筋萎縮性側索硬化症(ALS)の在宅療養とは?訪問看護の役割とアセスメント項目

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、手足やのど、舌などの筋肉や呼吸に関わる筋肉が徐々に萎縮していく進行性の疾患であり、厚生労働省が指定する特定疾患(指定難病)の一つです。

治療法が確立されておらず、在宅での療養生活においては、24時間体制の介護が必要になるため、訪問診療や訪問看護など多職種による在宅療養支援が不可欠です。

今回は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をテーマにその概要から在宅療養における特徴、訪問看護に求められる支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えします。

目次

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かす神経(運動ニューロン)が障害受けることで起こる疾患です。

主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が徐々に変性・消失し、手足や顔などの筋肉が次第にやせ細り、力がなくなっていきます。

かつては単一の疾患と考えられていましたが、現在では、運動ニューロンの障害を中心とした複数の病態が組み合わさった疾患群と見なされています。

また、以前は、運動神経のみが選択的に障害される疾患とされていましたが、近年、在宅人工呼吸療法が発達し、呼吸器を装着しての生存期間が長期化したことなどもあり、全臨床経過において眼球運動障害、知覚障害、膀胱直腸障害、褥瘡などの症状も生じることも明らかとなってきています。

従来のALS症状以外の症状に対する対応とその困難点

症状 対応 困難・課題点
部位 内容
眼乾燥 眩しさ
眼球運動による易疲労
室内の照明調整
点眼ラップでの保護
テープで眼瞼挙上
他動的に瞬きをさせる
用件を何日間に分けて聞く
その時々で状況が変化するため対応に苦慮
滲出性中耳炎 通気 鼓膜切開
チュービング
補聴器
通院が必要だが、適時的な通院が困難
循環器 血圧変動 降圧剤投与→推奨されない
頭痛薬の投与
投与後の急降下
体温低下/調節困難 保温・室温調整・掛け物調整 抜本的解決に至らず
(掛け物や湯たんぽ等での保温程度によって、急激に変動し、低温やけどのおそれもあり)
末梢冷感 保温・他動運動
手浴 足浴
浮腫 水分出納調整
口腔 口腔内トラブル
(流涎乾燥、舌のとびだし、咬舌など)
保湿剤の投与
唾液受けの工夫
口腔ケア (歯磨き・舌磨き)
歯科受診
(開口制限や舌肥大による) 口腔ケア困難
消化器 ガス貯留 排ガス 浣腸 根本的解決に至らず
便秘 投薬・浣腸・座薬
血糖値の変動 投薬・カロリー制限 血糖値の変動に対し、インスリン投与量のその時々の調整が必要
胆石・胆のう炎 投薬など 自覚症状の把握が困難で、異常発見が遅延
排痰困難 気道加湿や体位の工夫など (機械的咳嗽補助装置は、胸水貯留の懸念から使用せず) SpO2の低下を伴わない場合もあり、貯留徴候がつかめない
肺炎・気管支炎 機械的咳嗽補助装置
投薬など
泌尿器 尿管結石 鎮痛剤投薬・破砕術 自覚症状の把握が困難
膀胱炎 投藥 水分量をあまり増加させられない
皮膚 発疹 投薬 皮膚軟膏処置
褥瘡処置 (入院加療)
自覚的症状の把握が困難
自宅での処置の限界
褥瘡
带状疱疹
腫瘍疑い (精査をしない)
その他 感染症状の繰り返し
(肺・膀胱・膵臓など)
投薬など 自覚症状の把握が困難
炎症の焦点を絞りにくい
慢性的な頭痛・吐き気 投薬(偏頭痛薬 吐気止め)
水分量を減らしたら改善傾向
自覚的症状の把握が困難

参考文献:中央法規出版発行「訪問看護お悩み相談室 令和5年」版

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の疫学・予後

多くの場合、ALSは中年以降に発症し、ピークは60~70歳です。

わが国における発症率は10万人に対して1.1~2.5人であり、男性が女性の1.3~1.4倍の割合です。有病率は10万人に対して7~11人であり、家族性の割合は日本では約5%と推計されています。

