あと一年ちょっとで、日本は、少子高齢化や人口減少に伴う社会保障費の増大や労働力不足などが懸念される「2025年問題」の2025年を迎えます。
しかし、これは単なる通過点であり、その先には、さらに深刻な状況が予測される「2040年問題」があります。
2040年には、日本の高齢者人口がピークに達し、社会保障の崩壊の危機、介護離職者の増加、独居高齢者の増加やこれに伴う孤独死増、老々介護、医療・介護の人材不足の深刻化など、さまざまな課題がますます顕在化されると予測されています。
このような状況化において、2040年問題の課題を軽減し、在宅療養生活が将来にわたって持続可能となるために訪問看護ステーションにはどのような役割が求めれていくのでしょうか。
そこで本日は、2040年問題とは何かについて解説し、その上で訪問看護ステーションが10年後、20年後の地域の人々の充実した療養生活を支えるため、取り組むべきポイントについてお伝えします。
2040年問題とは
2040年問題とは、日本が総人口に対して高齢者人口の割合が最大になり、一方で生産年齢人口が急激に減少、これが同時進行で発生することが予測され、この時に日本社会にさまざまな深刻な危機をもたらす事態のことです。
具体的に2040年にどのような問題が起こりうるのか、在宅医療介護に関わる項目で見ていきましょう。
(1)人口構造の変化
2040年の日本の総人口は約1億1,093万人と推計されています。このうち、65歳以上の高齢者は総人口の35%を超え約3,921万人に達し、また後期高齢者である75歳以上の人口は全体の20%以上の約2,240万人と予測されています。
一方で、生産年齢人口は減少し、財政、税金、保険料、および人手の面で限界がある中、高齢者をサポートする課題は極めて深刻な問題とされています。
出典元:令和2年版 厚生労働白書「第1章 平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容」
(2)要介護認定者と重度者の増加
要介護認定者数は2040年頃ピークをむかえ、988万人に達し、このうち介護度3以上の重度者は374万人となり、2020年の256万人と比較し、118万人増えると見込まれています。
重度者の増加は、疾病リスクや看取りニーズが高まることを示し、この対応が課題となります。
このことは、2025年問題を乗り越えたとしても、2040年には状況が一層深刻化する可能性を示唆しています。
(3)多死社会
死亡数は年々増加しており、2040年には、1989年(約79万人:1日当たり約2,200人)の2倍を超える水準(約168万人:1日当たり約4,600人)になると見込まれています。
一層の多死社会を向かえる一方、死に場所であった病院の多くが統廃合や病床数の削減を行うため、40万人以上が死に場所難民になると想定されております。
多死社会は、こうした死に場所難民や、高齢者の孤独死など想定される事態は2040年の深刻な問題です。
参照元:厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書」
(4)一人暮らしの高齢者の増加
総務省によると、1980年に88万人であった単身高齢者の数は2020年には672万人にまで増加しました。
今後も更なる増加が見込まれており、2040年には896万人に達するという推計が示されています。
出典元:総務省「特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」
一人暮らしの高齢者の増加とともに、孤独死も避けられない大きな問題の一つです。
死因不明の急性死や事故で亡くなった人の検案、解剖を行っている東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は平成21年2,124人だったのが、平成30年に3,882人となっています。
今後の増加が予測される一人暮らしの高齢者の増加や、これに伴う孤独死の増加は、2040年の深刻な問題とされています。
出典元:内閣府「令和2年版高齢社会白書」
(4)社会保障制度の危機
厚生労働省によると社会保障給付の総額は、2018年には121兆円でした。しかし、2040年になると、その額は1.6倍の190兆円にまで膨れ上がる試算になります。
今後生産人口が減っていけば、当然税収も少なくなくなり、社会保障制度の持続の危機は、2040年問題の大きな要素となります。
(5)医療・介護における担い手不足
人口構造の変化及び、医療・介護サービスの需要から推計した医療・福祉分野の就業者数は、2040年には1,070万人(総就業者数の18~20%)が必要となると推計されており、96万人が不足すると推定されています。
増大する医療・介護サービスにおける担い手不足の解決策を打てないことは2040年の最も深刻な問題となっています。
