訪問看護の気管カニューレの管理:必要な知識とサポート内容

近年、高度医療の進歩により、在宅でも多くの医療的ケアが提供可能になりました。

在宅療養の中で、神経難病、長期の意識障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、重度の脳血管障害の後遺症などにより気管切開と気管カニューレの装着が必要なケースが増えています。

気管切開を施された利用者にとって、気管カニューレは生命にかかわる呼吸経路であり、訪問看護師による気管カニューレの管理と家族へのサポートが極めて重要です。

このコラムでは、訪問看護における気管カニューレの管理に必要な知識とサポート内容について詳しく説明します。

目次

気管カニューレとは

気管カニューレとは、神経系の疾患(ALSや多系統萎縮症など)による長期的な人工呼吸管理が必要な方や、喉の一部をがんで切除した患者など、気道が慢性的に閉塞しやすく、痰が詰まりやすく、呼吸が困難な方々の気道確保のために気管切開して留置されるチューブのことを指します。

気管カニューレの交換は通常、月に1回の頻度で医師によって行われますが、その日常的な管理や気管切開部のケアなどは日々行う必要があります。

訪問看護師は、気管カニューレ内部に付着した痰の吸引など気管切開部のケアの実施と介護者である家族が適切に管理できるようにサポートをおこないます。

気管切開と気管カニューレが必要となる3つのケース

気道確保が長期にわたる必要がある場合、気管切開と気管カニューレが必要となります。主な適用ケースは以下の3つです。

(1)人工呼吸が必要な病気

1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDは慢性的な肺の疾患で、患者の肺機能が逐次低下し、呼吸困難や酸素取り込みの障害が生じることがあります。重度のCOPDの場合、患者は自然な呼吸を維持するのが難しくなり、人工呼吸が必要になることがあります。このために気管切開と気管カニューレが適応され、患者の呼吸確保を支援します。

2.呼吸筋の麻痺

呼吸筋の麻痺は神経系の問題によって呼吸筋の機能が失われた状態を指します。この場合、患者は自発的な呼吸を行えなくなり、持続的な人工呼吸が必要です。気管切開と気管カニューレは、呼吸筋の麻痺による呼吸不全に対処する手段として適用されます。

(2)気道分泌物で換気ができない

1.意識レベルの低下

意識障害や昏睡状態にある患者は、自力で気道分泌物を咳き出すことが難しくなります。気道分泌物が蓄積すると、気道が閉塞し、酸素供給が滞る危険性が高まります。このような場合、気管切開と気管カニューレが適応され、気道内の分泌物を効果的に除去し、患者の換気を確保します。

2.誤嚥

誤嚥は食物や液体が誤って気管に入ることを指します。誤嚥による気管への物質侵入は、気道を刺激し、窒息の危険を引き起こす可能性があります。特に、意識が低下している場合や、嚥下機能が障害されている場合には、気管切開と気管カニューレが必要です。気管カニューレは気管を確実に保護し、誤嚥による合併症を防ぎます。

(3)上気道が閉塞・狭窄している

1.口腔がん、咽頭がん、喉頭がん

口腔がん、咽頭がん、喉頭がんなどの悪性腫瘍が喉や咽頭の部位に発生すると、腫瘍によって上気道が閉塞または狭窄する可能性があります。このような場合、気管切開と気管カニューレが適応され、気道確保と呼吸のサポートが行われます。

2.舌・咽頭・喉頭の浮腫

舌、咽頭、喉頭などの部位に発生する浮腫(腫れ)は、気道を圧迫して上気道の通気を妨げる可能性があります。浮腫が進行すると、自然な呼吸が困難になり、患者の生命に危険が及ぶことがあります。このような状況で、気管切開と気管カニューレが使用され、気道の確保と呼吸の安定を保ちます。

3.外傷や異物による上気道損傷・閉塞

外傷や異物の侵入によって、上気道が損傷または閉塞することがあります。これは非常に緊急かつ重篤な状況で、気管切開と気管カニューレが適用され、気道の再確保と安定した呼吸が維持されます。

気管カニューレの種類

気管カニューレにはいくつかの種類があり、利用者の呼吸状態やリハビリの進行状況に応じて適切な選択を行います。

(1)カフつきチューブ

カフつきチューブは、人工呼吸器が必要な患者に用いられる気管カニューレの一種です。このタイプのカニューレには、気管に挿入された後に空気を供給することで、チューブ内のカフ(風船のような袋)が膨らむ構造があります。このカフは、いくつかの重要な役割を果たします。

空気もれの防止

カフが膨らむことにより、気管カニューレが気道にしっかりと固定され、気道周辺からの空気もれを防ぎます。これは、正確な人工呼吸を提供し、酸素供給を確実にするのに役立ちます。

