近年、訪問看護ステーションの次の事業展開としてナーシングホームの開設を検討される方が増えてきています。
自宅でのケアや介護が困難になった要介護度の高い方や医療依存度の高い方をお預かりするナーシングホームを訪問看護ステーションが開設するというのは、非常に理にかなっており、事業展開としても多くのメリットがあります。
訪問看護ステーションの安定的な成長にサービスの質が求められるように、ナーシングホームの経営にも高品質なサービス提供は不可欠です。
訪問看護ステーションがスムーズにナーシングホーム経営に乗り出すためには、スタッフ教育、設備管理、安全管理、感染症対策、シフト管理などナーシングホーム独自の質とは何かを理解していく必要があります。
本日は、訪問看護ステーションが「質の高いナーシングホーム」を経営するために知っておきたいポイントについてお伝えします。
ナーシングホームの準備段階から意識しておきたいポイントとは
ナーシングホーム経営において、高品質なサービス提供は、入居者の安定的な確保、スタッフの採用と定着、地域の評判、そして医療機関からの信頼を築くために不可欠です。
これらの要素は、早期に満床状態を達成すること、経営の安定を図ること、また複数のナーシングホームを展開するためにも極めて重要です。
特に以下の8つのポイントは、ナーシングホーム開設の準備段階から意識されることをお勧めします。
(1)ナーシングホームのスタッフの質
(2)ナーシングホームのケアの質
(3)ナーシングホームの環境整備
(4)入居者の家族への対応
(5)ナーシングホームの運営ルール
(6)入居者情報の共有方法
(7)安全衛生管理
(8)スタッフ満足度の高い働き方
それぞれのポイントごとに詳しくみていきます。
(1)ナーシングホームのスタッフの質とは
質の高いナーシングホームを経営するために、ナーシングホームのケア方針をスタッフに浸透させ、入居者のケアに情熱を持って取り組むことができる質の高いスタッフを揃えることが大切です。
1. 経験と専門知識
スタッフの経験と専門知識を確認しましょう。特に難病や重度の方に対するケアの経験や、専門知識を持っているかが重要です。
2. コミュニケーションスキル
入居者やその家族と適切にコミュニケーションを取り、個別のニーズを理解し、尊重できているかを確認しましょう。スタッフのコミュニケーションスキルは、入居者・家族との信頼関係を築くために不可欠です。
3. 緊急対応
スタッフが緊急時に適切に対応できるかどうかを確認しましょう。緊急事態や自然災害などに対するトレーニングや手順が整備されていることが大切です。
4. スタッフの配置
適切なスタッフの配置が行われているか確認しましょう。医療処置が必要な入居者に対応する際、スタッフの過度な労務により質が保たれないケースがあるため、適切な人員の配置が必要です。
5. チームワーク
内部のみならず、外部の関係者との協力と連携がスムーズに行われているか確認しましょう。スタッフがチームで協力して入居者のケアに取り組むことは、高品質なケアの提供に不可欠です。
6. 倫理観とモラル
スタッフが高い倫理観とモラルを持っているか確認しましょう。
入居者の権利とプライバシーを尊重し、尊厳を守る意識があることが大切です。
7. フィードバックと改善
スタッフの意見や提案を受け入れ、ナーシングホームの運営を改善する文化があるか確認しましょう。スタッフのフィードバックと改善はサービスの向上に役立ちます。
(2)ナーシングホームのケアの質とは
要介護度の高い方や医療依存度の高い方をお預かりするナーシングホームには、提供するサービスの質と何かを様々な観点から考えて行く必要があります。
1. 医療的ケア
入居者の医療的ケアが適切に行われているか確認しましょう。医師など専門職と連携し、入居者の状態に合わせた医療的ケアや服薬管理を行うことが大切です。
2. 質の高い看護
入居者に対する看護ケアの質を確認しましょう。緊急対応、疾患、傷のケアなどが適切に行われていることが必要です。
3. 質の高い介護
入居者の日常生活の支援と介護の質が保たれているかを確認しましょう。入浴介助、食事支援、排せつ介助などが適切に行われていることが必要です。
4. 心理的および精神的支援