参照元:厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書」
訪問看護ステーションが2040年問題に対処し、地域で必要とされるために備えるべきポイント
前述の通り、日本社会は2040年には、在宅医療介護に関連する項目において従来のものを大きく超え、複数かつ深刻な問題に直面するでしょう。
こうした中、2040年問題への対応とその軽減に寄与する可能性が期待されるのは、在宅医療介護の中心的役割を果たす訪問看護ステーションと言われています。
それでは、2040年問題への適切な対応とその軽減に貢献し、地域で求められる訪問看護ステーションとして活躍するために備えるべきポイントとはどのような内容でしょうか。
以下に、2040年問題の有効な対処策、それを踏まえた訪問看護ステーションが備えるべき具体的ポイントについて紹介します。
(1)2040年問題の有効な対処策
2040年問題への有効な対処策は、「医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」体制を整備することです。
要介護認定者と重度者の増加、多死社会、一人暮らしの高齢者、社会保障制度の危機、医療・介護における担い手不足など、2040年問題の主要な項目に対処するためには、これらの要素を包括的に提供する仕組みが必要です。
現在、地域包括ケアシステムは市町村主導で進行していますが、財源や人的資源の格差、多職種連携の進展の遅れなどから、整備には地域ごとに時間がかかるという課題があります。
そこで、既に多職種連携の機能などを有する訪問看護ステーションが、在宅医療介護の中心的役割を果たし、2040年問題に対処するための「医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」体制整備に参加することが期待されています。
その有効な方法としては、訪問看護ステーションが訪問看護サービスに加えて、重度者の安心な住まいや日常生活をサポートする生活支援、医療や介護サービスを包括的に提供するナーシングホームを併設することが挙げられます。
(2)2040年問題に対処するために訪問看護が整えるべきナーシングホーム体制
2040年問題への対応策として、訪問看護ステーションが整えるべきナーシングホームは、訪問看護サービスに加えて、高度なケアが必要な利用者に安心な居住環境や日常生活のサポートを提供する生活支援を組み合わせ、医療や介護サービスを専門職によって総合的に提供する体制です。
具体的な体制については以下の点が挙げられます。
1. 安全な住環境の整備
ナーシングホームでは、スタッフの動きやすさに配慮し、重度者や難病患者の居住に適した設計、緊急時の避難路、機械浴、見守りセンサーシステムの導入など、入居者の安全な住環境を整備します。
2. 快適な共同生活スペースの設置
ナーシングホーム内には共同生活スペースが設けられ、入居者同士がコミュニケーションをとりやすくなります。これにより、快適な生活ができるとともに、孤立感の軽減が図れます。
3. 専門職の常駐
ナーシングホームには、看護師や介護職といった専門職が常駐します。これにより、入居者の日常的な健康管理や急な状態変化に迅速に対応できます。
4. 在宅移行支援
入院治療を終えた後に、ナーシングホームでの在宅療養へスムーズに移行するために、退院支援を実施します。
5. 日常生活支援
食事や入浴、掃除、洗濯などの日常生活のサポートを行い、入居者が安心して暮らせるよう配慮します。
6. 定期的な健康モニタリング
入居者の健康状態を定期的にモニタリングし、早期の問題発見や予防措置を講じます。
7. レクリエーションやイベントの提供
ナーシングホームでは、レクリエーションや季節のイベント活動が行い、入居者が充実した生活と心身の健康促進につなげます。
8. 家族との連携
入居者の家族との連携を重視して、面会の機会を多くし、家族との情報共有や話し合いなどコミュニケーションを行います。
9. 連携体制の構築
医療機関、薬局、配食サービス、各種地域資源など、さまざまな関係者との連携を通じて一体的なケアを提供します。
(3)訪問看護ステーションのナーシングホームが2040年問題を軽減できる理由
訪問看護ステーションが、訪問看護サービスに加えて重度者でも安心できる住まいや日常生活支援、専門職による医療や介護サービスを一体的に提供するナーシングホームを併設することで、2040年問題を軽減できる理由をみていきます。
1.急増する重度者への対応
訪問看護ステーションのナーシングホームでは、重度者に対して、24時間体制で、喀痰吸引、褥瘡ケア、点滴・カテーテル管理、人工呼吸器などの医療機器の医療的ケアを提供します。
