成長機会の提供が訪問看護ステーションを強くする~スタッフのモチベーションと定着率の向上を実現する方法

訪問看護ステーションが組織力を強化し、更なる発展のためには、人材の成長が不可欠です。そのためには、組織が戦略的にスタッフに成長機会を提供することが重要です。

本コラムでは、「成長機会」をテーマに、訪問看護ステーションがスタッフに提供する具体的な成長機会の重要性や実践例を通して、スタッフのモチベーション向上とステーションの競争力強化に向けた方法をご紹介します。

目次

成長機会とは

組織がスタッフに提供する成長機会は、従業員の職業上の向上を目指して努力する継続的なプロセスを促進するために重要な要素です。これには、業務レベルの向上や新しいスキル・知識の獲得などが含まれます。従業員が自らの能力を高め、キャリアアップや専門性の向上を達成するために、組織はさまざまな成長機会を提供する必要があります。

成長機会の提供は単なる個人の成長だけでなく、組織全体の利益にもつながります。従業員が成長することで、組織はより高い付加価値を顧客に提供できるようになります。顧客満足度が向上し、競争力が強化されることで、企業の成功に寄与することが期待されます。

訪問看護師における成長機会の具体例

では、訪問看護ステーションにおいてスタッフの「成長機会」とは具体的にどのような機会を指すのでしょうか。以下に解説します。

(1)これまでとは異なる環境下でのパフォーマンス向上

訪問看護では、営業件数や訪問件数などこれまで働いていた病院では、必要とされなかった成果を求められます。新しい環境に適応し、営業件数や訪問件数などのパフォーマンスを向上させることが成長機会となります。地域のニーズや新しい利用者層に対応することで、看護師のスキルやコミュニケーション能力が向上します。

(2)これまでよりレベルの高い業務を担当する

特定の疾病や重症度が高い利用者への対応など、より高度な業務を担当することも成長機会です。これにより、看護師はより専門的なスキルや知識を習得し、より複雑なケースに対処する能力が向上します。

(3)経験のない業務を行うための研修

精神訪問看護やターミナルの利用者に対応するための研修を受けることで、看護師は新しい領域でのスキルを身につける機会を得ることができます。これにより、看護師の業務範囲が拡大し、より幅広い利用者に対応できるようになります。

(4)OJTや研修での学びを業務で実践する

研修やOJTで学んだ知識や技術を実際の業務で実践することが重要です。実践を通じて、看護師はインプットしたことをアウトプットに変えることでスキルを習得し、問題を発見して改善する能力を高めることができます。実務を通じた経験は理論だけでは得られない実践的な知識となります。

これらの成長機会により、訪問看護師は専門性を高め、より幅広い業務に対応できるようになります。組織はこれらの成長機会を提供することで、看護師のモチベーションを向上させ、高いレベルのケアを提供できるプロフェッショナルを育成することが期待されます。

なぜ、訪問看護ステーションにとってスタッフへの成長機会の提供が必要なのか

スタッフにとっても、組織にとっても、スタッフの成長やスタッフの育成は重要です。 ここでは、訪問看護ステーションにとってスタッフへの成長機会の提供が不可欠である主な理由を説明します。

(1)スキルアップ

スタッフが高品質で専門的な看護やリハビリを提供するために必要な新しいスキルや情報を習得することができます。従業員の成長をサポートすることで、組織は適応力や成長に対応できる能力を向上させることができます。

(2)定着率を高め離職を防ぐ

スタッフが成長する機会を提供することで、仕事のやりがいや社員の定着率が高まります。スキルアップのための明確なキャリアパスが存在すると、スタッフはより長期間組織に留まり、自らのスキルや知識を活かすことができます。

(3)従業員エンゲージメント(組織に対する愛着心)の向上

成長の機会があると、スタッフはより積極的に取り組む傾向があります。自己成長と仕事の進展に対する明確な関連性を感じることで、従業員のモチベーションが高まり、組織への愛着心が増します。

(4)パフォーマンスの向上

スタッフの成長はサービスの質や効率に直結します。新しいスキルを身につけることで、スタッフは担当業務に熟練し、生産性や効率性が向上します。スキルアップによりモチベーションが高まり、より質の高い仕事やイノベーションが生まれることで、組織のパフォーマンスが向上します。

(5)次期リーダー候補の育成

スタッフの育成は将来のリーダーを特定し、育成するために重要です。組織は内部から人材を育成し、リーダーシップパイプラインを構築することで、将来のリーダーの確保や重要な役割の移行をスムーズに行うことができます。

訪問看護ステーションにおけるスタッフの成長機会を妨げる要因

訪問看護ステーションにおける成長機会を妨げる要因には、スタッフ自身の意識の問題だけでなく、ステーション側が適切なタイミングで成長機会を提供できていない場合もあります。

以下では、スタッフの成長機会を妨げる要因について解説します。

(1)訪問看護の仕事の意義や目的を教えていない

訪問看護の仕事の意義や目的がスタッフに伝わらない場合、業務を単なる作業としてこなす傾向が生じます。スタッフは課題への理解が薄くなり、自己成長の機会を見落とす可能性が高まります。スタッフが仕事の意義を理解するためには、ステーションの目標や使命を明確に伝えることが重要です。また、業務の意義を理解した上で、スタッフに課題の明確化や解決策の考え方を教えることで、成長機会を提供できます。