病気の進行は比較的速く、人工呼吸器を使用しない場合、多くは3~5年で死亡することと言われています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状・経過

ALSの症状は、一部位の筋力低下や筋萎縮が最初に現れ、徐々に、他の筋肉群にも波及していきます。最終的には、全骨格筋が障害され、介助が必要な状態に至り、嚥下障害やコミュニケーション障害が発生します。

呼吸筋から始まる場合や、歩行可能な段階で呼吸筋麻痺が進行する場合には、初期段階では呼吸困難はまだ現れず、代わりに疲労感や急激な体重減少がよく見られます。そのため、がんと誤診されることもあります。

ALSの直接の死因としては、呼吸筋の麻痺や誤嚥性肺炎が多く、また長期間気管切開下で陽圧換気を受けている患者では、突然の心停止が発生することもあります。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の合併症

ALSの合併症としては、前頭側頭型認知症や自律神経症状、誤嚥性肺炎、分泌物の排出困難、尿路感染症、褥瘡などが挙げられます。

特に前頭側頭型認知症(人格変化を主体とする認知症)は、15〜20%の患者に明らかなものが見られ、軽度の場合を含めると5〜6割にも達するという報告もあります。

人格変化の症状は、自己中心的で周囲への気遣いや共感の欠如、常同性への過度のこだわり、経口摂取への執着などとして現れるほか、時には暴言や暴力、自発性の低下が目立つ例も一部あります。

記憶力の低下はなく、症状が気づかれにくく、ほとんどがある程度進行した後に現れることが一般的です。

また、長期間気管切開下で陽圧換気を必要とする患者の約十数%に、眼球運動が障害され、神経因性膀胱、体温調節障害、発作性頻脈や血圧変動などの自律神経障害を伴う完全閉じ込め状態(totally locked-in state; TLS)を引き起こす例があるなど、多岐にわたる合併症が存在します。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療方針

現在、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状を改善したり進行を遅らせる治療法は存在していません。

そのため、ALSの治療方針としては、患者自身が病気とともにどう生きるかを考える必要があります。患者と家族が少しでも安心して生活できるように対処することが極めて重要です。

診断が確定した段階から、患者を中心に家族や医療者、介護者が情報を共有し、事前ケア計画(アドバンスケアプランニング、advance care planning; ACP※)を話し合うことが望まれます。

※アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来自己決定能力を失った場合に備えて、事前に自分の価値観や希望、治療や医療に関する意向、代理決定者などについて話し合うプロセスです。将来の医療やケアに関する自分の希望を明確にし、それに基づいた選択や処置を行うための枠組みを整えることが目的になります。

在宅療養における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴と対処方法

多くのALS患者やその家族は、できるだけ在宅で過ごしたいと望んでいます。また、最期まで在宅で過ごしたいと考える方も少なくありません。しかし、病気の進行や症状に対処すること、介護の負担などへの不安も大きな課題となっています。

そのため、診療医や訪問看護師、そしてALS専門医との連携を強化し、適切な介護計画の立案や症状管理のための迅速かつ継続的な支援体制を整えることが重要です。

在宅療養におけるALSの症状に応じた対処・ケア方法

(1)栄養管理・呼吸筋麻痺

在宅療養中のALS患者に対する栄養管理では、嚥下が容易な姿勢や食事の調整が重要です。ただし、最終的には経腸栄養(胃瘻や経鼻胃管など)の導入を検討することもあります。

呼吸筋麻痺が進行すると、胃瘻手術が危険になることから、早期の胃瘻の設置が推奨されます。ただし、嚥下障害が軽度であり、気管切開下で陽圧換気を望まない場合や、呼吸筋麻痺が中程度以上の場合、胃瘻手術後に筋力低下が急速に進行することがあります。