同時に、療法士によるリハビリステーションも実施し、重度者が安全に療養生活を送るためのサポートを提供します。
このような体制により、訪問看護ステーションのナーシングホームは介護ケアや生活支援を中心とした一般的な老人ホームとは異なり、2040年問題における急増する重度者に効果的に対応し、その問題を軽減できます。
2.一人暮らしの高齢者の孤独死を回避
ナーシングホームは専門職が24時間体制でケアを提供する安全な環境です。
介護が必要な高齢者の一人暮らしで問題とされる急な状況変化に対して適切に対処できる環境となります。これにより孤独死のリスクが軽減されます。
また、ナーシングホームでは、共同生活を営むことで社会的な結びつきが生まれます。
たとえ重度な状態でも、共同スペースで、仲間と交流したり、レクリエーションに参加することで、孤立感が軽減されます。
このように訪問看護ステーションのナーシングホームを併設することは、2040問題として深刻とされる、一人暮らし高齢者の増加や孤独死の問題に対して効果的な対策となります。
3.多死社会への対応
訪問看護ステーションのナーシングホームは終末期の入居者に対する看取りを提供できる施設でもあり、入居者や家族の身体及び心理的なサポートも行います。
このことにより、多死社会における、死に場所難民や、高齢者の孤独死など2040年の深刻な問題を軽減することが期待されます。
4.社会保障財源のひっ迫を回避
ナーシングホームでは入居者が共同生活を営むため、医療介護ケアがより効率的に提供されることになります。
効率化により無駄なく社会保障財源を活用できることが期待されます。
また、スタッフが24時間体制で入居者の健康をモニタリングし、必要な医療処置やケアを迅速に行うことができるため、入院を防止できる可能性があります。
これにより、高度な医療リソースの無駄が減少します。
さらに、入居者同士やスタッフとの交流があるナーシングホームでは、精神状態の向上に寄与し、孤独感やうつ病のリスクが低減します。
精神的な健康が維持されることで、医療ケアの頻度が減少し、財源の節約につながります。
これらの要素が組み合わさり、訪問看護ステーションナーシングホームは、2040年問題で重要となる財源支出を抑制する一助となると言えます。
5.医療・介護における担い手不足を軽減
訪問看護ステーションとナーシングホームの併設により、ケアが一か所で継続的に行われることで、労働力の最小限化が実現され、散在する在宅ケアと比較して、より効率的で持続的なケア提供が可能となります。
同様に、ナーシングホーム内では、訪問看護ステーションのスタッフと協力することで入居者のケアニーズに合わせて無駄のない柔軟な人員配置が可能となります。
これらの特徴により、限られた担い手リソースを最適に活用できます。
加えて、看護師等の医療従事者や介護職にとって、ナーシングホームでの勤務は、移動や単独での対応の不安が少ないため、ナーシングホームの就職を希望する傾向があることから採用難が緩和できます。
さらに、ナーシングホームが医療・介護のトレーニングやスキルアップの場として機能することで、新たな担い手を育成し増強できる環境となります。
このようないくつかの要因により、訪問看護ステーションがナーシングホームを併設することで、2040年における医療・介護の担い手不足の問題の解消に寄与することができます。
(4)訪問看護ステーションが2040年問題に対処し、地域で必要とされるために備えるべきポイントとは
2040年問題に対処するための対応策として、訪問看護ステーションが備えるべきポイントは、訪問看護サービスに加えて、安心な居住環境や日常生活のサポートを提供する生活支援を組み合わせ、医療や介護サービスを専門職によって総合的に提供するナーシングホームを併設することが挙げられます。
2040年を目標とした「医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」体制の整備には、その前段階として、2024年から2034年までの10年間をナーシングホームの併設を準備する助走期間とすることが望まれます。
まとめ
2040年には、日本の高齢者人口がピークに達し、社会保障の崩壊の危機、介護離職者の増加、独居高齢者の増加やこれに伴う孤独死増、老々介護、医療・介護の人材不足の深刻化など、さまざまな課題がますます顕在化されると予測されています。
2040年問題の課題を軽減し、在宅療養生活が将来にわたって持続可能となるよう、訪問看護ステーションには重要な役割が求められます。
訪問看護ステーションが2040年問題に対処し、地域で必要とされるために備えるべきポイントは、「医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する」体制としてナーシングホームの整備を計画するといった選択肢が有効策の一つとなります。