ターミナルケアとは、医師によって余命数週間から数か月と診断され、治療によって回復の見込みがないと判断された終末期の患者に対しておこなうケアです。
延命治療や心身の機能の維持を目的とする治療はおこなわず、症状の緩和や心のケアを中心に据えた看護ケアをおこないます。
終末期において残された時間に利用者本人やご家族の意思を尊重し最期までその人らしく過ごせるよう医療体制を整え、ターミナルケアを実施した訪問看護ステーションには、ターミナルケア加算が算定できます。
介護保険での利用の場合には「ターミナルケア加算」という名称であり、医療保険では「訪問看護ターミナルケア療養費」にあたります。
今回は、訪問看護のターミナルケア加算(介護保険)と訪問看護ターミナルケア療養費(医療保険)について解説していきます。
訪問看護のターミナルケア加算(介護保険)とは
訪問看護のターミナルケア加算(介護保険)」は、終末期の利用者に提供されるターミナルケアの実施を評価し、加算する制度です。
ターミナルケア加算を算定するためには、厚生労働省が定める基準に適合する訪問看護事業所であることが必須条件です。
ターミナルケア加算の単位数
ターミナルケア加算の単位数は、以下のようになっています。
算定月 | 単位数 |
---|---|
利用者の死亡月 | 2,000単位/月 |
ターミナルケア加算の算定要件
(1)24時間連絡体制の確保
(2)必要に応じて訪問看護を行うことができる体制の整備
(3)利用者及び家族等に対して説明を行い、同意を得ている
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などの内容を考慮に入れ、利用者本人およびその家族などと協議を行い、利用者本人の意向を基本にし、他の関係者と連携しながら対応する必要があります。
参照元:厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
(4)ターミナルケアの提供に関して、身体状況の変化など必要な事項が記録されていること
1.終末期の身体症状の変化及びこれに対する看護についての記録
2.療養や死別に関する利用者及び家族の精神的な状態の変化,及びこれに対するケアの経過についての記録
3.看取りを含めたターミナルケアの各プロセスにおいて,利用者及び家族の意向を把握し, それに基づくアセスメント及び対応の経過の記録
ターミナルケア加算の注意点
ターミナルケア加算は、通常は利用者の死亡月に適用されます。最終訪問日が月末であっても、死亡日が翌月など、ターミナルケアを最後に提供した日の月と利用者の死亡月が異なる場合でも、加算は死亡月に算定できます。ただし、この適用は指示期間中に限られます。
介護予防訪問看護(利用者が要支援者)の場合、ターミナルケア加算の対象外です。
訪問看護ターミナルケア療養費(医療保険)とは
訪問看護ターミナルケア療養費(医療保険)」とは、訪問看護ステーションが主治医と連携しながら、終末期の看護を提供することで算定できる医療保険に関する療養費のことを指します。
訪問看護ターミナルケア療養費の算定金額
訪問看護ターミナルケア療養費の算定金額は、以下の表のようになっています。
訪問看護ターミナルケア療養費の類型 | 算定金額 |
---|---|
訪問看護ターミナルケア療養費1 | 25,000円 |
訪問看護ターミナルケア療養費2 | 10,000円 |
訪問看護ターミナルケア療養費1の対象者
在宅で死亡した利用者
・特別養護老人ホーム等(※1)で死亡した利用者 (看取り介護加算等を算定している利用者を除く)
訪問看護ターミナルケア療養費2の対象者
特別養護老人ホーム等(※1)で死亡した利用者 (看取り介護加算等※2を算定している利用者の場合)
※1:特別養護老人ホーム等とは、特定施設、認知症対応型共同生活介護事業所、介護老人福祉施設を指します。
※2:看取り介護加算は、医師が利用者に回復の見込みがない状態を診断し、その旨を利用者または家族に説明し、療養や介護の方針に合意が得られた場合に適用されます。この加算は、医師、看護職員、介護職員、生活相談員、介護支援専門員などが協力して、利用者に対して療養や介護について説明し、利用者が最期まで尊重され、その人らしい生活を送るためのサポートを提供することを目的としています。
訪問看護ターミナルケア療養費の算定要件
(1)死亡日および死亡日前14日以内の計15日間において(精神科)訪問看護基本療養費を2回以上算定していること
これまでは、訪問看護ターミナルケア療養費の算定には、死亡日および死亡日前の計15日間に2回以上(精神科)訪問看護基本療養費の算定が必要でした。つまり、退院当日は退院支援指導加算の評価対象であり、(精神科)訪問看護基本療養費は算定されないため、算定要件の日数に含めることはできませんでした。
しかし、令和4年度の改定により、退院日の訪問看護に関する算定要件が変更され、退院支援指導加算の算定も含めて、(精神科)訪問看護基本療養費または退院支援指導加算のいずれかを2回以上算定することが可能になりました。
参照元:厚生労働省保険局医療課「令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」
(2)主治医との連携のもとで、訪問看護におけるターミナルケアに関する計画および支援体制について、利用者およびその家族などに説明し、同意を得てターミナルケアを提供していること
算定にあたっては、訪問看護におけるターミナルケアの支援体制(訪問看護ステーションの連絡担当者の氏名、連絡先電話番号、緊急時の注意事項など)について、利用者や家族に対して説明した上で、ターミナルケアを提供する必要があります。
原則的には在宅(または特別養護老人ホームなど)で死亡した場合に算定が可能ですが、ターミナルケアを提供した後、24時間以内に在宅以外で死亡した場合でも算定が可能です。
訪問看護ターミナルケア療養費の注意点
医療保険における訪問看護ターミナルケア療養費の場合、介護保険のターミナルケア加算の算定要件である「24時間の連絡体制の確保」は、算定要件には含まれていません。
ただし、ターミナルケアの支援体制については、ご利用者様およびご家族に対して、事業所の連絡担当者の氏名、連絡先電話番号、緊急時の注意事項などを説明し、同意を得る必要があります。
また、1人の利用者に対して、他の訪問看護ステーションで訪問看護ターミナルケア療養費を算定している場合、または医療機関において在宅患者訪問看護指導料の在宅ターミナルケア加算もしくは同一建物居住者訪問看護指導料の同一建物居住者ターミナルケア加算を算定している場合には、算定できません。
まとめ
ターミナルケアと訪問看護は、患者やその家族にとって最期の大切な時期を支える重要なサービスです。介護保険と医療保険における加算や療養費に関する理解が、適切なケア提供と家族の支援に貢献します。
24時間の連絡体制から、家族への説明と同意の取得、診断の記録まで、細かな要件を把握することが、ターミナルケアの質の向上につながります。最後の時を尊重し、患者がその人らしい最期を迎えられるように、ターミナルケアの提供に取り組みましょう。