今求められる ”寝たきりにさせない” 訪問看護

病気や老化による寝たきりの状態は、本人や家族にとって大きな負担となるだけでなく、社会全体にも深刻な影響を及ぼす問題です。

特に高齢化が進む現代では、今後さらに寝たきりの高齢者が増えると予測されており、これを防ぎ、改善を図るために訪問看護ステーションへの期待が高まっています。

寝たきりの予防に積極的に取り組む訪問看護ステーションは、地域社会からの信頼を得るとともに、利用者の増加も見込まれています。

今回は、寝たきりの現状を踏まえつつ、訪問看護ステーションによる予防策やそのメリット、そして在宅ケアが難しくなった場合に選べる効果的な対策についてお伝えします。

目次

寝たきりとは

「寝たきり」という言葉は一般的に使われていますが、学術的な用語ではなく、明確な定義があるわけではありません。

しかし、厚生労働省では「おおむね6カ月以上、ベッドでの生活を続けざるを得ない人」とされています。

寝たきりの判定には、介護保険申請時の意見書で使用される「障害老人の日常生活自立度(JABC)」(下記表)という基準があります。

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)




ランクJ 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する
1. 交通機関等を利用して外出する
2. 隣近所へなら外出する




ランクA 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
1. 介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
2. 外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている



ランクB 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であ
るが、座位を保つ
1. 車いすに移乗し、食事、排泄はベッドから離れて行う
2. 介助により車いすに移乗する
ランクC 1 日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する
1. 自力で寝返りをうつ
2. 自力では寝返りもうてない

※判定に当たっては、補装具や自助具等の器具を使用した状態であっても差し支えない。

参照元:厚生労働省「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

この基準では、ランクB(車椅子を利用するレベル)も寝たきりとみなされることがあるため、「全くベッドから動けない人」だけを指すわけではない、というのが国の考え方です。

今後、予測される寝たきりになる人の数

寝たきりになる人の数は今後、驚くべき速さで増加していくと予測されています。

厚生労働省の資料によれば、「全く寝たきり」の人が要介護者全体の13.5%、「ほとんど寝たきり」の人が同じく15.2%を占めています。この割合から導き出される数は次の通りです。

・2025年には約170万人が寝たきりに(要介護認定者593万人中)

・2040年には約210万人が寝たきりになる見込み(要介護認定者731万人中)

このように、寝たきり人口は今後も急速に増加し続けることが避けられず、私たちの社会に大きな課題を突きつけています。

参照:要介護認定者数の推移 健康長寿ネット

参照:平成10年度 厚生労働省発表資料

寝たきりになる原因とは

寝たきりの原因疾患について詳しく見ていくと、主として以下のものが挙げられます。

これらの疾患は、特に要介護認定5(寝たきり状態が多い認定レベル)に関連していると考えられています。

1. 脳血管疾患(脳卒中)

脳血管疾患は、寝たきりの最も多い原因とされています。脳卒中(脳梗塞や脳出血など)が起こると、脳への血流が遮断され、脳細胞がダメージを受けます。

この結果、麻痺や言語障害、認知機能の低下が生じ、重度の場合は身体を自由に動かすことが難しくなり、寝たきり状態に陥ることが多いです。

2. 認知症

認知症は、脳の神経細胞が徐々に機能を失うことで、記憶や判断力、コミュニケーション能力が低下します。

進行が進むと、日常生活の基本的な活動が困難になり、最終的に身体の動きにも影響を及ぼすことがあります。

認知症の進行によって自発的な行動ができなくなり、寝たきり状態になるケースが多く見られます。

3. 高齢による衰弱

高齢になると、筋力の低下や代謝の衰え、骨や関節の弱化が進み、全体的な身体機能が低下します。

これにより、立ったり歩いたりすることが難しくなり、徐々に寝たきりの状態に移行することがあります。特に長期間の入院や不活動がこれに拍車をかけることがあります。

4. パーキンソン病

パーキンソン病は神経変性疾患で、主に運動機能に障害をもたらします。手足の震えや筋肉の硬直、動作の遅れが特徴で、これが進行すると自力で動くことができなくなります。

パーキンソン病が進行することで、寝たきりになるリスクが高まります。

5. 骨折・転倒

特に高齢者に多いのが、転倒による骨折です。骨粗鬆症(骨がもろくなる状態)があると、転倒によって簡単に骨折し、その結果として寝たきりになる可能性が高くなります。特に大腿骨や股関節の骨折は回復が遅く、リハビリが難しい場合には寝たきりになることが少なくありません。


このように寝たきりの原因は、脳血管疾患や認知症といった脳機能の障害から、身体の衰えや骨折といった身体機能の低下まで多岐にわたります。

これらの疾患や事故が重なることで、日常生活の自立が困難になり、最終的に寝たきりの状態に至ることが多くあります。

参照:厚生労働省「要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合

政府が掲げた「寝たきりゼロへの10か条」

これまで日本では、「年を取ると寝たきりになるのは仕方がない」や「脳卒中になると寝たきりは避けられない」という考えが一般的でした。

しかし、適切なリハビリや介護によって、多くの場合は寝たきりを予防できることがわかっています。このため、この考えを医療や福祉に関わる人々だけでなく、国民全体に広く伝えることが必要となります。

こうした背景を踏まえ、政府は、「寝たきり高齢者ゼロ作戦」を重要な柱の一つと位置づけ、1991年(平成3年)に「寝たきりゼロへの10か条」を策定しました。

これは、30年後の超高齢社会を見据え、1990年度(平成2年)にスタートした「高齢者保健福祉推進十か年戦略」(通称:ゴールドプラン)の一環として作られたものです。

「寝たきりゼロへの10か条」の内容は以下になります。

寝たきりゼロへの10か条

第1条:脳卒中と骨折予防寝たきりゼロへの第一歩【原因や誘因の発生予防】


第2条:寝たきりは寝かせきりから 作られる過度の安静 逆効果【作られた寝たきりの予防】


第3条:リハビリは早期開始が効果的 始めようベッドの上から訓練を【早期リハビリテーションの重要性】


第4条:くらしの中でのリハビリは食事と排泄・着替えから【生活リハビリテーションの重要性】


第5条:朝おきて先ずは着替えて身だしなみ 寝・食分けて生活にメリとハリ【寝・食分離をはじめ、生活のメリハリの必要性】


第6条:「手は出しすぎす 目は離さず」が介護の基本【主体性.自立性の尊重】


第7条:ベッドから移ろう移そう 車椅子行動広げる 機器の活用【機器の積極的活用】


第8条:手すりつけ段差をなくし住みやすく アイデア生かした住まいの改善【住環境の整備促進】


第9条:家庭でも社会でもよろこび見つけ みんなで防ごう閉じ込もり【社会参加の重要性】


第10条:進んで利用機能訓練・デイサービス 寝たきりなくす人の和・地城の輪【地域の保健・福祉サービスの積極的利用】

参照元:厚生労働省:「寝たきりゼロへの10か条」の普及について

寝たきりになることの影響

寝たきりの状態になることは、本人、家族、そして社会全体に多大な影響を及ぼします。それぞれの観点から見てみましょう。

1. 本人への影響

寝たきりの状態になると、身体的、精神的、社会的な面で大きな影響を受けます。

身体的影響

寝たきりになると、筋力の低下や関節の硬直が進みやすく、褥瘡(床ずれ)や肺炎、尿路感染症などの二次的な健康問題が発生しやすくなります。また、消化器系の機能低下や循環不全なども起こりやすく、全身の健康が著しく悪化します。

精神的影響

自分で自由に動けないことへのストレスや、日常生活の自立を失ったことによる喪失感、さらには孤独感や抑うつ状態が発生しやすくなります。特に認知症や精神的な疾患が重なっている場合、精神状態の悪化が加速することがあります。

社会的孤立

社会との接触が減少し、家族以外の人との交流が減ることで孤立感が強まります。外出や社会参加が難しくなるため、孤独感や社会的疎外感が深まります。

2. 家族への影響

家族にも大きな負担と影響を及ぼします。

身体的負担

介護を行う家族は、身体的に非常に疲労します。特に長時間の介護や、日常的な介護の負担は大きく、持ち上げたり移動させたりする作業が日々のルーチンになると、介護者自身が健康を害することがあります。

精神的負担

介護者は、感情的なストレスや不安、焦りを感じることが多いです。特に、介護が長期化する場合、介護疲れやバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥るリスクが高まります。また、介護と自分自身の生活の両立が難しくなることが多く、社会生活や仕事に影響を与えることもあります。

経済的負担

介護にかかる費用も家族の大きな負担となります。医療費、介護サービスの利用費、介護用品の購入、改装など、日常的に発生する費用が家計を圧迫することがあります。また、介護のために仕事を辞めたり、働く時間を減らさざるを得ないケースもあり、収入が減少することもあります。

