東京都八王子市にある訪問看護ステーション・クオーレ八王子の管理者、青柳裕士さん。大学病院や都立病院などで臨床経験を積んだという青柳さんは、どのような経緯で訪問看護ステーションを開業したのでしょうか。
ヤンチャだった青春時代から、看護師の道へ
私は看護師歴19年目で、現在は訪問看護ステーションの管理者をしています。訪問看護ステーションを開業する前は、大学病院や都立病院で臨床経験を積みました。このような経歴を話すと、私のことを「高尚な志を持って看護師になった人なんだろうな」と思われるかもしれませんが、実は全く違うんです(笑)。
あまり大きな声では言えませんが、10代の頃、私、相当ヤンチャしていたんです。18歳になったばかりの時に、いろいろとあって、自宅から外に出れない時期がありました。丁度その時期でした、母の知り合いの看護師さんが突然やってきて、その方の勤務先の老人保健施設に連れて行かれたんですよ。
そこでその方に「男なのに、何をやっているの!あなたの手は喧嘩をするためにあるんじゃない。人を助けるために使いなさい!今日から介護の仕事をしなさい」と一喝されたんです。
母も、私がちょうどくすぶっていた時期で、立ち直りのチャンスと思ったんでしょうね。(笑)
自分も何だか目が覚めて、19歳で看護学校に入学し、看護の道に入りました。
私を看護へ導いてくださった看護師の方は、その後も恩師として、看護師になってからも、未熟な私に本当にいろいろと、教えてもらいました。
持ち前のリーダーシップを活かして管理職へ
看護師の資格を取ってからは、大学病院や都立病院、民間病院の3か所で臨床経験を積みました。配属されたのは、高度救命救急センターやICUなどの急性期病棟です。そのほか、看護学生の実習指導や看護学校、介護ヘルパー学校の講師、災害医療などにも携わってきました。
看護師としてある程度経験を積むと、誰しもその先のキャリアが気になってきますよね。周りには認定看護師などになって専門性を高める看護師もいましたが、私は当時の師長に「青柳くんは男気があるから管理職をやるといい」と言われ、管理職のコースを進むことにしました。
実は、看護師として働いている中で、同僚の愚痴を聞いたり、相談を持ち掛けられたりしていたんですよ。あとは、みんなが嫌なことは、率先して私がやりますという姿勢でもいました。段々と信頼されるようになり、私は自然と「チームをまとめる」役割を担っていたようですよね。その後、民間病院に病棟とICUの看護師長としてスカウトされて転職したんですが、そこでもリーダーとしていかに部下の信頼を得てチームをまとめていくか、多くの経験を積みました。
看護観が180°変わった特養での経験
私はずっと急性期で仕事をしてきましたが、退院していった患者さんについて、「家に帰った後、ちゃんと療養できているのかなあ」と思うことがありました。「退院したらハイ終わり」じゃなくて、看護師として患者さんの退院後の生活も支えたい。頼りにして欲しいという思いをずっと持っていました。
そこで、思い切って特別養護老人ホームに転職することに。そこでのケアは、私の看護観を180°変えました。
これまでいた急性期病棟では、当然「医療」が最優先です。しかし、特養では「その人らしさ」や「生活」に重きが置かれます。
例えば、病院では、誤嚥のリスクがある患者さんが食事を十分に経口摂取できなくなったら点滴をしますよね。一方、特養では、食事の形状や介助方法などさまざまな工夫をして、できる限り口から食べられるようにサポートするんです。
長らく急性期にいた私には、ものすごい衝撃でした。当たり前が、当たり前じゃなかったというか。でも、ご本人も食事を食べたいという気持ちがありましたし、ご家族もお食事を食べているご利用者の姿をみて、喜んでいました。
口から食べることという、大切なことを私は、忘れていたんだと思ったんです。自分もこういう「人を活かす」ケアをしたいと思ったんです。これが、私が在宅医療に興味を持ったきっかけです。
