2026年度診療報酬改定では、ICT(情報通信技術)の活用がこれまで以上に重視され、訪問看護の役割にも大きな変化が求められています。
特に、訪問看護事業所の経営者や管理者にとって押さえておきたいのが、新設された「訪問看護医療情報連携加算」と「訪問看護遠隔診療補助料」です。
これらは単なる新たな加算項目ではなく、訪問看護が地域の医療・介護をつなぐ存在として、多職種との情報共有やオンライン診療を支える役割を制度として評価する仕組みです。
ICTを活用したリアルタイムな情報連携や、遠隔診療を支える現場での実践力は、今後の訪問看護事業所の運営において重要なテーマとなるでしょう。
訪問看護は「訪問するサービス」から、「地域医療・介護をつなぐハブ」として意思決定にも関わる存在へと進化することが期待されています。
本コラムでは、2026年度診療報酬改定の背景を踏まえながら、「訪問看護医療情報連携加算」と「訪問看護遠隔診療補助料」の制度概要、算定要件、留意点、そして現場で押さえておきたい実務上のポイントをわかりやすく解説します。
【1】訪問看護医療情報連携加算(1人あたり 月1回 1,000円)
ICTを活用した情報連携を評価する新設加算
2026年診療報酬改定において、新たに創設された「ICT(情報通信技術)を活用した加算」のひとつめは「訪問看護医療情報連携加算」です。
算定のポイントは「情報共有をケアに反映すること」
この加算は、ICTを通じて他の医療機関や訪問看護ステーションと情報共有を行い、その内容を訪問看護計画に適切に反映した場合に算定できるものです。
単なる情報の受け取りにとどまらず、「実際のケア内容に活かしていること」が評価のポイントとなります。
制度創設の背景 ― 在宅医療に求められるICT連携
厚労省資料においても、在宅療養を支えるうえで「関係職種間の迅速かつ正確な情報共有」が不可欠とされており、特にICTの活用によるリアルタイムかつ双方向の連携体制の構築が強く推奨されています。
今後の在宅医療では、紙や電話を中心とした連携から、データベースやクラウドを活用した情報連携への移行が前提となる流れにあります。
算定のための基本要件~5つのポイント~
本加算は、形式的な連携ではなく「質の高い連携」を評価するものであり、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
① ICTを用いた情報の受領
医療機関または他の訪問看護ステーションから、ICTを活用して診療情報や訪問看護に関する情報を受領することが必要です。
具体的には、医療連携プラットフォーム(MCS、Net4u等)、電子カルテ共有システム、セキュアメールなどが該当します。
※注意点
・電話のみの口頭連絡(記録が残らない)
・FAXによる紙情報
・一般的なLINEや通常メール(セキュリティ未担保)
これらはICT連携とはみなされず、算定対象外となります。
② 訪問看護計画への反映
受領した情報をもとに、訪問看護計画の作成または見直しを行う必要があります。単なる情報共有では不十分で、「具体的なケアの変更」が伴うことが重要です。
具体例
・バイタル管理目標の見直し
・訪問頻度や訪問時間の調整
・服薬内容の変更に伴う管理方法の更新
・医療処置内容の変更
・家族への指導内容の更新
③ 記録の整備
算定において最も重要なのが記録です。不備があると返戻のリスクが高まります。
以下の内容を記載することをお勧めします。
・情報受領日
・情報提供元(医療機関名・医師名等)
・使用したICTツール
・受領した情報の要約
・その情報をどのように看護計画へ反映したか
→「何を受け取り、どう活かしたか」が明確であることが求められます。
④ 本体算定の実施
当該月に訪問看護基本療養費など、本体サービスを算定していることが前提条件です。
本加算はあくまで付加的評価であり、単独では成立しません。
⑤ 月1回までの算定
同一利用者につき、算定は月1回までです。
月内に複数回ICT連携を実施しても、請求できるのは1回のみとなります。
対象となる利用者
本加算は「医療保険での訪問看護」が対象となる点が重要です。
特に、以下のような医療依存度・連携必要性の高い利用者で活用されます。
・退院直後で状態変化のリスクが高い利用者
・複数の医療機関(主治医・専門医)にかかっているケース
・精神科訪問看護利用者(主治医との密な連携が必要)
・難病、がん末期など継続的な医療管理が必要な利用者
・在宅酸素、人工呼吸器、経管栄養など医療機器使用者
※対象外
・介護保険のみで訪問看護を利用しているケース
・ICT連携を行っていない場合
また、医療保険と介護保険を併用している利用者については、「医療保険で算定している月」に限り本加算の対象となります。
