日本は地震や台風・豪雨などの自然災害が多く、どこに住んでいても被災するリスクがあります。
ひとたび災害がおきれば利用者だけでなく、訪問看護師自身も被災者となり、すぐに利用者宅に駆けつけることは困難になります。このため、災害が起きる前から、災害時を想定して準備をしておくことが不可欠です。
本コラムでは、各家庭で備えるべき非常用品、病状に応じた薬や医療機器の持ち出し計画、そして地域ごとの避難場所の確認など災害時の対策についてご紹介します。
災害時での各対応を利用者・家族に指導する
災害が発生したとき、訪問看護師が即座に利用者の家に向かうことは困難です。そのため、災害時に起こりうる事態に備えて、利用者・家族に適切な対応を事前に指導することが不可欠です。
まず、家庭内での緊急時対応策を確立することが重要です。災害発生時の安全の確保や火災や断水、停電などの場合、利用者がどのように行動すべきかを理解してもらうことで、危険を最小限に抑えることが可能です。
また、医療機器の使用方法や薬の保管方法、病状に応じた応急処置の知識を共有することも大切です。さらに、地域の避難場所や避難計画についても情報提供する必要があります。災害時には利用者とその家族がどこに避難すべきかを知っておくことが生命の安全を守るために欠かせません。
それでは、訪問看護師が利用者・家族につたえるべき災害対策についてこまかくみていきます。
ベッド周りの安全確保を指導する
阪神・淡路大震災では、家屋や家具の下敷きになって亡くなった人が9割近くを占めました。
訪問時には、ベッド周りの安全を確保するよう指導しましょう。
療養者のベッド周辺に落下の危険がある物や倒れる可能性のある物がないか確認し、落下物を防ぐ対策だけでなく、避難時に妨げにならないように足元や床を整理することも重要です。避難経路が確保されるかどうかも点検してください。
非常時持ち出し品を用意する
基本の非常用品は、看護師自身と療養者の両方に共通です。それに加えて、薬や医療機器なども必要です。療養者や家族と話し合い、できるだけ用意しておくことが大切です。
基本の非常用品
必要な物資は最低3日分用意しましょう。首都圏では物資の到着に時間がかかる可能性があるため、1週間分の備蓄を考えておくことをおすすめします。
・懐中電灯
・携帯ラジオ
・電池
・ろうそく
・マッチまたはライター
・軍手
・タオル
・ポリ袋
・ティッシュ、ウェットティッシュ
・現金とカード
・メモとペン
・はさみ
・缶切りとナイフ
・紙コップと割り箸
・防寒シート
・下着
・オムツ
・現金とカード
・印鑑、通帳など
・ドライシャンプー
・カイロ
・3日間分の水
・3日間分の非常食(乾パン、缶詰、インスタントラーメン、総合栄養食品など)
薬・お薬手帳の持ち出し方を指導する
インスリンや抗てんかん薬などの必需品は、絶対に忘れずに準備しておきましょう。また、内服薬については服薬カレンダーごとにまとめて持ち出すことをおすすめします。日々の薬の摂取スケジュールを守るためにも、カレンダーを持参することが大切です。
さらに、お薬手帳も重要ですので、普段から非常用袋に保管しておくようにしましょう。お薬手帳には医療情報が記載されており、災害時にも適切な医療対応を受けるために必要です。万が一の事態に備えて、これらの準備をしっかりと整えましょう。
医療機器の確認、電源の確保
医療機器を使用している方は、常に予備のバッテリーやポンプを用意しておくことが大切です。特に、吸引器は手動式のものも備えておき、必要な際にスムーズに使用できるようにしておくことが必要です。
一部の医療機器には内部に予備バッテリーが組み込まれているものもありますので、確認しておくことも忘れずに。
また、輸液を受けている場合は、予備の充電池を用意しておくことをおすすめします。常に安定した医療機器の使用が可能であるよう、必要な対策を講じてください。
緊急時連絡先リストの作成
災害時には厳しい状況に見舞われ、相談できる場所や支援を求めることが不可欠です。
緊急時に利用可能な連絡先を把握し、常にアクセスできるように準備することが重要です。
消防·救急…119
警察…110
災害用伝言ダイヤル…171
地域の消防署[ ]
氏名:
生年月日:
緊急連絡先 ①
緊急連絡先 ②
緊急連絡先 ③
医療機関名[ ]
連絡先:
主治医名:
近隣の災害拠点病院名[ ]
連絡先:
訪問看護ステーション名[ ]
連絡先:
使用中の医療機器[ ]
設定:
