在宅療養における意思決定支援とは?訪問看護に求められる役割とアセスメント項目

訪問看護でかかわる在宅療養者は、病気や老いによって、これまでの自分とは違う、何かを失っていく過程の中にあります。

療養者自身も家族も、疾患や老化を受け入れることに対する葛藤や心理的な不安をもち、向き合うことさえ難しい場合もあります。

そのため、訪問看護師には、症状観察や日常生活のケア、医療処置や内服管理といった看護の提供だけでなく、日々の生活の仕方を含め、どのような療養生活を送りたいのか、どのように生きていきたいかなど、療養者の意思や希望を引き出し、決められるよう支援 (意思決定支援) することが求められます。

今回は、在宅療養における意思決定支援をテーマにその概要から意思決定支援が必要になる要因・背景、訪問看護師に求められる支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えします。

目次

在宅療養における意思決定支援とは?

在宅療養における意思決定支援は、本人や家族が自己決定に基づいて、望む形で療養生活を送るための重要な支援です。この支援は、複数の選択肢の中から適切な選択を行うための情報提供や意思決定プロセスの支援を含みます。

地域包括ケアシステムの基本理念は、「高齢者の尊厳の保持」と「自立生活の支援」です。尊厳を保持するためには、個々の意思を尊重し、支援サービスの体制を整備し、適切な情報を提供し、意思決定プロセスをサポートする必要があります。

在宅療養での意思決定支援の特徴と病院との違い

在宅療養における意思決定支援を行う際には、まず病院での治療と在宅での療養生活との違いを理解する必要があります。

在宅看護は、医療機関内の看護とは異なり、生活の場で提供される看護です。治療中心の療養支援ではなく、暮らしや生活を中心に据えた療養支援が必要です。各家庭の生活スタイルや環境、介護状況、経済状態は異なります。

また、病院内の療養生活は医療者の管理下にあり、患者が主体を確保することは難しいことがあります。一方、在宅療養生活では、療養者が主体となります。

日常生活のあり方や望む療養生活について、在宅療養者が自己決定できるよう、彼らの意思や希望を引き出し、意思決定支援を行います。

意思決定支援における国の取り組み

療養者が終末期に望む場所で穏やかに過ごせるようにするためには、病気や状態に応じて終末期の進行を考慮し、早い段階で本人の意思を確認することが重要です。信頼関係の中で話し合いを行い、希望するケアや環境を把握しておくことが大切です。

2018年には、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が改定・公表されました。

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」での方針決定の流れ

参照元:厚生労働省HP「「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂について

このガイドラインでは、病院だけでなく介護施設や在宅の現場におけるアドバンス・ケア・プランニング※の取り組みの重要性が強調されており、同ガイドライン等をふまえた対応が「在宅ターミナルケア加算」と「訪問看護ターミナルケア療養費」といった診療報酬・介護報酬の要件にも位置づけられました。

※訪問看護ターミナルケア療養費についてはこちらの記事も参考にしてみてください。

訪問看護のターミナルケアにおける加算と療養費(介護保険・医療保険)

※アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来自己決定能力を失った場合に備えて、事前に自分の価値観や希望、治療や医療に関する意向、代理決定者などについて話し合うプロセスです。将来の医療やケアに関する自分の希望を明確にし、それに基づいた選択や処置を行うための枠組みを整えることが目的になります。

このように、訪問看護や病院、介護施設などのあらゆる場面で、看護職はACPを意識することが重要です。訪問看護師は、療養者や家族と協力して、療養者が最期の時までをどのように過ごしたいかを考える際に重要な役割を果たします。そのため、日常業務においても、ACPに関する取り組みを意識することが必要です。

訪問看護に求められる意思決定支援とは

在宅療養では、介護サービスの利用や療養方針、さらに延命治療の方針などについて、療養者や家族が適切な時期に意思決定を行う必要があります。

しかしながら、療養者と家族の間で意見の不一致が生じることも少なくありません。

訪問看護師は、本人や家族の在宅療養を支援する立場として、将来の病態予測に基づき、推定される意思も考慮しつつ、真の意向を引き出し、より適切な意思決定を促すことが求められます。

