ナーシングホームでは、高度な医療依存度を持つ高齢者や障がいを抱える方々に、日常の介護ケアだけでなく、医療行為や看取り支援なども提供されます。
そのため、訪問看護ステーションがナーシングホームを併設する展開は、早期退院後や介護施設、自宅での生活が難しい医療難民に対して、既存のリソースを有効に活用し、サービスを拡充する有望な事業となっています。
こうした背景から、近年では訪問看護ステーションの経営者が、次なる展望としてナーシングホームを経営するケースが増えてきています。
しかし、ナーシングホーム経営は、訪問看護ステーションのこれまでの経験やノウハウだけでは不十分です。現に訪問看護ステーションがナーシングホーム事業に参入し苦戦するケースも少なくありません。
成功への道を模索するためには、関連情報、最適な建築、法的要件などについての理解が不可欠なのです。
そこで本日は、訪問看護ステーションがナーシングホームを始めるにあたって
【1】知っておきたい情報
【2】適切な建築
【3】適応される法律
の面から、成功のポイントを共有します。
【1】訪問看護ステーションがナーシングホームを始める際に知っておきたい情報
訪問看護ステーションがナーシングホームを始める際に知っておくべき重要な情報には、以下のような5つの点があります。
(1) 資金計画と調達に関する情報
第一に、資金計画と調達についてです。
ナーシングホームの建設・運営には多額の資金が必要です。
訪問看護ステーションがナーシングホームを始める際の資金計画と調達について、やるべき事項は以下となります。
1.資金計画の立案
ナーシングホームの設立に必要な資金を詳細に計画します。
土地の購入~建物の建築費用、スタッフの雇用、設備、備品や医療機器の調達、入居者募集にかかる費用などを含めて、初期費用を算出します。
また、運営開始後のランニングコストを見積もります。
2.資金調達方法の検討
資金を調達する方法として、自己資金投入、銀行融資、投資家からの出資、助成金・補助金の申請などが考えられます。
それぞれの方法のメリットとデメリットを比較したり、組み合わせるなど、最適な資金調達方法を選定します。
3.ビジネスプランの作成
ビジネスプランを具体的に作成し、事業の収益性や投資回収期間を示します。
資金提供者に対して、事業の魅力や将来の成長見込みを説明するためにも重要なドキュメントとなります。
4.銀行融資の申請
銀行融資を検討する場合は、資金計画やビジネスプランを元に融資の申請を行います。
信用力や担保の提供など、銀行が要求する条件を満たすことが求められます。
5.投資家の資金調達
投資家からの資金調達を検討する場合は、プレゼンテーションを行い、投資家に魅力的なビジネスチャンスとして訴えます。
投資家との契約内容については法的なアドバイスを受けることも重要です。
6.助成金・補助金の申請
地域や政府から提供される助成金や補助金がある場合は、申請手続きを行います。特に高齢者や障害者のケアに関連する補助金を活用することができる場合もあります。
7.継続的な資金管理
ナーシングホームを始めた後も、継続的な資金管理が必要です。予算の管理とコスト削減策の実施、収益の増加などを行いながら、健全な財務状態を維持することが重要です。
これらの活動を着実に進め、適切な資金計画と調達を行うことで、ナーシングホームの成功に向けた土台を築くことができます。
(2) 市場調査と需要予測に関する情報
次に市場調査と需要予測の把握です。
訪問看護ステーションがナーシングホームを始める際の市場調査と需要予測を把握するために、以下のことがらを考慮します。
1.地域の高齢者と障害者の人口統計データの調査
対象地域の要介護認定者数や障害者の方の統計データや将来推移を調査します。
要介護認定者数の割合や障害者の数などを把握することで、大まかなニーズの状況を把握できます。
2.既存の介護施設やナーシングホームの調査
対象地域に既に存在する介護施設やナーシングホームを調査します。その施設の種類や提供サービス、料金体系、特徴、入居者数などを把握することで、市場の競合状況を理解でき、自社の差別化ポイントを見極めることができます。
3.地域特性の考察
地域ごとに生活・福祉の状況や文化、経済的要因が異なるため、対象地域の特性を考察します。
