訪問看護は、高齢者や障害者の方々が1日でも長く在宅生活が継続できるように病院との連携を基盤に訪問看護を提供することを目的としています。
そのため、訪問看護の初回訪問では、医療や看護師の視点だけでなく利用者の暮らし全体をアセスメントしていきながら利用者と家族の願いや状況を的確に把握し、質の高いケアを提供するための手法やアプローチしていく必要があります。
本コラムでは、訪問看護師の初回訪問において訪問看護師が心得るべきポイントについてお伝えしていきます。
訪問看護の初回訪問とは?
訪問看護の初回訪問は、今後の看護ケアの舵取りとなる重要なステップです。特に在宅療養の場合、利用者のこれまでの生活経験や価値観を敏感に捉え、その人らしさを尊重した看護介入が求められます。
実際の療養環境を確認するとともに療養者や家族とこれからのケアについて話し、それぞれの希望、思いを丁寧にお聞きすることが重要です。
ただ「こうすればよいのでは。」と看護師の視点だけで提案するのではなく、看護師の知識と患者・家族の価値観を組み合わせて、最適な提案を行うことが必要です。
その際には、適切なタイミングを見計らって患者や家族の価値観を尊重し、共に進む方針を確認することが欠かせません。
利用者の暮らし全体をアセスメントするための4大要因
初回訪問では、以下の4大要因に注意して利用者の暮らし全体をアセスメントすることが重要です。
(1)身体的要因
訪問看護の初回訪問において、「身体的要因」は重要なアセスメントの一環となります。これは利用者の暮らし全体を理解し、適切なケア計画を策定する上で欠かせない要素です。
まず、「基礎疾患とその経過」に関する情報収集が重要です。利用者の既往症や現在の健康状態を把握し、その疾患がどのように進行しているかを確認します。これにより、現在の健康状態や今後のリスクを把握し、適切な予防策や対応策を考えることが可能となります。
次に、「要介度」や「ADL(日常生活動作)」の評価が重要です。利用者が日常生活を行う上でどの程度の支援が必要なのかを評価し、その影響を理解します。要介度の評価によって、介助やケアのレベルを決定することができます。また、ADLの評価によって、利用者の自立度や生活の質を把握し、適切な支援を提供するための方針を考えることができます。
さらに、「今後起りうる疾患など」も考慮します。利用者の健康状態や既往歴、生活習慣などを元に、将来的に起こりうる健康問題やリスクを予測し、予防策や対応策を立てることが重要です。これにより、将来の健康管理や予防の方針を確立することができます。
身体的要因の評価は、利用者の健康状態や生活の実態を的確に把握するために不可欠です。これらの情報を元に、適切な看護介入やケア計画を策定し、利用者が健康で快適な生活を送るためのサポートを提供することが訪問看護の目的となります。
(2)生活環境
訪問看護の初回訪問において、「生活環境」のアセスメントは、利用者の暮らしを包括的に理解し、適切なケアプランの策定に欠かせない要素です。
まず、利用者の「介護用品の適切な活用」を評価します。利用者が必要とする介護用具や補助具が適切に配置され、正しく利用されているかを確認します。これにより、利用者が安全かつ快適に日常生活を送るための環境整備が行われているかを把握することができます。
次に、「室内環境におけるリスク」を考慮します。居室内の状態や配置、生活動線などを評価し、転倒や怪我などのリスクがある場合には適切な対策が講じられているかを確認します。室内の安全性や利用者の移動のしやすさなどを考え、リスクマネジメントを行うことが重要です。
さらに、「本人にとっての愛着や快適さ」を尊重します。利用者の好みやライフスタイルに合った生活環境が整備されているかを確認します。療養者自身が快適さや心地よさを感じる環境が整えられていることは、心身の健康維持に寄与する重要な要素です。
これらの要因を考慮して、「生活環境」のアセスメントを行います。利用者の日常生活における安全性、快適さ、そして心地よさを保つために、介護用品の適切な配置や利用、室内のリスク管理、個々の好みやライフスタイルに合った配慮が行われているかを確認し、適切な支援を提供するための方針を立てることが訪問看護の一環となります。