在宅療養において意思決定支援が求められる場面の例

・食事や排泄、清潔の維持など、日常生活や医療・ケアの提供に関する決定の場面


・医師の受診を受けるかどうか、内服薬や処置、点滴の受け入れに関する決定の場面


・入院医療の受け入れの是非や治療方針の決定に関する場面


・療養環境の変更や住み替えの決定に関する場面


・人生の最終段階での過ごし方や場所を決める場面

意思決定支援が必要になる要因・背景とは

次に訪問看護による意思決定支援が必要になる要因・背景についてみていきます。

在宅療養において意思決定が困難になる理由(意思決定不全)にとしては、以下の3つの要因があげられます。

(1)個人の要因

療養者自身の認知機能の低下や疾患認知力の低さ、情報不足や意思表明力の低さが意思決定不全の要因となります。

訪問看護師が援助や対策を行う際には、まず本人が理解しやすい疾患の説明を行います。また、意思表明がしやすいようなコミュニケーション方法を検討し、本人が自分の意思を明確に伝えられるようサポートします。

(2)家族の要因

家族間でのコミュニケーション不足や考え方の齟齬、そして本人との関係性の変化が意思決定不全の要因となります。

訪問看護師が援助や対策を行う際には、まず本人との話し合いの機会を設定します。また、考えなければならない課題を順序立てて明確に示し、家族が理解しやすいようにサポートします。

(3)医療者との関係性の要因

医療者とのコミュニケーション不足や関係性が構築できないことが意思決定不全の要因となります。

訪問看護師が援助や対策を行う際には、まず本人や家族が理解できていないと思われることを代弁して医療者に伝えます。また、担当者会議の設定を行い、医療者とのコミュニケーションの促進や情報共有を図ります。

在宅療養の意思決定支援に関連する社会資源・制度

在宅療養の意思決定支援に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)専門職者による支援

・主治医 専門医による投薬、症状コントロールと予後の見立て


・保健師による社会資源制度の活用や経済的負担の軽減へのアドバイス


・訪問介護による介護負担の軽減


・ケアマネジャーによる介護支援計画の作成と調整・相談

(2)地域住民等による支援

・民生委員からの助言と情報収集


・つきあいの深い友人や隣人へのライフヒストリーの聴取、精神的サポート

(3)社会資源制度の活用

・高額療養費の還付、特定疾患医療費助成、身体障害者手帳による障害者医療助成の申請・活用


・地域包括支援センターへの相談支援

意思決定支援を必要とする療養者・家族をみる視点と支援のポイント

将来の療養方針についての意思決定が求められる場合、療養者の判断力や意思表示能力が低下していることがあります。そのため、まずは療養者の意思を探り出し、意思表明を促す必要があります。

また、治療やケア方針に関する迅速な意思決定が必要な場合もあります。このような場合には、これまでの療養者や家族の関係を丁寧に把握し、意思決定に向けて、様々な葛藤を軽減するような支援が求められます。

意思決定能力に不安がある場合、家族の葛藤や精神的苦痛が大きいことを考慮に入れる必要があります。療養者や家族が後悔することのないよう、適切な意思決定の機会を提供することが重要です。

意思決定支援を必要とする療養者・家族へのアセスメント項目とは

自分の意思や希望に沿った治療やケアを受けながら在宅療養生活を継続していくためには、以下の4つの意思能力が必要となります。

1.選択の表明

治療やケアを選択し、それを明確に表明することが意思能力の一つです。療養者は自分の意志を示し、自らの希望に基づいた治療やケアを選ぶことが求められます。

2.情報の理解

疾患や予後に関する情報を理解することも重要です。療養者は医師や看護師から提供される情報を十分に理解し、自らの状況や選択肢を把握することが必要です。

3.状況の認識

選択した治療やケアの結果を認識することが意思能力の一部です。療養者は自らの状況を正確に認識し、選択した治療やケアが自分にどのような影響を与えるかを理解する必要があります。

4.論理的思考

治療やケアの内容が自らの価値観や希望と合致するかどうかを論理的に考えることも重要です。療養者は自らの状況や価値観に基づき、選択した治療やケアが自分にとって適切かどうかを判断する能力を持つ必要があります。