高齢社会の抱える問題を肌で感じ、訪問看護ステーションを開業
皆さんもご存知かもしれませんが、特養は入居を希望しても、すぐには入れないことが多いんです。介護が必要なのに、施設に入居できる人数は限られているため、順番待ちをしなくてはなりません。その他にも、特養で働いていると、高齢社会の抱える問題点がたくさん見えてきます。
そのような現状を見て在宅看護の必要性を痛感し、訪問看護ステーションを開業しようと思い立ちました。
幸い、看護師の独立を支援してくれる会社やオーナーに巡り合い、スムーズに開業することができました。
私は、看護師としてはある程度経験を積んでいますが、訪問看護ステーションの経営については素人。独立については、支援してくれる会社にサポートしてもらったのが心強かったですね。
訪問看護ステーション成功の鍵は「スタッフ」
訪問看護ステーションの立ち上げに当たって、それまで勤務していた施設の3名のスタッフがついてきてくれました。開業当時は、初めての経営で戸惑いや緊張も多い中、気心知れたスタッフが一緒に働いてくれることは、本当に有難かったですね。
しかし、だからこそ「失敗は許されない」と、ついてきてくれたスタッフにきちんと給料を払うためにも頑張らないといけないと自分を鼓舞しました。
ところが気持ちばかりが先走り、訪問先で、こちらの不手際で利用者さんに怒られるなど、慣れない訪問看護に四苦八苦。しかし、徐々に訪問看護のコツをつかみ、開業して半年ほどで利用者が増え始め、経営は徐々に安定していきました。その後スタッフを増員し、開業3年目の現在は、看護師が10人、理学療法士が2人、事務員さん、非常勤スタッフが5人在籍しています。
訪問看護ステーションは、おそらく病院よりもスタッフ同士の距離感が近い職場です。この3年間、良い時も悪い時も、ともに支え合い、いろんなことを乗り越えました。人とこんなに近い関係で仕事をしたのは初めてで、いい経験になりました。
「みんながいたから今の自分がある」と思いますし、「みんなが幸せになればステーションも良くなる、利用者へのケアにつながる」と、心から思います。訪問看護ステーションの成功の鍵は、スタッフに恵まれるかどうかと言っても過言ではないと思います。
押し付けない医療とは?利用者さんに叱咤されて磨き上げた看護観
私が在宅医療で常々心がけているのは、利用者さんのことを第一に考えること。当たり前のようですが、これが難しい。看護師って、どうしても業務優先、効率優先で仕事しがちなんですよね。病院でそのように教育されているせいでもあるんですが、私は在宅医療ではそれではいけないと思っています。
利用者の側に心から寄り添い、利用者主体のケアを提供する。例えば、利用者さんが処置を拒んだとします。病院では、限られた時間で処置を終えないといけないので、すぐに患者さんを説得しますよね。説得するスタッフの横には、患者さんの返事を聞く前にすでに処置の道具が準備されているなど、正直、患者さんに有無を言わせない雰囲気がありますよね。看護師としては医師の指示に従わなければなりませんし、患者さんに医療を押し付けてしまう場面が多々あります。
しかし、在宅では「なぜ嫌なのか」「その処置は本当に必要なのか」「利用者さんはどうしたいのか」「ほかに方法はないか」など、利用者さんや家族ととことん話し合います。訪問看護で大事なことは、「医療を押し付けないこと」。これが私の訪問看護のモットーです。
管理者として実践するワークライフバランス
スタッフ同士で飲みに行ったり、バーベキューしたりという親睦も大事かもしれませんが、コロナ禍ということもあり、現在は職場のイベントは控えています。スタッフには、仕事が終わったら早く帰宅して、ゆっくり休んでほしいです。特に心が疲れたら、いい看護ができませんからね。
私自身は、釣りやサーフィンが趣味です。休日は海に出かけて、サーフィンで波に乗るのが最高のリフレッシュ。仕事の疲れも吹き飛びますよ。
