訪問看護に求められる「健康経営」とは〜「人を大切にする経営」を実現するために〜

いま日本は、少子高齢化と人口減少という大きな転換期を迎えています。

こうした社会課題を乗り越え、持続可能な社会保障制度を維持していくために、国は「健康経営」を重要な経営戦略として推進しています。

「健康経営」とは、従業員の健康を“コスト”ではなく“投資”と捉え、働く人の心身の健康を組織の生産性や成長力へとつなげる考え方です。

訪問看護業界も例外ではありません。人材不足や離職率の高さ、サービス品質の維持など、人に関わる課題が経営を左右します。つまり、スタッフ一人ひとりの健康とやりがいが、ステーションの持続的な力の源なのです。

本コラムでは、「健康経営」の本質である“人を大切にする経営”の意味を改めて見つめ、訪問看護ステーションにおいてどのように実践していくべきか、その意義を考えていきます。

目次

「健康経営」とは何か

「健康経営」とは、従業員の健康を“コスト”ではなく“未来への投資”と考え、心身の健康を組織の生産性や成長力に結びつける経営のことです。

近年では「人的資本経営」とも呼ばれています。

これは単なる福利厚生ではありません。

従業員の健康を貴重な経営資源と位置づけ、経営戦略の一環として取り組む点に特徴があります。

従業員が安心して力を発揮できる環境を整えることで、

・生産性の向上

・離職の防止

・組織の持続的な成長

といった好循環が生まれます。

つまり、「人の健康」が「組織の健康」を支える――それが健康経営の考え方です。

なぜ今、健康経営が求められているのか?(従業員視点)