これによって、地域に合った戦略を立てることができます。
(3)人材採用に関する情報
3つ目として、ナーシングホームの運営に重要な点として、資格要件を把握し、介護職や看護師など適切な人材を揃えることがあります。
人材採用について、以下の項目を確認しておく必要があります。
1.ナーシングホーム開設に必要な人員基準や資格要件
2.開設地域で、該当する職種の求人倍率や募集状況
3.求人広告や求人ポータルを通じて、需給の状況を確認
4.同様のスタッフ職種の平均給与や福利厚生を調査
5.競争力のある給与体系と福利厚生制度
(4)医療・介護サービスの提供機関との連携に関する情報
四つ目に重要なポイントは医療・介護サービスの提供機関との連携です。
連携は以下の方法が有効です。
1.フィードバックの収集
定期的なフィードバックの収集を行い、医療機関や介護サービス提供者の意見を取り入れつつ、サービスの改善を進めます。
2.ミーティングやワークショップの開催
地域の医療機関や介護サービス提供者と定期的にミーティングやワークショップを行い、ニーズや課題について情報交換を行います。
関係者の意見や提案を取り入れることで、より効果的なサービス提供が可能となります。
3.情報やニュースをホームページなどで発信
ホームページを通じてイベント情報や施設内の取り組み、スタッフ紹介などを提供することで、医療・介護サービスの提供機関との信頼関係が生まれ連携促進につながります。
医療・介護サービス提供機関との緊密な連携によって、ナーシングホームのサービスが地域のニーズに合致し、質の高いケアが提供される体制を構築できます。
(5)ナーシングホームのリスクとリスク回避に関する情報
最後に、重要なポイントとして、ナーシングホームの運営にはさまざまなリスクが存在しますので、これらのリスクを認識し、対策を講じることがあげられます。
以下に、代表的なナーシングホームのリスクとそれに対するリスク回避策をいくつか示します。
1.入居者の健康リスク
入居者の健康状態が急変する可能性があり、緊急の医療ケアが必要になることがあります。
リスク回避策としては、医療スタッフの常駐や訪問医療機関との連携を密にして迅速な対応が可能な環境を整えます。
また入居者の健康状態を定期的にモニタリングし、早期発見と適切なケアプランの調整を行うことも重要です。
2.人材不足やスタッフの疲弊
介護スタッフの人材不足や過度な労働により、サービスの品質が低下する可能性があります。
リスク回避策としては、適切な人員配置を行い、スタッフの負担を軽減したり、スタッフの教育・研修プログラムを提供してスキルを向上させ、専門的なケアを提供できるようにします。
3.法的規制や規定関連のリスク
法的規制や規定に違反することがあれば、業務停止や罰則などのリスクが生じる可能性があります。
リスク回避策としては、知識習得を心掛け、法的要件に適合するよう運営したり、法的アドバイザーや専門家と連携し、適切な法的コンプライアンスを確保します。
4.業務継続性のリスク
自然災害やパンデミックなどの要因により、通常業務の継続が困難になる可能性があります。
リスク回避策としては、緊急時の避難計画を策定し、施設の安全を確保したり、データのバックアップやオンラインコミュニケーションの導入など、業務の継続性を確保する対策を講じます。
5.入居者の不満やクレーム
入居者やその家族からの不満やクレームが発生し、信頼関係が損なわれる可能性があります。リスク回避策としては、適切なコミュニケーションを心がけ、入居者や家族の声に耳を傾け、クレーム対応のプロセスを確立し、適切な解決策を提供する必要があります。
このようにナーシングホームのリスクは多岐にわたりますが、リスク情報を理解し、計画的なリスク管理と適切な対策を講じることで、安全で高品質なケアを提供する環境を築くことができます。
上記5つのこれらの情報を把握し、計画的にナーシングホームを始めることで、運営の安定性と高品質な施設サービスと介護看護サービスの提供が実現します。
【2】訪問看護ステーションが作るナーシングホームの最適な建築とは
適切な建物の形態など建築について理解が不十分なままナーシングホームを運営すると、収益確保や入居者ケアのスムーズな実施に問題が生じる可能性があります。