上記を踏まえて、意思決定支援を必要とする療養者・家族へのアセスメント項目について(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向からみていきます。

(1)疾患・医療ケア

1. 疾患・病態 症状

情報収集項目 情報収集のポイント
疾患 ・疾患がどのように心身の状態に影響しているか
病態 ・疾患の進行がどの程度か、急変や緊急性はどの程度か
疾患の症状 ・疾患による苦痛や不快はどのような状況か
疾患の経過、予後 ・疾患の進行について数日、週単位、月単位での予後

2. 医療ケア 治療

情報収集項目 情報収集のポイント
服藥 ・意思決定、判断力を低下させるような薬の投与がないか、意識を保ったままで心身の安定化を図ることができる投薬や投薬時間の調整は可能か
治療 ・疾患の進行を抑えるために疲労や意識低下が進むような治療が行われていないか、今後の療養方針決定にかかわるような治療が既に始まっていないか
訪問看護 ・本人の意思決定が必要な医療処置やケアが既に行われていないか

3. 全身状態

情報収集項目 情報収集のポイント
呼吸・循環状態 ・呼吸困難感、酸素飽和度の変化はどうか
摂食・嚥下・消化状態 ・嚥下機能の低下はないか、誤嚥をしていないか。 咳嗽反射の程度はどうか。 食事介助や食事内容、食事準備はどうか
栄養・代謝・内分泌状態 ・栄養状態の評価、水分摂取量 (脱水の有無)はどうか
排泄状態 ・排泄コントロールの状況、排泄介助の必要の程度、介護者の介在状況はどうか
感覚器の状態 ・視覚・聴覚障害の有無、疼痛や痒感の訴えの状況はどうか
皮膚の状態 ・皮膚トラブル、褥瘡はないか
認知機能 ・意思決定、判断ができる認知能力が保たれているか
意識 ・意識レベルの変化はないか
精神状態 ・精神的苦痛や不安を抱えていないか、うつ傾向はないか

(2)活動

1. 移動

情報収集項目 情報収集のポイント
ベッド上の動き ・ベッド上で座位もしくはギャッチアップにして会話が継続できる状態か、文字を書いたり本を読んだり、自分の楽しみのための行動ができるか
起居動作 ・自己で起居動作ができるか、ギャッチアップが必要か、自己で体位変換ができるか
屋內移動 ・ベッドから降りて部屋移動が可能か (車椅子か、つたい歩きか、杖歩行か)
屋外移動 ・屋外へ出かけることはあるか、その介助方法は何か

2. 生活動作

情報収集項目 情報収集のポイント
基本的日常生活動作 ・食事摂取や排泄、更衣や整容といった日常生活動作に関するセルフケア能力はどの程度か
手段的日常生活動作 ・調理や買い物、掃除、洗濯などの遂行能力はあるか

3. 生活活動

情報収集項目 情報収集のポイント
食事摂取 ・経口摂取が可能か、誤嚥していないか、自己摂取できるか、介助が必要か
水分摂取 ・水分摂取は経口摂取が可能か、誤嚥していないか、どのような形態の水分が摂取できるか、日々の水分摂取量はどれくらいか
活動・休息 ・睡眠状態はどうか 昼夜逆転はないか。 生活リズムの乱れはないか、日中の離床や座位で過ごす時間はどれくらいあるか
生活歴 ・これまでどのような生活をしてきたのか、社会活動、地域活動はしていたか、毎日必ず行ってきたことはあるか
嗜好品 ・どのような食べ物や飲み物が好みなのか、趣味や興味など関心が高いものは何か

4. コミュニケーション

情報収集項目 情報収集のポイント
意思疎通 ・意識はあるか、外部の情報を受け取る能力があるか、理解力はどうか
意思伝達力 ・人と意思伝達するために必要な発声、聴力、視力の状態はどうか
ツールの使用 ・文字盤やトーキングエイド、補聴器などの使用は必要か、使用できるか

