訪問看護ステーションのサービスの4つの特性と質を高めるポイント

訪問看護を利用する利用者数の増加と同時に、訪問看護ステーション数も増加しています。現在、優れた訪問看護サービスを提供していても、他のステーションがさらに良いサービスを提供する可能性があります。

競争が激化する中で、「選ばれるステーション」として地域での存在感を維持するためには、サービスの質を常に向上させることが非常に重要です。

このコラムでは、訪問看護ステーションが提供する「サービス」とは具体的に何を指すのかについて再考し、その重要性を探求していきます。

サービスの4つの特性

まず最初にサービスマーケティング理論やサービス経済学に基づいて定義された「サービスの4つの特性」について解説します。

【特性1】サービスの形がない(無形性)

サービスは物理的な形を持たず、触れたり所有したりすることができません。

【特性2】生産と消費が同時に起きる(生産と消費の同時性)

サービスは、提供者がサービスを生産する過程と顧客がそれを消費する過程が同時に行われます。

【特性3】結果だけでなく過程も重要(結果とプロセスの等価的重要性)

サービスの価値は、単に結果だけでなく、その提供過程や経験における品質や満足度にも影響されます。

【特性4】顧客と共同で作られる(顧客との共同生産)

サービスは提供者と顧客との間で共同して創り上げられる特性を持ちます。

これらの4つ特性は、サービス業や訪問看護サービスの特質を理解し、適切な提供方法や品質向上策を考える上で重要な観点となります。

では、この4つのサービスの特性を訪問看護が提供するサービスに当てはめて詳しくみていきます。

【特性1】訪問看護のサービスには形がない

訪問看護ステーションのサービスは、無形性という特性を持っています。

(1)利用者が事前にその内容や質をチェックすることが困難である

訪問看護ステーションのサービスは、利用者が事前にその内容や質を完全に把握することが難しいです。利用者は訪問看護ステーションに依頼する前に、具体的な看護サービスの提供内容や看護師のスキルや経験について完全に理解することはできません。

(2)利用者が実際にサービスを受けてみるまで、そのサービスが何たるかを評価できない

訪問看護ステーションのサービスは、利用者が実際に受けてみるまで、そのサービスが具体的に何を提供しているのかを完全に理解することができません。訪問看護の場合、利用者が自宅や施設で看護師に訪問してもらい、直接看護や健康管理のサポートを受けることになります。しかし、具体的なサービス内容や看護師のスキルやアプローチ方法は、実際に利用してみなければ評価することができません。

(3)実際に訪問看護のサービスを受けた後も、評価が定まらないこともある

訪問看護ステーションのサービスを受けた後も、利用者の評価が完全に定まらない場合があります。これは、訪問看護の結果や効果が直接目に見えるものではなく、病状や健康状態の改善が時間を要する場合があるためです。また、利用者の主観的な感じ方や期待によっても評価が異なることがあります。

以上のように、訪問看護ステーションのサービスは無形性の特性を持っています。利用者は事前のチェックや評価が困難であり、実際に受けた後でも評価が定まらないことがあるという点に留意する必要があります。

【特性2】訪問看護のサービスは、生産と消費が同時に起きる

訪問看護サービスの特徴的な点は、利用者がサービス提供の対象である場所に同時に存在していなければならないということです。

訪問看護師は利用者の自宅や施設に直接訪問し、看護や健康管理のサービスを提供します。そのため、利用者が訪問看護師の訪問を待ち、訪問時に現地でサービスを受ける必要があります。訪問看護の場合、訪問看護師と利用者が同じ時間と場所に存在することが重要な要素となります。

この生産と消費の同時性により、訪問看護ステーションは即時性の高いサービス提供を実現します。利用者が必要とする看護や健康管理のサービスを、訪問看護師が直接利用者のもとへ提供することで、迅速かつ適切なケアを提供することができます。