そのため、患者の状態や呼吸筋麻痺の程度、人工呼吸(NPPV TPPV)による延命を望むかどうかを慎重に検討する必要があります。

(2)気道クリアランスの障害

在宅療養中のALS患者の気道クリアランス障害に対処する際、唾液の貯留や流涎、流れ込み、咳嗽力の低下が生じることがあります。これにより、呼吸困難感が強まり、急速に低酸素状態に陥ることが多く、在宅での対処が最も難しい課題となります。

気道クリアランス障害に対する対処法としては、吸引や口腔内の低圧持続吸引、体位ドレナージや手技的排痰法などの各種排痰法、また気管切開術や輪状甲状間膜穿刺などの手術的方法があります。排痰補助装置は在宅人工呼吸中の患者に限り保険適用されます。

(3)痛み

在宅療養中のALSにおける痛みの要因は、不動や圧迫、関節の拘縮、筋痙攣などが挙げられますが、それぞれの原因に応じた対処が重要です。

具体的な対処法としては、体位の変換や除圧、関節の動かし方を含むリハビリテーションを行うことが挙げられます。

また、必要に応じて鎮痛薬や抗痙攣薬、筋弛緩薬などの薬物療法を導入し、症状をコントロールすることが考えられます。痛みがコントロールできない場合は、モルヒネなどの強力な鎮痛剤を検討することもあります。

(4)コミュニケーション障害

会話や筆談が困難になった場合、日常的な要求や挨拶などは身振りや合図、文字盤などが最も早く簡便な方法となります。

また、複雑な内容や思いを伝える手段としては、意思伝達装置が利用されます。

ただし、意思伝達装置を導入する際には、患者の使用意思や能力を十分に評価することが重要です。

(5)終末期の呼吸苦

気管切開下陽圧換気(TPPV)を選択しない場合、終末期の呼吸苦が7~8割の患者に見られます。そのため、苦痛緩和が非常に重要です。酸素療法やモルヒネ、抗不安薬、抗精神病薬などを症状に応じて使用します。

ただし、モルヒネの投与量には注意が必要であり、がんの場合よりもはるかに少量で十分であることを考慮する必要があります。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)に関連する社会資源・制度

ALS(筋萎縮性側索硬化症)に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。

(1)医療的ケア管理

・在宅人工呼吸器使用患者支援事業等、難病等複数回訪問看護

(2)残存機能活用・廃用予防・コミュニケーション方法確立

・医療保険による訪問リハビリテーション(理学療法士 作業療法士 言語聴覚士)


・介護保険による福祉用具貸与 (特殊寝台、特殊寝台付属品、褥瘡防止用具、体位変換器、移動用リフトと吊り具、車椅子、工事が不要な手すり、スロープ歩行器、歩行杖)


・介護保険による福祉用具購入 (ポータブルトイレ、特殊尿器、入浴補助用具)


・介護保険による住宅改修(工事が必要な手すりの設置、段差の解消、床材の変更、引き戸への変更)


・障害者総合支援法における重度障害日常生活用具給付(介護保険でカバーできない車椅子等、ネブライザー、電動式痰吸引器 パルスオキシメーター、意思疎通支援用具、紙おむつ)

(3)日常生活動作における支援 (入浴、整容、更衣、食事、活動)

・介護保険による訪問介護 訪問入浴介護


・障害者総合支援法による重度訪問介護


・医療保険によるリハビリテーション

ALS患者への訪問看護とは

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、厚生労働大臣が定める特定疾患(指定難病※)に該当するため、その訪問看護は、医療保険となります。(介護保険との併用はできません)。

※指定難病は難病法に基づく医療費助成制度の対象で、338疾病が指定されています。

指定難病については、こちらの記事も参考にしてみてください。

指定難病とは?専門的な支援を行う訪問看護ステーションの役割

ALS患者への複数回の訪問看護とは

医療保険での訪問看護は、原則1日1回までという制限がありますが、ALSの場合、同一日に複数回の訪問看護が認められ、「難病等複数回訪問加算」が適用されます。

訪問看護の1回目と2回目の間隔については明確な規定はなく、加算額は、1日2回の訪問の場合、4,500円(医療機関: 450点)であり、3回以上の場合は何回訪問しても8,000円(医療機関: 800点)とされています。

