のみでは足りず、医師又は歯科医師の判断を待たずに、手順書により、 一定の診療の補助を行う看護師を養成し、確保していく必要がある。
「地域における医療および介護の総合的な確保を推 |
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経験 | 概ね3~5年以上の実務経験を有する看護師を想定。 | |
教育 | 指定研修機関において所定の特定行為研修を受講。 | |
専 門 ・ 認 定 看 護 分 野 |
特 定 行 為 区 分 |
・呼吸器(気道確保に係るもの)関連 ・呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 ・呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 ・循環器関連 ・心嚢ドレーン管理関連 ・胸腔ドレーン管理関連 ・腹腔ドレーン管理関連 ・ろう孔管理関連 ・栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 ・栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 ・創傷管理関連 ・創部ドレーン管理関連 ・動脈血液ガス分析関連 ・透析管理関連 ・栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 ・感染に係る薬剤投与関連 ・血糖コントロールに係る薬剤投与関連 ・術後疼痛管理関連 ・循環動態に係る薬剤投与関連 ・精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 ・皮膚損傷に係る薬剤投与関連 ・上記行為区分を複数まとめたパッケージ研修 |
人数 | 6,875名 ※2023年3月時点 | |
認定機関 | 厚生労働大臣が指定する指定研修機関 |
専門看護師
特定行為研修修了者 | |
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目的 | 複雑で解決困難な看護問題を持つ個人、家族及び集団に対して水準の高い看護ケアを効率よく提供するための、特定の専門看護分野の知識及び技術を深め、保健医療福祉の発展に貢献し併せて看護学の向上をはかる。 |
経験 | 通算5年以上の実務研修者 (うち3年以上は専門・認定看護分野の実務研修) |
教育 | 看護系大学院修士課程修了者で、日本看護系大学協議会が定める専門看護師教育課程基準の所定の単位(総計26単位または38単位)を取得していること。 |
専 門 ・ 認 定 看 護 分 野 |
・急性・重症患者看護 ・慢性疾患看護 ・感染症看護 ・放射線看護 ・がん看護 ・精神看護 ・老年看護 ・小児看護 ・在宅看護 ・母性看護 ・遺伝看護 ・家族支援 ・地域看護 ・災害看護 |
人数 | 3,155名(14分野) ※2022年12月時点 |
認定機関 | 公益社団法人 日本看護協会 |
認定看護師
認定看護師 | ||
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目的 | 特定の看護分野における熟練した看護技術及び知識を用いて、あらゆる場で看護を必要とする対象に、水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護ケアの広がりと質の向上を図る。 | |
経験 | 通算5年以上の実務研修者 (うち3年以上は専門・認定看護分野の実務研修 | |
教育 | A課程(特定行為研修なし) 2026年度にて終了 | B課程(特定行為研修あり) 2020年度より開始 |
認定看護師教育A課程修了 (6ヶ月以上~1年以内・600時間以上) |
認定看護師教育B課程修了 (1年以内・800時間程度) |
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専 門 ・ 認 定 看 護 分 野 |
・救急看護 ・集中ケア ・がん性疼痛看護 ・緩和ケア ・がん化学療法看護 ・不妊症看護 ・透析看護 ・摂食・嚥下障害看護 ・小児救急看護 ・脳卒中リハビリテーション看護 ・慢性呼吸器疾患看護 ・慢性心不全看護 ・訪問看護 ・皮膚・排泄ケア ・感染管理 ・糖尿病看護 ・新生児集中ケア ・手術看護 ・乳がん看護 ・認知症看護 ・がん放射線療法看護 |
・クリティカルケア ・緩和ケア ・がん薬物療法看護 ・生殖看護 ・腎不全看護 ・摂食嚥下障害看護 ・小児プライマリケア ・脳卒中看護 ・呼吸器疾患看護 ・心不全看護 ・在宅ケア ・皮膚・排泄ケア ・感染管理 ・糖尿病看護 ・新生児集中ケア ・手術看護 ・乳がん看護 ・認知症看護 ・がん放射線療法看護 |
人数 | 20,710名(21分野)※2022年12月時点 | 2,550名(19分野)※2022年12月時点 |
認定機関 | 公益社団法人 日本看護協会 |
参照元:厚生労働省「訪問看護(改定の方向性)」P14
まとめ
今回は2024年(令和6年)の診療報酬改定で新たに設けられた「専門管理加算」について、新設された背景や算定要件、専門性の高い看護師の内容等について詳しくお伝えしました。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。
※本記事は、作成時の最新の資料や情報をもとに作成されています。詳細な解釈や申請については、必要に応じて最新情報を確認し、自治体等にお問い合わせください。