(3)心理的要因
訪問看護の初回訪問において、「心理的要因」のアセスメントは、利用者の健康と幸福に対する重要な視点を提供し、適切な看護ケア計画の立案に欠かせません。
まず、「抑うつ、孤独感などの有無」を確認します。利用者が抑うつ症状や孤独感を抱えている場合、これが身体的な健康にも影響を及ぼす可能性があります。心理的な健康状態が悪化することで、体調の変化や治療への取り組みに支障をきたすことがあるため、適切なサポートが必要です。
次に、「周囲への関心度・感情の起伏」を考慮します。利用者が周囲の人々や社会との交流や関心を維持しているか、また感情の安定度に留意します。これらの要因は、心理的な健康に影響を及ぼす可能性があり、健康状態や生活の質に関与することがあります。
また、「介護者に対する思いなど」も重要です。利用者が介護者への感情や思いをどのように抱いているかを理解することで、ストレスや負担の軽減、コミュニケーションの改善が図れます。介護者に対する感情が適切でない場合、その影響が利用者の健康状態に影響を及ぼすことがあります。
心理的要因のアセスメントは、利用者の心理的な健康状態を評価し、適切な支援を提供するために不可欠です。利用者の抑うつ症状や孤独感、感情の起伏などを把握し、適切なアプローチを通じて心理的な健康を促進し、病状の進行や治療に悪影響を及ぼすリスクを低減することが訪問看護の目的となります。
(4)家族の介護力
訪問看護の初回訪問において、「家族の介護力」のアセスメントは、利用者のケアの中核を担う家族のサポートやリソースを評価し、適切なケアプランを構築する上で欠かせない要素です。
まず、「日中に居宅できる人の有無」を確認します。利用者が日中に一緒に過ごす家族がいるかどうかは、ケアの連続性や安心感に大きな影響を及ぼします。家族の存在がある場合、その人が利用者の健康状態やニーズをどの程度把握し、ケアを提供できるかを考慮します。
次に、「日ごろの観察力、ケアの能力」を評価します。家族が日常生活の中で利用者の様子や健康状態を適切に観察し、必要なケアを提供できるかどうかを確認します。例えば、服薬管理や症状の変化の察知、基本的な医療処置などの能力が重要です。
また、「家族自身のヘルスケア」も考慮します。家族が自身の健康管理を適切に行っているかどうかは、ケア提供の持続性や家族の負担軽減に影響を与えます。健康な家族が利用者を支えることができるため、家族のヘルスケア状態も重要な要因となります。
さらに、「療養者への思いなど」を理解します。家族が利用者に対する思いや希望、関わり方を把握することで、適切なケアプランの策定に役立ちます。家族が利用者に対する愛情やサポートの意向を正しく理解し、それに合致したケアを提供することが重要です。
家族の介護力のアセスメントは、利用者のケア全体を俯瞰する上で不可欠な要素です。家族の支援の有無や能力、療養者との関係性を評価し、家族と連携しながら適切な看護介入を行うことで、利用者の健康と幸福をサポートする方針を確立することが訪問看護の一環となります。
療養者だけでなくキーパーソンとの顔合わせも重要
最初の訪問時には、療養者だけでなく、特にキーパーソンとの顔合わせが重要です。キーバーソンとは、療養方針に強い影響を及ぼす人物のことを指します。同居する介護者だけでなく、遠くに住む家族の場合もあります。
あいさつが終わったら、抱えている課題や訪問看護師にお願いしたいことなどを丁寧に聞き、ケアの方向性や目標を共有します。急な変化にどう対処するかについても確認しておきましょう。
療養者や家族は、不安やストレスを抱えています
初回訪問においてもうひとつ重要なのは、療養者とその家族に安心感を提供することです。療養者と家族は、不安やストレスを抱えている状況です。
これを理解し、私たちが支援に訪れることで「安心感が生まれる」と感じてもらうことが、信頼関係を築くための第一歩です。また、関与するスタッフの職種や役割を明確に説明し、それぞれの責任分担や家族との連携を明確にしておくことも大切です。
療養者と家族の意向が一致するとは限らない
