【2025年 5万6千床減少】慢性期病床削減の影響からみるナーシングホームの重要性とその役割

我が国では、高齢化社会の進展により、医療介護に関連する様々な課題が一層深刻化しています。

以前にこのコラムでお伝えした、老々介護介護離職特別養護老人ホームの待機問題に加え、国の医療費抑制を目的とした病床数の削減により、医療と介護の両方を必要とする人々の受け入れ先が急速に減少しています。

特に、長期的な療養を必要とする患者を収容する慢性期病床の削減により、急性期を脱した後も医療ケアが不可欠でありながら、自宅での生活が困難な患者が、適切な施設に入居できない状況が顕在化しています。

この状況において解決策のひとつとして慢性期病床に代わるものとして、介護の両方を継続的に受けられるナーシングホームの設置が急務となっています。

今回は、日本において、ナーシングホームの設置がいかに重要であるかを、具体的な資料をもとに改めてみていきます。

医療構想における病床数の推移~慢性期病床の大幅減少

2015年から2025年にかけて、高度急性期病床は16.9万床(14%)から16.0万床(13%)に、急性期病床は59.6万床(48%)から53.6万床(45%)に減少する見込みです。

一方で、回復期病床は13.0万床(10%)から20.6万床(17%)へと増加し、慢性期病床は35.5万床(28%)から29.9万床(25%)に減少すると予測されています。

地域医療構想における2025年の病床の必要量

参照元:厚生労働省第10回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ:「地域医療構想について」令和4年12月 資料 p5グラフ

  
慢性期病床は、長期的な療養が必要な患者を受け入れる病棟です。急性期を脱したものの、重篤な障害を持つ方や高齢者が多く入院しています。

これらの患者は、糖尿病や腎臓病、心臓病、脳梗塞、認知症などの慢性疾患を抱えており、日常的な医療ケアやサポートが欠かせません。

慢性期病床では、患者の症状が悪化しないようにしながら、体力の維持・向上を目指して、医療ケアやリハビリテーションなどのサービスが提供されています。

具体的には、

・喀痰吸引
・中心静脈栄養
・人工呼吸
・酸素吸入
・経管栄養
・気管切開
・褥瘡の処置

など患者の状態に応じた綿密な医療措置が24時間体制で行われています。

さらに、慢性期病床では、終末期の患者に対するターミナルケアや看取りの支援も重要な役割を担っています。

患者とその家族が最後の時間を穏やかに過ごせるよう、専門的なケアと個々のニーズに応じたサポートが提供されています。

しかし、慢性期病床は2015年から2025年にかけて56,000床も減少する見込みです。この減少により、長期的な療養が必要な患者の受け入れ体制が縮小し、様々な影響が懸念されています。

慢性期病床が減少することによる影響

慢性期病床の減少は、医療提供体制の逼迫、在宅介護の負担増加、地域医療の格差拡大、医療費の増加といった多くの影響をもたらす可能性があります。

1. 患者の受け入れ難と医療提供の逼迫

慢性期病床が減少すると、長期的な療養を必要とする患者が入院できる施設が限られ、医療機関での受け入れが難しくなる可能性があります。

特に、高齢者や重度の障害を持つ患者、複数の慢性疾患を抱える患者は、適切なケアを受ける機会が減少し、状態が悪化するリスクが高まります。

また、慢性期病床での受け入れが困難になることで、急性期病院の病床が占有され、急性期の治療を必要とする新たな患者の受け入れが困難になる可能性があります。

2. 在宅医療や介護への負担増加

慢性期病床が減少することで、在宅医療や介護サービスへの需要が増加します。多くの患者が退院後も継続的な医療ケアやリハビリが必要なため、家族にかかる負担が増大します。

これにより、家族が介護のために仕事を辞めたり、介護離職が増加することが予想されます。さらに、在宅での医療ケアが十分に提供されない場合、状態が悪化し、再入院のリスクが高まります。

3. 地域医療格差の拡大

慢性期病床の減少は、特に地方や人口の少ない地域での影響が大きいです。都市部と異なり、医療施設の選択肢が限られている地域では、慢性期病床の減少により、患者が適切な医療を受けることがさらに難しくなります。

