在宅療養において容体が悪化した時や退院した直後など、よりより手厚い看護が必要となる時に主治医から交付されるのが「特別訪問看護指示書」です。
「特別訪問看護指示書」は緊急時に提供される指示書であり、通常の指示書とは異なり、適用期間や提供回数が厳密に規定されています。
本コラムでは、特別訪問看護指示書の交付条件やメリット、指示期間や注意すべきポイントなどを解説していきます。
特別訪問看護指示書とは
特別訪問看護指示書とは、病状急変、終末期、退院直後など、通常より頻繁な訪問看護が必要な場合に、主治医から提供される指示書です。
特別訪問看護指示書が主治医から訪問看護ステーションに提供されると、介護保険を利用していた場合であっても、特別指示書の提供日から医療保険による訪問看護に切り替わります。
この指示書が交付されると、週に4日以上の訪問が可能となり、通常より頻繁な訪問看護を受けることができるようになります。
特別訪問看護指示書のメリット
(1)退院直後の在宅移行時に集中的にサポートできる
退院直後の在宅移行時に、医療的ケアやおむつ交換などの介護支援を含め、集中的にサポートできます。
(2)1日に複数回、2ヵ所からの訪問看護も可能
医療保険での訪問看護は通常、1日1回、週3日、1か所のステーションからの訪問に制限されます。しかし、特別訪問看護指示書を受けると、1日に複数回の訪問、週4日以上、2か所の訪問看護ステーションからの訪問が可能です。
ただし、2か所の訪問看護ステーションそれぞれに特別訪問看護指示書が必要です。
(3)長時間の訪問看護が可能
特別訪問看護指示書を受けると、週に1回までの長時間訪問看護が可能で、90分を超える訪問については長時間訪問看護加算が適用されます。
特別訪問看護指示書の交付要件
特別訪問看護指示書が交付される方に、決められた条件はなく、主治医が診察を行い、利用者が下記のような「頻繁な訪問が必要な状態」と判断すると交付されます。
(1)急性感染症等の急性増悪時
(2)末期の悪性腫瘍等以外の終末期
(3)退院直後で週4日以上の頻回な訪問看護の必要を認めた場合
特別訪問看護指示書を交付するにあたり必要なのは、あくまでも「頻回の訪問看護の必要性」であり、特定の疾患や症状の制限はありません。
ただし、末期の悪性腫瘍などの利用者については、回数の制限がないため、特別訪問看護指示書は不要です。
特別訪問看護指示書が適用する保険
前述したとおり、特別訪問看護指示書は医療保険適用となります。
特別訪問看護指示書だけを交付することはできず、通常の訪問看護指示書を交付した上での、特別訪問看護指示書の交付が必要となります。
介護保険を利用して訪問看護指示書を交付されている利用者の場合、特別訪問看護指示書が適用されている期間中は、医療保険による訪問看護に切り替わります。
特別訪問看護指示期間が終了した場合、または症状が改善し、指示期間が訂正された場合、介護保険のケアプランに基づく訪問看護が再び提供されることになります。
特別訪問看護指示書の指示期間
特別訪問看護指示に基づく訪問看護は、指示を出した診療の日から14日以内に限り実施できます。
月をまたいでの場合でも、前月からの持ち越し指示期間に加えて改めて特別訪問看護指示書を交付することができます。(※月をまたいで特別指示期間がある場合は、前月分も含め、訪問看護療養費明細書の「(特別指示期間)」欄に記載します。)
特別訪問看護指示書の様式
※クリックすると特別訪問看護指示書の様式PDFがダウンロードできます。
特別訪問看護指示書の連続使用は?
特別訪問看護指示書は、主治医が頻繁な訪問看護の必要性を診断し、それに基づいて月に1回、利用者一人に対して交付されます。
特別訪問看護指示書の交付について、特別指示期間の連続性には制約がありません。したがって、特別訪問看護指示書が複数回連続して交付される場合、その旨を訪問看護療養費明細書に記載します。
特別訪問看護指示書を月2回交付できる対象者は?
特別訪問看護指示書の交付は通常1か月に1回限りですが、以下のどちらかの状態にあてはまる方は月2回の交付が可能です。
(1)気管カニューレを使用している状態にある利用者
(2)真皮を越える褥瘡の状態にある利用者
※利用者が医療保険の対象者の場合は、特別管理加算の対象者ですので、 特別訪問看護指示書の交付がなくても週4日以上の訪問看護が可能です。
なお、公益財団法人 日本訪問看護財団より厚生労働書に提出された「令和6年度の介護報酬(訪問看護費等)改定に関する要望書」には、以下の2点が明記されており、
(1)特別訪問看護指示書を月2回交付可能な対象者に 「難治性潰瘍、熱傷等の皮膚損傷を伴う疾患」、 「非がんの終末期」を追加する。
(2)特別管理加算の対象に「難治性潰瘍、熱傷等の皮膚損傷を伴う疾患」を追加する
今後、特別訪問看護指示書を月2回交付できる対象者が拡大されることが予想されます。
参考文献:公益財団法人 日本訪問看護財団「令和6年度の介護報酬(訪問看護費等)改定に関する要望書」
特別訪問看護指示書の注意すべきポイント
(1)特別訪問看護指示書は、訪問看護指示書と同一の医師による発行が必要
特別訪問看護指示書は、訪問看護指示書を交付している主治医が交付するものとなります。
特別訪問看護指示書の評価は,特別訪問看護指示加算(100点)という訪問看護指示料(300点)の加算として評価されているものであり、訪問看護指示書と特別訪問看護指示書を別々の医師が交付することはできません。
ただし、同一の医療機関において同一の診療科に所属する複数の医師が利用者の主治医として共同で診療を共同で行っている場合については、これらの医師のいずれかが交付した訪問看護指示書に基づいて訪問看護を実施した場合でも、訪問看護療養費の算定が可能となっています。
(2)点滴注射指示内容併記の場合は指示期間に注意する
特別訪問看護指示書の指示期間は最大で14日間ですが、在宅患者訪問点滴注射指示書の指示期間は最大で7日間と制限されています。そのため、7日間点滴が終了した後、主治医が再び点滴を必要と判断する場合は再度、訪問点滴注射指示書を○で囲み再交付します。
(3)退院直後は、一般の訪問看護指示書の指示期間に注意する
特別訪問看護指示書は、通常の訪問看護指示書の枠組みの中で、特別な条件(頻繁な訪問が必要な状態)に基づいて交付されるものです。
指示書の指示期間が切れた場合、特別訪問看護指示書は交付されないため、特に退院直後には注意が必要です。交付されることはないため退院直後は特に注意が必要です。
まとめ
今回は、特別訪問看護指示書にお伝えしました。
特別訪問看護指示書は、在宅療養を行う利用者や退院直後の利用者にとって非常に有益な指示書であり、その対象範囲の拡大が、2024年度の診療報酬改定の論点の一つになるなど、今後の取り扱いにも注目されています。
特別訪問看護指示書についての正確な理解と、その提供条件を適切に把握することは、利用者とその家族により質の高い在宅医療を提供する一助となります。