誤嚥の防止

カフの膨張は、食物や液体が誤って気管に進入することを防ぎ、誤嚥(気管への物質侵入)のリスクを減少させます。これは患者の安全性を高める重要な要素です。

カフつきチューブには単管タイプと複管タイプの二つのバリエーションがあります。単管タイプは、通常のカフつきチューブであり、カフの膨張と気道確保の役割を果たします。

一方、複管タイプには内筒があり、この内筒を使用して痰の吸引を行うことができます。そのため、痰が詰まりやすい患者には複管タイプのカフつきチューブが適しています。

(2)カフなしチューブ

カフなしチューブは、人工呼吸を必要とせず、誤嚥(気管への物質誤飲)の心配が低い患者に適しています。このカニューレは、通常の呼吸機能が十分である場合に使用されます。

空気が声帯を通るため、患者は声を出すことができ、コミュニケーションが可能です。また、痰が多い患者には複管タイプが、それ以外の患者には単管タイプが適しています。

(3)スピーチカニューレ

スピーチカニューレは、人工呼吸器が必要でありながら、発声機能を保持できる場合に使用される気管カニューレの一種です。通常の気管カニューレでは発声ができませんが、スピーチカニューレを用いることで発声が可能になります。

このカニューレは、人工呼吸が不要で、喉頭の機能が良好な患者に適用されます。スピーチカニューレには、カフつき・カフなし、単管・複管などのバリエーションがあり、側孔から発声することができる特徴があります。これにより、患者は自然な声でコミュニケーションをとることが可能となります。

(4)その他のタイプ

気管カニューレには、咽頭がん、喉頭がんなどで切開孔を閉じられない人用など特定の病態に対応するためのさまざまなタイプが存在します。

レティナ

レティナは、咽頭がんや喉頭がんなどで気管切開孔を閉じることが難しい患者に使用される器具です。この装置は気管切開孔の保持を主な目的とし、発声が可能です。人工呼吸が不要で、誤嚥の危険がない患者に適用されます。レティナは気道確保と患者の声帯の機能を維持するのに役立ちます。

Tチューブ

Tチューブは気道狭窄症の治療に使用される特別な気管カニューレです。気道狭窄症は気道が狭くなる疾患であり、通常の気管カニューレでは対処が難しい場合に用いられます。Tチューブは発声が可能で、人工呼吸が不要で、誤嚥の危険がない患者に適しています。このタイプのカニューレは気道の広げ方や維持に特化しています。

痰の吸引は、気管カニューレ管理の基本

痰の吸引は、気管カニューレ管理の基本であり、正常な換気のために不可欠です。

気管カニューレに痰がたまると、内腔が狭くなり、呼吸困難に陥る可能性があります。必要性を呼吸の状態や動脈血酸素飽和度、聴診などから判断し、吸引器を使用して吸引します。

合併症を防ぐために、操作は慎重に行い、できるだけ短時間に済ませる必要があります。

痰の吸引による合併症とは

吸引中の合併症としては、主に以下のものがあります。また、療養者の痛みや疲労度にも注意が必要です。

(1)バイタル変動

バイタル変動は、気管カニューレの痰吸引中におこり、迷走神経の反射によって血圧低下や不整脈などが生じ、時には心停止につながる合併症です。吸引の際に患者のバイタルサイン(血圧、心拍数など)を注意深くモニタリングし、問題が起きた場合に適切に対処することが重要です。

(2)低酸素血症

気管カニューレの痰吸引中、患者はほぼ無呼吸状態にあるため、低酸素血症が発生するリスクがあります。訪問看護師は患者の酸素レベルをモニタリングし、特にチアノーゼ(皮膚や粘膜の青紫色の変色)の有無や動脈血酸素飽和度を確認します。低酸素血症を早期に検出し、必要に応じて適切な処置を行うことが、患者の安全と健康を保つために重要です。

(3)吐き気・嘔吐

気管カニューレの痰吸引中に患者が吐き気や嘔吐を経験することがあります。嘔吐が発生した場合、訪問看護師はまず口腔内の吐物を注意深く吸引します。さらに、誤嚥(気管への物質誤飲)の有無を確認し、患者の脈拍や血圧などのバイタルサインをチェックして、適切な処置を行います。吐き気や嘔吐に対する迅速な対応は、患者の快適さと安全を確保するために重要です。

(4)気管支攣縮

気管カニューレの痰吸引中に、吸引刺激が原因で気管支攣縮が発生することがあります。気管支攣縮は気管支の収縮や狭窄を指し、患者の症状として気管支狭窄音や呼気の延長などが現れることがあります。訪問看護師は聴診を行い、これらの症状を確認します。気管支攣縮が発生した場合、迅速な対処が必要であり、訪問看護師は患者の安全と快適さを確保するために適切な措置を講じます。

(5)気道粘膜の損傷

気管カニューレの痰吸引中に、吸引カテーテルが気道粘膜を傷つけることがある合併症が気道粘膜の損傷です。吸引を行った後、吸引した分の分泌物に血液が混じっていないかを確認することが重要です。気道粘膜の損傷を早期に発見し、必要に応じて適切なケアを提供することが、患者の健康と安全を保つために不可欠です。