医療機器メンテナンス会社[ ]
連絡先:
電力会社名[ ]
連絡先:
避難場所…[ ]
福祉避難場所(保健センターなど)[ ]
連絡先:
自治会の代表者名[ ]
連絡先:
家族や親戚だけでなく、医療機器の設定やメーカーの連絡先も記載することが必要です。わかりやすく、誰が見ても理解できるように、名称と連絡先を一覧に整理して保管しておきましょう。
利用者リストを用意、利用者宅にも備えておく
ステーション内でも利用者の安否確認を行うため、「利用者リスト」を作成し、ステーション内および別の場所に保管します。
災害時には、他の機関からの応援スタッフが安否確認に向かうこともあります。円滑な連携を図るために、利用者の名前、病名、緊急連絡先、服用中の薬、ケア内容などを記載した「個人票」を用意し、利用者宅に保管しておくこともおすすめです。
訪問エリアにおける災害の可能性を知っておく
病棟の看護師は病院内での災害対応を考える場合がありますが、訪問看護師はそのようにはいきません。訪問看護では、一カ所にとどまるのではなく、自転車や車で訪問地域を巡回して活動します。訪問移動を行いながら「もし今、ここで大きな地震が起こったら」という状況を想像してみることが重要です。
同じ災害でも、住んでいる地域によって危険度は異なります。平地の場合、浸水・洪水や津波のリスクが高まります。一方で、山や高台の近くに住む場合、土砂崩れや地滑り、土石流の危険性が考えられます。
また、地形に関わらず火災や家屋の崩壊のリスクも存在します。直接的な被害を受けなくても、電気やガス、水道、情報・通信、交通など、ライフラインへの影響が懸念されます。
自身が住む地域でどのような災害が起こり得るのか、またそれによってどのような影響が及ぶのかを理解し、想像することは防災の基本と言えます。
訪問看護師としての対応に備える上で、災害リスクを正しく把握することは非常に重要です。
(1)「防災マップ」で訪問中の避難場所の位置を確認
災害から身を守るためには、避難場所の位置をすぐに理解できる「防災マップ」が欠かせません。
防災マップは、エリアごとに避難所、公共施設、医療機関、消防署、避難経路などを示した地図です。
被災時には行動ルートによって避難場所や経路が変わる可能性があるため、療養者ごとに家庭に保管すると同時に、自分の担当エリア全体の防災マップを携帯しておくことが大切です。
(2)「ハザードマップ」で地域の危険性を知る
住んでいる地域のリスクを理解するために、自治体が作成した「ハザードマップ」を利用しましょう。このハザードマップには、危険箇所が視覚的に示されています。
各市町村では、ハザードマップを全戸配布したり、ウェブサイトでパソコンやスマートフォンから閲覧できるようにしています。
災害発生時にはウェブサイトへのアクセスが集中して、閲覧が難しくなる可能性もあるため、普段からダウンロードして印刷しておくことをおすすめします。
※ハザードマップの配布方法は自治体によって異なりますので、お住まいの市町村にお問い合わせいただくか、自治体や国土交通省のウェブサイトで確認することもできます。
まとめ
自然災害は日本全国で現実のものとして存在し、被害に遭う可能性はどこに住んでいても考えられます。訪問看護ステーションにとっても、利用者の安全と支援が最優先ですが、災害が発生した際、訪問看護師自身も被災者となり、すぐに利用者宅に向かうことは難しい状況となります。そのため、災害が発生する前から計画的な対策を講じることが欠かせません。
利用者やその家族に災害時の各対応を指導することは、混乱を最小限に抑え、安全な行動を促す一助となります。ベッド周りの安全確保や非常時の持ち出し品の準備、薬や医療機器の持ち出し方、緊急時連絡先リストの作成など、細部にわたる準備が重要です。
さらに、訪問エリアの地域特有の災害リスクを理解し、「防災マップ」や「ハザードマップ」を活用することで、避難場所や危険箇所を正しく把握することができます。
訪問看護ステーションが利用者の安全を守るためには、単なる対応ではなく、事前の準備と情報共有が不可欠です。これらの対策を通じて、訪問看護の質を高め、災害時にも確かなサポートを提供できることを心がけましょう。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護
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