【2023年最新版】訪問看護ステーションの資金負担を軽減する「助成金」について

訪問看護ステーションの開業後には、人材の採用や教育、業務効率化のための設備導入など、多くの支出が必要となる場面があります。しかし、このような時に助成金を活用することで、原則として返済不要な給付金を受け取り、運営における資金負担を軽減できます。

助成金は、国や地方公共団体が特定の施策に基づいて取り組む事業に対して、支給条件を満たす場合に提供されるものであり、返済の必要がない給付金として支給されます。

訪問看護ステーション経営でも、適切な助成金の申請と活用により、資金面での負担を軽減し、より効果的な運営が可能となります。

今回は、訪問看護ステーションの開業を考えている方にとって、開業前に知っておきたい重要な情報の一つとして、人材採用や教育、業務改善、設備導入などに役立つ助成金についてお伝えします。

訪問看護ステーションの助成金について

訪問看護ステーションの助成金は、具体的には人材採用に関して新たなスタッフの雇用や研修プログラムの充実など、人材育成に資する取り組みを助成する場合があります。また、業務改善に関しては、効率的な運営を促進するためのシステム導入や情報技術の活用による業務の効率化を支援する助成金があります。

これらの助成金の活用は、訪問看護ステーションを開業を検討している方にとって貴重な支援手段となります。ただし、助成金の申請には一定の手続きや条件が必要な場合があるため、詳細な情報収集や申請書類の準備が欠かせません。

開業前に助成金についてしっかりと理解し、適切な活用を検討することで、効果的な活用に近づけることができます。

では、訪問看護ステーションではどのような助成金が該当するのでしょうか。

訪問看護ステーションの代表的な4つの助成金

訪問看護ステーションにおける代表的な4つの助成金を以下にまとめました。

【1】キャリアアップ助成金(正社員化コース)

キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規雇用労働者を正社員化した場合に助成金が支給される制度です。

この制度は非正規雇用労働者のキャリアアップと雇用安定を促進することを目的としており、非正規雇用労働者のモチベーション向上や優秀な人材の確保、魅力的な職場づくりに寄与します。

正社員化コースの対象となる労働者には、有期雇用労働者、無期雇用労働者、有期派遣労働者、無期派遣労働者が含まれます。

また、人材開発支援助成金の訓練を修了した有期雇用労働者も対象となりますが、正規雇用労働者として雇用する前提で雇った有期雇用労働者は対象外です。

事業主が助成金を申請する場合、対象となる労働者に対して正社員化後の6か月間の賃金が、正社員化前の6か月間の賃金と比較して3%以上増額するなどの条件を満たす必要があります。

このような助成金の支給によって、正社員化へのハードルが下がり、より多くの非正規雇用労働者がキャリアアップを実現できる環境が整備されます。

対象となる労働者

・有期雇用労働者または無期雇用労働者※1

・有期派遣労働者または無期派遣労働者※2

・人材開発支援助成金の訓練を受講修了した有期雇用労働者※1

・特定紹介予定派遣労働者※3

※1 賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる就業規則等の適用を
 通算6か月以上受けて雇用されていること
※2 6か月以上継続して派遣先の事業所の業務に従事していること
※3 新型コロナウイルス感染症の影響を受け就労経験のない職業に就くことを希望し、紹介予定派遣により2か月以上6か月未満派遣先の事業所の業務に従事していること

正社員化コースの支給金額

正社員化コースの支給額は、有期雇用労働者から正規雇用労働者に転換した場合、中小企業は57万円、大企業は42万7,500円となります。

無期雇用労働者から正規雇用労働者への転換時には、中小企業に28万5,000円、大企業には21万3,750円が支給されます。

また、派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合や、人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合など、条件を満たす場合は加算措置が適用されます。

支給額および条件ごとの加算額、については下図を参照してください。

正社員化コースの支給額・加算額

参照元:厚生労働省:キャリアアップ助成金のご 案 内(令和5年度版)

【2】働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)

働き方改革推進支援助成金の労働時間適正管理推進コースは、生産性を向上させ、労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援する助成金です。

支給対象となる事業主

支給対象となる事業主は、次のいずれにも該当する中小企業事業主です。

(1)労働者災害補償保険の適用事業主であること。

(2)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用していないこと。

(3)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することが就業規則等に規定されていないこと。

(4)全ての対象事業場において、交付申請時点で、36協定が締結・届出されていること。

(5)全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。

支給対象となる取組

働き方改革推進支援助成金「労働時間適正管理推進コース」の助成対象になる取り組みとして、以下の中からいずれか1つ以上を実施する必要があります

1.労務管理担当者に対する研修

2.労働者に対する研修、周知・啓発

3.外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング

4.就業規則・労使協定等の作成・変更

5.人材確保に向けた取組

6.労務管理用ソフトウェアの導入・更新

7.労務管理用機器の導入・更新

8.デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新

9.労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

※研修には、勤務間インターバル制度に関するもの及び業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。

成果目標

支給対象となる取組は、以下の「成果目標」1から3まで全ての目標達成を目指して実施する必要があります。

(1)全ての対象事業場において、新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用すること。

(2))全ての対象事業場において、新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること。

(3)全ての対象事業場において、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること。

上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

労働時間適正管理推進コースの支給額

働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)では、取組の実施に要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じて支給されます。