サーフィンしていて感じるのが、波に乗ることは人生に似ているということです。人生と言うと大袈裟ですが、経営者としての道のりと言い換えてもいいですよね。
サーフィンも人生も、そして訪問看護ステーションの経営も、悪いときもあるけれど、そこを乗り越えたらまたいい波が来る。いい波が来るまで粘り強く待つ。諦めてしまったら終わり。一に忍耐、二にも三にも忍耐です。
スタッフにも、体調管理はもちろんですが、趣味やリフレッシュの時間を大切にしてほしいと伝えています。私の訪問看護ステーションでは、スタッフには有給休暇を全部使ってもらっています。遊びに行くなり、家族と過ごすなり、ワークライフバランスを大切にしてほしいですね。
「ヤンチャだった青春時代」がくれた夢
私の訪問看護ステーションは、有難いことに無事に軌道に乗っており、「成功している」と評価してもいいのかなと思っています。この成功を糧に、来年はもう一か所、新しくステーションを開設するのと、居宅介護支援事業所も開設予定です。いずれはナーシングホームを作りたいと考えています。
在宅環境が整わず、在宅療養が困難な方が、ご家族ととても近くて安心できる環境ができれば良いなと思っています。また、訪問看護だけでは、どうしてもケアが行き届かないことがあるので、これらの施設を開設することで、さらに在宅医療の充実を図りたいと思っています。
あと、もう一つ夢があります。それは、子ども達の支援事業です。私自身10代の頃にヤンチャしてしまった経験から、今度は私が困っている子どもを助けたいんです。
実は、もうすでに、看護学生の頃に少年院を慰問したり、カウンセラーの資格を取ったりしたんですが、今後は本格的に支援事業を興したいですね。
ヤンチャしている子どもたちって、このままではいけないと感じていても、自分ではどうしたらいいのか、誰に助けを求めたらいいのかわからないことが多いんです。現状を打破できないまま引きこもってしまったり、ヤケクソで事件を起こしてしまったり、社会的にも悪循環に陥っていく。でも、何かきっかけがあればヤンチャな子たちも変われるんです。
夢を持つこと、その夢を叶えるために、気持ちの方向を変えることができるんです。それは、私自身が経験してきたので、自信を持って言えます。
母の知人の看護師さん(恩師)が、荒れていた18歳の私に声をかけてくれたように、今度は私が子どもたちの助けになりたいと思うのです。
訪問看護ステーションの開業を原点に、いろんな夢を叶えて、社会の役に立ちたい。願いはそれだけですね。
編集後記
今回は、男性看護師による訪問看護ステーションの開業事例として訪問看護ステーションクオーレ八王子の青柳管理者のインタビューをお届けしました。
青柳さんは、大学病院や民間病院で臨床経験を積んだのち、2020年8月に東京都八王子市に訪問看護ステーション・クオーレ八王子を開業、質の高いサービスを提供する訪問看護ステーションとして地域から強い信頼を得ています。
現在では、自らのステーションの運営を行いながら、これまでの経験を生かし、他の訪問看護ステーションへのアドバイスや管理者研修など様々な研修の実施など活躍の場を拡げられています。
訪問看護ステーションの運営に関する悩みや相談など、青柳さんから直接話を聞いてみたいという方がいらっしゃいましたらお気軽にいろいろナースにお問合せください。
訪問看護ステーション・クオーレ八王子
〒193-0823
東京都八王子市横川町29−3
電話:042-686-3565
FAX:042-686-3566
【提供日時】
営業日:月~金(祝日含む)
9:00~18:00
休業日:土・日・年末年始
※緊急時24時間体制
訪問エリア:八王子市全域
※その他地域については応相談
クオーレ八王子のホームページ
https://quore-hachioji.com/
青柳さんのツイッターアカウント
https://twitter.com/164_surf_life
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