では、国がなぜ今、「健康経営」を強く推進しているのでしょうか。

その背景には、働く人々の意識や社会の変化があります。

1. 働き方・価値観の多様化

インターネットやSNSの普及により、誰もがさまざまな働き方や生き方に触れられる時代になりました。

「自分らしく働きたい」「生活や健康を大切にしたい」という意識が高まり、従来のように“会社の指示に従うだけ”では満足できない人が増えています。

働く人々は、仕事を「生活のための義務」ではなく、「自分らしく生きるための手段」として捉え始めています。

2. ストレスを感じやすい社会環境

長時間労働、情報の過多、家庭や社会での負担など、現代人のストレス要因は多様化しています。

慢性的な疲労やメンタル不調を抱える人も少なくなく、「健康に働き続けること」が大きな課題となっています。

企業としても、従業員の心身の不調による生産性の低下や離職は、避けて通れない経営リスクです。

3. 会社と従業員の関係の変化

かつての「会社が上・従業員が従う」という関係は、すでに過去のものになりました。

現代の働き手は、単なる労働力ではなく、自分の権利を持つ“対等なパートナー”として会社に関わります。

「自分の健康を大切にしてくれる会社で働きたい」
「安全で安心して働ける環境を用意してほしい」

――こうした声が強まる中で、企業には従業員の健康と働き方に配慮する姿勢が求められています。

4. 従業員にとっての「健康経営」の意味

健康経営とは、従業員にとって「安心して力を発揮できる環境がある」という約束でもあります。

・心身ともに健康な状態で、長く働き続けられる

・「会社に大切にされている」「守られている」と感じられる

・働く意欲や生活の安定感につながる

こうした心理的な安心が、結果として組織への信頼と定着率の向上を生み出します。

つまり、健康経営は“従業員の幸福”と“企業の成長”を同時に支える、これからの時代に欠かせない経営の在り方なのです。

国が「健康経営」を社会的責任として求める背景

国が「健康経営」を推進しているのは、単なる福利厚生の充実を求めているからではありません。

少子高齢化、人口減少、社会保障費の増大といった、国家全体の構造的な課題を乗り越えるための“戦略”でもあります。

① 少子高齢化と人口減少

日本の総人口はすでに減少に転じ、65歳以上の高齢者が全人口の約30%を占めています。

一方で、生産年齢人口(15〜64歳)は年々減少し、企業にとって「働き手の確保」が深刻な課題になっています。

(出所)経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「これからの健康経営について」

限られた人材で生産性を維持し続けるには、今いる社員の健康とパフォーマンスを守ることが不可欠です。

健康経営は、人材確保と生産性維持の両立を図るための、最も現実的な解決策のひとつといえます。

② 健康寿命の延伸と生産人口の補強

国が目指すのは「長生き」ではなく、「健康で働き続けられる時間を延ばす」ことです。

出典元厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

社員が心身ともに健康であれば、欠勤や離職を防ぎ、労働力のロスを最小限に抑えることができます。

特に、訪問看護のように人がサービスの質を支える業界では、スタッフ一人ひとりの健康維持がそのまま事業の安定・継続につながります。

健康経営は、まさに“人材が最大の資本”である業界における生命線とも言えるでしょう。

③ 社会保障制度の持続可能性

高齢化の進行とともに、医療費や介護費など社会保障の負担は年々増加しています。

こうした中で、企業が従業員の健康づくりに積極的に取り組むことは、国全体の医療費削減や社会保障費の抑制にもつながります。

つまり、「健康経営」は企業のためだけでなく、社会全体の持続可能性を支える取り組みでもあるのです。

そのため国は、「健康経営=社会的責任(CSR)」と位置づけ、企業に実践を促しています。

「健康経営」は“法令順守+企業価値向上”の両輪

健康経営は、任意の取り組みのように見えますが、実際は法令順守の延長線上にある経営のあり方です。

労働安全衛生法、労働契約法、産業安全衛生規則、労基法改正など、「働く人の健康を守ること」はすでに企業の法的責任として明確化されています。

たとえば、従業員50名以上の事業場で義務づけられているストレスチェック制度は、その入口にすぎません。

今後は「メンタル不調への職場責任」や「健康配慮義務」など、より深いレベルでの企業責任が問われるようになると予想されます。

国の制度と評価の仕組み

国の推進には、明確な評価制度と支援体制も整えられています。代表的な制度には以下があります。

・経済産業省「健康経営優良法人認定制度」

健康経営に積極的に取り組む企業を「健康経営優良法人」として認定。

認定を受けた企業は、社会的信頼の向上や、金融機関による優遇措置(融資・助成金など)といったメリットが得られます。

・厚生労働省「職場のメンタルヘルス指針」

メンタル不調の予防やストレスチェックの義務化など、企業の健康配慮義務を明確化。

出典元厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

出典元厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

心の健康にも焦点を当て、働く人の安全と安心を守る仕組みを整えています。

また、2025年5月に閣議決定された労働安全衛生法の改正により、これまで「努力義務」だった従業員50人未満の事業場でのストレスチェックも義務化される方向に進んでいます。

このように、「健康経営」は国家戦略として位置づけられており、企業の社会的責任の一部になりつつあります。

つまり、健康経営は“やる・やらない”の選択ではなく、「どのレベルでやるか」が企業の姿勢として問われる時代になったのです。

健康経営とは、社員を大切にする「優しい経営」ではなく、法令を守り、信頼を高め、持続可能な組織をつくるための戦略的な経営手法です。

訪問看護業界こそ「健康経営」が必要な理由

1. 訪問看護事業は「人」が事業の核

訪問看護ステーションの経営は、人の力そのものが事業を支える構造です。

どれだけ設備や制度を整えても、現場で利用者様と向き合うのは“人”であり、スタッフ一人ひとりの健康・意欲・安心感がそのままサービスの質に直結します。

つまり、訪問看護は「人の健康=事業の健康」と言えるほど、人に依存する産業なのです。
この構造こそが、健康経営の重要性を最も強く物語っています。

2. 訪問看護業界が抱える課題

訪問看護の現場は、慢性的な人材不足の中で高い専門性と精神的な負担を求められる職場です。

以下のような課題は、多くのステーションが直面しています。

① 人材不足・採用難

看護師の確保が難しく、特に訪問経験を持つ人材は限られています。採用コストの上昇も経営を圧迫しています。

② 定着率の低さ

短期間で退職するケースが多く、サービスの継続性やチーム力の維持が難しい現状があります。

③ 人間関係の摩擦

訪問看護は個人で動く時間が長いため、コミュニケーションのずれや孤立が起きやすく、人間関係のトラブルがサービス品質に影響することもあります。

④ 従業員依存の事業構造

訪問件数や利用者対応の質は、スタッフ一人ひとりのモチベーションに左右されます。

まさに「人が辞めれば事業が止まる」構造であり、人の健康と意欲を守る仕組みがなければ安定した経営は成り立ちません。

「健康経営=リスク管理」という視点

「健康経営」というと、“従業員のための取り組み”というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、それ以上に「企業を守るための経営戦略」としての側面があります。