入居者の心理的および精神的な支援が行われているかを確認しましょう。
5. 食事と栄養
入居者の状態に合わせた食事が提供されているか確認しましょう。栄養バランスにも気を配ることも大切です。
6. イベントとレクリエーション
適切なイベントやレクリエーションプログラムが提供されているか確認しましょう。難病や重度の入居者でも、医師の確認のもと、イベントやレクリエーションに参加することで生活の質の向上につながります。
7. 清潔さと感染予防
ナーシングホームの施設内部が清潔で衛生的であることを確認し、感染予防マニュアルに沿ったケアが実施されているか確認しましょう。
8. 品質監査と評価・改善
ケアの質を定期的に監査し、評価・改善を行う体制が整備されているか確認しましょう。
(3)ナーシングホームの環境整備とは
ナーシングホームの環境整備・設備管理は、高品質なケアを提供するために極めて重要です。
1. 安全な施設環境
ナーシングホームの環境や設備が入居者の安全を最優先に考慮されているか確認しましょう。防火設備、滑り止め、手すり、避難経路などが適切に設置されているかを点検することが必要です。
2. バリアフリー環境
入居者や介助者が容易に移動できるようバリアフリー環境が整っているかを確認しましょう。
3. 清潔さと衛生
•施設内部が清潔で衛生的であることを確認しましょう。定期的に清掃と感染症予防が徹底されているか確認します。
4. 室内照明と自然光
室内照明が適切に配置され、十分な明るさを提供できることを確認し、自然光が入る状態であるか確認しましょう。明るい環境は入居者の快適性と視認性を向上させます。
5. 室温の調整
施設内の室温が調整可能となっていて、快適であるか確認しましょう。難病や重度の方の体温調整に快適な室温は大切です。
6. 食事環境
食堂や食事提供エリアが清潔で安全な環境であることを確認しましょう。入居者が快適に食事を摂るための設備が確保されているかを確認します。
7. プライバシーの保護
入居者のプライバシーを保護するために、適切な部屋の仕切りや個室の提供が行われているか確認しましょう。
8. 安全な浴室とトイレ設備
浴室やトイレの設備が安全で、入居者自身や介助者が利用しやすいか確認しましょう。手すりの位置や荷物などの障害物がないかなども確認します。
9. 緊急時対応設備
緊急時に備えて、AED、応急医療キット、非常用電源、ナースコール、見守りシステムなどの設備が整っているか確認します。
(4)入居者の家族への対応方法
高品質なナーシングホーム経営において、家族への対応は重要な要素のひとつです。家族との協力とコミュニケーションは、入居者のケアにおいて大きな役割を果たします。
1. オープンなコミュニケーション
家族とのコミュニケーションはオープンで透明であることが求められています。家族に施設の運営や入居者の状態に関する情報を提供し、質問や懸念に対応する姿勢を示しされているかを確認しましょう。
2. 家族からのフィードバック
ケアプランや医療ケアへの家族の意見や希望も尊重しましょう。家族からのフィードバックを受け入れ、適切に対処することが重要です。
3. サポートと情報提供
家族がナーシングホームのケアに不安や不満を感じている場合、家族に対して適切な解決策を示して、不安や不満を軽減する活動が行われているかを確認します。
4. プライバシーの尊重
入居者と家族のプライバシーを尊重し、個人情報やプライベートな問題に慎重に対応しているかを確認しましょう。
5. イベントとコミュニティ参加
イベントやコミュニティに家族参加を促し、参加を通じて、家族とスタッフのつながりを強化しているかを確認します。
(5)ナーシングホームの運営ルール
ナーシングホームを安定的に運営していくためには、明確な運営ルールを整備しておくことが不可欠です。
1. 安全性と感染症管理
安全性の確保と感染症管理は優先事項です。適切な手衛生、感染予防策、食品の取り扱いに関するルールを実施し、入居者とスタッフの安全が確保されているかを確認しましょう。
2.書類管理
各種書類は適切な管理が必要です。サービス提供記録、カルテの保管、閲覧に関するルールを確立し、漏洩や紛失を防げているかを確認します。
3.報告連絡