算定額と収益インパクト
・算定額:1,000円/人(月1回)
単価自体は大きくありませんが、対象者数に応じて安定した積み上げが可能です。
【収益イメージ】
・5人対象 → 月5,000円(年6万円)
・10人対象 → 月1万円(年12万円)
・20人対象 → 月2万円(年24万円)
・30人対象 → 月3万円(年36万円)
特に、医療依存度の高い利用者が多いステーションでは、継続的な収益源として機能します。ICT導入コストとのバランスを見ながら、費用対効果を検討することをお勧めします。
届出と運用上の注意点
本加算は施設基準に基づく加算であり、事前の届出が必須です。
・地方厚生局への届出が必要
・ICT環境の整備状況の記載
・連携体制(医療機関・他ステーション)の明確化
・ICTツールの利用証明(契約書等)
【提出期限】
算定開始月の前月15日まで
(例:6月開始 → 5月15日までに提出)
※地域によって異なる場合もあるので、各所に確認してください
※注意点
・同一の情報連携行為で複数加算を算定することは禁止(重複算定)
・退院時共同指導加算などとは趣旨の整理が必要
実務運用のポイント
実際に安定して算定するためには、次に示すような実務運用が大切です。
① 事前準備
・連携先医療機関のリストアップ
・主治医・病院・他ステーションとの関係整理
・ICTツールの選定・導入(MCS、地域連携ツール等)
・情報共有ルールの合意(頻度・内容・緊急時対応)
② 日常運用フロー
・ICTで情報受領
→ 内容確認
→ 訪問看護計画の見直し
→ 記録へ反映
③ 月次管理
・対象利用者の抽出
・算定漏れチェック
・レセプトへの反映
④ 算定漏れ防止策
・記録様式に「ICT連携欄」を設ける
・月末に「連携実施リスト」を確認
・看護記録システムと連動したチェック体制
→「連携したのに請求し忘れる」という機会損失を防ぐことが重要です。
【2】訪問看護遠隔診療補助料 2,650円/月1回まで
2026年診療報酬改定において、新たに創設された「ICT(情報通信技術)を活用した加算」 ふたつ目の加算は「訪問看護遠隔診療補助料」です。
この加算は、医師がオンライン診療(遠隔診療)を実施する際に、訪問看護師が利用者宅へ訪問し、その場で診療補助を行う体制を評価するものでICT(情報通信技術)を活用した在宅医療の推進を背景に導入されました。
医師が現地にいなくても、看護師が介在することで安全かつ適切な診療を担保する仕組みとなっています。
従来の訪問診療では医師の移動負担が課題でしたが、本加算により「医師は遠隔・看護師は現地」という役割分担が明確になり、効率的かつ継続的な医療提供が可能になります。
本加算は、「医師の遠隔化」と「看護師の現地対応」を組み合わせた、新しい在宅医療モデルを評価する加算といえます。
算定のための基本要件
本加算を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 医師によるオンライン診療の実施
医師がICTを活用し、リアルタイムで利用者に対して診療を行っていることが前提です。(ビデオ通話等による双方向通信が必須)
② 看護師の訪問・同席
訪問看護師が利用者宅へ訪問し、オンライン診療に同席することが必要です。単なる通信補助ではなく、診療の一部を担う役割が求められます。
③ 診療補助の実施
看護師は以下のような診療補助を行います。
・バイタル測定(血圧・体温・SpO2等)
・医師の指示に基づくフィジカルアセスメント
・患部の確認・カメラ越しの状態共有
・服薬状況の確認
・医療機器の操作補助
→「医師の目・手の代わり」として機能することが重要です。
④ 記録の整備
以下の内容を訪問看護記録書等に記載する必要があります。
・実施日時
・診療を行った医師・医療機関名
・使用したICT手段
・実施した診療補助内容
・診療結果および指示内容
⑤ 月1回までの算定
同一利用者につき、月1回まで算定可能です。
対象となる利用者
本加算は、オンライン診療の必要性が高い利用者に適用されます。
主な対象例は以下の通りです。
・通院が困難な在宅療養者
・慢性疾患で定期的な診療管理が必要な利用者
・医療機器を使用している在宅患者
・感染症リスクが高く対面診療を避けたいケース
・医師の頻回訪問が難しい地域(医師不足エリア)
特に、地方や高齢化地域においては有効性が高い仕組みです。
算定額と収益インパクト
・算定額:2,650円/人(月1回)
【収益イメージ】
・5人対象 → 月13,250円(年約16万円)
・10人対象 → 月26,500円(年約32万円)
・20人対象 → 月53,000円(年約64万円)
【1】の医療情報連携加算と比較して単価が高く、ICT活用による新たな収益柱として期待されます。