例えば、体調不良やメンタル不調による離職・休職が増えれば、現場の負担が増し、残ったスタッフのモチベーションも低下。

結果として、採用コストや教育コストの増大、サービス品質の低下など、経営の安定性を揺るがす事態にもつながります。

つまり、健康経営を軽視することは、実は“経営リスクを放置すること”と同義なのです。

特に、訪問看護ステーションが健康経営を進めていく以下の点に注意を払う必要があります。

(1)増加する労務トラブルと訴訟リスク

近年、働き方やメンタルヘルスをめぐる労務トラブルは年々増加しています。

残業時間の管理不足、職場環境の不備、ハラスメント対応の遅れ──こうした要因がきっかけで、従業員とのトラブルや訴訟に発展するケースも少なくありません。

訪問看護業界では特に、

・個人単位での業務負担の偏り

・精神的ストレスの蓄積

・オンコールによる長時間労働

といった職場環境が、メンタル不調や離職につながるケースが増えています。

(2)従業員の主張が通りやすくなる時代へ

働き方改革の推進やSNSの普及により、今は従業員の声が社会に届きやすい時代になりました。

職場の不満やハラスメント、過重労働などの情報は、瞬時に拡散され、社会的な関心を集めます。

かつては社内で収まっていた問題も、今では「企業責任」として取り上げられることが増えました。

健康管理の不備やストレス対応の遅れが、経営者の“安全配慮義務違反”として問われるケースも少なくありません。

つまり今の時代は、「従業員が理論武装し、声を上げやすい」構造に変化しているのです。

この流れの中で、経営者や管理者が感情的に対立してしまうと、トラブルは一気に大きくなります。

だからこそ、今こそ“健全な関係性の設計”が欠かせません。

(3)看護師という職種の特性

訪問看護における「健康経営」を考えるうえで、特に理解しておくべきなのは、看護師という職種の特性です。

多くの看護師は、これまで病院という“組織的・階層的な環境”で育ってきました。
そのため、

・医師や上司の指示に従う

・原理原則を守る

・ミスを防ぐために慎重に行動する

といった文化が深く根付いています。

こうした環境では、自分で判断するよりも「指示通りに動く」ことが求められるため、自主判断や柔軟な思考に慣れていない場合が多いのです。

その結果、正義感が強く、責任感ゆえに「自分の考えが正しい」と信じて行動したり、ルールや対応が曖昧だと「なぜ?」「おかしい」と反発を感じやすい傾向があります。

のような職種特性を理解せずに健康経営を進めると、

・意見の衝突

・管理側との信頼関係のズレ

・心理的な負担の増大

といった問題が起きやすくなります。

特に、曖昧なルールやグレーな運用は、訪問看護の現場を混乱させ、「なぜ自分だけ?」「方針が一貫していない」といった不満につながりやすいものです。

したがって、健康経営を推進する上では、こうした看護師の職業文化を踏まえたうえで、“曖昧さを排除し、明文化されたルールと運用”を整えることが不可欠です。

リスクを防ぐための3つのポイント

前述のとおり、健康経営は、単なるスローガンや理念ではありません。

“人を大切にする経営”を実践することは、トラブルを未然に防ぎ、信頼される職場をつくる最も確実なリスクマネジメントです。

そのために以下の3つのポイントに注意する必要があります。

① 入職時に「会社ルール」を明確に伝える

就業規則や健康管理方針は、単なる形式ではなく“組織の共通言語”です。

入職時にこれらを丁寧に説明し、署名・同意を得ることで、後々の誤解や不信感を防ぐことができます。

「知らなかった」「聞いていない」という状況を避けるためにも、ルールを“見える化”し、理解と同意を得たうえで働いてもらうことが大切です。

これは経営側を守るだけでなく、従業員にとっても安心して働ける土台となります。

② 「健康で働くことは従業員の義務」であると伝える

企業には、法律上「従業員の安全と健康を守る義務(安全配慮義務)」があります。同時に、従業員にも「自らの健康を維持し、安全に働く義務」があります。

つまり、健康経営とは“企業だけが頑張るもの”ではなく、企業と従業員が互いに責任を分担しながら取り組む仕組みです。

どちらかが一方的に守る関係ではなく、お互いが対等な立場として健康で働ける環境をつくり上げていくことが重要です。