(2)看護師としての新たなチャレンジの機会を与えていない

成長のためには新しいチャレンジを経験することが重要ですが、スタッフに新しい業務やプロジェクトに挑戦する機会を提供していない場合があります。スタッフは自らのスキルや知識を高めるために新しい領域に挑戦する機会を求めています。訪問看護ステーションはスタッフに多様な業務やプロジェクトへの参加の機会を提供し、成長の機会を増やすことが重要です。

(3)適切なアドバイスができていない

スタッフが課題や成長のために相談する機会があるにもかかわらず、適切なアドバイスを提供できていない場合があります。スタッフは成長するためには適切な指導やフィードバックが必要です。管理者や上司はスタッフとコミュニケーションを図り、アドバイスを提供することで成長をサポートすることが重要です。

(4)管理者がスタッフの個の成長まで見る余裕がない

管理者がスタッフの成長まで見る余裕がない場合、スタッフの個々のニーズや成長に対応することが難しくなります。成長をサポートするためには、管理者がスタッフとの個別面談や目標設定を行い、スタッフの成長に合わせたサポートを提供することが重要です。管理者はスタッフのモチベーションを高め、成長機会を促進するリーダーシップを発揮することが求められます。

訪問看護ステーションにおいて成長機会をスタッフに持たせるため必要なアプローチ

では、訪問看護ステーションにおいてスタッフに成長機会を与えるには、どのような方法をとればいいのでしょうか。

(1)本人のキャリアや志向を理解しアドバイスする

スタッフのキャリアや志向を理解するために、密度の高いコミュニケーションを行うことが重要です。個別の面談やフィードバックセッションを通じて、スタッフが自ら成長したい方向や興味を持っている分野を把握します。その上で、スタッフがどのように成長し、組織に貢献していきたいのかを共に考え、適切なアドバイスを提供します。

(2)スタッフ本人に目標を設定させる

スタッフのモチベーションを高めるためには、スタッフ自身が自らの成長に向けて目標を設定することが重要です。目標設定にはスタッフを巻き込み、共感しやすい目標を探り出すことが望ましいです。訪問看護の評価には、訪問件数や訪問時間、オンコール回数や緊急呼び出しの実働時間など、訪問看護特有の評価指標を踏まえて、スタッフ本人が達成しやすい目標を設定します。

これらのアプローチにより、スタッフは自らの成長に向けて意欲的に取り組むことができます。また、スタッフが自分の成長に対して主体的に考えることで、より熱意を持って仕事に取り組み、成長機会を活かすことができるでしょう。

訪問看護ステーションがスタッフに成長機会を提供する具体的な手法

さいごに訪問看護ステーションがスタッフ成長機会を提供するために必要な具体的な手法についてご紹介します。

(1)組織としてのストレッチ目標を明確にする

ストレッチ目標とは、「もう少し頑張れば実現できる程度の難易度に設定された目標」のことを指しますがステーションとして、スタッフに挑戦的で成長を促すストレッチ目標を設定することは、非常に重要です。

例えば、訪問件数の増加や新規利用者の獲得、新事業所の出店などの目標を設定することで、スタッフは自らのスキルを高め、成果を上げるための動機付けが生まれます。

(2)メンター制度の実施

経験の浅いスタッフに対して、メンター制度を導入することで成長をサポートします。メンターとして、経験豊富な先輩スタッフが若手スタッフに対して指導やアドバイスを行います。これにより、若手スタッフは仕事の意義や目的を理解し、自己成長に向けた意欲を高めることができます。

(3)メンタルヘルスマネジメントの実施

スタッフのメンタルヘルスを重視し、職場環境の改善やストレス緩和を行うことで、心の健康をサポートします。メンタルヘルス不調者が増えると、スタッフのパフォーマンスや生産性が低下する可能性があるため、ステーションはメンタルヘルスマネジメントに注力する必要があります。心の健康をサポートすることで、スタッフが成長しやすい職場環境を作り出します。

これらの手法を組み合わせることで、訪問看護ステーションはスタッフの成長機会を促進し、スタッフのモチベーションやパフォーマンスを向上させることができます。スタッフの成長は組織全体の発展につながるため、積極的に成長機会を提供することが重要です。

まとめ

スタッフの成長機会の提供は、訪問看護ステーションの組織力を強化し、未来の発展に向けた重要な要素となります。本コラムでは、「成長機会」をテーマに、具体的な成長機会の重要性やスタッフのモチベーション向上に寄与する手法を探求しました。

訪問看護師における成長機会の具体例として、継続的な学習プログラムやメンター制度の充実、ストレッチ目標の設定などが挙げられます。スタッフが成長し、専門性を高めることで、組織の評判や信頼性が向上し、ステーションの競争力を強化できるでしょう。

一方、スタッフの成長機会を妨げる要因にも目を向けました。組織はスタッフの個別のキャリア目標を理解し、適切なアプローチで成長を促すことが必要です。フィードバック文化の醸成やメンター制度の強化など、スタッフの成長をサポートする環境整備も欠かせません。

結果として、スタッフの成長機会の提供は、モチベーション向上や定着率の向上に繋がり、訪問看護ステーションの強さと持続的な成功につながるのです。スタッフの成長に投資することで、ステーションはより質の高いケアと顧客満足を提供し、さらなる飛躍を遂げることができることでしょう。