訪問看護師必見!在宅で起こりやすい高齢者の皮膚トラブルとケア内容

人間の皮膚は、加齢とともに水分や皮脂が減少し、皮膚を保護するバリア機能も低下していきます。

在宅療養をおこなう高齢者の場合、加齢による皮膚機能の低下に加え、糖尿病などの基礎疾患やおむつの使用、寝て過ごすことが多くなるなど皮膚トラブルのリスクは、非常に高くなります。

利用者の皮膚トラブルを早期にケアし、褥瘡などの再発や悪化を防ぐのも訪問看護師の重要な役割のひとつです。

今回は、在宅で起こりやすい高齢者の皮膚トラブルとケア内容、訪問看護師が注意すべきポイントなどについてお伝えします。

高齢者の皮膚の特徴とは

皮膚の表面(表皮の角層)には、皮脂と汗が混ざって弱酸性の皮脂膜が形成されることにより、乾燥の防止や外界からの異物の侵入を防いで内部の水分を保持する「バリア機能」があります。

しかし、加齢とともに皮脂や発汗が減少し「バリア機能」が低下するため、様々な皮膚トラブルが起こりやすくなります。

皮膚のバリア層は、たった0.02㎜(ラップ程度)の薄さしかなく、体を洗ったりタオルでこするだけでも、簡単に傷つけることがあります。小さな傷から細菌が侵入し、それが悪化して全身に症状を広げることもあります。

在宅で起こりやすい皮膚トラブル(1)ドライスキン(乾燥)

ドライスキン(乾燥肌)は、表皮の角質層の柔軟性が低下し、角質が硬く脆くなり、角質の水分量が減少する状態です。

このような皮膚の特徴的な疾患として、皮脂欠乏性皮膚炎や皮膚掻痒症が挙げられます。これらの疾患はかゆみを伴い、患者の睡眠障害を引き起こし、身体への影響が高まる可能性があるため、以下の予防的なスキンケアを行い、かゆみをコントロールすることが重要です。

(1)皮脂を落としすぎない清潔ケア

弱酸性の洗浄剤を手に取り、しっかり泡立てた泡で体を包み込むように洗います。泡を使用することで摩擦刺激を減少させ、過剰に皮脂を取り除かずに角質層を保護します。入浴が難しい場合は、洗い流す必要のない清浄剤を利用します。


入浴時には、湯温を約38〜40℃に設定し、皮脂の過剰な除去を防ぎます。

(2)バリア機能を維持させる保湿ケア

入浴後、15分以内に全身の保湿ケアを実施します。これにより、皮膚への浸透が高まります。


皮膚が強い乾燥と剥がれを伴う場合、皮膚への浸透が速いローションタイプの保湿剤を使用を始めます。


保湿剤を手のひらに広げ、温めてから皮膚に塗りこむようにします。

(3)刺激を回避し保護する

乾燥した皮膚は摩擦に弱く、褥瘡や皮膚損傷がしやすくなるため、ベッド柵や車椅子への接触、衣服による圧迫を避けます。


痛みやかゆみによって皮膚を掻くことが危険な場合、爪は短く切っておきます。

皮膚の乾燥における看護のポイント

観察のポイント 支援・教育のポイント
皮膚の乾燥や痒感の程度 ナイロンタオルやボディブラシを使用せず、綿のタオルか手でなでるように洗う


痛痒感が強い部位は頻回に保湿する


保湿剤でコントロールができない場合、皮膚科を受診して外用薬の使用を検討する

生活環境 温まりすぎると痛みやかゆみが強まることがあるため、室温や湿度に気を付け、必要に応じて加湿器なども活用する


保湿剤を選ぶ際には、金銭面に十分に注意して選択する

介護力と経済性 デイサービスや訪問看護の清潔ケアの後、全身に塗布できるように持参し、事前に用意しておくよう説明する
在宅で起こりやすいトラブル

夜間電気毛布を高温で使用したり、こたつを長時間使ったり、暖房器具を使ったりすると、乾燥やかゆみが強まる可能性があるため、温度の調節に注意する


強い痛みやかゆみがあるため、夜間には不眠やおむつのいじり癖、不潔行動などが発生しやすいことがあります。近くの医師を受診し、内服薬や外用薬を利用して症状を管理することが重要

在宅で起こりやすい皮膚トラブル(2)おむつかぶれ

おむつ内は高温多湿で、皮膚が蒸れやすくなります。さらに、便や尿によるアルカリ性の刺激が加わり、皮膚の保護機能が弱まるため、皮膚は乾燥し、かゆみや痛みが出ることがあります。その結果、白癬やカンジダ症などの皮膚真菌感染症が発生する可能性もあります。

