訪問看護の経営を強くする新戦略―「健康経営優良法人認証」で、人が育ち、組織が変わる！

人材不足、離職率の高さ、サービス品質の維持――。

多くの訪問看護ステーションが直面しているこの難題を打開する鍵として、いま注目されているのが「健康経営」です。

健康経営とは、従業員の健康を“コスト”ではなく“投資”と捉え、働く人の心身の健康を組織の生産性や成長力に結びつける経営手法。

その取り組みを客観的に評価し、社会的に認知される仕組みが「健康経営優良法人認証」です。

この認証の取得は、単なる「称号」ではありません。人材定着率の向上、採用競争力の強化、地域からの信頼獲得――そして何より、持続可能な経営基盤の確立へとつながる、訪問看護経営の新しい成功モデルなのです。

本コラムでは、健康経営への実践的な取り組み方と、「健康経営優良法人認証」の取得がもたらす具体的な効果、そして訪問看護ステーションにおける真の価値について掘り下げていきます。

訪問看護ステーションが直面する6つの経営課題

――いまこそ“人を中心とした経営”への転換を

「健康経営」を実践するためには、まず“人材”という視点から自社の課題を見直すことが欠かせません。

訪問看護ステーションの経営を支えるのは「人」であり、スタッフ一人ひとりの健康・意欲・安心が、そのまま事業の持続力につながります。

ここでは、いま多くのステーションが直面している主要な課題を整理しながら、経営の転換点となるヒントを探ります。

1．人材の確保と定着 ― “安心して働き続けられる職場”づくり

「人が集まらない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」。

そんな声は、全国の訪問看護ステーションに共通する課題です。

人材を確保し、定着させるためには、スタッフの心身の健康を守る仕組みを軸に、

といった施策を一体的に進めることが重要です。

「安心して長く働ける環境」は、最大の人材戦略です。

2．多様な価値観とエンゲージメントの両立

訪問看護の現場では、働くスタッフの背景も価値観も多様です。

子育てや介護と両立する人、キャリアアップを目指す人、ワークライフバランスを重視する人――。

それぞれが自分らしく力を発揮できる環境づくりが、組織の成長に直結します。

「訪問件数をこなすだけ」で疲弊するのではなく、やりがいを感じながら健康的に働ける体制の整備が不可欠です。

多様な価値観を尊重し、互いを認め合う文化を育てること。それが、エンゲージメント（働く意欲と満足度）を高め、離職を防ぐ最も確実な方法です。

3．“任せる”と“指示する”のバランス ― 管理者の葛藤

管理者にとって、「どこまで指示すべきか」「どこから任せるか」は常に悩ましい問題です。過干渉でも放任でもなく、スタッフが安心して自律的に動ける環境を整えることが重要です。

たとえば、

こうした工夫が、現場力の底上げにつながります。

4．ストレス対策と心理的安全性の確保

「意見を言っても無駄」「どうせ聞いてもらえない」――。

そうした不信感が職場に広がると、ストレスは一気に高まります。

スタッフが安心して声を出せる仕組みを整えることが、心理的安全性を守る第一歩です。
たとえば、

これらが、メンタルヘルスケアにも直結します。

また、2024年5月の労働安全衛生法改正により、50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務化される見込みです（公布後3年以内に施行予定）。

