在宅での服薬管理は、訪問看護でも依頼が多く、今後も在宅医療ニーズの急増に伴い、さらに増えていくことが予想されます。
今回は、在宅療養における「服薬管理不全」をテーマに服薬管理不全が起こる背景、要因、そして訪問看護に求められる服薬管理における役割と必要なアセスメント項目などについてお伝えします。
服薬管理不全とは
服薬管理不全とは、様々な要因によって適切な服薬管理が行われていない状態を指します。
病院では、看護師が決まったスケジュールで服薬(投薬)を管理しますが、在宅では、療養者や家族が内服する必要性を理解し、自主的に服薬を管理していくことが求められます。
しかし、在宅療養者は加齢に伴う身体機能の低下や生活習慣病などによる複数の慢性疾患を有していることが多く、多剤併用(ポリファーマシー)状態であることが多いため、飲み忘れや誤薬、自己判断による服薬の調整など、適切な服薬管理が行われていないケースが多く見られます。
在宅での服薬管理不全が発生する4つの関連因子とは
在宅での服薬管理不全が発生する関連因子としては、大きく以下の4つに分類できます。
(1)療養者に関連した因子
1.既往歴
過去に精神疾患や抑うつ、高次機能障害などの病歴がある場合、これらの疾患が服薬管理に影響を与える可能性があります。
2.認知機能低下
認知機能の低下があると、服薬の時間や方法を忘れたり、服薬の理解が不足したりすることがあります。また、病識の欠如により服薬の必要性を理解できない場合もあります。
3.身体的要因
視力や聴力の低下、手指の巧緻性の低下、嚥下機能の障害など、身体的な問題が服薬管理に影響を与える可能性があります。
4.心理的要因
己判断による服薬の調整、医療不信、過去に副作用を経験したことなど、心理的な要因が服薬管理不全につながることがあります。また、個々の健康観や価値観も服薬行動に影響を与えることがあります。
(2)治療内容に関連した因子
1.服薬量が多い
多剤併用が必要な場合、複数の薬剤を同時に服用することが必要となります。これにより服薬負担が増加し、適切な服薬管理が難しくなることがあります。
2.服薬回数が多い
食後、食前、食間、眠前など、1日に複数回服薬を行う必要がある場合、服薬のタイミングを把握することが難しくなります。
3.服薬期間の長期化
長期にわたって薬物療法が必要な場合、服薬の習慣化が困難になることがあります。
4.薬剤の形状
錠剤、散剤、顆粒、液体など、薬剤の形状によって服薬方法や服用のしやすさが異なります。
5.服薬方法
経口、吸入、点眼、貼付など、薬剤の種類に応じて異なる服薬方法が必要となります。
6.薬物の効果
薬物の効果が不十分であったり、副作用が強い場合、服薬意欲が低下し、適切な服薬管理が困難になることがあります。
(3)環境に関連した因子
1.同居者の有無とその健康状態
療養者が同居者と一緒に生活している場合、同居者の健康状態が服薬管理に影響を与えることがあります。同居者が健康であれば、服薬支援を受けることができますが、同居者が健康問題を抱えている場合、服薬管理が困難になる可能性があります。
2.医療機関との物理的距離通いやすさ
医療機関との距離が遠い場合、定期的な受診や薬の受け取りが困難になるため、服薬管理に支障をきたす可能性があります。逆に、医療機関が近くにある場合は、服薬管理がスムーズに行われることが期待されます。
3.地域性
地域の住民同士の交流や協力が得られるかどうかも、服薬管理に影響を与える要因の一つです。地域社会が連携し合い、療養者やその家族に支援を提供することで、服薬管理が円滑に行われる可能性が高まります。
(4)医療者に関連した因子
1.服薬アセスメント不十分
療養者の個別の状況やニーズを適切に把握するための服薬アセスメントが不十分な場合、適切な服薬支援が行われない可能性があります。
2.多職種連携不十分
医師や看護師、薬剤師、ケアマネージャーなど、複数の医療者や関係者との連携が不十分な場合、服薬管理の一貫性や効果的な支援が行われない可能性があります。
3.服薬に関するインフォームドコンセントの不足
療養者や家族に対して、服薬に関する情報を適切に提供し、共有することが重要です。しかし、インフォームドコンセントが不十分な場合、服薬に関する理解が不足し、適切な服薬管理が行われない可能性があります。
4.服薬支援サービスの不足
在宅での服薬支援が不十分である場合、療養者や家族が適切な支援を受けることができず、服薬管理が困難になる可能性があります。
5.療養者と信頼関係ができていない
医療者と療養者との信頼関係が十分に築かれていない場合、療養者が医療者の指示やアドバイスを受け入れにくくなり、服薬管理に支障をきたす可能性があります。
6.服薬に関する思いを傾聴できていない