看護師が直面する倫理的ジレンマには、「患者、その関係者、医療スタッフの異なる価値観や判断から生じる問題」が含まれますが、訪問看護や在宅療養においても同じことが言えます。
在宅療養において最も重要なことは、療養者と家族が「どのような生活を望むか」ということです。しかし、療養者と家族の間でその願望が異なることは珍しいことではありません。
円滑な在宅療養のためには、異なる意向を調整することが望ましいとされますが、家族の形態は多様です。
関係は長い年月をかけて築かれています。外部の介入で簡単に調整するのは難しいことです。
療養者には療養者の、家族には家族独自の生活と価値観が存在します。
訪問看護師が強引に意見を変えようとすることは、むしろ対立を引き起こす可能性があります。
家族が「施設に入れるべき」と言うなら、「その通りですね、毎日大変ですから」と共感し、在宅を望む療養者には「その通りですね、ご自宅がいいですよね」と理解の意を示すことが効果的です。
このような状況では、ベテランの訪問看護師でも悩むことがあります。状況が変わると感情も変わることがあります。一人で悩まず、上司や先輩に相談しながら、適切な対応を検討しましょう。
家族の希望と状況をつかむ、4つの質問例
さいごに利用者の家族の希望と状況をつかむための4つの質問例をご紹介します。
訪問看護の初回訪問において、利用者と家族の希望や状況を理解するための以下の4つの質問は、重要な情報を得る手段となります。
Q1: 訪問看護師に望むことは何ですか? そのうち、とくに優先したいことはどれでしょう?
この質問によって、家族がどのような看護ケアや支援を期待しているか、またその中で優先順位が高いケアニーズを把握することができます。家族の期待するケア内容や優先事項を理解することで、適切なケアプランの策定が可能となります。
Q2: これまでの介護生活でいちばん困ったこと、大変だったことは何ですか?
この質問によって、現在の課題や難しい状況、介護者としての負担を把握することができます。家族が過去に経験した困難や課題を共有することで、現在の状況や将来のケアプランにどのように対応すべきかを考える助けとなります。
Q3: 介護をされているなかで、これがよかったうまくいったということがあれば、私たちにも教えてください。
この質問は、家族の介護経験から学んだ成功例や良い経験を共有することを促すものです。これによって、家族の介護方法やアプローチを理解し、その中で有益な情報やアイディアを得ることができます。
Q4: 介護で悩むこと、困ったことがあったとき、どなたに相談されていますか?
この質問によって、家族が介護に関する悩みや困難をどのように乗り越えようとしているかを知ることができます。家族が信頼している人やサポートを求める相手を理解することで、適切なサポート体制を構築する上での情報となります。
これらの質問は、訪問看護師が利用者と家族とのコミュニケーションを通じて、具体的なニーズや課題を把握し、適切なケアプランを提供するための貴重な手段となります。
まとめ
訪問看護の初回訪問において心得るべき要点は、利用者と家族の願望や状況を正確に把握し、質の高いケアを提供することです。
このステップは、高齢者や障害者の方々が在宅での生活を維持するための支援を担うものであり、医療機関との協力が不可欠です。医療や看護の専門知識に加えて、利用者の暮らし全体をアセスメントし、四大要因を考慮することが重要です。
初回訪問でのキーパーソンとの顔合わせや、療養者や家族の心理的側面への理解も欠かせません。家族の希望や状況をつかむための質問は、適切なケアプランの構築に役立つ情報を提供します。
訪問看護師は、これらの要点を踏まえ、信頼関係を築きながら、よりよい在宅療養の実現に尽力していくことが求められます。
今回の記事が、訪問看護に興味を持つ看護師の方々にとって有益な情報となれば幸いです。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護
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