今後は、事業規模にかかわらずスタッフのストレス兆候をどう把握し、どう支えるかが重要な経営課題となります。

▶ 参考：厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」

5．スタッフに“経営者視点”を育む

訪問看護の現場では、一人で判断・対応する機会が多く、スタッフの行動がステーションの評価に直結します。

そのため、単なる「雇われスタッフ」ではなく、「自分の判断や行動がステーションの経営につながっている」という意識を育むことが大切です。

情報共有の透明化や、成果を“見える化”する仕組みを整えることで、スタッフ一人ひとりが経営参画の意識を持ちやすくなります。

6．資金繰りと経営の持続可能性

訪問看護経営の永遠のテーマが「資金繰り」です。
請求から入金までのタイムラグが長く、運転資金が逼迫しやすい構造にあります。

さらに、需要増に合わせた増員や教育投資は、短期的には人件費の先行負担を伴います。

人材確保・育成と財務安定をどう両立させるか――。
これは多くのステーションに共通する最重要課題です。

健全な経営とは、健康な組織づくりから始まる。
その視点こそが、次の成長段階へ進む訪問看護経営のカギとなります。

健康経営とは――“人の健康”を経営の力に変える戦略

「健康経営」とは、従業員の健康を単なる福利厚生ではなく、企業の重要な経営資源として捉え、経営戦略の一部として実践する考え方です。

従業員が心身ともに健康で、安心して力を発揮できる環境を整えることは、結果的に組織全体の生産性向上・離職防止・成長の持続につながります。

つまり、「人の健康」がそのまま「経営の健康」を支えるのです。

この取り組みを後押ししているのが、経済産業省と日本健康会議が推進する「健康経営優良法人認定制度」です。

従業員の健康づくりや職場環境の改善に積極的に取り組む法人を「健康経営優良法人」として認定し、社会的に高く評価する仕組みとして注目されています。

▶ 参照：経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課『これからの健康経営について』

なぜ、いま「健康経営」が求められているのか

現代の職場では、従業員の健康を脅かすリスクが年々高まっています。

長時間労働、人手不足、業務のデジタル化による負担増、コミュニケーションの希薄化――。

これらが重なり、過労やストレス、生活リズムの乱れが深刻化しています。

その結果、心身の不調による離職や休職が増え、生産性の低下、モチベーションの低下、組織力の衰退を招いています。

もはや、これは「個人の問題」ではなく、経営そのものに直結するリスクです。

こうした背景から、いま企業や事業所に求められているのは、「健康管理＝コスト」ではなく、「健康投資＝経営戦略」という視点です。

従業員の健康づくりに取り組むことで、

といった多方面の効果が生まれます。

訪問看護ステーションにおいても、スタッフ一人ひとりの健康と活力が、サービスの質と経営の安定性を支えています。

まさに「健康経営」は、“人を大切にする経営”を実現する最前線の取り組みなのです。

訪問看護ステーションで実践できる！健康経営の具体的な取り組み

訪問看護ステーションの“質の高いサービス”は、スタッフ一人ひとりの健康から生まれます。

疲労やストレスを抱えたままでは、パフォーマンスだけでなく離職率にも影響します。

ここでは、スタッフの心身の健康を守りながら、職場全体の活力を高めるための実践例をご紹介します。

（1）生活習慣の改善支援

―― 日々の健康管理を「組織ぐるみ」でサポート

（2）メンタルヘルス対策

―― 「話せる・支え合える」職場づくりを

（3）働き方改革・ワークライフバランス

―― 「働きやすさ」が人を育て、組織を守る

（4）感染症対策・健康管理

―― 医療従事者としての「健康リスク対策」

（5）健康経営文化の醸成

―― “健康を大切にする職場”を組織文化に

こうした一つひとつの取り組みが、スタッフの笑顔や活力を生み出し、それが結果的に「利用者満足度の向上」や「経営の安定化」へとつながります。

健康経営とは、まさに「人を大切にする経営の原点」なのです。

健康経営優良法人認定の取得で、“選ばれるステーション”へ

〜信頼と人材を呼び込む新しい経営戦略〜

従業員の健康を「経営の資源」として捉える――それが“健康経営”の考え方です。

スタッフが心身ともに健康であることは、サービスの質や職場の安定につながり、結果的に経営の持続力を高めます。

この健康経営を実践し、社会的にも評価される仕組みが「健康経営優良法人認定」です。

とくに訪問看護ステーションのような中小規模法人にとっては、社内の体制を整えつつ、採用・信頼・安定経営の三拍子を強化できる有効な手段といえます。

ここでは、認定の種類や取得手順、そして認定がもたらす具体的な効果をわかりやすく解説します。

（１）認定の種類と対象

健康経営優良法人制度は、企業の規模に応じて次の2つに分かれます。

▶ 参照：経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課『これからの健康経営について』

特に中小規模法人部門では、優れた取り組みを行う上位500法人が「ブライト500」として表彰され、地域や業界内での高い評価を得ています。

（２）認定取得のステップ

（３）認定取得による主な効果

健康経営優良法人の認定は、“名誉”ではなく“戦略”です。

従業員の健康を守りながら、組織の信頼とブランド価値を高める――それが、これからの訪問看護経営に求められる新しいスタンダードです。

訪問看護ステーションが健康経営と認証取得で経営課題を解決する意義

〜人材・組織・経営の三位一体で未来を拓く〜

訪問看護ステーションが健康経営に取り組み、さらに健康経営優良法人認証を取得することは、単なる称号獲得に留まりません。

それは、これまで課題とされてきた人材・組織・経営上の問題を、具体的かつ戦略的に解決する手段でもあります。

1. 人材確保と定着の強化

健康経営の取り組みにより、スタッフの心身の健康を守り、働きやすい環境を制度として明文化できます。
理念の共有、柔軟な勤務制度、キャリア支援の仕組みを整えることで、スタッフは安心して長く働くことが可能に。