訪問看護ステーションのナーシングホームの建築におけるポイントは以下のようになります。
(1)有料老人ホームとしての届け出要件に準ずる
法的要件や規制に適合するために、有料老人ホームとしての届出要件を確認し、準拠することが重要です。
(2)低コスト建築
木造2階建など建築コストを抑えた構造にします。
(3)外殻構造や開発許可を考慮した建築面積
外殻構造や開発許可を考慮し土地を最大限有効活用した建築設計は、ナーシングホームの重要な要素です。
(4)コンパクトな居室の設計
居室の専有面積をコンパクトにし、洗面などの設備を居室内に設置しないことで、スペースを有効活用します。
(5)収益最大化を目指す居室数
収益を最大化するため、適切な居室面積保ちつつ、できるだけ多くの居室数を設けま
す。
(6)介護ケアのための設計
介護ケアがスムーズに実施できるような間取りや導線を設計し、ケアの効率性を高めます。
(7)特浴やエレベーターの設置
特浴やストレッチャーが入るエレベーターを設置することで、高度なケアを提供できる環境を整えます。
(8)入居予定者に合わせたキッチン設備
計画時の入居予定者の状態やニーズに合わせてキッチンを設計します。
(9) 難病や障がい者への対応
難病や障がいを持つ入居者への対応を考慮し、必要な設備を整えて、最適なケアを提供できるようにします。
これらのポイントを踏まえて建物の形態を計画し建築することで、収益性や入居者ケアの向上を図ることが、ナーシングホームの成功につながります。
【3】ナーシングホームに適応される法律とは
ナーシングホームは、高齢者や介護が必要な人々に対するケアとサポートを提供する施設として、適用される法律や規制が存在します。以下に、主に適用される法律とその内容などについて説明します。
(1)建築基準法の適応
ナーシングホームは高齢者や介護が必要な人々にケアとサポートを提供する施設であり、建築基準法による特殊建築物として扱われます。建築基準法の適用においては、以下の手続きや内容となります。
1. 建築計画 ナーシングホームの建築計画を立てます。
2. 建築確認 設計段階で建築確認手続きを行います。
3. 建築基準への適合性審査 設計図書などを審査し、建築基準法の規定に適合しているか確認します。
以下に審査内容を示します。
単体規定
* 建築物の安全性確保
* 敷地の衛生・安全の確保
* 構造の地震等による倒壊の防止
* 防火・避難に関する規定(火災からの人命の確保)
* 一般構造・設備に関する規定(衛生・安全の確保)
集団規定
* 接道規制(避難・消防等の経路確保)
* 用途規制(土地利用の混乱の防止)
* 形態規制(市街地の環境の維持)
建築基準関係規定
* バリアフリー法
* 消防法、都市計画法などの一部の規定(建築物の敷地、構造、建築設備に係るもの)
ナーシングホームの建設に際しては、これらの建築基準法の条項を遵守し、安全かつ適切な施設を提供するために細心の注意が必要です。
(2)老人福祉法の適応
また、ナーシングホームの運用に際しては、老人福祉法第29条第1項の規定に基づきます。
老人福祉法第29条第1項では、老人の福祉を図るため、その心身の健康保持及び生活の安定のために必要な措置として設けられている制度が定められています。
「入居サービス」と「介護等サービス(食事の提供・介護の提供・家事の供与・健康管理)」の要件を満たしている施設は、老人福祉法上の「有料老人ホーム」として扱われるため、ナーシングホームは設置に当たっては都道府県知事等への届出が必要となり、老人福祉法第29条第1項の規定にのっとり運営することとなります。
ナーシングホーム建築は、適応される老人福祉法の条項を、確認して慎重に進める必要があります。
これらの手続きや実践を通じて、法的規定と運営の調和を保ちながら、高齢者の福祉と安定した生活の提供を実現するために取り組むことが重要です。
まとめ
これらのポイントを把握して、適切な計画と準備を行うことで、訪問看護ステーションがナーシングホーム事業を成功させ、地域の高齢者や介護が必要な人々にとって質の高いサービスを提供できる基盤を築くことができます。
今回の記事が今後ナーシングホームの開設を検討される訪問看護事業者様の参考になれば幸いです。