そのためには、入社時や社内教育の場で、「企業の安全配慮義務」と「従業員の健康保持義務」の両方を明確に伝えることが欠かせません。

これにより、健康を守ることが“自分ごと”として理解され、「会社に守られる人」から「会社と共に支える人」への意識転換が生まれます。

③ 健康経営を“仕組み化”する

健康経営は、掛け声だけでは機能しません。

定期面談・健康相談・ストレスチェックなどを制度として仕組み化することが重要です。

問題が起きてから対応する「事後対応型」ではなく、
日常的に不調や変化に気づける「予防的マネジメント」に転換することが、離職・訴訟リスクを大きく減らすポイントです。

また、こうした取り組みを継続的に行うことで、従業員は「見守られている」「大切にされている」と感じ、信頼関係の強化やチームの安定にもつながります。

「健康経営優良法人認証」取得について

~“人を大切にする経営”を公的に証明する制度~

「健康経営優良法人認証」とは

「健康経営優良法人認証」とは、経済産業省が推進する制度で、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業を国が認定するものです。

簡単にいえば、

“人を大切にする経営”を実践していることの公的なお墨付き。

この認証を取得することで、「従業員の健康を企業の重要資産として扱い、経営に生かしている法人」であることを社会に明確に示すことができます。

訪問看護ステーションにおいても、スタッフの健康と働きやすさを守る姿勢を対外的に示す大きなチャンスとなります。

認証の種類

健康経営優良法人には、企業規模や取り組み内容に応じていくつかの区分があります。

大規模法人部門(ホワイト500)

全国的に健康経営の取り組みが評価される大企業向けの部門。

中小規模法人部門

「ブライト500」や「ネクストブライト1000」など、中小企業向けの認定制度。

 一定の基準を満たした企業が対象で、取り組みの成熟度に応じて評価されます。

地域独自の認証制度(例:横浜健康経営認証など)

自治体が独自に運用する認証制度。書類や申請の手間が少なく、取り組みの実態に合わせて柔軟に評価されます。

💡 訪問看護ステーションには「地域認証制度」がおすすめ。小規模法人でも取り組みやすく、地域に根ざした活動の信頼性向上にもつながります。

健康経営優良法人認証取得のメリット

健康経営優良法人の認定は、単なる「称号」ではありません。訪問看護ステーションの経営に、次のような実益をもたらします。

(1)採用力の向上

求職者に「安心して働ける職場」という印象を与え、応募につながりやすくなります。

看護師の離職率が高い業界だからこそ、“職員を大切にしている”ことを見える化する意義は大きいです。

(2)従業員満足度の向上

 健康やメンタル面への配慮が制度として整うことで、職員が安心して働ける環境づくりが進みます。

(3)社会的信用の獲得

 行政・医療機関・地域住民・取引先からの信頼が高まり、地域でのブランド価値が向上します。

(4)制度や助成金の活用

 健康経営を実践する企業は、各種補助金や融資制度の対象になりやすい傾向があります。

認証取得の流れ(ステップごとの概要)

1.自社の健康経営の取り組み状況を確認

健康診断・ストレスチェック・労働時間管理などの現状を把握。

2.認証基準に沿った取り組みを実施

衛生委員会の開催やメンタルサポート体制の整備など。

3.チェックリストに沿って必要項目を整備

制度や取り組み内容を整理し、書類にまとめます。

4.申請書類の提出

地域認証制度の場合は、オンライン申請で完結できるケースも多いです。

5.審査・ヒアリング

提出内容に応じて書類審査や聞き取り調査が行われます。

6.認証取得

認定証の交付後は、ホームページや求人広告などで積極的にアピール可能です。

訪問看護ステーションのような中小規模事業所にとって、地域の健康経営認証制度(例:横浜健康経営認証など)は、最も現実的で効果的な選択肢です。

大規模法人向けの「ブライト500」などは基準が高く、準備に時間と労力を要しますが、地域認証なら「今ある取り組み」をベースに申請しやすく、まず一歩を踏み出すには最適な制度です。