これにより、地域間での医療格差が一層深刻化し、地方の高齢者や慢性疾患患者が適切なケアを受けることが困難になる恐れがあります。

4. 医療費の増加と財政負担

慢性期病床が減少すると、患者の状態が悪化し、急性期病院への再入院や緊急対応が増える可能性があります。

その結果、医療費が増加し、国や地方自治体の財政にさらなる負担がかかることが懸念されます。

急がれるナーシングホームの設置 ~慢性期病床の補完・代替えとしての期待される5つの役割

慢性期病床の減少に伴い、ナーシングホームが今後ますます重要な役割を果たすことが期待されています。

ナーシングホームは、医療的ケアと生活支援を一体的に提供できる施設であり、その特性が慢性期の患者のニーズに合致しているからです。

ナーシングホームに期待されるのは、主に以下の5つの役割です。

1. 慢性期患者への長期的なケアの提供

ナーシングホームは、慢性期病床が担っていた長期療養を必要とする患者へのケアを引き継ぐことが期待されています。

特に、高齢者や重度の慢性疾患を持つ患者に対して、日常的な医療ケアやリハビリテーションを提供することができます。

ナーシングホームでは、専門的なスタッフが24時間体制でケアを行い、入居者の生活の質を維持するための支援が行われます。

2. ターミナルケアの提供

慢性期病床ではターミナルケアが行われます。ナーシングホームも同様にこの役割を果たします。入居者が安心して最期を迎えられるように、医療ケアに加えて、精神的・心理的なサポートを提供することが可能です。さらにナーシングホームでは家族のサポートもします。

3. 在宅ケアの負担軽減

慢性期病床の減少により、在宅医療や介護の負担が増加していますが、ナーシングホームはその負担を軽減する手段として期待されています。

在宅ケアが難しい人にとって、ナーシングホームは医療ケアと生活支援を受けられる場となり、家族の介護負担を軽減することができます。また、定期的な医療チェックやリハビリテーションを提供することで、入居者の健康状態を安定させ、再入院を防ぐことにも貢献します。

4. 地域医療のサポート

地域によっては慢性期病床が減少することで、医療リソースが不足する懸念がありますが、ナーシングホームはその地域における医療提供体制の一部として機能することができます。

地域密着型の施設として、地域の医療機関と連携し、入居者に必要なケアを提供することで、地域医療の充実に寄与します。これにより、地方における医療格差の是正にもつながります。

5. コストの効率化

ナーシングホームは、慢性期病床に比べて運営コストが低い場合が多く、医療費の効率的な管理に寄与することが期待されます。

医療施設ではなく福祉施設として位置付けられるため、必要な医療ケアを受けつつ、コストを抑えた長期療養が可能です。これにより、社会全体の医療費削減にもつながる可能性があります。

訪問看護ステーションがナーシングホームを運営するメリットとその意義とは

いろいろナースではこれまでも訪問看護ステーションが運営するナーシングホームの可能性についてお伝えしてきました。

さいごに在宅医療と介護の中核を担う訪問看護ステーションがナーシングホームの運営において提供できるメリットとその意義について改めてみていきます。

1. 専門的な医療ケアの提供

訪問看護ステーションには、慢性疾患や高齢者ケアの経験を豊富に持つ看護師や医療スタッフが多数所属しています。このスタッフが直接ナーシングホームでケアを提供することで、質の高い医療サービスが実現できます。

例えば、褥瘡(床ずれ)の管理、呼吸管理、認知症ケアなど、訪問看護で培われたスキルが活かされるため、入居者は適切な医療ケアを受けられます。

2. 柔軟な看護ケアプランの提供

訪問看護ステーションは、利用者一人ひとりの状態に合わせた個別の看護ケアプランを考える能力に長けています。この経験はナーシングホームでも活かされ、入居者の状態やニーズに応じて、きめ細やかな工夫がなされます。これにより、入居者は自分に最適なケアを受けることができ、生活の質が向上します。

3. 地域との連携の強化

訪問看護ステーションは、地域の医療機関や介護サービスと密接に連携して活動しています。このネットワークを活かすことで、ナーシングホームでも地域社会との連携が強化されます。

例えば、地域の病院と連携して入居者の緊急時の対応を迅速に行うことや、在宅ケアに戻る際の支援をスムーズに進めることが可能です。これにより、入居者が安心して療養生活を送ることができます。

4. ターミナルケアの提供

訪問看護ステーションは、在宅でのターミナルケアにおいて多くの経験を積んでいます。この経験は、ナーシングホームにおいても非常に貴重です。

終末期を迎える入居者が、穏やかに最期を迎えられるように、医療的なケアだけでなく、精神的なサポートや家族との連携も含めた包括的なケアが提供されます。

5. 効率的な医療リソースの利用

訪問看護ステーションは、地域の医療資源を効率的に活用しながらケアを提供する能力に優れています。

ナーシングホームでもこの能力が発揮され、限られたリソースを最大限に活用して質の高いケアを提供することが可能です。これにより、医療費の抑制や持続可能な医療体制の構築にも貢献できます。

まとめ

今回は、ナーシングホーム設置の社会的ニーズの高まりとその重要性についてお伝えしました。

地域医療構想に基づき慢性期病床が減少する中、医療ケアが必要で自宅での生活が難しい患者が入居できる施設が不足しています。そのため、医療と介護の両方を提供できるナーシングホームの設置が急務となっています。

また、在宅医療介護の経験が豊富で地域医療との連携が可能な訪問看護ステーションが手がけることでナーシングホームに求めれる機能が強化することもおわかり頂けたのではないでしょうか。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。

訪問看護ステーションのナーシングホーム参入事例について詳しく知りたい方は、以下のフォームよりお気軽にお問合せください。