慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、訪問看護においても関わることの多い疾患であり、人口の高齢化が進む中で患者数は今後さらに増加すると予想されています。
在宅でのCODP療養の支援は、利用者と家族の生活の質(QOL)を向上させ、症状を軽減し、増悪(症状の悪化)のリスクを低減し、健康を長期間維持・促進するための行動変容を促すことにあります。
今回は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)をテーマに訪問看護師に求められる役割、そして在宅療養における症状とQOLの改善のために必要となるアセスメント項目などについてお伝えします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
COPDは、たばこの煙などの有害物質による長期間の曝露によって引き起こされる、気流閉塞を示す肺疾患です。従来は慢性気管支炎や肺気腫として知られていました。
厚生労働省の調査によれば、国内のCOPD患者数は毎年約20万人前後で推移し、潜在的な患者はさらに多いと見込まれています。
特に65歳以上の高齢者がCOPD患者の約83%を占め、高齢化が進むにつれて患者数が増加すると予測されています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状・経過とは
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、末梢気道病変と気腫性病変が気流閉塞をもたらし、病態は進行的であり、増悪と寛解を繰り返しながら、最終的には呼吸不全に至る長期の経過をたどります。
病態が進行すると、ウイルスや細菌による気管支炎や肺炎などの合併症が発生しやすくなります。これにより、急性増悪と呼ばれる状態が現れ、咳や痰の増加、発熱、呼吸困難の急激な悪化がみられることがあります。
また、慢性の呼吸困難が進行すると、食欲低下、体重減少、活動性の低下といった身体的な変化だけでなく、時にはうつ病などの精神症状も見られることがあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の在宅療養とは
在宅医療では、COPD患者と家族の日常生活での自立を支援し、生活の質(QOL)を向上させることを目指します。
COPDの在宅医療では、COPDの専門医療機関と協力して、薬物療法や呼吸リハビリを継続します。
重症例では、患者、家族、訪問看護医療機器業者などと協力して、高流量酸素療法(HOT)や非侵襲的陽圧換気(NPPV)を提供し、エンドオブライフの緩和ケアも担います。
また、地域医療ネットワークを構築し、自宅の環境を整えることで入院の必要性を減らすことも大きな目的となります。
※慢性閉塞性肺疾患(COPD)の管理についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
COPDに関連する社会資源・制度
COPDに関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。
(1)機能訓練、日常生活動作訓練
・介護保険法によるデイケア、デイサービス、訪問リハビリテーション
・医療機関での機能訓練
(2)日常生活を支援する福祉用具貸与および購入
・介護保険法による福祉用具貸与 (特殊寝台 特殊寝台付属品、工事が不要な手すり 車椅子、歩行器、スロープ)
・介護保険法による福祉用具購入 (ポータブルトイレ、補高便座、工事が必要な手すり シャワー椅子)
(3)包括的呼吸リハビリテーション
・薬剤師による服薬・吸入指導、栄養士による栄養指導、理学療法士による呼吸法、排痰法、生活動作指導
・医療機関での療養生活指導、感染予防指導
(4)在宅酸素療法に関する社会資源・制度
・身体障害者福祉法による重度心身障害者医療費の助成、障害年金、所得税、住民税の控除、 自動車税の減免、鉄道バス 航空運賃等の割引、タクシー料金の割引、NHK 受信料の減免、日常生活給付用具(ネブライザー等) の給付、公営住宅の優先入居
・福祉用具貸与 (ベッド、歩行器等)、福祉用具購入 (排泄、入浴に関連する用具)、住宅改修(工事が必要な手すり スロープ、トイレ、風呂等)
・医療保険による往診、医療機器業者の機器管理
COPDの利用者、家族において訪問看護師に求められる視点と役割とは
COPDは全身に影響を及ぼし、重症度や生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、患者の健康状態を単に医学的な観点だけでなく、総合的に評価することが重要です。
特に日常生活動作は呼吸困難に影響を与えるため、包括的な呼吸リハビリテーションの視点を持つことも重要です。
また在宅環境では、自己管理のための教育も重要になります。なにより療養者の意思や希望を尊重し、彼らを生活者として捉えることが必要です。