また、皮膚の浸軟は褥瘡のリスクも高めるため、おむつ内の環境を適切に整え、感染や皮膚障害の発生を予防することが非常に重要です。

おむつかぶれにおける看護のポイント

観察のポイント 支援・教育のポイント
排泄物の性状 便と尿が混ざるとアルカリ性の刺激が増強されることがある。男性の場合、尿パッドの使用を検討する


下痢の場合、食事形態や摂取量、感染性腸炎などの原因を明らかにし、改善を図る

皮膚障害の状況 おむつを使用している場合、排泄口周囲に浸軟が見られる場合は、撥水効果のあるクリームを使用する


おむつ内の皮膚、腹部、または背部に乾燥が見られる場合、かゆみを予防するために保湿ケアを継続して行う


足白癬などの皮膚病がある場合、体幹やおむつ内で同様の症状が現れる可能性があるため、全身の皮膚状態を確認する

介護力と経済性 使用する保湿剤や洗浄剤を選ぶ際には、金銭面に十分に注意して選択する
在宅で起こりやすいトラブル

おむつを交換する際、尿パッドを引っ張って取り除くことは絶対に避ける。湿った皮膚は簡単に剥がれる可能性がある


おむつ内の皮膚を頻繁に洗浄したり過度にこすったりすることは、乾燥を促進し、皮膚の問題を引き起こす原因となる


皮膚真菌症が確認された場合、治療には抗真菌薬が必要になる


バリア機能が損なわれることにより、皮膚症状の悪化だけでなく、介護の負担も増加する可能性があるため、適切なスキンケアの指導を行う

在宅で起こりやすい皮膚トラブル(3)スキン-テア

スキ-テアは、「摩擦やずれによって、皮膚が裂けて真皮深層まで損傷する状態(部分層損傷)」と定義されています。

皮膚が非常に乾燥している、ステロイド内服や抗凝固療法を受けている人など、特定の状況下でスキンテアが発生しやすく、例えば、ベッド柵や車いすに接触して皮膚を裂ける、テープを剥がす際に皮膚が剥がれる、手をつかんで移動させることで皮膚が傷つくなどのケースが報告されています。

スキンテアは褥瘡(床ずれ)のリスク因子の1つであり、発生した場合にはSTAR分類に従って評価し、適切なケアを行いますが、基本的にはリスク評価を行い、スキンテアを予防するケアが非常に重要です。

スキンテアにおける看護のポイント

観察のポイント 支援・教育のポイント
スキンケア方法 洗浄は手のひらで優しく行い、清拭は押さえ拭きする


リスク因子を持っている場合は、予防的なケアとして1日2回の保湿ケア(特に四肢)を習慣化させる


乾燥が強い場合、摩擦刺激を与えないで使用できる、浸透効果が高いローションタイプの保湿剤を選んで使用する.

生活環境 体動時にベッド柵や車椅子との接触には十分に注意し、ベッド柵カバー、アームカバー、レッグカバー、手袋などを装着して保護する


体位変換や移動の際には、手足をつかむのではなく、腰や肩を支えて介助する

創の状況 初期処置として出血を止めた後、洗浄し、市販のワセリンを塗布して乾燥を予防し、非粘着性のガーゼで保護する


テープを使わず、軽く包帯を巻いて固定する


交換時には、戻した皮膚を固定しない方向にゆっくりとガーゼを剥がす

在宅で起こりやすいトラブル

更衣時のスキンテアを予防するために、前開きのゆったりとした寝衣を着用する


寝衣やおむつを引っ張ることによる摩擦によってスキンテアが発生する可能性があるため、注意が必要


テープ固定によりスキンテアが再発生する危険性があるため、テープ以外の固定方法を検討する

皮膚トラブルにおいて訪問看護師の心得るべきこととは

(1)スキンケアの重要性を療養者や家族に理解してもらう

皮膚トラブルは、日常的に保湿ケア等を継続することで, かゆみや真菌感染, スキンテアの予防をすることが可能です。そのため、訪問看護師は、利用者や家族に対して

・皮膚のバリア機能の低下や摩擦抵抗の増強によって生じる皮膚のトラブルの理解(高齢者の皮膚の傷みやすさ)

・皮膚トラブルの改善に欠かせない予防的スキンケアを継続することの重要性

を伝え理解してもらうことが重要です。

(2)利用者・家族に簡単で安全なケア方法を指導する

皮膚トラブルは家庭のケアでも対処できるものもあります。

訪問看護師は、「皮膚のケアをするために、揃えておいてくださいね」とケアに必要なものを具体的に伝え、簡単で 安全なケアの方法 を指導していきます。

家庭で揃えてほしい基本のケア用品

ワセリン

高重度で安全にすぐれた白色ワセリンを用意

軟膏

湿疹やかゆみ、かぶれに効く軟膏薬を常備

ガーゼ&テープ

創の保護に使用。テープは低刺激タイプを選ぶ

(3)皮膚トラブルの改善には、環境整備も大切

皮膚トラブルの改善には、スキンケアだけでなく、環境整備も欠かせません。皮膚が乾燥している場合、室内の湿度や衣服、寝具の適切性、水分摂取の量、石鹸やシャンプーの使用量など、生活全体を点検しアセスメントします。

まとめ

今回は、在宅で起こりやすい高齢者の皮膚トラブルとケア内容についてお伝えしました。

訪問看護による褥瘡やドライスキン、おむつかぶれなどの皮膚トラブルの予防と治療は、高齢者の健康管理において重要な役割を果たします。

在宅で起こりやすい皮膚トラブルであるドライスキンやおむつかぶれ、スキンテアは、治癒に時間がかかり、長期的な処置が必要です。

そのため, 利用者や介護者の精神的・身体的負担に十分配慮し,適切な対処方法を環境整備を含めて伝えることが非常に重要です。

参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護

参考文献/出典元:医歯薬出版「地域・在宅看護論」