ホームページで健康経営への取り組みを発信すべき理由


~“給与よりも安心感”を求める時代に~

1. 求職者の関心は、いま「給与だけではない」

かつては「給与」「休日」「勤務地」が求人選びの主な基準でした。しかし今の求職者は、それだけでは動きません。

特に医療・介護業界では、

・結婚・出産・子育て

・親の介護

・自身の健康不調

といったライフイベントに柔軟に対応できる職場かどうかを重視する傾向が強まっています。

つまり求職者が本当に知りたいのは、

「この職場で、自分は無理なく、長く働けるだろうか?」

という“安心感”です。

ホームページ上で「健康経営への取り組み」を発信することは、まさにこの“安心して働ける職場”というメッセージを、わかりやすく伝える手段になります。

2. 「健康経営」は採用戦略の強みになる

給与や待遇だけでは、もはや企業の魅力は伝わりにくい時代。

求職者は次のような情報に価値を感じています:

・社員・スタッフを大切にする取り組み

・心身の健康を守る仕組み

・働きやすさへの具体的な工夫

たとえば、

・定期的な健康相談やメンタルサポートの実施

・残業の削減や有給休暇の取得促進

・子育てや介護との両立を支援する制度

こうした“人を大切にする経営姿勢”が明確に打ち出されている企業ほど、「ここなら自分も大切にされる」と感じてもらいやすくなります。

特に訪問看護ステーションでは、スタッフ一人ひとりの健康と安定が、サービスの質に直結します。

だからこそ、「安心して長く働ける環境づくり」をホームページでしっかり伝えることが、採用戦略上の大きな差別化ポイントになるのです。

3. インターネットとAIの時代では、「発信していること」自体が評価される

求職者の情報収集行動も大きく変化しています。

今は、求人サイトだけでなく、Google検索・SNS・口コミ・ChatGPTなどを通じて、企業の姿勢を多角的にリサーチする時代です。

また、AIが求人情報を自動的に収集・解析し、「働きやすさ」「健康支援」「ダイバーシティへの取り組み」などをキーワードに評価する流れも進んでいます。

つまり、ホームページで健康経営への取り組みを明示している企業は、AI・検索エンジンの評価でも上位に位置づけられやすくなるのです。

情報発信をしていない=取り組みがないと見なされるリスクすらある時代とも言えます。

健康経営の発信がもたらす“三重のメリット”

ホームページで健康経営を発信することには、次の3つの効果があります。

(1)求職者に安心感を与える

 「この会社は人を大切にしている」と伝わる。

(2)“長く働きたい人材”を惹きつける

 職場定着率が高まり、採用コスト削減にもつながる。

(3)AI・検索時代における企業評価を高める

 企業ブランド価値の向上、競合との差別化にも効果的。

特に、“人”が最大の資産である訪問看護業界において、健康経営の発信は単なるPRではなく、採用と経営を支える重要な戦略ツールです。

「健康経営宣言」は、“人を大切にする企業”であることを最もわかりやすく伝える、採用ブランディングの武器となるのです。

さいごに

今回は、訪問看護に求められる「健康経営」をテーマにお伝えしました。

健康経営は、単なる理念やスローガンではなく、
企業を守るための「経営戦略」であり「企業防衛」の一環です。

いまは、従業員の声が社会に届きやすく、企業の姿勢や対応が厳しく問われる時代。

だからこそ、組織の中で起こりうる“すれ違い”や“誤解”を、あらかじめ防ぐ仕組みづくりが欠かせません。

特に訪問看護の現場では、看護師という職種特性を理解せずに健康経営を進めると、善意のルールがかえって混乱を招くこともあります。

大切なのは、「曖昧さを残さないこと」。

ルールを明確にし、互いの立場を対等に尊重する仕組みを整えることが、結果的にスタッフを守り、経営を守る最も確実なリスクヘッジになります。

「人を大切にする経営」とは、感情で寄り添うことではなく、構造で守ること。そしてその根底にあるのは、“曖昧さのないやさしさ”です。

完璧を目指す必要はありません。まずは「健康経営」という言葉を、組織の共通言語にすることから。

小さな一歩でも、社員の安心と信頼を生む大きな前進になります。

“守るために、変わる”。

その選択が、これからの時代を生き抜く企業の強さとなるでしょう。