難病法に基づく「在宅人工呼吸器使用患者支援事業」とは

また、難病法に基づく「在宅人工呼吸器使用患者支援事業」では、在宅で人工呼吸器を使用する難病患者について、診療報酬で定められた回数(原則1日につき3回)を超える訪問看護が行われた場合に、必要な費用を交付する制度があります。

対象は、医師が必要と認めた人工呼吸器を装着していることについて特別の配慮を必要とする難病の患者であり、都道府県が訪問看護ステーションや訪問看護を行う医療機関に委託して実施されます。

参考文献:中央法規出版発行「訪問看護お悩み相談室 令和5年」版

ALS患者への訪問看護導入時に留意すべきポイントとは

ALS患者への訪問看護の支援をおこなう際には、以下の点に留意する必要があります。

1. 病名告知と家族の理解

病名告知や症状の進行に伴う療養者や家族の理解や意向を確認し、適切な医療や介護が受けられるよう、多職種との連携を図り、家族や介護職員に対して教育を行い、支援体制を構築します。

2. 制度の申請と連携

療養者や家族の療養生活を支援するために必要な制度の申請や利用ができるよう、保健師、難病医療コーディネーター、ケアマネジャー、退院支援看護師・相談員と連携します。

3. 共有された目標と多職種での支援

生命維持、合併症の予防、日常生活支援、QOLの向上などの目標を共有し、療養者や家族、介護職員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医師、保健師、ケアマネジャー、医療機器業者など、多職種で支援する体制を構築します。

4. 介護者の負担軽減

介護者の負担を軽減するために、レスパイトケアを受けられる体制を整えます。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の支援のポイント

ALSは治療法が未確立で進行性の疾患であるため、確定診断後の告知や症状進行に伴う療養者や家族の精神的な支援が重要です。

特にALSは疾患が進行すると全身に影響を及ぼし、生命維持やQOLに大きく影響します。そのため、包括的な視点を持ち、人工呼吸器の装着や胃瘻造設など生命に関わる重要な意思決定を支援する立場に立つことが必要です。

(1)発症初期

ALSの発症初期、確定診断後には、病名の告知や症状の進行に伴う療養者や家族の不安を解消するための支援が必要となります。

医療保険、介護保険、障害者総合支援法を活用して、必要な医療や生活支援を受けられるようにします。多職種が連携して、療養者や家族のニーズに合った支援を提供し、療養環境を整えます。

支援のポイント

・病名告知や症状進行に伴う療養者や家族の不安を受け止め、支援します。


・確定診断後、適切な医療や介護などを受けられるように支援します。

(2)進行期

進行期では、疾患が進行するとともに呼吸障害や嚥下障害などの症状が現れ、気管切開術や胃瘻造設術、人工呼吸器の使用についての意思決定が必要になります。

この意思決定の際には、療養者や家族の意向を尊重し支援することが重要です。また、誤嚥性肺炎や廃用症候群などの合併症を予防し、残存機能を最大限活かすための措置も必要です。

支援のポイント

・必要な医療処置の実施について意思決定を支援します。


・合併症や障害を予防します。


・残存機能に応じて日常生活を支援します。

(3)安定期

安定期では、進行期と同様に、誤嚥性肺炎や尿路感染症、廃用症候群などの合併症を予防し、残存機能を最大限活かすことが重要です。

また、外出やインターネットを通じて社会参加活動ができるよう、他職種や家族と連携して調整し、患者がその人らしい生活と生活の質(QOL)を向上できるよう支援します。

支援のポイント

・身体状況が安定するように、症状や障害の治療、合併症の予防などの支援を行います。


・外出などを通して社会参加活動ができるように支援します。


・停電時に使用する人工呼吸器のバッテリー予備を用意することや避難方法など、災害時の対策をあらかじめ検討します。

(4)終末期

終末期では、呼吸困難などの苦痛を緩和するために、麻薬の使用を主治医と協議して検討します。また、日常生活全般の支援を十分に行い、患者の生活の質(QOL)を向上させるために、多職種と連携します。