【特性3】訪問看護のサービスは、結果だけでなく過程も重要

訪問看護が提供するサービスは、利用者にとって提供プロセスから始まる体験とも言えます。

医師が治療行為によって「治す」という結果を出すのに対して、看護は回復していく過程に貢献しています。訪問看護師との関係性やコミュニケーション、個別化されたケアの提供など、サービスのプロセスにも品質が求められます。

利用者は病気の治癒だけでなく、サービス提供の過程での満足感や尊重された感じを重視し、全体的なサービスの品質を評価します。

重要な点は、「看護の体験」の部分で不満が生じると、病気が治ったとしても「サービスが悪かった」という評価になってしまう可能性があるということです。

訪問看護が提供するサービスにおけるプロセスの質が利用者の満足度や信頼度に大きな影響するというう点に留意する必要があります。

【特性4】訪問看護のサービスは、利用者と共同で作られる

訪問看護では、退院指導や栄養指導、リハビリテーションなどのサービスが提供されます。これらのサービスは、利用者が積極的に関与し、自身の健康や回復に向けて取り組むことで最大の効果を発揮します。

例えば、退院指導では、利用者が自宅でのケアや生活習慣の改善に取り組むことが求められます。訪問看護師は利用者に対して必要な情報や技術を提供し、適切な指導を行います。しかし、実際のケアや生活の実践は利用者自身が行う必要があります。利用者が指示やアドバイスに従い、自らの能力や意欲を活かして積極的に参加することで、退院後の結果が良好になる可能性が高まります。

同様に、栄養指導やリハビリテーションなどでも利用者の積極的な参加が重要です。栄養指導では、食事内容や食事の摂り方の改善が求められます。訪問看護師は利用者に対して適切なアドバイスや栄養プランを提供しますが、利用者自身が食事を選び、調理し、摂取することで効果が現れます。

リハビリテーションでは、利用者が運動やトレーニングを実施し、自身の体力や機能を改善することが重要です。訪問看護師は利用者をサポートしながら適切なリハビリテーションプログラムを提供しますが、利用者の積極的な取り組みが不可欠です。

このように訪問看護ステーションのサービスでは、利用者と訪問看護師が協力し、共同でケアを創り上げることで最良の結果が得られるのです。

訪問看護が提供するサービスにおいて留意すべき4つポイント

さらに訪問看護ステーションが提供するサービスにおいて訪問看護師は、以下の点にも十分に留意する必要があります。

一過性

訪問看護のサービスは、1回ごとに提供される一時的なものです。訪問看護師が一度訪問を終えると、同じような状況やケアの提供が完全に再現されることはありません。利用者の状態やニーズが異なるため、個々の訪問が固有のものとなります。

不可逆性

訪問看護のサービスは、提供されたケアや活動が一度行われた後に元に戻すことができません。例えば、訪問看護師が薬を投与した場合、その効果を取り消すことはできません。そのため、訪問看護では慎重さが求められます。

認識の困難性

サービスである訪問看護は、一般的には物質的な形を持たず、目に見える形ではないため、利用者や外部の人々にとって認識しにくいことがあります。訪問看護が提供される場面や活動は、目に見えないため、その価値や効果を正確に理解することが難しい場合があります。

品質のバラツキ性

訪問看護のサービスは、利用者ごとに個別化されたケアや支援が必要です。利用者の状態やニーズによって異なるため、サービスの品質にはバラツキが生じることがあります。それぞれの利用者にとって最適なケアを提供するために、訪問看護師は個別の評価や対応が必要とされます。

これらのポイントは、訪問看護ステーションのサービス提供において留意すべき重要な要素です。訪問看護師は、一過性や不可逆性を考慮しながら、利用者の個別性とニーズに適切に対応し、品質のバラツキにも柔軟に対応する必要があります。

まとめ

本コラムでは、訪問看護ステーションが提供するサービスの内容について考察しました。

地域から「選ばれるステーション」なっていくと考えらえます。
「選ばれるステーション」であり続けるためには、これらの特性やポイントを理解し、サービスの質向上に努めることが不可欠です。

今回の記事が訪問看護ステーションに従事される方々の一助になれば幸いです。