入居者の健康状態の変化やトラブル発生時など、報告連絡のルールが確立されているかを確認しましょう。
4. 危機対応計画
災害や非常事態に、スタッフと入居者の安全を保護するためのルールとプロトコルを確立しましょう。
5. 継続的な品質改善
品質改善を継続的に行い、ケアの質を向上させる体制をつくりましょう。
(6)入居者情報の共有方法
入居者の正確な医療情報や疾病の進行、家族との関係などナーシングホームを安定的に運営していくためには、スタッフや関係機関との情報共有が非常に重要です。
1.医療情報の正確な記録
入居者の医療情報を正確に記録し関係者間で共有されているかを確認しましょう。これにより、スタッフは入居者に最適なケアを提供できます。
2. 家族との情報共有
入居者の家族とのコミュニケーションを密に行い、適切な情報が提供されているかを確認しましょう。家族は入居者の健康状態やケアプランに関する情報を受けることで安心につながります。
3. 疾病の進行と健康状態
入居者の疾病の進行と健康状態を把握し、アセスメントが行われているかを確認します。この情報を共有し、必要に応じてケアプランを修正し、入居者に最適なケアを提供します。
(7)安全衛生管理
入居者の健康管理及び、事故リスクの管理、災害や非常事態など安全衛生管理は、ナーシングホームを運営する上で必要不可欠です。
1. 感染症対策
感染症の予防と管理のためのプロトコルを確立し、手衛生、感染源絶滅、面会制限感染症の拡散を防ぐための適切な措置を講じましょう。
2. 衛生設備と清掃
施設内の清潔さと衛生を維持するために適切な清掃プロトコルを実施し、トイレや浴室、共用スペースなどの衛生設備が清潔であることを確認しましょう。
3. 薬品管理
薬品管理に関する厳格なルールを確認し、誤薬や飲み忘れを防ぎましょう。
4. 食品供給
入居者に提供される食品が安全であることを確認し、食品の取り扱いと調理に関する衛生基準を遵守しましょう。
5. 防火設備
防火設備の整備と定期的な点検を行い、入居者と施設の安全を確保します。適切な避難経路や非常用出口を整えましょう。
6. 予防措置
入居者の転倒リスクを軽減するための手すりや滑り止めの設置など適切な予防措置を実施しましょう。
7. 緊急時対応計画
災害や非常事態に備えた緊急時対応計画を策定し、スタッフと入居者の安全を確保します。
8. 品質監査と改善
安全衛生の品質監査を定期的に実施し、改善の機会を持ち、品質を向上させます。
(8)スタッフ満足度の高い働き方
介護度の重い方や医療依存度の高い入居者を24時間しっかりとお預かりするには、介護・ケアを担当するスタッフに満足度の高い働き方を用意することが非常に重要です。
スタッフの働き方が向上することは、ケアの品質や入居者の満足度に大きな影響を与えます。
1. スタッフのスキルとトレーニング
スタッフのスキルと専門知識の向上のためにトレーニングプログラムを提供し、スキルの向上を支援しましょう。
2. スタッフ間のコミュニケーション
スタッフ間のコミュニケーションを向上させ、チームワークを促進するためのミーティングを設けましょう。スタッフ同士が情報共有し、問題解決を行いやすい環境を提供します。
3. ワークライフバランス
スタッフのワークライフバランスを尊重し、適切なシフトスケジュールと休暇が提供されているかを確認します。過度な労働負担を避け、疲労によるミスを減らします。
4. キャリア発展と昇進昇給
スタッフがキャリアを築く機会を提供し、昇進昇級ができるプログラムを設定しましょう。
5. チームの意義と使命感
スタッフに対して、自身の役割が入居者の生活に意義があることを伝え、使命感を醸成しましょう。
6. スタッフの安全
スタッフの安全を確保し、就労中の事故のリスクを最小限に抑えます。
まとめ
訪問看護ステーションが「質の高いナーシングホーム」を経営するためには、訪問看護ステーションとは別領域のさまざまな要因に留意する必要があります。
特に今回、お伝えしたスタッフの質向上、高品質なケア、施設環境整備、家族への対応、適切な運営ルール、情報共有、安全衛生管理、スタッフの満足度が重要となります。
これらの要点を実践し、入居者とその家族に高品質なサービスを提供することが、ナーシングホームの成功につながります。