支援のポイント

・終末期における苦痛症状が緩和されるように、治療や看護を提供します。


・療養者や家族が望む終末期医療やケア、療養場所などの意思決定を尊重し、他職種で支援体制を構築します。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)における訪問看護のアセスメント項目とは

訪問看護は、療養者のALSの進行に伴う合併症を予防し、自尊心と残存能力を可能な限り長期間維持して、在宅療養生活を継続できるように様々な角度からアセスメントをおこなう必要があります。

それでは、(筋萎縮性側索硬化症)における訪問看護のアセスメント項目について(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向からみていきます。

(1)疾患・医療ケア

1. 疾患・病態 症状

情報収集項目 情報収集のポイント
疾患 ・主疾患が全身に及ぼしている影響 (呼吸障害、嚥下障害、運動障害,自律神経障害、構音障害等)、既往歴、合併症はないか
病態 ・ALS 重症度分類はどの程度か
疾患の症状 ・どのような症状が出現しているか. 程度、治療後の症状の変化、日常生活への影響はどの程度か
疾患の経過、予後 ・症状出現と経過、症状の進行、治療歴、入院歴、予後はどうか

2. 医療ケア 治療

情報収集項目 情報収集のポイント
服藥 ・リルゾール服用、他疾患治療薬の服薬はどうか
治療 ・治療方針 治療内容 受診状況、リハビリテーション内容はどうか
医療処置 ・胃瘻造設、人工呼吸器の種類 条件、尿道カテーテル留置はどうか

・導尿をしているか. リハビリテーションはどのようなものか

訪問看護 ・訪問看護内容はどのようなものか

3. 全身状態

情報収集項目 情報収集のポイント
呼吸・循環状態 ・副雑音・呼吸音減弱の有無、呼吸回数、呼吸の深さ、痰の性状と量はどうか唾液の有無、自己排痰が可能か、呼吸困難はないか、チアノーゼはないか。睡眠時無呼吸はないか. 人工呼吸器の使用状況(NPPV .TPPV,常時使用,夜間のみ使用)、人工呼吸器の設定,同調,1回換気量,最高気道内圧、呼吸回数、リーク、アラーム、加湿状態、気管カニューレ固定、カフ圧はどうか. 血圧変動 体温低下・調節困難酸素飽和度,末梢冷感、浮腫はどうか
摂食・嚥下・消化状態 ・(経口摂取) 食事動作の緩慢さ. 食後の咳や痰の増加、食後の咽頭貯留音咽頭違和感、食欲低下、食事時間の延長、食事内容の変化はどうか

・食べこぼし、口腔内残渣物、ガス貯留、便秘はないか

栄養・代謝・内分泌状態 ・身長、体重、BMI、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚はどうか

・血清蛋白,アルブミン血糖値の変動はどうか

・経口摂取、胃瘻からの栄白湯注入量、食事介助・注入の状況はどうか

排泄状態 ・排尿、排便はどうか. 下剤を使用しているか. 尿道カテーテル留置はどうか

・尿量、性状、混濁、浮遊物の有無・ 程度はどうか

・尿廃棄を誰がどのようにしているか

筋骨格系の状態 ・上位運動ニューロン障害 筋の痙縮、痙性歩行、深部反射亢進,病的反射亢進はどうか

・下位運動ニューロン障害 筋力、緊張の低下、母指・小指球の萎縮 (猿手),手の骨関節の萎縮 (鷲手)、両手・両前腕の筋萎縮、筋脱力、筋線維束収縮はどうか

感覚器の状態 ・眼乾燥、眩しさ、眼球運動による易疲労、口腔内トラブル (流涎、乾燥,舌の飛び出し、咬舌)はないか
皮膚の状態 ・発疹、皮膚の損傷、乾燥、褥瘡はないか. 気管カニューレ・胃瘻周囲の皮膚の状態はどうか
認知機能 ・理解力、前頭側頭型認知症による中核症状およびBPSDはないか
精神状態 ・病名告知に対する反応はどうか. 疾患進行による不安・ 悲嘆、抑うつはみられないか
免疫機能 ・免疫機能が低下していないか. 誤嚥性肺炎を繰り返していないか

(2)活動

1. 移動

情報収集項目 情報収集のポイント
ベッド上の動き ・寝返り 起き上がり,座位保持が可能か. 不可能であるなら誰がどのように援助しているのか
起居動作 ・起居動作が可能であるか,どのような介助が必要か
屋内移動 ・歩行(独歩、手をひく、手すり使用)はどうか 車椅子移動をしているか
屋外移動 ・外出の有無 外出の手段、外出支援の必要はどうか. 外出時は車椅子移動(移乗ボード、リフトの使用) しているか

2. 生活動作

情報収集項目 情報収集のポイント
基本的日常生活動作 ・食事動作、排泄、清潔、更衣、整容動作、移乗、歩行、階段昇降が可能か.可能でないのであれば、誰がどのように援助を行っているか
手段的日常生活動作 ・調理、買い物、洗濯、掃除、金銭管理、交通機関利用が可能か 不可能であれば誰がどのように援助を行っているか

3. 生活活動

情報収集項目 情報収集のポイント
食事摂取 ・食事内容、形態(普通、刻み食、とろみ食、ペースト食等)、量、回数、時間はどうか。間食の有無、胃瘻からの栄養注入の場合は内容、量、回数はどうか
水分摂取 ・水分摂取内容量はどうか. とろみが必要か. 胃瘻からの注入の場合は量、回数はどうか
活動休息 ・睡眠時間 睡眠パターンはどうか 催眠薬は使用しているか. 生活リズム、活動状況、余暇の過ごし方はどうか
生活歴 ・出生地、職歴 家庭 職場 地域等における役割 生活習慣、ライフイベントはどのようなものか
嗜好品 ・飲酒、喫煙、コーヒー、茶、菓子等の嗜好品、量はどうか

4. コミュニケーション

情報収集項目 情報収集のポイント
意思疎通 ・理解力はどうか
意思伝達力 ・発語、言語能力、ジェスチャー (瞬目 OKサイン、指文字等)はどうか. 筆談、コミュニケーションツールの使用が可能であるか
ツールの使用 ・ホワイトボード、文字盤、意思伝達装置、呼び鈴、ナースコール使用状況はどうか

5. 活動への参加 役割

情報収集項目 情報収集のポイント
家族との交流 ・家族関係、同居の有無、別居家族の訪問 電話の頻度はどうか
近隣者・知人・友人との交流 ・近隣者、知人、友人との交流の有無、頻度はどうか
外出 ・外出の目的、内容、頻度、外出時の人との交流はどうか
社会での役割 ・現在、過去の就労状況 (仕事内容、就業年数、役職、雇用形態)、地域活動 (自治会、民生委員 ボランティア活動)はどうか.患者会などに参加しているか
余暇活動 ・趣味、活動の参加状況はどうか

(3)環境

1. 療養環境

情報収集項目 情報収集のポイント
住環境 ・浴室、トイレ、台所、居間、玄関、段差、階段の状況はどうか

・エレベーターはあるか 福祉用具、住宅改修の利用状況はどうか

地域環境 ・歩行 車椅子利用のための歩道の状況、公共交通機関の利便性、公共機関の整備状況はどうか

2. 家族環境

情報収集項目 情報収集のポイント
家族構成 ・家族構成、家族の居住地、家族の年齢はどうか. 同居しているか
家族機能 ・家族関係、家族内の意思決定方法や役割 家族の健康状態はどうか
家族の介護・協力体制 ・介護者、キーパーソン、協力者はいるか 家族の医療処置、介護実施内容、介護者の生活、休息、余暇の状況はどうか