3. 社会資源への影響

寝たきりの人々の増加は、社会全体にも大きな影響を与えます。

介護サービスの需要増加

寝たきりの高齢者が増えることで、介護サービスへの需要が急増します。訪問介護、デイサービス、ショートステイ、特別養護老人ホームなど、介護施設や在宅介護支援への負荷が増え、これに対応するための資源が不足することがあります。

医療費・介護費の増加

寝たきりの人々に対する長期的な医療や介護が必要になることで、医療費や介護費用が増え、医療費や介護費用が増加し、社会保障制度への負担が大きくなります。特に、高齢化が進む日本のような国では、この問題が深刻化し、国家財政にも影響を与えます。

介護人材の不足

高齢化社会に伴い、介護を必要とする人が増える一方で、介護職の人材不足が深刻化しています。介護従事者の労働環境の改善や、賃金の見直しなどの社会的対応が急務となっています。

寝たきりを防止、改善を目指す訪問看護ステーションの取り組み

訪問看護ステーションは、寝たきりを防止・改善するために重要な役割を果たしています。以下に訪問看護ステーションの具体的な取り組みを示します。

1.健康管理と予防的ケア

訪問看護師は定期的に利用者の健康状態を確認し、早期に異常を発見します。血圧、体温、心拍数などのバイタルサインのチェックや、持病の悪化の兆候を見逃さないことで、入院や寝たきりになるリスクを減らすことができます。また、感染症予防や栄養指導も行い、健康維持をサポートします。

2.リハビリテーションの提供

訪問看護では、理学療法士や作業療法士が自宅でリハビリを行います。これにより、利用者が筋力や関節の柔軟性を維持・改善し、寝たきり状態に陥るのを防ぎます。リハビリを継続することで、歩行能力の改善や立ち上がり動作の向上を目指します。

3.床ずれ(褥瘡)の予防とケア

長時間の寝たきり生活は、褥瘡(床ずれ)のリスクを高めます。訪問看護師は、褥瘡の発生を防ぐための適切な体位変換や、皮膚のケア、特別なマットレスやクッションの使用などを指導し、皮膚の状態を定期的にチェックします。既に褥瘡がある場合は、その治療も行います。

4.介護者への指導とサポート

訪問看護は、利用者本人だけでなく、家族介護者へのサポートも重要な役割です。介護技術の指導や、介護負担を軽減する方法、精神的なサポートを提供することで、家族の負担を減らし、適切な介護が継続できるように支援します。また、必要に応じて福祉用具の導入や住宅改修のアドバイスも行います。

5.医療ケアの提供

訪問看護師は、医師の指示のもとで医療ケアも提供します。例えば、カテーテルの管理、点滴の管理、吸引や経管栄養の支援、投薬の管理など、必要な医療処置を自宅で受けられるため、病院に行く必要が減り、寝たきり状態の悪化を防ぎます。

寝たきり防止に取り組む訪問看護ステーションは、その活動を通じて地域社会からの信頼を得ることができ、その結果として利用者の増加や評判の向上につながります。以下に、具体的なメリットについて示します。

寝たきりを防止、改善に取り組む訪問看護ステーションのメリット

寝たきりを防止・改善に取り組む訪問看護ステーションは次のようなメリットがあります。

1.専門的なケアによる信頼の向上

訪問看護ステーションが提供するケアは、利用者の健康状態を維持・改善し、寝たきりを防ぐための専門的な知識と技術に基づいています。例えば、リハビリや栄養指導、体位変換の指導、褥瘡(床ずれ)予防のケアなどが適切に行われることで、利用者の身体機能の維持や生活の質の向上が実現します。

このような質の高いケアを継続的に提供することにより、利用者やその家族は「このステーションは信頼できる」と感じるようになります。地域住民が安心してサービスを利用できることが信頼に繋がり、ステーションの評判が高まります。地域全体からの信頼は、口コミや評判を通じて広まり、結果的に利用者の増加につながるでしょう。

2.家族へのサポートによる安心感の提供

訪問看護ステーションは、寝たきりの本人だけでなく、その家族へのサポートも行います。

家族介護者にとっては、専門知識を持つ看護師からのアドバイスや、困った時に相談できる相手がいることは大きな安心材料となります。

介護負担が軽減されることで、家族もステーションへの信頼感を深め、サービスを継続して利用することになります。家族からの信頼が厚くなると、他の家族や知人にもサービスが広まり、ステーションの利用がさらに拡大します。

