嚥下機能の障害や食道の通過に問題があり、経口摂取が難しくなった場合には、人工的な水分・栄養補給法を検討します。その一つが胃に直接栄養剤を注入する「胃瘻」です。
胃瘻は通常、医療施設で造設され、その後は自宅で管理されます。そのため、訪問看護師は、家族や介護者への栄養剤の注入方法や瘻孔のケアに関する指導を行う役割を果たすほか、清潔を保ち、感染リスクを最小限に抑えるための適切なケアを提供することが求められます。
今回は、在宅療養における胃瘻(PEG)管理をテーマに訪問看護師が押さえておきたい基礎知識や注意すべきポイントなどについてお伝えします。
胃瘻とは
「胃瘻」とは、通常、口からではなく、胃に直接水分や栄養を供給するために作られる孔(開口部)であり、通常手術や内視鏡を用いて造設されます。
この孔だけでなく、水分や栄養を供給するための具体的な装置であるカテーテルも含めて「胃ろう」と呼ばれています。
また、胃ろうを造る手術でもっとも代表的なのがPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)であり、胃瘻自体をPEGと呼ばれるのが一般的になっています。
胃瘻の対象者
胃瘻が設置される原因疾患は多岐にわたりますが、その中で最も一般的なのは脳疾患です。全体の4割以上の症例で胃瘻が設置されています。また、誤嚥性肺炎が発症した後に胃瘻が設置されるケースや、誤嚥性肺炎を予防するために胃瘻が設置されるケースも多く見られます。
胃瘻のメリット
必要な栄養を確保しやすい
生命維持に欠かせない必要な栄養素やカロリーを直接胃に送り込めるため、十分な栄養補給ができ、体重の減少を防ぐことできます。
誤嚥性肺炎を予防できる
経鼻胃管栄養に比べ、違和感や痛みが少なく、栄養剤を注入する手間が少ないため、介護者の負担が軽減されます。
食事介助の時間や手間が少ない
栄養剤を注入するときの手間がほとんどかからず、介護者の負担が軽くて済みます。
状態によっては口からの食事も可能
必要な栄養補給をしつつ、状態によっては食事を楽しむことも可能です。
生活や行動範囲が制限されない
運動や入浴も可能であり胃瘻の種類によっては洋服で隠せるなど生活や行動範囲が制限されません。
合併症のリスクが少ない
経鼻経管栄養法や中心静脈栄養法と比べて、管の誤抜去りや感染リスクなどのトラブルが少ないです。
胃瘻のデメリット
胃瘻のデメリットについて以下の項目、文章を踏まえて簡単に解説してください。
胃ろう周辺の皮膚トラブルが起こりやすい
胃瘻のカテーテルによる機械的損傷、瘻孔からの排出液による化学的損傷、感染による損傷など、胃瘻周辺の皮膚トラブルが起こりやすい
医師による定期的なカテーテルの交換が必要
バルーン型の場合、1~2カ月ごとに、バンパー型の場合、4~6カ月の間隔で医師によるカテーテルの交換が必要です。
口腔ケアが必要になる
口から食事を取らなくなると、唾液の分泌が減少し口内が乾燥して汚れが付きやすくなり、口内細菌が増加し、細菌性肺炎のリスクが高まり、口腔ケアが必要となります。
カテーテルを抜いてしまう「自己抜去」のリスクがある
カテーテルを誤って抜いてしまうと一晩など短期間で塞がってしまうため、再手術が必要になります。
胃瘻造設時に起きやすい体調の変化
胃瘻を設置してから瘻孔が安定するまでの1~2週間は、体調が変化しやすいため注意が必要です。
この期間中、体は胃や食道の変化を感じ、以下のよう症状が生じることがあります。
1.発熱、嘔吐
胃瘻患者の体調変化で発熱や嘔吐が起こることがあります。原因は、食道裂孔ヘルニアや胃食道逆流症などが挙げられます。嘔吐が発生した場合、栄養剤の注入を中止し、患者を横向きにして吐瀉物の排出を支援します。
2.皮膚トラブル
胃瘻周囲の皮膚トラブルには、発赤、びらん、潰瘍、肉芽が含まれます。これらの問題は、圧迫、栄養剤漏れ、感染から生じることがあります。
3.下痢、便秘
栄養剤の変更によって下痢や便秘が生じることがあります。下痢の原因は注入速度、濃度、細菌感染などで、便秘は胃食道逆流や嘔吐を引き起こす可能性があるため、適切なケアが必要です。
胃瘻の種類
胃瘻カテーテルは、構造や形状により分類され、ボタン型とチューブ型、バルーン型とバンパー型の組み合わせによって、合計4つの種類のカテーテルが存在します。
それぞれのタイプにはメリットとデメリットがあり、使用しているカテーテルのタイプを知っておくことは非常に重要です。
1.バンパー・ボタン型