医療者が療養者や家族の服薬に関する思いや不安を理解し、傾聴することが重要です。しかし、この点が不十分な場合、療養者や家族が服薬に対する不安や疑問を解消できず、服薬管理が困難になる可能性があります。
在宅での服薬管理不全の対策とは
在宅における服薬管理不全の代表的な対策としては、以下が挙げられます。
1.主治医に報告し、服薬量や時間を調整する
療養者や家族が主治医に服薬に関する情報を適切に提供し、主治医とのコミュニケーションを図ることで、適切な服薬管理が行われます。主治医はその情報をもとに服薬量や服薬時間を調整し、最適な治療計画を立てます。
2.(可能であれば)処方薬を一包化する
薬を一包化することで、服薬のタイミングや量がわかりやすくなります。療養者や家族が混乱することなく、正しい服薬が行えるようになります。
3.処方薬の剤形を調整する
療養者の服薬しやすさに合わせて、処方薬の剤形を調整します。服薬ゼリーや液体薬などの別の形態を選択することで、服薬がスムーズに行えるようになります。
4.訪問薬剤師による服薬支援
訪問薬剤師が療養者の自宅を訪れ、処方薬の確認や配達を行います。療養者や家族が薬剤師から直接的なサポートを受けることで、服薬に関する不安や疑問を解消し、適切な服薬管理が促進されます。
5.訪問看護師による服薬支援
訪問看護師が療養者の自宅を定期的に訪問し、日々の状況観察や残薬の確認などを行います。看護師が療養者の健康状態を把握し、服薬に関するサポートを提供することで、適切な服薬管理が支援されます。
6.ホームヘルパーによる服薬介助
ホームヘルパーが療養者に対して服薬介助を行います。療養者が適切に薬を服用できるようにサポートすることで、服薬管理の負担を軽減し、安全な服薬が確保されます。
7.服薬管理における各アイテムの使用
ピルケースや配薬ボックス、服薬カレンダーなどのアイテムを使用して、服薬の管理や記録を行います。これらのアイテムを活用することで、療養者や家族が服薬のタイミングや量を把握しやすくなります。
8.周囲から服薬支援を得る
同居家族や近隣の親戚・友人によるサポートを受けることで、療養者が服薬を忘れることなく、適切な服薬管理が行えるようになります。
9.療養者の服薬管理能力を把握
服薬アセスメントシートなどを使用して、療養者の服薬管理能力を評価します。療養者の能力や課題を把握することで、適切な支援を行うことができます。
10.多職種で服薬状況を共有する
在宅連絡ノートやお薬手帳を活用して、多職種間で服薬状況を共有します。情報共有を通じて、療養者の服薬管理に関する連携が強化され、適切なケアが提供されます。
療養者・家族の状況に応じた援助と対策とは
(1)独居者の場合
独居者は、療養生活での服薬管理の支援を別居している家族、親戚、友人から受けることが難しい場合があります。また、症状の悪化や副作用の出現など身体的な変化が生じた場合も、発見が遅れがちです。
そのため、日常的に服薬管理状況を確認し、身体症状についても多職種で情報を共有することが重要です。これにより、早期に身体的な変化を発見し、適切な介入を行うことができます。
(2)認知症の場合
在宅療養者の多くが高齢者であり、そのため認知症を患うことがよくあります。認知症によって、短期記憶障害や判断力の低下、見当識障害などが生じると、療養者自身が適切な服薬管理を行うことが困難になります。
まず、療養者の認知症の症状の程度を把握し、同時に服薬管理状況を確認します。その後、剤形の調整や服薬カレンダーの導入など、服薬支援を行います。
(3)インスリン自己注射や中心静脈栄養など複雑な手技が必要な場合
インスリン自己注射や中心静脈栄養の管理などが必要な場合、療養者とその家族の状況に応じて行える手技の範囲をアセスメントし、支援します。
訪問看護師が手技の大部分を担う場合は、療養者の生活状況(食事の時間、活動、就寝時間など)に合わせて支援を行います。また、療養者の状況(要介護度)と経済状況を考慮し、訪問看護師の訪問回数やサービス内容を調整します。
服薬管理不全に関連する社会資源・制度
服薬管理不全に関連する社会資源・制度は、以下のようなものがあります。
(1)内服薬の調整
・主治医による減薬
・薬局による内服薬の一包化など、状態に応じた調剤
(2)服薬管理支援
・訪問薬剤師サービス
・ホームヘルパーによる服薬確認
・通所系サービスによる服薬介助
・病院やクリニックにおける外来での医師・看護師の相談体制
・心療内科などにおける公認心理師や臨床心理士の服薬カウンセリング
・地域のNPO法人などにおける生活・服薬相談
(3)緊急連絡体制
・市区町村や民間企業による緊急通報システムの導入
服薬管理不全を防ぐために必要な訪問看護のアセスメント項目とは
在宅療養においては、多剤併用状態であることが多く、薬の飲み忘れや誤薬、自己判断による服薬調整など、適切な服薬管理が行われていないことがあります。