支援のポイント
1. 全身性の影響に対する医療連携
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は全身的な影響を及ぼし、炎症や栄養障害、筋骨格機能障害、血管疾患などの健康問題を引き起こします。訪問看護師は、これらの状態を把握し、医師と連携して適切な医療が提供されるようサポートします。
2. 包括的呼吸リハビリテーションの促進
COPDの管理には、禁煙、薬物療法、栄養指導、酸素療法、運動療法などの多職種の連携が必要です。訪問看護師は、これらのリハビリテーションプログラムへのアクセスを支援し、利用者が継続的なサポートを受けられるよう手配します。
3. 在宅での自立した生活の支援
在宅療養では、療養者の意思や希望を尊重しながら、自宅や地域での自立した生活を継続するための支援が必要です。訪問看護師は、療養者と家族と協力して、自己管理のための教育や環境調整を行い、安心して生活できる環境を整えます。
4. COPDに関する患者教育の提供
COPDの患者教育は重要であり、自己管理、禁煙、薬物療法、予防接種、急性増悪の予防・対応、理学療法、食事療法、在宅酸素療法、環境調整などに関する情報提供が含まれます。訪問看護師は、患者や家族にこれらの健康情報を提供し、適切な療養生活をサポートします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の状態に応じた支援のポイント
(1)安定期
COPDの安定期では、服薬や吸入療法を正しく行い、症状を軽減させることが重要です。また、日常生活で呼吸困難が起こらないように、適切な活動を行い、運動耐容能を維持・改善し、生活の質(QOL)を向上させることも大切です。
また感染増悪を予防して安定期を保つことも重要です。
支援のポイント
・治療を適切に受け、症状が管理され、日常生活(排泄、清潔、整容、睡眠、活動、食事)がスムーズに行われているか確認します。
・手洗いやうがい、予防接種など感染予防に努め、増悪を予防します。
(2)憎悪期
COPDの急性増悪時に異常を早期に検出し、速やかに治療を受けることが重要です。
支援のポイント
増悪時(肺炎、心不全、気胸、胸水など)には、早めに医師に報告して適切な医療を受けられるように対処します。
(3)終末期
終末期に至るまでの段階で行われたACPに基づき、薬物療法や療養場所の選択について適切な意思決定支援を提供することが重要です。
支援のポイント
・症状を和らげ、精神面のサポートを提供します。
・薬物療法として、モルヒネ、鎮痛薬、抗不安薬、ステロイド、気管支拡張薬の投与が考慮されますが、医師と本人や家族が十分に話し合えるように調整します。
自宅での療養を継続させるために必要な訪問看護のアセスメント項目とは
慢性閉塞性肺疾患(COPD)利用者が自宅での療養を継続させるためには、患者の健康状態や医療ニーズだけでなく、生活状況全般を総合的に評価することが不可欠です。
訪問看護師は、自宅でのセルフケアを適切に行えるかどうか、また、利用者の生活環境が呼吸困難を悪化させないように整備されているか、利用者が必要な医療機器を正しく使用できるかなどを確認します。
また、増悪期の緊急対応方法が適切に検討されているかを確認し、もし不十分な場合は、患者や家族に対して安心して自宅での療養を継続できるように教育や調整を行います。
それでは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)利用者に対するアセスメント項目について(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向からみていきます。
(1)疾患・医療ケア
1. 疾患・病態 症状
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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疾患 | ・主疾患が全身性に及ぼしている影響(筋骨格機能障害、心血管疾患、抑うつ等)はないか、 既往歴、合併症はないか |
病態 | ・COPD 病期分類はどうか |
疾患の症状 | ・疾患による症状の程度、治療後の症状の変化、症状が日常生活にどのように影響しているか |
疾患の経過、予後 | ・症状出現と経過、治療歴、入院歴、症状の進行状況はどうか |
2. 医療ケア 治療
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
服藥 | ・服薬、吸入薬、貼付剤の内容、副作用、服薬管理状況はどうか |
治療 | ・治療方針 治療内容 受診状況、呼吸リハビリテーション内容はどうか |
医療処置 | ・在宅酸素療法や NPPV を使っているか、その酸素流量はどの程度か、自分で管理しているか |
3. 全身状態