認証取得は、こうした取り組みを客観的に示す証拠となり、採用力や定着率の向上に直結します。

2. 多様な価値観とエンゲージメントの向上

子育てや介護と両立したいスタッフ、専門性を高めたいスタッフなど、様々な働き方を尊重する環境づくりを後押しします。

心理的安全性やメンタルヘルス支援の仕組みを明確化することで、スタッフが安心して意見を出せるようになり、働く意欲や組織文化の向上につながります。

3. 業務の自律性と指示の最適化

マニュアル整備や判断基準の提示、フィードバック体制の構築など、健康経営の取り組みはスタッフの自律性を支える仕組みとしても機能します。

その結果、管理者は指示の出し方に迷うことが減り、スタッフは安心して主体的に判断・行動できる職場環境が整います。

4. メンタルヘルスとストレス対策の充実

認証取得に向けた健康管理体制の整備は、ストレスチェック、カウンセリング、心理的安全性の確保など、メンタルヘルスの実効性を高めます。

スタッフが心身ともに健やかに働ける環境は、離職率の低下やサービス品質の向上にも直結します。

5. 経営者視点の醸成と組織の持続性

健康経営を社内制度として整えることは、スタッフに経営視点を育む教育の土台となります。

「自分の行動がステーションの評価や経営に直結する」という意識が浸透することで、組織全体の判断力・責任感が向上し、経営の安定化にもつながります。

6. 資金繰りや経営の安定化

認証取得は、スタッフの健康維持による生産性向上や離職防止に加え、金融機関や自治体による各種インセンティブの活用も可能にします。

これにより、人材確保や組織拡大を進めながら、資金繰りの安定化や経営リスクの低減を実現できます。

健康経営と健康経営優良法人認証は、単なる制度や称号ではなく、訪問看護ステーションが抱える課題を解決し、未来の成長を支える戦略的ツールです。

これからのステーション経営では、スタッフの健康と組織の信頼を両立させる取り組みが、成功のカギとなります。

訪問看護ステーションが健康経営を推進し、認証取得を実現する5年間のロードマップ

訪問看護ステーションは、地域医療に欠かせない存在である一方、人材不足や離職率の高さ、サービス品質維持などの経営課題に直面しています。

これらの課題を解決し、組織の持続的な成長を実現するために有効なのが、従業員の健康を経営資源として戦略的に活用する「健康経営」です。

健康経営の取り組みを可視化し、外部から評価される制度として「健康経営優良法人認証」があります。

ここでは、訪問看護ステーションが5年間で健康経営を定着させ、認証取得を実現するための具体的なステップをモデルケースとして示します。

◆1年目：基礎整備と意識醸成

◆2年目：認証申請と施策強化

◆3年目：施策の定着と効果測定

◆4年目：組織文化の強化

◆5年目：認証取得後の定着と地域信頼の獲得

この5年間のロードマップは、訪問看護ステーションが人材確保・定着・サービス品質の向上・地域信頼の獲得を同時に実現する道筋を示しています。

健康経営を戦略的に進め、認証取得を目指すことは、組織の未来を支える最強の経営ツールとなるのです。

さいごに

訪問看護ステーションのさまざまな経営課題は、言い換えればすべて人材に関わる課題です。

健康経営は、スタッフ一人ひとりの心身の健康を守りながら、働きがいや成長を支える仕組みとして機能します。これにより、採用力の向上、定着率改善、組織の活性化、ブランド力強化など、経営課題の解決に直結します。

さらに、健康経営優良法人認証の取得は、単なる称号ではなく、取り組みを可視化して外部に示す手段です。

これにより、地域医療機関や求職者、取引先からの信頼を高めることができます。認証取得を目標に健康経営施策を体系化・定着させることで、スタッフの定着率やサービス品質の向上、そして経営の安定化を同時に実現できます。

つまり、健康経営と認証取得は、未来の訪問看護ステーションを支える土台であり、人材の確保・育成と組織の持続的な成長を両立させる、戦略的な手段と言えるのです。