3. 社会資源

情報収集項目 情報収集のポイント
保険制度の利用 ・医療保険(被用者保険、国民健康保険 後期高齢者医療制度) 介護保険 障害者総合支援法、公費助成、在宅人工呼吸器使用患者支援事業等の利用状況、負担割合はどうか
保健医療福祉サービスの利用 ・自治体等のサービス利用状況、内容、頻度はどうか 福祉用具、住宅改修の利用状況、レスパイトケアの受け入れ先はどうか
インフォーマルなサポート ・家族、友人、知人、ボランティア、患者会などインフォーマルなサポートを受けているか、その頻度 内容はどうか

4. 経済

情報収集項目 情報収集のポイント
世帯の収入 ・就労による収入、年金(国民、厚生、障害)、預貯金、財産はどうか

・公費助成等を受けているか

生活困窮度 ・生活保護を受給しているか. 経済的余裕はあるか

(4)理解・意向

1. 志向性 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
生活の志向性 ・価値観、生きがい 生きる目標、信仰・宗教心はどうか
性格・人柄 ・論理的、几帳面、頑固、外向的、温厚、神経質等性格・人柄はどうか
人づきあいの姿勢 ・これまでの人づきあいの姿勢から変化しているか

2. 自己管理力 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
自己管理力 ・体調の変化を医師・看護師に相談できているか
情報收集力 ・自分が受ける医療、生活に必要な情報収集ができているか
自己決定力 ・情報整理を適切に行い理解したうえで自分に必要な医療・生活支援方法を決定しているか

3. 理解・意向 (本人)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・疾患が進行する中でどのような医療・生活を希望しているか
感情 ・自疾患や療養生活に対してどのような感情(不安、怒り、悲嘆、諦め、期待、安心)をもっているか
終末期への意向 ・人工呼吸器の装着をどのように思っているか.気管切開術・胃瘻造設術をどのように思っているか

・麻薬の使用や急変時救急搬送についてどうか

・不可逆性な状態に陥った際に積極的治療を望んでいるか

疾患への理解 ・疾患、症状、予後、治療、日常生活に及ぼす影響、その対処方法 (サービス、環境調整、制度の活用) について説明を受け理解しているか
療養生活への理解 ・疾患の進行に伴い生活スタイルの変更を余儀なくされることを理解しているか
受けとめ ・疾患、療養生活に対してどのように受けとめているか

4. 理解・意向 (家族)

情報収集項目 情報収集のポイント
意向 希望 ・どのような医療生活を送ってもらいたいと希望しているか、療養者の希望を知り、どのように考えているのか
感情 ・疾患や療養生活に対してどのような感情 (怒り、悲嘆、諦め、罪悪感、感謝等)をもっているか
疾患への理解 ・疾患、症状、予後、治療、日常生活に及ぼす影響、その対処方法 (サービス、環境調整・ 制度の活用)、家族が行う医療処置、介護について説明を受け理解しているか
療養生活への理解 ・疾患の進行に伴い、家族も生活スタイルの変更を余儀なくされることを理解しているか
生活の志向性 ・介護者・家族の価値観、生活習慣、就労状況、介護、家事の状況、社会的役割はどうか. 余暇をどのように過ごしているか

まとめ

今回は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をテーマにその概要から在宅療養における特徴、訪問看護に求められる支援のポイントとアセスメント項目等についてお伝えしました。

ALSの利用者とその家族が直面する問題は多岐にわたります。訪問看護師には、病状の早期発見と対処、そして確定診断後の告知や症状進行に対する療養者・家族の理解や受けとめ方を理解し、抱える不安や悩みに寄り添い支援するなどが求められます。

本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。