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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成長・発達段階 | ・身長、体重、体格、胸郭の状態(胸郭の前後径の増大、胸郭の左右非対称等)はどうか |
呼吸循環状態 | ・呼吸回数、呼吸リズム、呼吸音の減弱、副雑音の有無、咳嗽の有無と程度、喀痰の量と性状、呼吸困難の有無と程度、チアノーゼ、胸郭の動き・柔軟性・拡張性、呼吸補助筋の活動性、起座呼吸、浮腫、頻脈、不整脈、頸静脈怒張、酸素飽和度はどうか
・鼻翼呼吸、□呼吸、口すぼめ呼吸はないか |
摂食・嚥下・消化状態 | ・食事の摂取状況や嚥下状況はどうか。 腹部膨満や便秘はないか.排便コントロールの状況はどうか |
栄養・代謝・内分泌状態 | ・食事内容量、回数はどうか. 食欲不振はないか。 食事摂取時の呼吸困難はないか. 体重の増減 上腕三頭筋皮下脂肪厚、上腕周囲長、血清アルブミンはどうか |
筋骨格系の状態 | ・生活動作に伴う酸素飽和度の低下はないか. 運動耐容能、姿勢、体格はどうか |
皮膚の状態 | ・酸素カニューレ使用に伴う皮膚トラブルはないか |
認知機能 | ・認知症はないか |
意識 | ・意識障害 (傾眠、不穏等) はないか |
精神状態 | ・睡眠状態はどうか. うつ症状はないか |
免疫機能 | ・肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ予防接種の接種状況はどうか |
(2)活動
1. 移動
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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ベッド上の動き | ・ベッド上の寝返り 起き上がり、背もたれなしでの座位保持が可能か |
起居動作 | ・椅子、トイレへの移乗、立ち上がり、それに伴う呼吸困難症状への影響はないか |
屋内移動 | ・酸素を使用しながら屋内の移動が生活に支障をきたすことなく行えているか. 居室、寝室、トイレの配置はどのようになっているか |
屋外移動 | ・酸素を携帯して徒歩 歩行車、交通機関を利用して移動できているか |
2. 生活動作
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
基本的日常生活動作 | ・呼吸困難などなく食事、清潔、更衣、整容、移動等の動作が行えているか |
手段的日常生活動作 | ・呼吸困難などなく買い物、調理、洗濯、掃除、金銭管理が行えているか |
3. 生活活動
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
食事摂取 | ・食事内容、形態、量はどうか. 分割食か、栄養補助食品は利用しているか |
水分摄取 | ・水分摂取量はどうか. 心不全症状がある場合は水分制限ができているか |
活動休息 | ・夜間呼吸困難等の症状で覚醒することはないか. 日中の活動状況、活動に支障をきたしている症状はないか |
嗜好品 | ・喫煙、飲酒、菓子類等の嗜好はないか. 喫煙者の場合は1日の本数や喫煙期間はどれくらいか |
4. コミュニケーション
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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意思疎通 | ・人に考えていることを伝え、人の説明に対して理解する力があるか |
意思伝達力 | ・意思を伝達するために必要な能力をもっているか (聴力、言語能力等) |
5. 活動への参加 役割
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
家族との交流 | ・家族関係はどうか、家族の役割はどうなっているか、同居しているか、かかわりの内容と頻度はどのようなものか |
近隣者・知人・友人との交流 | ・近隣者、知人、友人との交流はあるか、頻度はどの程度か |
外出 | ・外出しているか、外出に際しての手段、目的、頻度はどうか |
社会での役割 | ・就労状況、地域活動、家族内での役割はどうか |
余暇活動 | ・趣味活動、運動など活動状況はどうか |
(3)環境
1. 療養環境
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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住環境 | ・階段、エレベーターの有無はどうか。移動能力に応じて福祉用具(手すり、ベッド、排泄・入浴用具)の設置や住宅改修(スロープ等) はされているか |
地域環境 | ・買い物や受診のアクセスはどうか |
2. 家族環境
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