5. 活動への参加 役割

情報収集項目 情報収集のポイント
家族との交流 ・同居している家族との関係(それぞれの家族メンバーとの会話や主介護者とのコミュニケーション等)、別居家族との関係性と訪問、連絡の頻度はどうか。本人の家族の中での役割、立場はどうか
近隣者・知人・友人との交流 ・近隣の人や知人、友人の訪問の程度、友人との電話や手紙などでの連絡の頻度 民生委員や自治会活動や関係性はどうか
外出 ・日常的に外出の機会はあるか、受診や通所介護施設の利用はあるか
社会での役割 ・就労状況、ボランティア活動といった役割があるか、現在はなくても過去に社会での役割はどんなものだったか
余暇活動 ・楽しめる時間、趣味の時間をもてているか、笑顔など表情の変化はどうか

(3)環境

1. 療養環境

情報収集項目 情報収集のポイント
住環境 ・日常に生活している部屋の採光や広さはどうか、窓があるか、外出できる環境か
地域環境 ・通常受診する病院や緊急時の入院可能な病院、買い物や外出しやすい交通機関等が整っているか
地域性 ・新興住宅地か昔ながらの地域か、地域住民との関係性、民生委員活動の状況、近隣の付き合いの程度はどうか、介護や施設入所に対する世間体はどのようなものか

2. 家族環境

情報収集項目 情報収集のポイント
家族構成 ・家族構成、キーパーソンは誰か
家族機能 ・本人と家族の関係、役割分担、家族員同士の関係性、家族全員の心身の健康状態はどうか
家族の介護・協力体制 ・主介護者、副介護者はいるか、役割分担はどのようにされているか

3. 社会資源

情報収集項目 情報収集のポイント
保険制度の利用 ・介護保険、医療保険利用に関する高額療養費の還付、特定疾患医療費助成、身体障害者手帳による障害者医療助成の申請 活用状況はどうか
保健医療福祉サービスの利用 ・介護保険サービス利用状況、在宅訪問診療、福祉用具活用の状況はどうか
インフォーマルなサポート ・民生委員、本人と家族をサポートする近所の人、ボランティアの存在の有無、ハウスキーパー等の活用はあるか

4. 経済

情報収集項目 情報収集のポイント
世帯の収入 ・医療介護支援を受けるにあたっての世帯収入 年金額はどうか
生活困窮度 ・介護サービス等の支払状況はどうか、滞りはないか

(4)理解・意向

1. 志向性 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
生活の志向性 ・どのような仕事をしてきたのか、前向きな精神性をもった人か後ろ向きな人か
性格・人柄 ・どのような仕事をしてきたのか、前向きな精神性をもった人か後ろ向きな人か
人づきあいの姿勢 ・人との付き合いを好む外向性の高い人か否か、他者への興味・関心の程度はどうか

2. 自己管理力 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
自己管理力 ・自分のことは自分で決めるような自立心のある性格か
情報收集力 ・疾患や予後に関して自分でどの程度調べているか、疾患への知識はどの程度か
自己決定力 ・自分の意思で日々の生活上の選択や指示ができているか、自己判断力はどの程度あるか

3. 理解・意向 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・これまでの生活で大切にしてきたことは何か
感情 ・自分の現在の身体状況への受容と悲嘆の状況はどうか
終末期への意向 ・最期の時をどこで迎えたいと考えているか
疾患への理解 ・自分の身体状況と今後の経過と予後についてどの程度理解しているか
療養生活への理解 ・これから援助を受ける必要のある日常生活支援と健康管理について理解しているか
受けとめ ・疾患に対してどのように受けとめているのか

4. 理解・意向 (家族)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・本人にどのような生活を送ってもらいたいと考えているのか、家族自身の希望や意向はどのようなものか
感情 ・本人の介護に対する思い、本人の今後の療養方針に対する葛藤はないか
疾患への理解 ・疾患の経過と予後をどの程度理解しているか、適切に介護が続けられるか
療養生活への理解 ・これから続く療養生活にどのような心構えをもっているか、介護負担の見積もりなどをしているか

まとめ

今回は、在宅療養における意思決定支援をテーマにその概要から意思決定支援が必要になる要因・背景、訪問看護師に求められる支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えしました。

在宅療養者の生活全般にかかわる訪問看護師は、本人・家族の真の思いを引き出し、推定意思も考慮しながら、よりよい意思決定へ導く支援が求められます。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。