訪問看護師は、療養者とその家族が、服薬管理の必要性を理解し、主体的に服薬をおこえるよう積極的に関与することが必要不可欠です。
そのため服薬管理不全によって引き起こされる症状や副作用などを的確にアセスメントする視点を持つことが必要です。
また、服薬管理の状況や身体的アセスメント結果を、他の関係者と共有し、連携を図ることが極めて重要です。
それでは、利用者の総合的機能を構成する4領域(1)疾患・医療ケア、(2)活動、(3)環境、(4)理解・意向から服薬管理不全を支援するために必要なアセスメント項目についてみていきます。
(1)疾患・医療ケア
1. 疾患・病態 症状
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
疾患 | ・服薬を必要とする疾患は何か |
疾患の症状 | ・疾患による症状が服薬管理にどう影響しているか |
疾患の経過 予後 | ・服薬を必要とする疾患の診断時期、治療期間、進行状況はどうか |
2. 医療ケア 治療
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
服藥 | ・服薬内容 (降圧薬、血糖降下薬,鎮痛薬など)、服薬方法 (内服、坐薬,貼付薬、注射薬など)、服薬回数(食前、食後、食、食後 2時間、眠前) 服薬のタイミング (頓服: 疼痛時 便秘時 悪心時)、薬効と副作用 (低血圧,低血糖、眠気など)はどうか
・服薬介助は必要か(服薬確認、配薬,シートからの取り出し) ・服薬確認は必要か (配薬ボックス、服薬カレンダー) |
治療 | ・受診頻度と処方頻度はどうか
・処方内容の変更はないか |
訪問看護 | ・服薬は適切に行われているか |
3. 全身状態
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
成長・発達段階 | ・加齢に伴う薬物動態の変化に基づく,薬物感受性の増大はないか(薬効・副作用が出現しやすくなる、薬効・副作用が長期化する) 子どもの場合は,身長・体重に応じた服薬量が処方されているか |
摂食・嚥下・消化状態 | ・誤嚥せずに服薬できる嚥下機能はあるか |
栄養・代謝・内分泌状態 | ・服用時間に合わせた食事をとっているか
・内服している薬の禁止食材は摂取していないか (グレープフルーツや納豆など) |
排泄状態 | ・適切な排尿量はあるか (腎機能障害があると薬効に影響する)
・下痢 (抗生物質の副作用)、便秘はないか |
筋骨格系の状態 | ・薬を口に運ぶなどの動作に影響する関節拘縮、筋萎縮はないか |
感覚器の状態 | ・服薬確認するための視力はあるか |
認知機能 | ・服薬の必要性を理解できる理解力はあるか
・服薬に必要な記憶力、判断力はあるか |
意識 | ・意識レベルは清明か |
精神状態 | ・抗がん剤や免疫抑制薬の服薬はないか |
免疫機能 | ・服薬管理を阻害するうつ症状、せん妄、錯乱はないか |
(2)活動
1. 移動
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
ベッド上の動き | ・服薬の際に起き上がり、座位の保持ができるか
・坐薬、浣腸の際に側臥位への体位変換ができるか |
2. 生活動作
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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手段的日常生活動作 | ・服薬管理に関する動作を実施しているか |
3. 生活活動
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
食事摂取 | ・服薬頻度に適した食事回数であるか |
水分摂取 | ・1日の水分摂取量は適切か (脱水は薬効に影響する) |
活動・休息 | ・服薬回数に適した生活リズムであるか (睡眠状況、昼夜逆転) |
生活歴 | ・薬物依存・乱用の過去はないか |
嗜好品 | ・過度の飲酒・喫煙はないか |
4. コミュニケーション
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
意思疎通 | ・服薬に関する意思疎通が行えるか |
意思伝達力 | ・服薬に関する意思を表出できるか |
5. 活動への参加 役割
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
家族との交流 | ・服薬管理に家族の支援は必要か |
近隣者・知人・友人との交流 | ・服薬管理に近隣者 知人友人の支援があるか |
外出 | ・病院や薬局への外出状況はどうか |
(3)環境
1. 療養環境
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