家族構成 | ・家族構成、家族の居住地、家族の年齢はどうか |
家族機能 | ・家族内の意思決定能力、問題解決能力はどうか. 家族の健康状態はどうか. 家族内の役割分担はどうなっているか |
家族の介護・協力体制 | ・介護者、副介護者、協力者はいるか. 家族が行う医療処置、介護内容はどうか |
3. 社会資源
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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保険制度の利用 | ・医療保険、介護保険、障害者自立支援法、公費負担制度の利用状況、負担の割合はどうか |
保健医療福祉サービスの利用 | ・自治体等のサービス利用状況 (種類 内容、頻度、時間)や介護サービス利用状況はどうか |
インフォーマルなサポート | ・家族、知人、友人等のサポート状況、内容、頻度はどうか |
4. 経済
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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世帯の収入 | ・収入状況 (年金、就労、財産、預貯金)はどうか. 公費による助成を受けているか |
生活困窮度 | ・経済的な余裕はあるか. 生活に困窮していないか |
(4)理解・意向
1. 志向性 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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生活の志向性 | ・価値観、生きがい 生活の目標、楽しみ、信仰はどうか |
性格・人柄 | ・几帳面、温厚、内向的、社交的、短気などの性格、人柄はどうか |
人づきあいの姿勢 | ・もともとの人づきあい、家族、サービス提供者との関係はどうか |
2. 自己管理力 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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自己管理力 | ・在宅酸素機器、服薬、リハビリテーションは自身でできているか.体調の変化と対応、生活上の自己管理が行えているか |
情報收集力 | ・医療療養生活に関する情報を誰からどのように情報収集しているか |
自己決定力 | ・医療、療養生活・サービス利用に関して誰に相談し決定しているか |
3. 理解・意向 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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意向 希望 | ・医療、療養生活に対する意向、希望はどのようなものか |
感情 | ・医療療養生活・サービス利用等に対して、どのよう感情(不安、諦め、怒り、安心、絶望、疎外感、期待等)をもっているか |
終末期への意向 | ・終末期や急変時の医療 (人工呼吸器装着、心肺蘇生等) に対してどのような希望があるのか、アドバンスケアプランニング等の意思表示が行われているか |
疾患への理解 | ・疾患の進行、症状、予後、治療内容についてどのように医師から説明を受けて理解できているか、どのように受けとめているか |
療養生活への理解 | ・誰からどのような生活上の注意を受けて理解し、受けとめているか |
4. 理解・意向 (家族)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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意向 希望 | ・家族の医療療養生活に対する意向、希望はどのようなものか |
感情 | ・家族は医療療養生活・サービス利用等に対して、どのような感情(不安、諦め、怒り、安心、絶望、疎外感、期待等) をもっているか |
疾患・療養生活への理解 | ・家族は疾患、病状の進行、予後、治療内容についてどのように医師・本人から説明を受けて理解し、受けとめているか |
まとめ
今回は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)をテーマに訪問看護師に求められる役割、そして在宅療養における症状とQOLの改善のために必要となるアセスメント項目などについてお伝えしました。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の利用者、家族が安心して自宅での療養を継続させるために訪問看護は大きな役割を果たします。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。