バンパー・ボタン型の胃瘻カテーテルは、体の動きに対して柔軟で、違和感が少ない特徴があります。ボタン型の部分が体表に出るため、装着者は比較的自由に動けます。さらに、バンパー型のカテーテルは破裂のリスクが低いため、安定性が高いと言えます。 |
2.バンパー・チューブ型
バンパー・チューブ型の胃瘻カテーテルは、チューブ型でありながら、バンパー型の特徴も備えています。チューブ型は栄養剤の供給ルートとの接続が容易で、カテーテルの安定性を提供します。また、バンパー型のカテーテルは破裂のリスクが低いため、信頼性が高いと言えます。 |
3.バルーン ボタン型
バルーン・ボタン型の胃瘻カテーテルは、ボタン型であるため体の動きに制約が少なく、違和感が少ないです。また、ボタン型は抜けにくく、自己抜去のリスクが低いのが特徴です。さらに、バルーン型のカテーテルは交換が比較的容易であるため、利便性が高いです。 |
4.バルーン・チューブ型
バルーン・チューブ型の胃瘻カテーテルは、カテーテルの接続と交換が容易で、栄養剤の注入や器具の交換が扱いやすい点が特徴です。ただし、チューブ型であるため、自己抜去のリスクがあるため、自己抜去のリスクがある人には適していません。 |
自宅での胃ろう管理の注意点
在宅療養では、入院中のように24時間医療スタッフが対応するわけではなく、本人や家族などの介護者が積極的に関与する必要があります。
特に在宅療養における胃瘻からの経管栄養は医療処置ですので、実施できるのは医師、看護師、一定の研修を受けた介護職、そしてご家族だけです。毎日の3食を専門職に依存することは現実的に難しく、実際にはほとんどの場合、ご家族が実施します。
そのため、訪問看護師をはじめとする在宅ケアの関係者は、常に注意深く観察することが重要であり、早期に問題点を発見して解決法を患者や介護者と一緒に見出していくことが重要になります。
胃瘻造設者に求められるケア内容
(1)身体の管理(口腔のケア、チューブおよび皮膚トラブルの対処、排泄のケア)
(2)注入管理(体位の調整、注入速度の管理、食事の注入の調整)
(3)薬物管理
(4)心のケア
(5)リハビリテーション(一般的な理学療法および嚥下訓練)
(6)介護者へのサポート
これらのサービスは長期的で計画的に提供される必要があり、関連するすべての職種が情報と知識を共有し、統一の方針の下で、患者とその家族との協力的で共感的な関係を築き、維持する必要があります。
そのためには、ケアプランの策定や実践において、利用者中心または利用者の視点を保ちつつ、本人と家族から必要な協力と参加を積極的に得る姿勢が求められます。
訪問看護師が家族・介護者に伝えること
1.嘔吐やチューブの抜去があった場合の対応方法
注入中に嘔吐やチューブの抜去が起きた場合、注入を停止し、誤嚥を防ぐために横向きにし、医療スタッフに連絡するなどの、適切な対処方法を伝えます。
2.胃瘻における口腔ケアの重要性
注入前に口腔ケアを行うことにより、唾液の分泌が刺激され、消化をサポートすると同時に、口内の細菌数が減少し、誤嚥による肺炎のリスクが軽減されることを説明します。
3.瘻孔周辺トラブルの対応方法
瘻孔から漏出液が発生するため、清潔保持の方法や肉芽や埋没部の状態の確認、また、潰瘍予防の観点から、チューブを回転させて可動を確認することなどを説明します。
胃瘻管理において医師への報告が必要なケース
1.発熱、嘔吐、下痢などの症状があるとき
熱、嘔吐、下痢などの症状が現れた際、または瘻孔からの出血や肉芽が観察された場合は、医師に報告する。
2.利用者が経口摂取を希望しているとき
利用者が口からの摂取を希望し、気持ちや状況が変化した場合、口からの摂取が適しているかどうか、医師と相談して検討する。
3.経口摂取や排泄の状況が変化したとき
経口摂取や排泄の状況が変化したときは医師に報告する
4.体重が急激に変化したとき
体重が1か月で2~3kg以上の変化が見られた場合、医師に報告する。
まとめ
今回は、在宅療養におけるPEG(胃ろう)の管理について、訪問看護師が押さえるべき基本的な知識と留意すべきポイントについてご紹介しました。
在宅療養の場合、胃ろう(PEG)の管理の大部分は家族によって行われます。また、胃ろうを設置する患者は通常、高度な医療ケアが必要であり、そのためケアの範囲は多岐にわたり、家族や介護者の負担が大きく、ストレスや健康問題のリスクも存在します。
訪問看護師は、ケアだけでなく、事前にどのような症状が発生する可能性があるか、緊急の際にはどの医療機関に連絡すべきかなどを家族にも明確に伝える役割が求められます。
参考文献:ナースのためのやさしくわかる訪問看護
イラスト出典元:看護roo! 看護師イラスト集