住環境 | ・配薬ボックスや服薬カレンダーを設置する適当な場所はあるか
・坐薬やインスリンを保存する冷所 (冷蔵庫) はあるか ・点滴薬をミキシングする清潔な場所はあるか |
地域環境 | ・受診する病院、薬局へのアクセスはどうか |
地域性 | ・中小規模の病院 (主治医) や大型の病院があるか |
2. 家族環境
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
家族構成 | ・同居家族はいるか |
家族機能 | ・服薬管理の必要性は理解できるか |
家族の介護 協力体制 | ・服薬管理に関する支援は得られるか |
3. 社会資源
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
保険制度の利用 | ・医療保険、介護保険 障害者自立支援制度の利用状況はどうか |
保健医療福祉サービスの利用 | ・訪問看護師による服薬管理は必要か
・訪問薬剤師サービスは必要か ・ホームヘルパーによる服薬確認は必要か |
インフォーマルなサポート | ・服薬管理を支援するインフォーマルなサポートはあるか |
4. 経済
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
生活困窮度 | ・病院受診、処方薬を受け取るための経済的余裕はあるか |
(4)理解・意向
1. 志向性 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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生活の志向性 | ・服薬管理における目標や楽しみ (たとえば、血糖値の安定による嗜好品の摂取など) があるか |
性格・人柄 | ・服薬に関する疑問などを質問する社交性はあるか |
人づきあいの姿勢 | ・服薬に関する医療者からの説明を信頼して聞くことができるか |
2. 自己管理力 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
自己管理力 | ・自己または家族 医療者の支援を受けながら適切な服薬管理を行うことができるか
・自己の身体症状を家族 医療者に説明できるか |
情報収集力 | ・薬に関する疑問を医療者に質問できるか |
自己決定力 | ・頓服薬を適切なタイミングで使用することができるか (疼痛時、熱発時など) |
3. 理解・意向 (本人)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
---|---|
意向 希望 | ・自己の望む生活に合わせて、服薬調整するための意思を表出できるか(副作用があっても痛みをとってほしい、ぐっすり眠りたい。 薬の量を減らしてほしい) |
感情 | ・服薬に対する感情はどうか (医療用でも麻薬は欲しくない. 薬に頼りたくないなど) |
終末期への意向 | ・抗がん剤治療の使用時期、鎮痛薬の使用、 鎮静薬の使用に対してどのような意向があるか |
疾患への理解 | ・服薬を必要とする疾患に対して、予後進行状況、薬物治療の方針(積極的な治療 現状維持・予防) をどう理解しているか |
療養生活への理解 | ・服薬に関する生活上の困難さをどう理解しているか |
受けとめ | ・服薬の必要性をどう受けとめているか |
4. 理解・意向 (家族)
情報収集項目 | 情報収集のポイント |
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意向 希望 | ・療養者の望む生活に合わせて、服薬調整するための意思を表出・代弁できるか (副作用があっても痛みをとってほしい、ぐっすり眠らせてあげたい 薬の量を減らしてほしい、または増やしてほしい) |
感情 | ・療養者が薬を飲むことに対してどう思っているか (医療用でも麻薬は使ってほしくない、薬に頼ってほしくないなど) |
疾患への理解 | ・療養者の服薬を必要とする疾患に対して、予後進行状況,薬物治療の方針 (積極的な治療 現状維持・ 予防) をどう理解しているか |
療養生活への理解 | ・療養者の服薬に関する生活上の困難さをどう理解しているか |
まとめ
今回は、在宅療養における服薬管理不全をテーマに服薬管理不全が起こる背景、要因、そして訪問看護に求められる服薬管理における役割と必要なアセスメント項目などについてお伝えしました。
訪問看護を始めとする在宅医療、介護関係者による適切な服薬管理行動によって利用者、家族は、安全に在宅療養生活を継続することが可能となります。
本記事が訪問看護事業に従事される方や、これから訪問看護事業への参入を検討される方の参考になれば幸いです。