・成果目標達成時の上限額:100万円

・対象経費の合計額に補助率3/4(※)を乗じた額を助成します(ただし上記上限額を超える場合は、上限額とします)。
(※)常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象の取組で6から9を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5

・賃金額の引上げを成果目標に加えた場合の加算額は、指定した労働者の賃金引上げ数の合計に応じて、以下のように上記上限額に加算されます。

なお、引き上げ人数は30人を上限となります。

参照元:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

【3】業務改善助成金

業務改善助成金とは、事業場内最低賃金を引き上げ、生産性向上のための設備投資等をした場合、その費用の一部を助成する仕組みです。

賃上げの計画と設備投資等の計画を立案・申請し、計画通り遂行した事業の結果を報告することで、最大600万円が支給されます。

なお、事業場内最低賃金とは、雇用から3ヶ月が経過した労働者が受け取る事業場内で一番低い時間給のこと。

最低賃金法に基づき厚生労働省が定める地域別最低賃金以上の範囲内で、各事業所で任意に定められる金額を指します。

対象となる事業者

業務改善助成金の対象となるのは、下記の3点を満たす事業所です。なお、申請は事業所ごとに行います。

・中小企業・小規模事業者であること

・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること

・解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと

対象となる設備投資等

業務改善助成金では、下記のような生産性の向上につながる設備投資等にかかる経費が助成の対象となります。

令和5年度 業務改善助成金の助成上限額・助成率

参照元:厚生労働省:令和5年度業務改善助成金のご案内

【4】特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース/母子家庭の母などの雇用)

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は母子家庭の母や、高年齢者や障害者などの就職が特に困難な方を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成金です。

支給対象となる労働者】

特定求職者雇用開発助成金の特定就職困難者コースにおいて、雇用の対象となるのは、以下の条件を満たす人々です。

1.満60歳以上の人

2.身体障害者、知的障害者、精神障害者

3.母子家庭の母等:配偶者が離婚や死別などでいない状態で、20歳未満の子供または一定の障害がある子供を養っている女性を指します。

4.父子家庭の父:児童扶養手当の受給者に限られます。

 

受給対象となる事業主

この助成金の対象となるには、事業主として次の要件すべてを満たす必要があります。

1.雇用保険の適用事業主であること

2.ハローワーク等の紹介により、対象者を雇用保険の一般被保険者として雇い入れること

3.雇い入れた労働者を継続して2年以上雇用すること

4.雇い入れ前後6カ月間に事業主都合による従業員の解雇をしていないこと

5.対象者の雇い入れより前に同コースでの支給決定がなされた場合、過去3年間の助成対象期間中に事業主都合で当人の解雇・雇い止め等をしていないこと

6.雇い入れ前後6カ月間に、倒産や解雇など特定受給資格者となる離職者数が雇い入れ日時点の被保険者数の6%を超えていないこと

7.対象者の出勤および賃金の支払状況等を明らかにする書類を整備・保管し、提出・提示などの協力をすること

助成金の支給額

参照元:厚生労働省:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

雇い入れの条件

対象労働者を次の(1)および(2)の条件によって雇い入れることとなっています.

(1)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等(※2)の紹介により雇い入れること

※2 具体的には次の機関が該当します。

① 公共職業安定所(ハローワーク)

② 地方運輸局(船員として雇い入れる場合)

③ 適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者等

※特定地方公共団体、厚生労働大臣の許可を受けた有料・無料職業紹介事業者、届出を行った無料職業紹介事業者、または無料船員職業紹介事業者(船員として雇い入れる場合)のうち、本助成金に係る取扱いを行うにあたって、厚生労働省職業安定局長の定める項目のいずれにも同意する旨の届出を労働局長に提出し、雇用関係給付金に係る取扱いを行う旨を示す標識の交付を受け、これを事業所内に掲げる職業紹介事業者等.

(2)雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実(※3)であると認められること

※3 対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上(重度障害者等を短時間労働者以外として雇い入れる場合にあっては3年以上)であることをいいます。

参照元:厚生労働省:特定求職者雇用開発助成金リーフレット

まとめ

助成金の活用は、訪問看護ステーションの開業を考えている方にとって、重要な資金支援手段となります。

適切な助成金の申請と活用により、人材の採用や教育、業務改善、設備導入など運営の負担を経験できる可能性があります。
開業前に助成金の情報をしっかりと把握しておくことも大切です。下記資料も合わせご覧ください。

参考資料:令和5年度 雇用・労働分野の助成金のご案内 (詳細版)

・厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
・ (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構
・ (独)労働者健康安全機構
・(独)勤労者退職金共済機構