気管切開部に多いトラブルの予防と対処法

気管カニューレの管理において、気管切開部は常に観察し、皮膚トラブルが発生した場合には早急に対処する必要があります。

気管切開孔周囲の皮膚トラブルの中でよく見られるものには、以下の3つがあります。これらの問題を予防し、適切に対処するために、必要な知識と対策を覚えておくことが非常に重要です。

(1)皮膚障害

気管切開孔周囲の皮膚障害(皮膚障害)を予防および対処するために、皮膚を清潔に保ち、発赤やただれなどの症状が軽度な場合は保湿剤(ワセリンなど)を使用し、炎症が強い場合や症状が進行している場合は医師の指示に従って軟膏などの治療薬を適切に使用します。

(2)肉芽

肉芽は、気管切開歴が長い人ほど注意が必要な皮膚トラブルです。肉芽は通常、気管切開部位における機械的な刺激や炎症が繰り返されることによって形成されます。肉芽が発生すると、気管カニューレ周囲の組織が異常に増殖し、気管カニューレの交換が難しくなることがあります。この場合、医師による外科的な処置が必要な場合があり、肉芽を取り除くことが考えられます。気管切開患者は肉芽のリスクに注意し、定期的な医療チェックを受けることが重要です。

(3)出血

出血は、気管カニューレ交換後に比較的よく見られる皮膚トラブルです。気管切開を行ったばかりの初期段階や、気管カニューレの交換直後から翌日くらいまで、出血が発生することがあります。この場合、医師の判断に従い、適切な軟膏などを使用して対処することが行われます。

家族など、介護者への指導・支援も重要な役割のひとつ

訪問看護師による気管カニューレの管理において、家族や介護者への指導と支援も非常に重要です。家族や介護者による気管切開部と気管カニューレの日常的な管理は、生命維持に直結するものであり、介護者にかかる負担は心身ともに大きいものとなります。訪問看護師は介護者の不安や疑念にも耳を傾けつつ、日常のケア方法を家族に教えることが大切です。

気管カニューレの管理に関する家族や介護者への指導の例は、以下の通りです。護者へ伝える指導例は、以下のとおりです。

(1)複管タイプの気管カニューレの内筒の手入れ

複管タイプの気管カニューレの内筒の手入れは非常に重要です。内筒に痰がたまると、気道が詰まり、呼吸がスムーズに行えなくなる可能性があります。このため、家族や介護者は少なくとも1日1回、内筒の洗浄を行う必要があります。内筒を清潔に保つことは、気管カニューレを正しく機能させ、患者の呼吸を支えるために不可欠です。また、口腔ケアも同様に重要であり、誤嚥を防ぐ手段として有効です。

(2)カフつきの気管カニューレのカフ圧の確認

カフつきの気管カニューレを管理する際、家族や介護者に対して1日に1回はカフ圧を確認するよう指導します。カフの適切な圧力は、患者の状態によって異なりますが、一般的には20~25㎝H₂Oが目安とされています。正確なカフ圧の確認は、気管カニューレの正しい機能と安全性を保つために極めて重要です。カフの圧力が不適切であると、気管内に空気が漏れる可能性や誤嚥のリスクが高まるため、定期的な確認と調整が必要です。

(3)自己抜去時の対応

気管カニューレの交換は通常医師が行いますが、自己抜去の必要が生じる場合もあります。このような緊急事態に備えて、家族や介護者には自己抜去の方法を主治医から指導してもらうことが大切です。自己抜去の際には患者の安全を確保するために正確な方法が必要であり、医師の指導を受けた家族や介護者が適切に対応できるようになることが重要です。さらに、緊急時に備えて予備のカニューレを用意しておくことも推奨されます。

(4)気管切開により発声できなくなった場合のコミュニケーション

気管切開により発声が制約された場合、新たなコミュニケーション方法が必要です。家族や介護者には、患者とのコミュニケーションをサポートするツールや方法を提供します。これには、カード、文字盤、パソコン、筆談などが含まれます。療養者が使いやすいツールを選択し、コミュニケーションを円滑に行います。

簡単な質問や確認の際には、療養者がうなずくことや、「はい」「いいえ」で答えることができるクローズドクエスチョンを活用します。

まとめ

今回は、気管カニューレの管理の基本から合併症の予防、家族への指導等をお伝えしました。

訪問看護における気管カニューレの管理は、患者の生命にかかわる重要な役割です。気管切開が必要な患者とその家族にとって、正しい知識と適切なサポートが提供されることは、在宅療養の成功に欠かせません。

患者の個別のニーズに合わせたケア計画の策定と、継続的なフォローアップが、在宅療養の質を向上させ、患者が自宅で快適な生活を送るために不可欠です。

今回の記事が訪問看護に携わる方々、そして今後、訪問看護への入職を希望されている看護師の参考になれば幸いです。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

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