在宅医療ドクターズコラム(11)インナーケア・腸活のススメ(1)まずは「腸」から始めよ

こんにちは、恵比寿こもれびクリニックの院長、西嶌暁生です。

人生100年時代と呼ばれる社会において、「笑顔で自分らしく、活き活きと自立して生きる」ためには「健康」が不可欠です。

このコラムでは、在宅の現場で日々奮闘している訪問看護師の皆様に向けて、時間や労力、コストをかけることなく、在宅でも手軽に始められる「健康・美容増進のコツ」をご紹介していきたいと思います。

近年、インナーケアという言葉をよく耳にするようになってきました。

インナーケアとは、食事、運動、睡眠の質を向上させて体が本来持っている力を引き出し、内側から健やかな状態に整える美容法のことを差します。

インナーケアを日々継続的に実践することは、美容はもちろん健康維持にも有効なのは間違いありません。では、どのようにインナーケアを日常生活に取り入れていけばよいのでしょうか。

今回は、「まずは「腸」から始めよ」と題してインナーケアに必要な「腸活」についてお伝えいたします。

まずは「腸」から始めよ

私が「インナーケア」をおすすめすると「どんなサプリを飲んだらいいのか」「食事に何を足したらいいのか」といった質問をよく受けます。

ですが、まず「現状に〝プラス〞しなければならない」という思い込みは捨ててほしいのです。

特に男性のインナーケアは「腸活」と「栄養」の2本柱で考えるべきです。

さらにいえば、そのうち最初に手をつけるべきは、なんといっても「腸活」。

そのためには、しっかり調子の整った〝元気な腸〞であることが大前提です。

どんなによい栄養素を摂取しても、腸内環境が乱れていては効率よく消化吸収することができず、意味がないからです。

腸の環境は、年齢を重ねるごとに悪化していきます

もともと腸の環境は、年齢を重ねるごとに悪化していく特徴があります。

たとえば善玉菌のビフィズス菌ひとつとっても、20代なら腸内の22〜25%を占めていたのが、50代では5〜8%に!

一方で、悪玉菌は増加し続けます。

〝女性は溜まり、男性は下す〞

腸には性別ごとにはっきり特徴があり〝女性は溜まり、男性は下す〞のが定説。

つまり、女性は便秘、男性は下痢に悩む人が多いということです。これらは「過敏性腸症候群」という症状で、腹痛やおなかの張りを伴い、便秘と下痢の両方が表れる人もいます。

便秘は〝お通じ〞が3日以上ない状態を指しますが、古くは戦国時代、豊臣秀吉の正室である北政所(きたのまんどころ・ねね)も便秘に悩まされたひとり。

秀吉が戦場から送った書簡には、下剤のすすめや便が出ることを祈る記述もあります。

一方で秀吉のライバルだった徳川家康は、三方ケ原の戦いで大敗して浜松城へ敗走する道中、ストレスのあまり下痢を起こして便をもらした、という話が残っています。

今も昔も、便秘や下痢に悩まされる人は決して少なくないのですね。

過敏性腸症候群の原因は完全にはわかっていませんが、一般的にはストレスの影響が大きいと考えられています。

ストレスを感じるとストレスホルモンが分泌され、それが腸の働きを阻害して腹痛につながります。

しかも便秘や下痢を繰り返すうちに、腸が刺激に対して過敏に反応するようになっていき、すると、さらに腸の症状が悪化する悪循環に陥ってしまうのです。

腸内環境を改善する取り組みが重要です!

腸がこのような状態では、いくら栄養を摂ったところで十分に活用することはできませんよね。ですから、腸内環境を改善する取り組みが重要なのです。

便秘や下痢の腸を調べると、腸内細菌のバランスが悪く、悪玉菌が優勢となっています。そこで、乳製品や食物繊維を意識的に摂り、ストレスを取り除くなどして善玉菌を増やす「腸活」
が有効です。

まずは「腸活」、それが軌道にのったら必要な「栄養」をしっかり摂る!

この順序でいきましょう。

腸を元気にするのは善玉菌

私たちの腸には、種類にして3万種、数にしてなんと100兆個以上もの細菌が存在します。

この腸内細菌叢(腸内フローラ)のありようこそが、体調から肌の状態まで、体のさまざまな状態に影響をおよぼしているのです。

人間にとってよい働きをするのが「善玉菌」、害をなすのが「悪玉菌」、どちらともつかないのが「日和見菌」。腸内細菌はこの3種に分類され、腸内環境はこの3つのバランスの状態を表します。

〝元気な腸〞とは、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が優勢な状態で、理想のバランスでいえば、善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1。

この状態なら排泄もスムーズで、代謝も上がりやすくなります。さらには免疫力も高まり、肌細胞も活性化します。

ところが、食生活のかたよりや服薬の影響、過度なストレスなどさまざまな原因で善玉菌が減ると、悪玉菌や日和見菌が増えてバランスが崩れ、腸内環境が悪化してしまいます。

悪玉菌は有害物質をつくって腸内の腐敗を進行させるので、その結果、便秘や下痢をしやすくなるのですね。

たとえば、便秘がちになると腸内で腐敗物質が発生し、腸粘膜から吸収され、それが血管を通して全身をめぐることで、皮膚トラブルなどさまざまな不調を引き起こします。

腸内環境を整えることが重要なファーストステップ

ですから、腸内環境を整えることこそが、健康にとっても美容にとっても重要なファーストステップ。

まずは、体内から老廃物や毒素など不要なものをしっかり排泄(デトックス)できるようにし、次に、善玉菌を育てて腸内環境を理想的なバランスへ整えましょう。

それができて初めて「足りない栄養素を足す」という次のステップへと進めるのです。

腸内細菌には無限の可能性が秘められている!?

近年、健常な人の大便から取り出した腸内細菌を、潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病患者の大腸に注入し、崩れた細菌叢のバランスを取り戻そうという治療法「腸内フローラ移植(便移植)」が注目を浴びています。

現在は国内の大学病院などで臨床治験の段階ですが、将来的に研究が進めば、過度な緊張を防いだり体重を減らしたりといったシーンにも活用できるのではないか、と期待が寄せられています。

腸内細菌にはまだまだ、私たちの知らない無限の可能性が秘められているのかもしれません。

次回は、腸内環境を改善する排泄(デトックス)についてお伝えしていと思います。