3.地域との連携による信頼構築

訪問看護ステーションは、地域の医療機関や介護施設、自治体の福祉サービスなどと連携して、地域全体で高齢者や要介護者を支える体制を構築します。

このような連携体制が整っていることで、利用者は必要な医療や介護サービスをシームレスに受けることができ、安心して在宅生活を続けることができます。

地域住民や関係機関との連携を密にすることで、ステーションは地域全体からの信頼を得ます。医療や福祉の現場で協力関係を築くことにより、他のサービス提供者からも「このステーションは信頼できる」と認識されるため、紹介や利用が増加することが期待されます。

4.予防的なアプローチによる地域貢献

訪問看護ステーションが寝たきり防止に力を入れることで、地域全体の高齢者が元気に自宅で生活できる期間が長くなります。これは、地域の福祉水準を高め、医療費や介護費用の抑制にもつながります。

地域社会への貢献度が高まることで、ステーションは地域住民から感謝され、信頼される存在となります。

例えば、地域の健康教室や予防ケアの講習会などを開催し、健康維持のための情報提供やサポートを行うことで、地域住民全体に寝たきり予防の意識が広がります。こうした地域貢献活動は、ステーションの存在感を高め、地域住民の間で「頼りになる存在」として認識されるようになります。

5.利用者の満足度向上による口コミ効果

寝たきり防止やリハビリテーションを積極的に行い、利用者の健康状態が改善されると、利用者やその家族の満足度が高まります。利用者が身体機能を回復し、自立した生活を取り戻すことができれば、その成果が地域に広がり、自然と口コミでステーションの評判が広まります。

満足度の高いサービスを提供することは、新しい利用者の獲得にも繋がります。地域での評判が上がると、これまで訪問看護を利用していなかった人々にも「このステーションなら信頼できる」と思わせる効果があり、利用者が増えるでしょう。

在宅で寝たきり防止、改善が難しい利用者への新たな選択肢~ナーシングホームの設置

前述の通り、訪問看護ステーションは寝たきりの防止や改善に大きく貢献し、そのメリットも非常に大きいとされています。

しかし、在宅でのケアだけでは寝たきりの予防や改善が困難なケースも少なくありません。そうした利用者に向けた新たな選択肢として、ナーシングホームの設置が有効です。

ナーシングホームは、医療や介護が必要な人が専門的なケアを24時間受けながら生活できる施設です。このような施設を提供することで、寝たきりの予防や改善に大きな効果をもたらし、以下のような多くの利点を提供します。

まず、「在宅では対応が難しい医療・介護ニーズ」にも応えることができます。

在宅介護では、家族の負担や利用者の医療ニーズが高まると、訪問看護だけでは対応しきれない場合があります。ナーシングホームでは、24時間体制で看護師が常駐し、緊急時にも迅速に対応できるため、利用者の健康状態を適切に管理し、寝たきりのリスクを軽減できます。

加えて、理学療法士や作業療法士による専門的なリハビリテーションが提供され、寝たきりからの回復を促進することも可能です。

さらに、「社会的孤立を防ぎ、精神的な健康を支援す」る役割も果たします。ナーシングホームでは、スタッフや他の入居者との交流を通じて、利用者が孤立することなく安心して生活できる環境が整っています。これにより、精神的な健康を保ちながら、寝たきり予防に繋がる生活を送ることが可能です。

また、「家族の負担を大幅に軽減し、安心感を提供」するという利点もあります。ナーシングホームに預けることで、家族は24時間介護を担う負担から解放され、利用者に必要なケアが確実に提供されているという安心感を得ることができます。

ナーシングホームは、地域における「重要な医療・介護資源」としても機能し、訪問看護ステーションも介入することで、地域全体での寝たきり防止・改善への取り組みを強化します。

さらに、利用者の「生活の質(QOL)の向上」にもつながり、安全で快適な環境で心身共にサポートされる生活が提供されることで、寝たきり予防に効果的です。

まとめ

病気や老化などによって寝たきりになることは、本人やその家族にとって大きな負担となるだけでなく、社会全体の資源にも影響を与える深刻な問題です。

高齢化が進む近年において、寝たきりの高齢者が急増すると予測される中、寝たきりの予防や改善を目指す訪問看護ステーションへの期待が高まっています。

寝たきりを防ぐための取り組みを積極的に行う訪問看護ステーションは、地域社会からの信頼を得て、利用者も増加するとされています。

また、在宅ケアでは対応が難しい利用者に寝たきりの防止や改善に向けては訪問看護ステーションによるナーシングホームの設置が非常に効果的です。

24時間体制のケア、専門的なリハビリ、精神的サポート、家族の負担軽減など、多角的な支援を通じて、利用者が安心して充実した生活を送ることができる環境が整うことで、地域全体で寝たきり予防に貢献することが期待されます。