届出と運用上の注意点
・オンライン診療に対応した医療機関との連携が必須
・通信環境(Wi-Fi・端末等)の整備が前提
※注意点
・単なる「通信サポート」では算定不可
・実質的な診療補助が伴わない場合は対象外
・対面診療の代替として適切なケースが対象
また、他加算との関係では、同一の診療行為に対する重複算定に注意が必要です。
実務運用のポイント
実際に安定して算定するためには、次に示すような実務運用が大切です。
① 事前準備
・連携医療機関(オンライン診療対応医)の確保
・ICT環境整備(タブレット・通信回線)
・利用者への事前説明・同意取得
② 当日の運用フロー
・訪問看護師が利用者宅へ訪問
→ ICT機器の準備
→ 医師と接続(オンライン診療開始)
→ 診療補助の実施
→ 指示内容の確認・共有
③ 診療後対応
・医師の指示に基づくケア実施
・記録作成
・必要に応じて次回診療調整
④ 運用定着のポイント
・医師との役割分担の明確化
・看護師のアセスメント能力向上
・通信トラブルへの対応体制整備
【新設の2つの加算を導入するメリット】
2026年診療報酬改定で新設されたICT関連の2つの加算は、単なる収益面だけでなく、訪問看護ステーションの“立ち位置”そのものに影響を与える可能性があります。
ここでは、これらの加算の導入によって得られる3つの主なメリットを整理します。
(1)医師との信頼関係の構築
ICTを活用した情報連携や遠隔診療への関与は、医師との関係性をより密なものにします。リアルタイムで状態を共有し、看護師がその場でアセスメントや補助を行うことで、「任せられる存在」としての信頼が積み重なっていきます。
特に遠隔診療補助においては、看護師が“医師の目と手の代わり”として機能する場面も多く、単なる指示受けではない、対等に近い連携関係が生まれやすくなります。
結果として、相談のしやすさや指示のスピード感にも良い影響が期待できます。
(2) 採用面でのプラス効果
ICTを活用した連携体制や遠隔診療への関与は、働く側にとっても魅力のひとつになります。特に若手看護師や、効率的に働きたいと考える人材にとっては、「デジタルに対応している職場かどうか」は重要な判断材料になりつつあります。
また、医師との連携が取りやすい環境や、専門性を発揮できる場面があることは、やりがいや成長実感にもつながります。結果として、採用時の訴求力だけでなく、定着率の向上にも寄与する可能性があります。
(3) 地域で“頼られる存在”になる
ICT連携や遠隔診療に対応できる体制があることで、地域の医療機関やケアマネジャーからの評価も変わってきます。
「情報共有がスムーズ」「医師との連携が早い」「オンライン診療にも対応できる」といった点は、紹介や依頼のしやすさにつながります。
特に医師不足の地域や、在宅医療のニーズが高いエリアでは、こうした対応力がそのまま“選ばれる理由”になります。結果として、新規利用者の獲得や関係機関とのネットワーク強化にもつながっていきます。
これらのメリットは、すぐに大きな成果として現れるものではないかもしれませんが、日々の実践の中で少しずつ積み重なっていくものです。加算の導入を検討する際には、収益面だけでなく、こうした中長期的な価値にも目を向けることが重要と言えそうです。
さいごに
2026年の診療報酬改定で新設されたICT関連の2つの加算は、訪問看護の現場に大きな変化を一度に求めるというよりも、在宅医療のこれからの方向性を、制度として少しずつ示し始めたものと捉えることができそうです。
これまで現場で積み重ねられてきた多職種連携や情報共有、遠隔での関わりといった取り組みが、今回あらためて評価のかたちとして整理されたとも言えます。
そうした意味では、今回の改定は「新しいことを始める」というより、「これまでの実践に光が当たり始めた」と感じる方も多いのではないでしょうか。
一方で、加算額そのものは決して大きいとは言えないため、ICT環境の整備や運用負担とのバランスを見ながら、導入するかどうかを慎重に検討していく視点も大切です。
すべてを一度に進めるのではなく、自ステーションの状況に合わせて、無理のない範囲で取り入れていくことが現実的と言えそうです。
今回の改定が示した「小さな一歩」をどう捉え、どう活かしていくか。日々の実践と照らし合わせながら、自分たちなりの進め方を見つけていくことが、これからの訪問看護のあり方につながっていくのかもしれません。
参考元
2026年2月13日開催の「中央社会保険医療協議会 総会(第647回)
資料 総-1個別改定項目について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf